PC:アベル ヴァネッサ
NPC:ウサギの女将さん
場所:エドランス国 せせらぎ亭
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ただいまー」
「ただいま帰りました」
アベルとヴァネッサは、せせらぎ亭に戻った。
「あらあらあら、おかえりなさい。案外、早かったわねぇ」
とたとたと軽い足音を立てて、女将は店の奥から現れる。
そして、ちょっと首をかしげた。
「あらあらあら? 二人だけ? ラズロ君はどうしたの?」
女将の言葉に、二人は少し困ったようにお互いを見る。
「それが……教室で別れた後、ちらっと姿を見たきり、なんです」
ヴァネッサは、隠してもしかたないと思い、ありのままを話した。
リリアとリックと会話している時に見かけた後、ラズロの姿は見かけなかった。
女の子達に囲まれて逃げられなくなっているのかもしれないし、一人でぶらぶらとア
カデミー内を探索しているのかもしれない。
女将は、ぴん、と耳を立てた。
そして、くすくすと小さく笑い出した。
「でもでもでも、きっと、そのうちに帰ってくるわ。あまり心配はいらないと思う
の」
「え?」
二人は、不思議そうに女将を見つめる。
しかし女将はまったく意に介さぬ様子で、楽しそうに笑っている。
「うふふふ。ラズロ君は女の子に人気があるのねぇ。質問責めにあってるわよ」
――女将の特技である、『音の聞き分け』スキルが発動しているらしい。
「……ところで……今日はお弁当、いらなかったのかしらぁ?」
女将は、頬に手を当てて、ちょっと寂しげにうつむいた。
「あ……」
ほとんど無意識のうちに、二人はカバンに手をやる。
その中には、女将が持たせてくれたお弁当が入っている。
女将特製のパンの中に、ヴァネッサが作った野菜とひき肉を炒めた具の入ったもの
だ。
「すみません、今日は、テストがあっただけで、授業はなかったんです……」
「ごめん、女将さん」
ヴァネッサが申し訳ない顔をし、アベルが頭を下げると、
「あらあらあら、そんな、気にしないで。もしかしたら必要かもしれないと思って、
作っただけなのよ」
と、女将はふさふさした両手を前に出し、気にしないで、と訴えた。
「それに、私はパンを焼いただけ。具はヴァネッサちゃんに作ってもらったんだも
の。ね」
「は、はい」
茶目っ気たっぷりのウィンクをされて、ヴァネッサはしどろもどろで頷いた。
「さてさてさて、それなら、お弁当は、今食べちゃいなさいな。待ってなさいね、
ちょうどお茶でも飲もうと思ってたところだから、二人の分も用意するわ」
「あ、手伝います」
後ろについて行こうとしたヴァネッサを、女将は止める。
「いいのいいの。初めてアカデミーに行った後なんですもの、疲れてるでしょう?」
女将はそう言うと、とてとて、と奥に向かう。
二人は近いところのテーブルにつき、カバンから弁当を取り出した。
包みを開け、小さく、いただきます、と言ってからパンに手をつける。
「アベル君、アカデミーでうまくやってけそう?」
黙って食べるのも変なので、ヴァネッサは聞いてみた。
アベルは口いっぱいに頬張っていたパンを飲みこんでから、答えた。
「なんとかなるって。知ってる人もいるし」
「うん、そうだね」
「同じクラスにゃ、ラズロもリックもリリアもいるし」
「初めてだな、同い年の女の子の友達……私、正直、何を話したら良いのかわからな
かったけど、明るい子だから、話してて楽しかったな」
ヴァネッサは、手元のパンに視線を落とし、ちょっと微笑んだ。
生まれて初めてできた、同い年の女の子の友達。
そう思うと、リリアという存在が、ものすごく貴重な気がする。
「あー。そうだな。俺だってラズロに会うまで、同い年のやつに会ったことない」
「そうだね。ずっと、私か、ずっと年上の子と遊んでたもんね」
「そうそう。俺、ずーっと、同い年の男友達欲しかったんだ」
ヴァネッサは、屈託なく笑うアベルを見て、心の中で一言詫びた。
(ごめん、アベル君……無理矢理、作った花輪を頭に乗せたりして)
女の子みたいで嫌だ、と明らかに拒絶の姿勢を示す幼いアベルに、姉の権力で花輪を
乗せたことが、かつてあった。
一度きりで、しかもすぐに半泣きで払い落とされたが。
