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2024/05/18 18:12 |
シベルファミト23/しふみ(周防松)
第二十三話 『投げキッス』

キャスト:しふみ ベアトリーチェ ルフト
NPC:ウィンドブルフ ウォーネル=スマン 従者(イン・ソムニア) 使用人三
人組 
場所:ムーラン ウォーネル=スマンの屋敷

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


呼子の鋭い音は、無論、厨房にも届いていた。
が、誰一人動くことはなかった。
屋敷とは無関係のベアトリーチェとしふみ、そして依然縛られたままの三人の使用人
達は仕方ないものとして、従者であるイン・ソムニアが動かないのは職務怠慢と言っ
てよい。

「呼んでおるぞぇ?」

しふみが首をかしげつつ見やると、インは、ふん、と一瞥をよこした。
「俺の担当じゃねぇんだよ。で……改めて聞くが、コレはどういうことだ?」
インは、コレ、の部分で三人をあごでしゃくる。
しふみは、ふ……と小さくため息をつき、目を伏せる。

「屋敷の中で妹を探しておったのじゃ。そうしたら、この薄汚い男どもが寄ってた
かってわしの体を……」

エプロンのすそで目元をぬぐう仕草をし、何やら小さく嗚咽のようなものを漏らし始
める。
小心者の男なら、女がこの仕草をするだけで慌てふためくものである。
例え自分に落ち度がないと明らかであっても、泣かれてはかなわないとご機嫌取りに

始する。

しふみの発言に、使用人たちは慌てふためいて「んー!」だの「むー!」だの言って
いる。
……無論、彼らは無実であることを証明したいだけである。

「あのさ、しふみ」
ベアトリーチェが呼びかける。
「これ。妹よ、呼び捨てにするでない。わしのことはいつも『お姉様』と呼んでおろ
う」
「いや、だってもうバラしたし」

……………。

「おや。明かしてしもうたのかