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2024/05/17 08:26 |
虫の音。/月見(スケミ)
◆――――――――――――――――――――――――――――
出演:ワッチ・ファング・月見
場所:ヴァルカン(”月見亭”の温泉)
◆――――――――――――――――――――――――――――
温泉で、何故か少女の笑い声が響く。

「うひょーっひょっひょっひょ★」

温泉の煙が、月見の視界をせまくしていた。
しかしながら彼女はかなりのレヴェルで幸せものであった。
理由は、彼女をとりまく環境にある。
彼女の右隣には褐色の肌をしたガタイの良い青年。
彼女の左隣には榛色の髪の青年。
つまるところ、彼女は小規模ながら憧れのハァレムである。
月見の趣味だろうか、何故か二人の青年はふんどしを装備していた。
ちなみに月見は制服のまま、3人揃って着衣温泉である。

「やっぱヴァルカンは温泉だよなぁ~」

榛色の髪の青年がポツリと呟く。
ちゃっかり肩を触ったりなんだりとセクシャルハラメントされているのにあまり動じ
ずに温泉を満喫している。
レヴェル高し。

「良い筋肉してるわねぃ★この胸筋肉の手触りがまた…ッ」

もちろん言葉のセクハラも忘れない。
しかし

「だろッ?オイラ、筋肉には自信があるんだぜ!」

輝かしいばかりの笑顔で答えるガタイの良い青年。
ちゃっかりセクハラがスルーされている。
さりげなく、手強い。
しかしこの手強さから恋に落ちることもありえるようでありえないような感じだ。
そう、それは衝撃的な恋。
衝撃的な…
衝撃的な…


『ごめっ』


腹部に激しい衝撃が。


その衝撃は月見を『夢』(妄想)から覚まさせるのに充分であった。





『あ。』

ファングとワッチの二人は起きた出来事に同時に声をあげていた。
羽交い締めの変型バージョンをファングに仕掛けて段々ヒートアップしたワッチは新
たな技を繰り出した。
その技の名はブレーンバスター。
相手の背後から腰に腕を廻し、そのまま仰け反り相手の頭を地面に激突させるという
…そんな、あまり説明しづらい技である。
本来なら今ごろ、ファングの頭は床に激突しているはずだった。
しかし、彼の頭には柔らかい感触。

「……う、うごあああああ……★し、子宮ぐぁあああ……」

ファングの頭はベッドで眠る浴衣姿な月見の腹に激突していた。
脂肪でダメージ吸収である。
思いもよらない事態に焦るワッチとファング。
ちなみにいまだブレーンバスターの体勢は解かれていない。
その間にも月見は腹をかかえて唸っている。

「…おい…大丈夫か?」

ゆっくりとブレーンバスターの体勢を解くワッチは自分のせいと思っているのか少し
慌てた様子で心配する。
しかし月見は下を俯いたまま唸っているだけだ。
相当痛かったらしい。
そんなあ月見と同じく唸っている者がいる。
ファングだ。

「うぇぇええ……気持ちわりぃ…」

逆さまになっていたため頭に血が昇ってしまったらしく床にへたりこんでしまってい
る。
これでは疲労を回復するために温泉に入った意味がない。
一人だけ元気なワッチ。
なんとなく居心地が悪い。
プラス、腕に居心地が悪い感触。
気付けばベッドで呻いていた月見が決死の表情でワッチの腕で掴んでいた。

「うっうっうっ…乙女の子宮に衝撃を加えるなんて…なんて大胆なアプローチッ★」

どこをどうやってどのように勘違いしたのか、ブレーンバスターを恋のアプローチと
認識したらしくかなり浮かれた表情でにじりよる。

「オイラはアプローチなんてしてないッ!!」
「しかも合体技でなんて…まさに萌えシチュエーションッ!!」
「何か…俺らの話、耳に入ってないみたいだな…」

とかいいつつ、ちゃっかり二人から離れるファングである。
月見はちゃっかりセクハラも忘れずにワッチの腕に『の』の字を描く。

「ッ!!」

気色悪い感触に全身の毛が逆立つ。
いまだ消えないアルコールのせいだろうか、先程のように怒りがふつふつと湧いてく
る。
いつもはそんなこともないのだろう、しかし酒の力は恐ろしい。
一つの怒りを思い出したら最後、酒のせいもあってか日頃は放っておいたやり場のな
い怒りまでも噴出される。