「じゃあ、今は願いがかなって、幸せ?」
ヴァネッサが尋ねると、アベルはなんだか悩んだような表情を見せた。
「んー……。でもなあ、なんていうか、ラズロは友達っていうのとは、なんか違うん
だよな。なんつーか……目標っつーか、そんな感じ」
「それって……ライバル、ってこと? 」
ヴァネッサは、思わず身を乗り出していた。
弟に、そんな存在ができるなどと考えたことがなかったのだ。
「確かに、剣の腕前は凄いよね……」
ちらり、とギサガ村のまっくら洞窟でのことを思い出す。
巨大アリを食い止めている時の剣さばきは、天性の才能を思わせた。
「剣の腕だけじゃないよ。あいつ、おっさんと一緒に旅してたんだろ? それって、
将来やりたいことを見つけようとしてるってことじゃねえのか、って俺、思うんだ
よ。俺、自分が将来何をしたいかなんて、村にいた時、一度も考えたことなかった
ぜ。ずっと、ギサガ村での生活が続くと思ってたし……俺、ラズロに出会った時、こ
のままでいいのか、って思ったんだよな」
「そっかあ……」
弟は、一歩、大人に向けて成長している。
それは微笑ましくもあり――なんとなく寂しいことでもあった。
「お待たせ。さあさあさあ、どうぞ」
そこへ、女将がティーポットとカップを載せたお盆を持って現れる。
なれた手つきでカップにお茶をそそぎ、それぞれの前に置く。
「ありがとうございます」
「ありがとう、女将さん」
「うふふふ。どういたしまして」
女将は、いそいそと椅子に腰掛けた。
「どうだった? アカデミーの様子は」
「すっごく広い!」
「うふふふ、それはそうよぉ。覚えるのに時間がかかるのよねぇ」
「リック君とリリアちゃんも、そう言ってました」
「あらあらあら、それは誰?」
「同じクラスの人で、今日、知り合ったんです。いろいろ教えてくれて、案内もして
くれたんです」
「まあまあまあ、良かったわねぇ。良いお友達になれるといいわねぇ」
――そんな具合で、せせらぎ亭の時間は過ぎていった。
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NPC:ウサギの女将さん
場所:エドランス国 せせらぎ亭
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「ただいまー」
「ただいま帰りました」
アベルとヴァネッサは、せせらぎ亭に戻った。
「あらあらあら、おかえりなさい。案外、早かったわねぇ」
とたとたと軽い足音を立てて、女将は店の奥から現れる。
そして、ちょっと首をかしげた。
「あらあらあら? 二人だけ? ラズロ君はどうしたの?」
女将の言葉に、二人は少し困ったようにお互いを見る。
「それが……教室で別れた後、ちらっと姿を見たきり、なんです」
ヴァネッサは、隠してもしかたないと思い、ありのままを話した。
リリアとリックと会話している時に見かけた後、ラズロの姿は見かけなかった。
女の子達に囲まれて逃げられなくなっているのかもしれないし、一人でぶらぶらとア
カデミー内を探索しているのかもしれない。
女将は、ぴん、と耳を立てた。
そして、くすくすと小さく笑い出した。
「でもでもでも、きっと、そのうちに帰ってくるわ。あまり心配はいらないと思う
の」
「え?」
二人は、不思議そうに女将を見つめる。
しかし女将はまったく意に介さぬ様子で、楽しそうに笑っている。
「うふふふ。ラズロ君は女の子に人気があるのねぇ。質問責めにあってるわよ」
――女将の特技である、『音の聞き分け』スキルが発動しているらしい。
「……ところで……今日はお弁当、いらなかったのかしらぁ?」
女将は、頬に手を当てて、ちょっと寂しげにうつむいた。
「あ……」
ほとんど無意識のうちに、二人はカバンに手をやる。
その中には、女将が持たせてくれたお弁当が入っている。
女将特製のパンの中に、ヴァネッサが作った野菜とひき肉を炒めた具の入ったもの
だ。
「すみません、今日は、テストがあっただけで、授業はなかったんです……」
「ごめん、女将さん」
ヴァネッサが申し訳ない顔をし、アベルが頭を下げると、
「あらあらあら、そんな、気にしないで。もしかしたら必要かもしれないと思って、
作っただけなのよ」
