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2024/05/16 13:33 |
消えない足跡:1/トウヤ(ミキ)
PC:トウヤ(PL:ミキ)、カロリーナ(PL:千夜)
NPC:サーカス、カイン、ライアン、エリザベス
場所:カルマーン

朝食時を過ぎたカフェは人が少ない。と思っていたのだがそれはどうやら間違
いのようだ。
ぼくとタークの二人だけで五人分のテーブルとイスを確保しているのが申し訳
なく思えるぐらい、
カフェは客でにぎわっていた。隣のテーブルを見る限りでは、みな遅めの朝食
が目当てらしい。
知り合いに会いたくなかった、冒険者ギルドのならず者と待ち合わせをしてい
るところを知り合いに見られたら、
ぼくの行き先がばれるのもかなり早くなってしまうはずだ。
だから、ぼくの似合わない安いカフェで、カークの服を借りて着ているのだ。
カークの方は逆に、ぼくの持っているような品格の高い服はあまり持ち合わせ
ていないらしい。
そこは身分の違いだし、それを超えてぼくはカークを良き友だと思ってる。

「こんな時間に朝食とは・・・・どうせ夜遅くまで酒ばかり飲んでいたんだろ
うな。
 貧しい人間は時間を有効に使う力も貧しいんだな。夜早く寝れば朝日がとて
も気持ちいいのに。」

「夕陽が暮れると共に目覚めるトウヤからそんな言葉が聞けるなんてね。」

「この旅のために朝早く起きる生活にしてみたんだ。
 あんなに早起きが清々しいモノだとは、思っても見なかったよ。」

苦笑しながら、ぼくはカークがさっきくれた紙に目を落とした。
その紙にはカークが調べてきてくれた冒険者の名前と経歴のようなモノが書い
てあった。

まずは、ライアン。ファミリーネームはないのか、身分はきっと平民以下だ
な。

「なぁ、このライアンってヤツは、元騎士って書いてあるけどどういうこと
だ。
 しかも人情深く女子供に優しい、それで居て努力家?こんな騎士向けのヤツ
が何で今も現役じゃないんだ。」

「分からないよ。」

「辞めたか、辞めさせられたか、とにかく何か事情があったんだろうな。信用
できない。」


ぼくがサーカス・アルゥ・ミリアムをタークと呼ぶのは親愛を込めてだ。
短い呼び名は親近感を感じさせる。
だが呼びやすいのにはもう一つ利点がある。それは命令しやすいことだ。
立場の上の者が下の者の名を略して呼び、逆に立場の低い者は高い者に対し
て、
ミスターやマスターなどつけて呼び、自分の意見や報告を的確に伝えるのだ。
それが、ある世界ではルールになっているのだとパパから教わったことがあ
る。
ライアン、この男の呼び方はライでいいかな。

次の男はカイン・アデル。
金に強欲な男。金を払えば何でもする。と書いてある。
こいつも信用ならないやつだな。マシなのは居ないのか。不安になってきた。
それでも持っている金には少し自信があった。
この旅のために、自分の持ち物や家の安い調度品を売り払った。
買い与えてくれたパパには悪いとは思ったが、金がないのが理由で旅を失敗さ
せたくない。
この旅は、他人から見たらたいしたこと無いかも知れないけれどぼくにとって
は大切だった。
ぼくはあと二年とちょっとしか・・・・・それなのに一生家と学校の往復ばか
りしているのは耐えられない。

呼び方はキーンで良いかな。
次は女性だ。カロリーナ・スリヴィエ。
人柄が掴めるほどこの街のギルドには長くいるわけではないらしい。
この人だけランクがDなのはおそらく、女性は腕より美貌で選べとぼくが言っ
たからだろう。

「このカロリーナってのは、美人なんだろうなぁ。」

「多分ね。私だって会ったこと無い。オヤジどもには評判が良いらしい。」

「年は幾つぐらいなのか分からなかったのか。」

「女性の年を知るのがどれだけ大変か分かってないね・・・。」

「知るか。」

まぁ、長旅の間に仲良くなれるだろう。
ぼく自身が長旅に耐えられるか心配だが、寂しくなったと泣きつけば案外簡単
に落ちるかも知れないな。
それとも頼りない子供より、同行する別の男の方が女性にとっては魅力的なん
だろうか。

ぼくからみんな離れていってしまうのだろうか、ミキさんのように・・・・。

「ところでカーク・・・・。」

「ん、なにか?」

「・・・・ここまでぼくに付き合ってくれてありがとう。お陰でずっと願って
た旅に出られる。
 でも、本当に一緒に来るのか。護衛を雇ったんだから別に付いてきてくれな
くても良いんだぞ。」

「いや、絶対に付いていくよ。ここでトウヤを一人で行かせたら、もしかした
らもう二度と会えないかも知れない。
私はトウヤの最後の時まで、ずっといっしょにいるんだ。だから一緒に行かせ
てくれ。」


