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2024/05/16 23:58 |
アクマの命題 第二部 ~緑の章~【3】/オルド、スレイヴ(匿名希望α)
「あれは~だれだ~……♪」

 ソフィニアの一角にある公園。
 少年はよくわからない歌を口ずさみながら軽い足取りで歩いている。
 天気は晴れ。夕方の斜光が射す中、彼はしまりの無い顔をしていた。
 涼しげな風が流れるこの時間の雰囲気からは浮いているが、良くも悪くも周辺
に人はいないようだ。

「ハリィアイは透視力♪ハリィイヤーは地獄耳♪」

 金髪蒼眼、そばかすのある少年。
 名をハリィ・D・ボッティと言う。

「あ~くま~のちから~手に~入れ~むっふっふ♪ カァッ!」

 目がキランと怪しく光った。
 その視線の先には……公園の外を若い女性が歩いてる。

「見える! わたしにも敵の下着が見える!」
「何色ですか?」
「それはもう、見紛うこと無きみd……!? え、あ、スレイヴ、さん!?」

 いつの間にか背後に立っていたスレイヴ・レズィンスに気づくハリィ。
 瞬時に2、3歩ほど間を空けるように引いた。

「買物に行かせただけだというのに、こんな所で白昼堂々覗きですか。悪魔の力
は目立ちます。イムヌスの異端審判にかかりたくなければ私の監視外では使うな
と何度言ったらわかるのですか。貴方という貴重な研究資料を失うのは残念です
が、貴方がどうしてもアメリア・メル・ブロッサムに会いたいというのなら止め
はしませんよ」
「会いたいですけどォ! でも僕には他にも沢山の妹(※注:妹候補)がいるんで
す! だから命を奪われるわけにはいかないんで「頼んでいた資材の調達はどう
なりましたか?」あ、う……うぅ」

 ハリィの叫びを無視して問うスレイヴ。
 熱意が伝わるはずもないが、反応の薄い対応をされたのでハリィは落胆した。

「辺りを回ったんですけど、緑系の染料だけがありませんでした」
「まぁ、なくても困りませんがもう数件探してみてください。手紙を出す余裕が
あるのならばまだ行けるでしょう」
「え、みみみ見られた!?」

 オーバーリアクションで驚いた表情を作ったハリィ。これが素なのだろうか。
 演劇の表現をしているかのようだ。

「宛先が遠方のご令嬢だなんて私は知りませんよ。ましてやその方が貴方より年
下なんて知るはずもありません」
「ぎゃー! あ、あの子は僕のたった一つの心のオアシスなんだ! 純真無垢で
僕を”お兄ちゃん”って慕ってくれるいい娘なんだ! 僕がたぶらかして…… じゃ
なかった。いろいろ教えてあげてるんだ! 僕だけの……僕だけの……!!」

 夕刻の赤光の中よろめき地面に倒れこんで呟きはじめるハリィ。こうなった場
合、周囲の声は耳にはいらないらしい。
 だが、それでもスレイヴは口の端を歪めながら聞こえるように言い放つ。

「さて、誑かされてるのはいったい誰なのか……」


‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡

 アクマの命題  ~緑の章~

          【3】


PC  メル オルド  スレイヴ
NPC         ハリィ
場所  ファイゼン(ソフィニアの北西)


‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡

「責任、とってよね」
「何の責任ですか!」

 可愛く言ったつもりだったオルドに即座に切り返す。
 その対応にちょっと快感。
 ソフィニアの北西の街『ファイゼン』にある食堂『とれびあーん』。
 その入り口から脇にそれ、裏手に引っ張り込まれたオルド。
 少し息を切らして脱力する様に手を離すメル。
 建物は間を置いて建っているので食堂の横は少し空き地になっている。
 傾きかけている太陽。その影の中に二人は立っていた。

「つーか俺様みてぇなオトコマエの手を掴んで走りだすなんざぁ、シスターも
「メルです」あ?」
「今の私はただのメルです」
「あん?」

 オルドの戯言をスルーして強い視線を送るメル。オルドはその視線を合わせた
まま眉間にシワを寄せる。
 食堂の騒音が壁越しに伝わっている中、オルドの考えが巡る。が、

「シスター辞めたのか? ロリシスターなんてもう一部で大人気だろってのによ」

 思考より先に口が出た。

「わた……しは……」
「それとも何か?辞めさせられたってか? 学院のアクマ騒動がバレたとか……
あ、もしかしてヤっちまったとかか? ひゃっはは! そりゃしゃーネェなぁオイ」
「……」

 ニヤニヤと下衆な笑みを浮かべるオルド。
 話し始めるきっかけを失ったメルはうつむきつつ沈黙してしまった。
 そしてそれを表通りから視界を覆うように立ちはばかるガラの悪い男。
 側から見れば絡んでいるようにしか見えない。

「いやいや、わかってる。わかってるって。よくある潜入捜査ってやつでもぐり
こんでンだろ? ったくめんどくせーよなぁ末端構成員ってのはよ」
「! 知って……?」

 勢いよく顔を上げる。いや上げてしまったメル。眼を見開いてオルドを見る。
 だが、メルが確認したオルドの表情は少し呆けていた。

「テキトーに言ったンだがよ、そんな反応されちゃぁその通りって言ってるよう
なモンだぜ?」
「え、あ……」
「オイオイ、しっかりしろよ調査員さんよぉ? そんなンじゃ相手に裏ぁかかれ
るのがオチだっての」

