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2024/05/16 22:50 |
消えない足跡 2/カロリーナ(千夜)
PC:カロリーナ トウヤ
NPC:サーカス エリザベス ライアン カイン
場所:林道

___________________________

 既に夜営も三度目。道中は穏やかであった。
 地図によれば道から外れたところに水辺があるらしく、ライアンとカインが
水を汲みに行くことになった。
「残ったのは女子供か。まぁ、あの陰気なレディに力仕事は期待できないから
仕方ないが、あまりのんびりはしない方がよいな」
 前を歩くライアンに話しかけるカイン。
「確かに、早く戻るに越したことはありませんが、彼女なら大丈夫です。余程
のことがない限り心配ありません」
 妙にはっきりと言い切るライアンに、カインは眉をひそめる。
「そういえば、前に仕事で会ったとか言ってたな」
「はい。丁度一年くらい前だったと思います。その頃私は傭兵として戦争に参
加していて、彼女もそうでした。そして、ある戦で同じ陣営で戦いました」
 その時のことを思い出しているのだろう。ライアンは目を細めて森の暗がり
を見つめているようだった。
「カイン、彼女の戦闘スタイルをどのように推測します?」
「推測も何も、弓しかないと思うが。肌身離さず持ってるじゃないか。見た限
り他に武器はなさそうだし、まぁ魔法の心得があってもおかしくはないが」
「そう、彼女はよく弓を使う。しかし、あなたは矢を見ましたか?」
 記憶を辿るカイン。思わず足を止めてしまう。
ない。確かになかった。矢がなければ弓など何の役にも立たない。ではなぜ?
 なぜ彼女は弓だけを持っているのか。
「傭兵団の中で、彼女は『魔弓の射手』と呼ばれていました」
「魔弓だって? あれが? 俺はそっちの方面には詳しくないが、随分と安っ
ぽい魔弓があったものだな」
 カロリーナの持つ弓は、特に何の意匠もないありふれたものだった、ように
思う。
「私はこの目で見ました。彼女が弦を弾くと、一人、また一人と敵兵が倒れて
ゆくのを。そして、彼女の戦術の本質は弓での遠距離攻撃ではない」
「何なんだ?」
「口止めされています。『敵を欺くにはまず味方から』だそうで。・・・いず
れ目にする機会があるかも知れません」
 いつの間にか二人は完全に足を止めて話し込んでいた。
 来た道の方から微かな悲鳴が聞こえたのはその時であった。

 時はやや遡る。
 焚き木を囲む四人。トウヤとサーカスはカルマーンの思い出や、まだ見ぬ希
望の地について語り合い、カロリーナはどうやら木に彫刻をしているらしい。
エリザベスはその手元をじっと見ている。
「すごい・・・どうしたらそんなに上手く彫れるんですか?」
「もう、随分長い間続けてるから・・・私がこれを始めたのは五つか六つの時
だったわ。それに、とても腕の良い先生がいたの」
 エリザベスは出来上がった小さな鳥を見てしきりに感心している。女性二人
ということもあって、彼女たちは大分打ち解けているようだ。
 その様子を見ていたサーカスがエリザベスに声を掛ける。
「エリザ、私にも見せてくれないか?」
 はい、と手渡される小鳥。
 トウヤとサーカスはそれをまじまじと見て、思わず感嘆の声を上げる。
「これは、すごいな。屋敷にも高名な彫刻家の作品がいくつかあったが、それ
に引けをとらない」
「カロリーナさんは、どうしてこんな危険な仕事をしているんです? これだ
けの腕があれば工房で働けるんじゃないですか?」
「・・・・・」
「カロリーナさん?」
 カロリーナは無言で手元の弓を取った。何かを察したサーカスが後ろを振り
返り、釣られて残りの二人も振り向く。
 エリザベスが悲鳴を上げた。

 駆けつけたライアン達が見たのは、刃物を突きつけられて縛られようとして
いる四人だった。
 二人は茂みに隠れ、様子を伺う。相手は旅人を狙う盗賊団のようだ。数
は・・・六人。
「何が心配ありません、だ。ライアン、どうする?」
 ふむ、と考え込むライアン。頭の中身まで筋肉のように見える彼だが、その
実思慮深いようである。
「彼女ならこんな盗賊団物の数ではありません。しかし戦おうとしない」
「武器がないんだろ」
「いえ、弓は足元にありますし・・・・彼女に武器は必要ない」
 その間にも四人は縛られ、馬車から荷物が運び出されてゆく。
「おい、早くどうにかしないと、あいつらは売られるか殺されるかのどちらし
かないぞ」
「そうですね・・・きっとそうだ。恐らく彼女はそれを待っている。行きまし
ょう。正面から」
「こっちは人質を取られてるんだぞ?」
「大丈夫、心配ありません」
「お前の『心配ありません』はあてにならない」
 そう言うカインを無視して、ライアンは茂みから飛び出した。カインも慌て
て後を追う。どうにでもなれ、と呟きながら。
 盗賊団は二人が姿を現すなり、人質に向けた刃物を近づけ、二人を牽制し
た。
「武器を置け、こいつらの命が惜しくなければな」
 あっさりと武器を置くライアン。それを倣うカイン。
 二人の登場に期待の表情を見せたトウヤは、再び絶望の色を浮かべ、エリザ
ベスに至ってはほとんど泣き出しそうである。そんな中でカロリーナだけが平
然としていた。
 武器を地面に落とした二人に近づく四人の盗賊。彼らが人質がからやや離れ
た時、カロリーナが動いた。
「・・・・・・っ!」
 声にならない悲鳴を上げながら、喉を切り裂かれた二人の盗賊が倒れる。カ
ロリーナ達に刃物を向けていた二人だ。ライアンとカインに近づく四人は気づ
かない。
 カロリーナは足元にあった弓を取って、矢もなしに、射る。風切り音がし
て、背を向けていた盗賊の延髄に透明な何かが突き刺さった。
 異変に気づいて振り返った三人だが、その瞬間に四人目の犠牲者が出た。い
つの間にかに二人だけになっていた盗賊たちは混乱しつつも、身構える。そし
て武器を拾い上げたライアンとカインに一人ずつ後ろから殺された。
 全ては一瞬の出来事であった。トウヤ、サーカス、エリザベスの三人は何が
起きたのか分からず、ただ呆けている。
「水は?」
 沈黙を突き刺したのはカロリーナの平坦な声であった。
「いや、途中で悲鳴が聞こえて・・・・」
「そう。まだ多少余裕があるのだし、あきらめて移動しましょう。ここに留ま
るのは、この子達に良くないわ」
 そうだな、と呟いて、カインは冷たい汗が背中を伝うのを感じた。
「あれが彼女の能力です。何もないところから透明な武器を作り出す・・・・
知らない相手はひとたまりもありません」
 一行は慌しく薄闇を移動しはじめた。
 馬車の中は奇妙な沈黙に支配されている。この夜はこれで終わったが、それ
は本当の始まりの前の、ささやかな余興でしかなかった。

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2007/02/12 21:16 | Comments(0) | TrackBack() | 消えない足跡

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