「カーク、何があるか分からないんだぞ。」

「大丈夫さ、トウヤより先には死なない。最後の時まで絶対一緒だ。」

「だといいが。」

「・・・・・。なぁ、トウヤ。実は・・・・・」

カークの言葉を遮って、男が一人話しかけてきた。

「もしかして、トウヤ・アルゥ・セルシエナかな。」

「ぼくがそうだ。ギルドの者かな?」

「驚いた、まさかこんな子供だったとは!」

「子供でも依頼人だ、口を慎んでくれ。」

「ははは、言うねぇ。私はカイン・アデルだ。よろしく。」

「よろしく。まぁ、かけたまえ。こっちはぼくの友人だ。」

カークの紹介をしようとしたとき、近くのテーブルに座っていた男女が飲み物
を持って立ち上がった。
そしてこっちを見ながら歩いてくる。
男の方は太い腕に、厚い胸板で、頭まで筋肉かいと聞きたくなるくらい体中ム
キムキだった。
そして女性の方は、男に比べたら子供のように小さかったけれども、きっとぼ
くより背は高い。
綺麗な人だったが、顔に染みついたような冷たい表情のせいで、ぼくにはいま
いちぴんと来ない。

「もし、セルシエナ殿かな。」

「いかにも。ライアンにカロリーナだね。かけたまえ。」

カークがぼくの隣にずれ、三人と向き合う形でテーブルに着いた。
ライアンとカトリーナは確かぼくらより前から居たはずで、
ぼくが依頼人だとはきっと微塵も思わなかったんだろうな。

「改めて、ぼくがトウヤ・アルゥ・セルシエナだ。こっちは友人のサーカス・
アルゥ・ミリアム。」

「よろしくお願いします。」

「ぼくのことは、マスターと呼んでくれ。」

「こんな子供がマスターか。これは暫く楽しくなりそうだ。くっくっく。」

キーンめ、子供扱いしやがって。いつか立派な大人になって見返してやりたい
な。
大人になれるものなら・・・・。いや、年じゃないさ、この旅でぼくは大人に
なるんだ。


「ライアンとカトリーナは知り合いなのか?」

「ええ、一度仕事であったことがあるの」

「そうか、よろしく。みな旅の準備はもう出来てるか?」

「荷物はまとめてありますが、まだ宿屋に置いてありますよ。」

「カフェになんて持ってくれるかっての。」

ぼくは持ってきてしまったよ。カークと出かけてくるとママに行って家を出
て、
ばれないよう用意しておいたスーツケースをもって家を出てきたのだ。

「じゃぁ、一度とってきてくれ。キャメロンという馬車小屋で合流しよう。」




「カーク・・・・・・まさか、さっき言いかけていたのはこのことか?」

「すまない。」

「どうしてこんなことに!」

「すまない、ついつい話してしまって、そしたら付いていくって聞かなく
て。」

ぼくはいま馬車小屋にいる。カルマーンの中央通りに面した比較的寂れた馬車
小屋だ。

そこにはカークが用意してくれた馬と、馬車だけが用意されているはずなのだ
が、
スーツケースを引きずってたどり着いたぼくらを待っていたのは、
馬に話しかけながらブラシで背中を撫でる、良く見知った女の子だった。

「あ、やっときたのー?遅くて待ちくたびれちゃった!」

「エリ、なにをやってるんだ。」

「む、あたしはずっと待ってたのに、全然来ないからブラシ借りてお馬さんの
世話してたのよ!」

エリザベス・マルゥ・マックウィルソン。
ぼくとタークと同じ学校に通う、仲の良い友人だ。
たしかタークがお熱だったはずなんだが、まさか危険な旅に連れて行く訳じゃ
ないだろうな。

「昨日はね、ワクワクして眠れなかったんだ~」

「じゃぁ眠いだろう、今から帰って寝ると良いよ。」

「あれ、まだ今日は出発しないの?」

来るつもりだったのか、やっぱり!
タークめ、何を考えているんだ。

「本当にすまない。」

ああ、首っ丈だからダメとは言えないのか。惚れた男の弱みだなぁ。
でも女の子を連れて行けるような軽々しい旅じゃないし。
エリの親は・・・・ああ、そうか、駄目な飲んだくれ親父が一人だったな。

「いえ、これから出発のはずですよね」

「なにー!トウヤってば騙して置いてきぼりにしようとしたなぁ!」

誰が余計なことを、と振り向くと居たのはキーンだった。
金に強欲、という文句にはそぐわない、優しい微笑みをエリに向けていた。

「絶対行くんだから!あたし一人だけ留守番なんて絶対ヤダよ!」

「といってますよ、マスター。大丈夫、安全は保障しますよ。払う金を払って
くれればね。」

エリに聞こえないよう、キーンは囁いた。
やはり金のことを考えていたのか、くそ、一瞬でも微笑みに愛情のようなもの
を感じたのは、
金のためなら表情も作れると言ったところなのだろうか。