 この台詞でメルの警戒ランクが上がるのは承知の上。

(つーかコイツラ何調べてんだ? イムヌス教ってのは何やってのンだ?……獣人
嫌ってるってぐらいしかシラネーな。後で調べておくか)

 再び黙り込んだメルを見やる。自戒のためか、先程よりもきつく唇を結んでい
るようだ。
 素直な上に頑固。
 がんばっちゃってるこの子に免じて突っ込むのはヤメテやろう。と偉そうな事
を考えているオルド。
 自分が拉致?られた理由は理解できた。どうにも素性を周囲に明かされたくな
いらしい。
 まぁ、捜査であれ調査であれ、探ることには変わりない。教会のシスターと聞
けば出し惜しみされる情報もあるのだろう。
 こっちの情報は別にくれてやってもかまわないな、と判断した。

「俺様は今な、探しモンしてンだよ」
「さがしもの、ですか?」

 唐突に話が飛んだのでメルは訝しげに聞き返した。
 硬くなっていた雰囲気が少し和らいだようにオルドは感じた。根掘り葉掘り聞
かれると思っていたのだろうか。
 メルから視線をはずして「そ、探しモンだ」と続ける。
 周囲を一見。目立った視線も感じなかったので続きを話す。

「最近よ、俺様の縄張りでいつのまにか居なくなってるヤツラが多くてな。つー
か俺様が気づいたのもダチの弟が居なくなってからなンだけどよ。ってわけで俺
様はそのダチの弟とかその他大勢を探してンだ」
「お友達の弟さんですか……その人の特徴とかはわかりますか?」
「人ってか獣人だ。犬系のな。まぁ、普段は人間と同じナリしってっから見分け
つかねぇと思うけどよ。俺と同じぐらいの背で、学者が似合いそうな雰囲気の青
二才って所か……他の特徴はあれしかネェな。黒い髪の毛ン中にたて髪みてぇな緑
の髪の毛が頭の中央分断してンだ」

 オルドは「このヘンな?」といって自分の頭……額の中央から延髄辺りまで指で
滑らせて示す。
 前屈状態で見せたためメルからはオルドの脳天が見える。
 とりあえずオルドの髪の毛は白い。メルはオルドの髪の毛……頭をマジマジと見
つめた後、考える仕草を見せる。
 宿屋『とれびあーん』で働き始めてからどれくらい経っているのか知る由もな
いが、その記憶の中から答えを探している。

「わたしは……わかりません。もっと多くの人から聞いていればよかったのかもし
れませんが今は……すみません」
「あん? 謝ンなバカ。そン時ナイ情報を探せるはずもネェだろ。ソコまで期待
してねーよ」

 様子から察するにメルもメルなりに何か情報を探しているようだ。
 と、ここまで来て考え直す。
 食堂に身を置いてるってことは固定的な情報収集してる。オルドの縄張りと主
張しているのはソフィニアの東側中心。そして食堂『とれびあーん』は、ソフィ
ニアの北西にあるここ『ファイゼン』の街にある。
 旨く立ち回れば多くの情報が得られるかもしれない。

「つーワケで情報提携ってのでどうだ?」
「……」
「俺様以下二人はソフィニアの東とかでいろいろ情報聞きまわっていたワケよ。
広範囲カバーするためにここを集合地点にしたってンだが……」

 一息置く。
 声の応答は無かったが興味はあるようだ。
 オルドの目を見ている。
 そういや族長も言ってたな。「話す時、聞く時は相手の目を見ながらやれ」っ
て。臆せずもまぁ可愛いもんだ。

(そん時はガン付けしあって族長にブン殴られたな。「喧嘩売ってるんじゃない
んだぞ」とか言われたが)

 子供のコロの記憶がよぎる。
 話しかけられる度に睨みあって喧嘩になっていた。その対象は年下だろうが幽
霊だろうが関係なかった。
 喧嘩に明け暮れた日々を懐かしんでいたが、思考を現実へと引き戻す。

「っと。そっちも何か欲しい情報あンだろ? ついでに嗅ぎまわってやるよ。連
絡役は俺様か……ジョニーだな。こっち側はあンま来ねーからシス……メルがスタン
レーって、これダチの弟の名前な。スタンレーの情報を集めるって事でどうよ」

 一息で喋った後「ムサい野郎より可愛い嬢ちゃんのほうが集まりはイイって
な」と冗談めかした言葉を加える。
 メルは2、3まばたきした後、オルドから視線をはずして考えをまとめている
ようだ。

「こっちはおおっぴらに行動しても問題ねぇ。で、そっちの欲しい情報、アンだ
ろ?」


 ‡ ‡ ‡ ‡
 ‡ ‡ ‡ ‡


 ソフィニアの公園。

「あ。あと……」
「なんです?」

 我に返ったハリィは歯切れ悪そうに上目使いでスレイヴを見る。

「ネギが売り切れてました」
「そうですか」

 とりあえずブーツでハリィの顔を踏んだ。


‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡
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2007/08/24 23:44 | Comments(0) | TrackBack() | ○アクマの命題二部

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