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2024/05/16 19:09 |
アクマの命題  ~緑の章~ 第二部【2】 思い出の欠片/メル(千鳥)
「どうしよう…」

 森の空き地で一人呟いたのは、天使画から抜け出したような美しい少年だった。 
 赤く染まったオークの葉が、少年の胸の辺りをすり抜けて行く。
 少年の身体は、透けていた。
 しばらくその朽葉の往く先を目で追い、少年―――ロビンはまるで神の迎えを待つ
かのように空を見上げた。

 行くべき先が見つからない。
 帰る道すら見失った。
 今居る場所も分からない。

 ロビンの『本体』は、修道院の書物庫の物陰にあった。
 夜までに何とかしなければ、シスターたちが彼を探し始めるだろう。
 この力に気づかれてしまう。
 元の場所に帰る事が出来るかもしれないが、きっと『妹』と会えなくなってしまう
だろう。
 知らずうちに俯いていた顔を上げたとき、ロビンは眼前に迫り来る拳に気がつい
た。

「わぁ!」

 物質の影響を受けないはずの精神体。
 それなのに、思わず声を上げて上空に飛び上がったのは、本能的に危険を感じたか
らだ。
 ロビンの淡い金髪が少年のパンチの風圧に、初めて風を感じた。 

「逃げるなんて卑怯だぞ!ゆうれいっ!」

 拳の主は、あちこちに絆創膏を張った腕白そうな少年だった。
 本来見えぬはずのロビンにしっかり視線を向け、叫んでいた。 
 健康そうに日焼けした腕をぶんぶんと振り上げて少年は言う。
 
「ここは俺様のシマだ!さっさと失せな」

 初めて耳にする粗野なセリフにロビンは不愉快になって口を尖らせた。

「僕は、幽霊じゃない」
「自分が死んだのがワカンネェのか」
「違う!僕はただ妹と妹の母親を探して・・・」
「じゃあ迷子じゃねーか」

 少年が勝ち誇ったかのように腕を組んで笑った。
 
「・・・」

 図星だったので、ロビンはそれ以上言い返すことが出来なくなった。 
 少年は、面倒見のよい性格だったので、自分より年下のロビンが泣きそうな顔で押
し黙ると、少し口調を柔らかくして尋ねる。

「じゃあ、一緒に探してやるよ」 
「え・・・?」
「妹だよ。妹を見つければ成仏できるんだろ?」

 どうやら少年はロビンのことを幽霊だと決め付けてしまったようだ。

「妹は生きてンのか?」
「もちろんだよ」
「だったらしょうがねぇ。手探すのを手伝ってやるよ。オマエがここに居ると子分た
ちが怖がるンだ」

 そういうと、少年は鼻の上を擦って少し照れた顔で名乗った。

「俺様はオルド。オマエは?」
「僕はロビン。妹の名前は・・・」

 それは十年以上前の記憶―――。 

††††††††††††††††††††††††

 アクマの命題  ~緑の章~

          【2】


PC   メル オルド
NPC ジョニー ボブ 女将(イビアン) ロビン
場所  ファイゼン(ソフィニアの北西)


††††††††††††††††††††††††

「我らを守りし偉大なるイムヌスの神よ 白き教えがこの地に光を与えた事を感謝い
たします」

 アメリア・メル・ブロッサムにとって、朝のお祈りは物心がついた時からの日課で
あった。
 まだ、鳥の囀りしか聞こえぬ静かな朝の寝室に、歌うような少女の祈りが満ちた。

「勇ましき騎士 聖ジョルジオよ  悪魔の罠より我を守り給え
 貞節なる母  聖女ブロッサムよ 貴女の子なる我を守り給え」

 最後に守護聖人たちへ祈りを捧げると、メルはその若草色の瞳を開いた。
 隣の部屋にいるこの家の女主人はまだ寝ているようだ。
 メルは静かに立ち上がり、寝巻きを脱ぐと鏡に映った自分の身体を見て思わずため
息をついた。
 痩せた手足とは対照的な、丸い頬。
 胸にはふくらみの前兆こそあったが、ぽっこりと膨らんだ下腹部のほうが目立って
いた。