(くっそー…ツイてねぇッ。酒でも飲んでのんびりしようと思ったのに邪魔されちまっ
たし、いきなり着衣入浴な女が男湯にくるし脱ごうとするし!腕の怪我の治療もして
やったのに意味不明な行動とるしッ。金ないしッ!最近ジーパンの破れが激しいしッ!
最近全然闘ってないしッ!暖かいしッ!食堂の飯は旨いしッ!酒飲めるしッ!!)

「ちょ…ニィさん、どうしたんだ?」

ファングが話し掛けるが聞こえていないようだ。
思わず最後の方でほんわかとした気分になったワッチだったが、一度出た怒りは納ま
らない。
いまだ自分の腕を掴んでキャーキャー騒ぐ月見を怒りの視線でじとーっと睨む。
そして右手を月見のデコ正面に持っていき…

「とりゃ。」

デコピンを喰らわせた。
ただのデコピンと笑ってはいけない。
なんたって趣味が肉体鍛錬のツワモノである、彼のデコピン一発は関西人のツッコミ
の百倍の威力があると思われる。
まさにツッコミオブツッコミ。

ばづん。

音も何か凄い。

「ぬおっ★」

思わぬ衝撃に仰け反り倒れそうになる月見を思わず受け止めるファング。

「ぬぁ…?!重……ッ」

しかし、ファングも月見の思わぬ重さで仰け反り倒れそうになり思わず受け止めた手
を放してしまう。
勢いよく、月見が地面に激突接吻する。
あまりにも勢いが良かったのでファングがノーマルに心配する。

「おいおい!大丈夫か?」
「い、いやいや…マゾだからこれしきは…つーか青年よ…君のお陰で地面激と……」

ぶぉん。

唐突に、二人の近くで風を裂くような音がした。
何かと思い音のした方向を向いてみると…。

「へへへ……へっへっへっへ」

ワッチが虚ろの笑みを浮かべながらデコピンの練習をしていた。
どうやらアルコールと怒りが変な風に作用したらしく奇妙な感じに仕上がっている。
しかしながらデコピン素振りだけであそこまで素晴らしい音を出すとは、流石は趣味
が肉体鍛錬。
ひと味もふた味も違う。
そんなワッチはじりじりと二人の方へと歩みよっていた。
あまりの恐ろしさに二人は後ずさる。

「こっ、ここはやっぱりバンダナファーストって事で青年が先にデコピンをばッ。」

といいつつファングの背中に廻り促す。
しかしファングも負けてはいない。

「でも、あんたマゾなんだろっ。あんたが喰らった方がきっと世のため俺のためだっ
て!」

背中の月見を押し返そうとするファング。
あくまでもバンダナファーストを実行すべく拒否する月見。
『ぶぉん、ぶぉん』と快音を鳴らしつつにじり寄るワッチ。
いち宿の普通の部屋に異様な世界が繰り広げられている。
間違った方向での張り詰めた緊張感が部屋を支配する。

そんな中、とある音が響いた。


ぐーきゅるるるるる………。


腹の虫の音。

「あ。」
「…お」
「ぬ★」

しかも3人分である。

「うう…何か美味しいものが食べたいぃ…」
「なんか腹減ったなあ…。」

ファングが自分の腹をさする。
いつしかワッチも正気に戻っていてしきりに鳴る腹の虫の音をなだめている。
一気に下がる3人のテンション。
そして上がる腹の虫の音。
ひとしきり腹の虫の音が鳴り響いた後、ワッチは拳を握りこう言った。

「とりあえず何事も飯を喰ってからだッ!飯くおうぜッ!!」

「異義なしッ!!」
「あたしも青年と同じで異義なしッ。」

そうして互いの名前も分からぬまま、空腹と言う名の共通のノリで3人は食堂へと向
かったのであった。


続く
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2007/03/09 00:50 | Comments(0) | TrackBack() | ●浅葱の杖

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