と、女将はふさふさした両手を前に出し、気にしないで、と訴えた。
「それに、私はパンを焼いただけ。具はヴァネッサちゃんに作ってもらったんだも
の。ね」
「は、はい」
茶目っ気たっぷりのウィンクをされて、ヴァネッサはしどろもどろで頷いた。
「さてさてさて、それなら、お弁当は、今食べちゃいなさいな。待ってなさいね、
ちょうどお茶でも飲もうと思ってたところだから、二人の分も用意するわ」
「あ、手伝います」
後ろについて行こうとしたヴァネッサを、女将は止める。
「いいのいいの。初めてアカデミーに行った後なんですもの、疲れてるでしょう?」
女将はそう言うと、とてとて、と奥に向かう。
二人は近いところのテーブルにつき、カバンから弁当を取り出した。
包みを開け、小さく、いただきます、と言ってからパンに手をつける。
「アベル君、アカデミーでうまくやってけそう?」
黙って食べるのも変なので、ヴァネッサは聞いてみた。
アベルは口いっぱいに頬張っていたパンを飲みこんでから、答えた。
「なんとかなるって。知ってる人もいるし」
「うん、そうだね」
「同じクラスにゃ、ラズロもリックもリリアもいるし」
「初めてだな、同い年の女の子の友達……私、正直、何を話したら良いのかわからな
かったけど、明るい子だから、話してて楽しかったな」
ヴァネッサは、手元のパンに視線を落とし、ちょっと微笑んだ。
生まれて初めてできた、同い年の女の子の友達。
そう思うと、リリアという存在が、ものすごく貴重な気がする。
「あー。そうだな。俺だってラズロに会うまで、同い年のやつに会ったことない」
「そうだね。ずっと、私か、ずっと年上の子と遊んでたもんね」
「そうそう。俺、ずーっと、同い年の男友達欲しかったんだ」
ヴァネッサは、屈託なく笑うアベルを見て、心の中で一言詫びた。
(ごめん、アベル君……無理矢理、作った花輪を頭に乗せたりして)
女の子みたいで嫌だ、と明らかに拒絶の姿勢を示す幼いアベルに、姉の権力で花輪を
乗せたことが、かつてあった。
一度きりで、しかもすぐに半泣きで払い落とされたが。
「じゃあ、今は願いがかなって、幸せ?」
ヴァネッサが尋ねると、アベルはなんだか悩んだような表情を見せた。
「んー……。でもなあ、なんていうか、ラズロは友達っていうのとは、なんか違うん
だよな。なんつーか……目標っつーか、そんな感じ」
「それって……ライバル、ってこと? 」
ヴァネッサは、思わず身を乗り出していた。
弟に、そんな存在ができるなどと考えたことがなかったのだ。
「確かに、剣の腕前は凄いよね……」
ちらり、とギサガ村のまっくら洞窟でのことを思い出す。
巨大アリを食い止めている時の剣さばきは、天性の才能を思わせた。
「剣の腕だけじゃないよ。あいつ、おっさんと一緒に旅してたんだろ? それって、
将来やりたいことを見つけようとしてるってことじゃねえのか、って俺、思うんだ
よ。俺、自分が将来何をしたいかなんて、村にいた時、一度も考えたことなかった
ぜ。ずっと、ギサガ村での生活が続くと思ってたし……俺、ラズロに出会った時、こ
のままでいいのか、って思ったんだよな」
「そっかあ……」
弟は、一歩、大人に向けて成長している。
それは微笑ましくもあり――なんとなく寂しいことでもあった。
「お待たせ。さあさあさあ、どうぞ」
そこへ、女将がティーポットとカップを載せたお盆を持って現れる。
なれた手つきでカップにお茶をそそぎ、それぞれの前に置く。
「ありがとうございます」
「ありがとう、女将さん」
「うふふふ。どういたしまして」
女将は、いそいそと椅子に腰掛けた。
「どうだった? アカデミーの様子は」
「すっごく広い!」
「うふふふ、それはそうよぉ。覚えるのに時間がかかるのよねぇ」
「リック君とリリアちゃんも、そう言ってました」
「あらあらあら、それは誰?」
「同じクラスの人で、今日、知り合ったんです。いろいろ教えてくれて、案内もして
くれたんです」
「まあまあまあ、良かったわねぇ。良いお友達になれるといいわねぇ」
――そんな具合で、せせらぎ亭の時間は過ぎていった。
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