「なんのことだい。」

「いやですねぇ、マスター。お二人様護衛の依頼が三名様になるんですよ?」

「つまり依頼料を増やせと言うことかな。」

「頂けないならお坊ちゃま方お二人だけを護衛するだけですから。」

「・・・・・二割増やせばいいか?」

「二人が三人ですよ、五割り増しでお願いします。」

「三割だ。」

「五割いただきます。」

金を渡せば何でもやる男、逆にいえば金がなければいつ裏切るか・・・。
金の量に答える男なら多く渡しておかないとまずいかもしれない。

「四割増しでどうだ。」

「その四割、前渡しして貰えますか。」

「逃げる気じゃないだろうな。」

「逃げませんよ、ただ頂いたら預けに行きますが。」

ランクCの冒険者だ、こんなところで依頼をすっぽかすわけがない・・・。
ぼくはちらっとエリの方を見た。今はカークと二人して馬車の荷物の点検をし
ている。

カークはエリを説得しているつもりだろうが、ここからは馴れ合っているよう
にしか見えない。
この旅で二人が仲良くなれたらそれも良いかもしれないな。
ぼくには未来はない、この旅はぼくの自己満足。でも、二人の間に残る何かが
あるなら・・・・。

ぼくは、金貨を入れた袋から何枚か硬貨を取り出してキーンに手渡した。

「すぐ戻りますよ。荷物はここに置いておきますね。」

そういってキーンは外へ出て行った。
入れ替わりにカロリーナが入ってきた。

「やぁ、実は旅の仲間が一人増えたんだが、いいかな。」

「私はかまわないわ。」

そう言い捨ててカロリーナはぼくの隣を通って馬車に向かった。
同じ女性が来たのでエリが喜んでカロリーナに話しかけ始めた。
鉄砲のように放たれるエリの言葉をカロリーナは淡々と短く返す。
それでも女性二人の会話というのは男性には入りにくいもののようで、
タークが居心地が悪くなったらしくこっちに戻ってきた。

「金を渡したのかい。」

「ああ、渡さないとどうなるか分からないからな。」

「すまない。」

「まぁ、賑やかになったし、これで道中飽きることがないだろ。」

話していると、ライアンが大きな荷物を持って入ってきた。

「皆さんお揃いですか、遅れて申し訳ありません。」

「ライアン、一人女の子が増えたんだが、構わないかな。」

「それは賑やかになりそうですね、カロリーナさんも女性が増えて安心でしょ
う。」

ガシャンガシャンいう自分の荷物と、置いてあったキーンの荷物を軽々と持っ
て、
馬車に積み始める、ライアン。どうやら悪いヤツじゃなさそうだ、頼りにな
る。
ぼくとタークの荷物を積み終わった頃、キーンも戻ってきた。
ぼくはキーンに聞こえるようにだけつぶやいた。

「他の二人は追加で金なんて必要ないみたいだよ?」

「それは良かったですね、マスター。ですがいざというとき私は命など惜しく
ありませんよ。
 私は金さえ頂ければ、何でもしますので、覚えておいてください。」

この人は何のために生きて居るんだ。ぼくはそんな疑問が浮かんだ。



「予定通り、まずは北のハイゼンに寄る。そしてその後、ソフィニアに向か
う。さぁ、出発だ!」

馬車に馬を繋ぎ、ぼくは出発の声を叫んだ。
馬車小屋を出て中央通りを北へ登る。まずは門から街を出なければならない。
街を出る者に対して警備は厳しくない、ぼくら子供の行き先がばれぬように、
馬車の中で見つからないようにしていた。
ぼくは遠く、小さくなっていくぼくの生まれた街を見るのが楽しみだったのだ
けれども、

街を出てすぐ森に入ってしまったため、気が付いたらもう街は見えなくなって
いた。
ちょっと寂しくなったけれども、ぼくにはもう旅の仲間がいたから辛くなかっ
た。

実は、昨夜はなかなか寝付けなかった。
見知らぬ人間と旅に出なければいけない。
ぼくは死なないけれども、売られて一生奴隷として働かされ、
16になったとたん過労死なんて事があるかも知れないと思っていた。
それにぼくが大丈夫でもカークのことは心配だった。
期待より不安に押しつぶされて夜を過ごした。
でもいまは、期待で胸がいっぱいになっている。
賑やかな、ぼくのこの世で一番仲の良い友達二人と、
金のためだけどこうして微笑みあいながら共に歩める仲間がいるから安心だ。
そう思ったら急に眠気が襲ってきた。

「さっそく馬車酔いしたみたいだ。しばらく寝かせてくれ。」

「そうですか、遅めの昼食の時間には起こしますよ。ゆっくり休んでくださ
い。」

マスターをつけろ、という前にぼくは眠りに落ちてしまった。

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2007/02/12 21:16 | Comments(0) | TrackBack() | 消えない足跡

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