忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/05/18 01:47 |
クロスフェードA 第1話 Invitation/リーデル(陽)
PC:リーデル
NPC:ミリア
場所:クーロン
___________________________________

 自分が場違いであることは分かっていた。
 クーロンで名の知れた組織の、それも上級幹部御用達の高級ホテル『アンバ
ー・アイ』のバーの客たちは、くたびれたコートにペインターパンツという出
で立ちの俺に、一様に奇異な視線を向けていた。

「お客様、こちらは会員制のバーとなっておりまして――」

 ボーイのひとりが慇懃無礼そのもの笑顔で俺の行く手を遮った。俺はエント
ランスから延々と繰り返された行為に半ばウンザリしながら、金縁の悪趣味な
カードを目の前に突き出した。ボーイの笑顔が凍りつく。俺をどこぞの組織の
お偉いさんだとでも思ったのだろう。ここクーロンで金を持っているヤツの職
業などヤクザ以外の何物でもない。

 コンクリ詰めにされて用水路で水泳している自分の姿を想像しているであろ
うボーイにせいぜいにこやかな笑顔を見せると、俺は目当てのテーブルに向か
った。

「早速、送った会員証が役に立ったみたいね」

 そう言って艶やかに微笑したのは、ワインレッドのドレスを着た黒髪の美女
だった。派手な紫のアイカラーと真紅のルージュという水商売一歩手前のメイ
クのはずなのだが、不思議と下品に見えない。

 ミリア・レリアック。
 こう見えても大陸中に支部を持つ巨大組織であるギルド――その中の魔術師
ギルドを統括する幹部のひとりである。

「で、用件は?」
「お願いがあるの」

 艶のある声が俺の鼓膜を揺らした。俺が(勝手に)先天性テンプテーション
と名づけたこの熱っぽい声は、適度な暖色照明と緩やかなジャズのムードの中
でその効果を倍増させる。俺はわざとらしく伊達眼鏡の位置をずらして、その
アメジストの瞳から視線をそらした。

「引き受けて欲しい仕事があるのよ」
「内容は?」
「誘拐犯の追跡」

 便利屋という看板を出しながらも、俺は荒事専門の魔術師として傭兵まがい
の仕事で糊口を凌いでいるクチである。こういった依頼は珍しくない。だが、
とある理由からギルドを出奔せざるを得なくなった俺に、ギルドの幹部である
ミリアが依頼を申し込むということは、この仕事が表では大々的に扱えないよ
うな種類のものであることを示している。

 つまり、何らかの裏があるのだ。

「依頼主は?」
「ディアン・ローガンよ」
「アスクレピオスの現社長の?」

 俺が驚いて聞き返すと、ミリアは微笑を浮かべて頷いた。『アスクレピオ
ス』は大陸でも最大規模を誇る製薬会社のひとつだ。5年ほど前、一週間以上
高熱が続く「七日熱」という流行病が蔓延した際に特効薬をいち早く市場に流
し、その名は一挙に知られることなった。また、効果の優れた回復薬や副作用
の少ない鎮痛剤など次々と開発し、傷の絶えない傭兵達からは非常に高い声価
を上げている会社でもある。

 だが、同時に黒い噂も絶えない会社でもあった。主な理由は、効果の割には
短すぎる開発期間や出どこのハッキリしない膨大な研究費などだが、何よりこ
の現社長であるディアン・ローガンが権謀術数の数々を駆使する辣腕家として
知られているのだ。

 そして、かなりあくどい手で会社を拡大させたせいか、外に敵の多いディア
ン・ローガンは「私兵軍団」と揶揄される精強無比なボディーガード集団を常
に引き連れている。おそらく俺以上に荒事に慣れているその人員を使わないと
いうことは、かなりキナ臭い仕事であるには違いない。
 
「ディアン・ローガンからの依頼か………ギルドが慎重になるのも無理ない
な」

 俺の呟きにミリアが頷いた。

「ええ、このような仕事は、様々なトラブルに対応するだけの経験と実力、そ
して裏世界に精通した人物が必要なの。つまり、あなたのような」
「そういう素直なところが大好きだ、ミリア」
「――かつ、どんなトラブルに巻き込まれようが、どこかでのたれ死のうがギ
ルドがガン無視するだけ後腐れなくその存在を抹消でき、しかも人権も人間と
しての尊厳も無視したやさしさ無添加の契約でも金次第で引き受ける人間が必
要なの。つまり、あなたのような」
「そういう素直なところが大嫌いだ、ミリア」

 俺の笑顔の裏に隠された感情に気付いているのかいなのか、ミリアはもう一
度笑顔を見せると小さな皮袋を俺に手渡した。中に結構な量の硬貨が入ってい
るのは、重さで分かる。

「前報酬よ。仕事の詳しい内容は、ソフィニアの本部で依頼人から直接聞いて
ちょうだい。仕事が終わり次第、その倍が支払われるわ」
「ずいぶん気前がいいが――俺は受けるなんて一言も言ってないぞ」

 ミリアの持ってくる仕事は高給なのはいいのだが、危険度が非常に高い場合
が多い。実際、俺はミリアから受けた仕事で3回ほど死にかけたことがある。
頭の中の天秤は、今回の報酬と自分の命とが微妙なバランスで上下していた。

「でも、受けないとも言ってないわよね?」

 やはり笑顔のまま、ミリアが首を傾げる。

「受けない、と言ったらどうするつもりだ?」
「あら、残念。せっかく上に部屋を取ってあるのに」

 小さく舌を出すと、ミリアはいたずらをするように目を細めて微笑した。

「仕事、受けてくれる?」

 俺の葛藤の天秤は、あっさり傾いた。
PR

2007/02/14 21:17 | Comments(0) | TrackBack() | ▲クロスフェードA

トラックバック

トラックバックURL:

コメント

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<<シベルファミト23/しふみ(周防松) | HOME | クロスフェードA 第2話 雨の日/ライントェイブ(ハヤメ)>>
忍者ブログ[PR]