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2025/03/10 00:25 |
立金花の咲く場所(トコロ) 38/アベル(ひろ)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:ファーナ ラズロ ギア セリア
場所:エドランス国 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

エドランスを中央列国の覇権争いから切り取り、「山と森の田舎」におしこめた
要因のひとつ
である国を囲むようにそびえる山々。
 しかしその山々こそが気流を断ち切り、一年を通じて安定した天候を保つのに
大きな役割を担
っていることを、アベルたちは基礎授業の地学で知った。

(今日もいい天気だけと、アベル君は大丈夫かな?)

 基礎はクラスで一緒だし、それ以外でも座学は一緒に受けられる。
 しかしさすがに実技はそうはいかない。
 魔法を学ぶヴァネッサは教室の窓から外を眺め、いまごろは剣の実技試験の最
中のはずの弟に
思いをはせていた。

「ヴァネッサ、ボーっとしてるなんて、結構余裕?」

 横合いからヴァネッサの頬を軽くつついた細くしなやかな指の持ち主は、明る
く良く通る声を
していた。
 振り向いたヴァネッサに微笑むその相手は、まるで絵画の中から抜け出てきた
ような美しい容
姿をしていた。
 絹のように光沢を放つ黄金の髪は、まるで純金を磨き上げたようで、全体的に
小柄ながら幼さ
を感じさせない顔は一見すると冷徹な印象を与えそうなほど整っているのに、そ
の淡く緑を浮か
べる瞳といたずらっぽく笑みを浮かべる口元が太陽の光のように暖かさを感じさ
せる。
 白い透き通るような肌に暖かさを感じさせるのは、彼女のその「表情」ゆえだ
ろう。
 その彼女は、髪の間に見隠れする上部がとがった独特の形をする耳が示すよう
に、妖精族の出
身で、この世界では亜人種としては比較的良く見るエルフとよばれるタイプだった。

「なーにを心配してるか知らないけど、こっちもそれどころじゃないでしょ。」
「そうね、ファーナさんのいうとおりね。」
「あー、もう。さんはいらないって!」

 彼女、ファーナはクラスメイトの一人で、たまたまよくおなじ魔法基礎の授業
をとっていたこ
とからなかよくなったのだ。 見かけこそ少女なファーナだが、実際はもう100
年を生きていると
知ってから、ヴァネッサはついつい年長者として対応してしまうのだが、エルフ
と人間は生きて
いる時間が違うので、100歳とえばエルフでは小娘扱いのファーナとしては、さ
ん付けはきにいら
ないらしく、最近では前述の掛け合いが挨拶代わりになっていた。

「ふふふ、ごめん。ファーナのいうとおり、ね。」

 ファーナがいうよに、ヴァネッサもまた魔法の実技試験を受けに来ていたのだ。
 試験といっても、実技単位取得というアカデミーで受けねばならない試験の中
では緊張すると
かそういう部類にも入らない、授業の総括的なものだったが、それでも上の空で
通してもらえる
ほど甘いものではないはずだった。

「じゃあ、次は……。」

 待合室となっている教室の入り口に、次の生徒を呼びに来た案内の女性が姿を
見せる。
 そろそろ自分の番。
 それを察して声をかけてくれたクラスメイトに感謝しつつ、ヴァネッサは窓際
を離れた。


 ヴァネッサが教室で試験の順番待ちをしているころ、アカデミーの敷地内にあ
る訓練場をかね
た構内公園では、爽やかな草の香りを乗せた風が優しくそよぐ青空の下、「長
剣・実技」の試験
が行われていた。
 10人が輪になり、その中で能力を調整されたゴーレムを相手に時間内に規定
以上のダメージ
を与えるという方式で一人づつが試験を受けるというのが試験の内容だった。
 最初の一人は2階生で、槍術ではすでにLV3までいっていて実践も何度も経験し
ているというだ
けあって、危なげなくクリア。
 二人目は基礎クラスは違うものの、剣術の授業ではよく同じ時間をとっている
こともあって比
較的なかのよい少年だったが、こちらは残念ながら失格だった。
 その後二人続けて合格してラズロの番になった。
 前の二人が「なんとか」合格したのに対しラズロはかなりの余力をのこしたま
まのクリアだっ
た。
 ほかの生徒とともに戦いを見守ったアベルは内心、最初の2階生よりも剣に関
してはラズロのほ
うが上と感じていた。

(てこたぁ、ラズロは2階生でも通用するってことか。)