 ―――5年前から全く成長していない。

 己の業を知りながらも、修道服という鎧を脱ぐとつまらない事が気になってしまう
ものだ。
 まだ整理されていない旅行鞄の中から、13歳の頃に着ていた流行おくれのワン
ピースを取り出す。
 いつも身につけている修道服は鞄の奥底に隠したままだ。
 
「わたくし…わたしはメル。この食堂に身を預けられた身寄りのない13歳の少女」

 イムヌス教第四派閥に所属するエクソシストという身分を隠すこと。
 これが、今回彼女の任務に課された条件の一つだった。

 皮肉なのか偶然にも、それは5年前孤児院にいた彼女の生い立ちそのままでもあっ
た――。

 † † † † †

「メルちゃん。ジャガイモのマスタード炒めにビール一つ。あのテーブルね」
「はい!」

 恰幅の良い女将さんから大きなお盆を受け取ると、メルは器用にバランスをとりな
がら煩雑に並んだテーブルと椅子の間を通り抜けた。
 
「お待たせしました!」
「ありがとよ、嬢ちゃん」

 食堂『とれびあーん』は、活気のある店だった。
 特に夕方は仕事帰りの客が酒を片手に歌ったり踊ったり、殴りあったりと一段と騒
がしい。
 その熱気にあおられメルの頬もほんのりと赤くなっていた。 

 しかし、女将のイビアンに言わせると、「以前はもっと明るかった」そうだ。
 確かに、日に日に深刻な顔をつき合わせているテーブルが増えていた。

 「何故?」「何処に?」小さく紡がれる疑問と絶望。
 きっと、彼らはある日突然大切な人を失ったのだろう・・・・。
 今この辺り一帯で起きている『失踪事件』。
 一般人へと身をやつし、この事件を調査するのがメルの仕事であった。

 今日も若い男が二人、顔をつき合わせて話し合っている。
 はじめて見る顔だったが、たまに他の客と親しげに声を交わすところを見ると、近
くに住む若者たちなのだろう。
 隣のテーブルを拭きながら、メルは情報収集の為に聞き耳を立てた。

「とりあえず分かったのはこんなもんだ」 
「そだな。後はオルドの兄貴が来ないと・・・」

 オルド。
 男の言葉に、メルはその手を止めた。 
 オルドという名前を最近何処かで聞いたような気がしたのだ。

「メルちゃん!なに油売ってるんだい!?」

 女将の大声に慌てて振り返る。


 
ちょうど後ろに居た客に思い切りぶつかってしまった。
 突然の衝突に相手はびくともしなかったが、メルはまるで壁にでもぶつかった様に
後ろに飛ばされた。

「ぁん?どこ見て歩いてんだよ」

 言葉こそ粗野だったが、男は尻もちをついたメルを助け起そうと手を出した。 
 
「すいません・・・ありがとうございま・・・」

 その手を取って相手の顔を見た瞬間、メルは一瞬ぽかんと口を開いたまま固まって
しまった。
 白髪の短髪に、きつい目をした若い男。
 それはソフィニアの魔術学院で会ったスレイヴの友人だった。

(な、なんでこんな所に魔術学院の人がいるの!?)
 
 いや、むしろ彼の場合はこの酒場にいるほうが似合っているのだが。
 オルドは最初メルのことが分からなかったようだった。
 手を握ったまま固まった小さな店員を見下ろしていたが、すぐに顔つきが変わっ
た。
 

「もしかして、あン時のシス・・・」
「オッ」

 イムヌスの関係者だとばれてはならない。 
 焦ったメルはオルドの手を強く握ると、そのまま店の外へと走り出した。

「お客様出口はあちらです!!」

「あぁ!?兄貴が幼女に拉致!?」
「変態入店お断りってか!!」
「そりゃお前だろ」

 後ろでは男たちのどつき漫才が始まったが二人の耳には届かなかった。

††††††††††††††††††††††††
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2007/06/04 21:48 | Comments(0) | TrackBack() | ○アクマの命題二部

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