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2024/05/16 15:54 |
蒼の皇女に深緑の鵺 03 /セラフィナ(マリムラ)
PC:セラフィナ ザンクード
NPC:
場所:カフール国境近辺
―――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ここの地元民なら…頼みたい事がある。もし良ければ…この先のカフールと
いう地
への近道を案内して欲しい」

 この申し出に、セラフィナは即答できなかった。いろんな思いが頭を駆け巡
る。
 “仕事”で死にかけたところを命拾いで済んだ、というのなら、仕事相手を
追うつもりなのだろう。そして、その仕事相手というのは致死量の毒と鋭い刃
を持つ敵。彼の動きから考えて、1対1ではココまでの深手を負わせること
は、余程の手練でも難しいと思われる。複数、いや、多数と考えるのが適当
か。味方を探そうとしないあたりは味方を信用しているのか、それとも一人で
戦っているのか。どちらにしても戦場がカフールへ移ろうとしているのは確実
のようだった。

「案内をするには、貴方は目立ちすぎます」

 セラフィナが小さく苦笑すると、ザンクードは「問題ない」と自分の体を見
やった。

「傷が癒えれば姿を隠す術は持っている。人目に付く前に傷が癒えれば済む話
だ」

 彼はどのくらい川を流されてきたのだろう。その流されたことで、敵に先ん
じる事が出来ればよいのだが。カフールまで、徒歩では丸一日かかっても辿り
着けないかもしれないのだから。

「川を渡る際に馬を捨てたので、細い道を辿ることは出来ますが歩きになりま
す。よろしいですか?」

 疲れて、いた。本当は横になって一晩休んで、患者の容態を確かめてからカ
フールへ向かうつもりだった。が、そんな余裕はなさそうだった。彼の敵が
“侵略種”であるとすれば、危険なのはカフール国民だ。背負い袋の中から松
明を取り出し、焚き火から火を移した。荷を背負って立ち上がる。

 夜だというのに、ザンクードはセラフィナを止めることなく立ち上がる。や
はり急ぎなのだ、とセラフィナは思った。急ぎの理由は追っ手か、それともカ
フールへ向かった方か。どちらにしてもここでの長居は望んでいないことは明
白だった。

「夜目は利きますか」

 松明の明かりに照らされ、ザンクードの黄色い複眼が不気味に光る。蟲種の
平均など知らないが、人に比べると若干大柄な彼を見上げて聞いた。

「こっちの心配は無用だ。それより案内は大丈夫なんだろうな」

 不遜に答える彼の先を歩き出しながら、セラフィナの心はざわついていた。
嫌な予感というか、危険な匂いが辺りにたちこめているような、そんなざわつ
きだった。


  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 夜間の山道で、その上獣道となると、早く歩くというのはかなり難しい。し
かもセラフィナは護衛のために武道を身につけているものの、サバイバルな特
殊訓練などの経験を積んだことない素人同然だ。そんなときにカイならば……
と思うが、自分は彼ではないし、彼にはなれない。せめて治療の前であった
ら、と疲労の色も隠せない。
 遅々として進まぬ山道歩きに痺れを切らしたのか、ザンクードがセラフィナ
の腕を掴んだ。

「このままでは遅れをとる。本当に近道なんだろうな」

 そして、腕を掴んで初めてセラフィナの手のひらが赤く腫れていることに気
付く。疲労も色濃いセラフィナは、手を隠すように小さく笑みを浮かべた。

「貴方が追っている相手がどこからどういうルートを辿ったのかは分かりませ
ん。でも、この場所からならこちらへ向かった方が近いのは本当です」

 すると、しばらくの沈黙の後にザンクードはセラフィナを小脇に抱え上げ
る。

「え、あの……」
「こっちの方が早い。方向を指示してくれ」

 少しは信頼してくれているのだろうか、いや、きっと急ぎたい為だろう。そ
してそれはセラフィナの予測が大きく外れていなかったことを意味する。

「……わかりました。月の方角にもう少し進めば沢に出るはずです。さっきの
川とは別の支流になりますが、そこからなら川沿いに進めば……」
「口を閉じておくことだな。舌を噛むぞ」

 ザンクードは傷が完治していない身でありながら、セラフィナを抱えて森の
木々を縫うように走り始めた。


  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


「まずいな……」

 濁流が収まってきたとはいえ、流木や土砂が両岸を埋める沢が木々の隙間か
ら見えてきた頃、ザンクードは走るのを止め、周囲に気を配り始めた。一旦下
ろされたセラフィナは、そのザンクードの様子を伺う。

「間違いない。“連中”の匂いだ」

 触角が小刻みに震える。風は上流から流れており、風下なためにまだ見つか
ってはいないだろうが……。

 セラフィナには読み取れない表情でザンクードは上から見下ろすと、自分の
武器と鎧を確かめ、セラフィナに告げた。

「隠れていることだな。出て来られると足手まといだ」

 セラフィナが黙って頷くのを見届け、ザンクードは木々の合間を上流に向か
って駆け出した。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――
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2007/04/04 22:56 | Comments(0) | TrackBack() | ○蒼の皇女に深緑の鵺

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