 試験用の模擬剣を次の順番であるアベルに渡そうと、ラズロが歩いてくる。
 
「……実力を出せるかどうかだけだ。」

 この一月、初日こそのんきにしていられたが、次の日からは怒涛のような日々
が続いた。
 アカデミーそのものと下宿先でのバイト生活に慣れるのに時間がいったのと、
PTに誘ってくれた
リックとリリアに追いつこうと、冒険らしい依頼が受けられる「戦闘系スキル
LV1」の条件を満たそ
うと取れる限りの授業を受けてきたことが、まさに目の回る日々を決定付けた。
 そのかいあって、入学一月足らずで試験までこぎつけられたのだ。
 当然その間、アベルはラズロと一緒の授業を受けることが多く、お互い殿程度
の実力なのかはよ
くわかっていた。
 相変わらず言葉は足らないが、ラズロはアベルがほかの受験者のように舞い上
がって実力を出し
切る前にタイムアウトする危険性を忠告したのだった。
 
「わかってる、よ!」

 剣を受け取り、ラズロと入れ替わるように縁の中央へとでてきたアベルは二三
度感触を確かめる
ように剣を振り回してから正眼に構えて、「開始」の声をまった。



「うちのひよこ達はどうだい?」

 職員室で書類を整理していたセリアの元を、アカデミーでも名を知られた「ガ
イアマスター・ギ
ア」が訪ねたのは日が沈んで少ししたころ。
 アカデミーは昼も夜も関係ないので、中は昼と同じように様々な人がうごめい
ている。
 もっとも、修士以下は仕事をしたり寮住まいだったりのため、夜は帰るという
二重生活をするの
がほとんどのため、実際の数はかなり減っているのだけれども、それでもなお人
が多いということ
なのだ。
 当然ギアのいうひよこ達も、今頃は食堂の手伝いに精を出しているため、アカ
デミーには姿がな
かった。

「ギア殿が心配することはなにもなさそうですよ。三人そろって、LV1をクリア
したようだし、基礎
でもそろそろPTでの実習にでれそうですよ。」
「そりゃだいぶ早いなぁ。」
「なにいってるんですか。」

セリカはあきれたように先輩を見上げる。

「もともとこのクラスは二順目以上、最低でも予備科を経た者ばかり。わかって
てねじ込んだんで
しょうに。」
「ははは、まあそうなんだが、社会通念とかそっちのほうはさすがに心配だった
しな。」
「そうですね、ラズロはともかくあの二人があんなに優秀とは思いませんでした
よ。」

 セリカは初日にやったテストの結果の一覧を見せた。

「ほう、ヴァネッサは予想通りだが、アベルも結構やるなぁ。」

 実を言えば、アベルも行方知れずの父にしっかりした教育を受けていた。
 専門的な知識に関しては、次第に剣の方のめり込んでいったこともありたいし
たことは知らない
が、一般常識に関しては辺境の田舎育ちとは思えない水準で学んでいた。

「実技のほうは心配してないんだが……。」

 心配してないといいつつきにしてるのがみえみえで、その様子にセリアも笑い
そうになってしま
う。

「そうですね。ラズロもアベルも問題なくクリアしたようですね。ヴァネッサ
も……。」

 試験結果のレポートをめくりながら話していたセリアが戸惑ったようにくちご
もる。

「ん?クリアしてるんだ?」
「ええ。私は戦士で魔法のほうは明るくないのでちょっと……。」
「どうしたんだ?」
「えーと結果は間違いないんですが、そのレポートにですね、『精霊の祝福を得
られる可能性あり』
と書いてあるんですが、どういうことかわからなかったもので。」
「ほう……。」

 少し困ったように言うセリアからレポートをうけとって内容を確認したギア
は、思わず口元が緩
むのを感じた。
 試験ではアカデミーで開発した感応石に魔力を決められたようにコントールし
て注ぐという、魔
法の中ではすべてに通じる基礎が課題だった。
 ヴァネッサは村にいたときから、特に回復・治癒といった人に作用する魔法を
修練していたため、
魔力コントロールは初心者の域を超えていたが、試験官を驚かせたのはそれでは
なかった。

(精霊魔法でもないただの魔力供給で精霊力の比率が高い、か。ふふふ、呪で
縛ったわけでも、まし
てや盟約や契約なんてしてもいないのに、精霊達が自分から力を貸したってか。)

 まれに精霊たちは自ら進んで力を貸してくることがあるという。
 心なのか魂なのか、そうなる素質が何なのかはいまだ研究者の間でも見解が分
かれているところで
はあるが、一つわかっていることは、魔法の技術として精霊の力を「利用」する
のとはまったく違う
可能性を手にすることができるということ。
 例えば、エルフのような妖精族は技術ではなく、精霊を友としみとめあうこと
で力を借りる。
 人間が開発した魔法に比べ、「破壊」の系統は明らかに少ないが、代わりに奇
跡とも言えるような
魔法を行使することもあるという。
 そうした精霊の力を借りられる状態を称して、「祝福」と呼んでいるのだった。
 
「ふふふ、まあ精霊系に素質ありって事だな。」
「はあ。」

 ギアは詳しい説目は避け、レポートをセリアに返した。
 その後雑談を少ししたギアは、適当なところで切り上げて職員室を出た。
 

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2007/04/01 20:46 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所

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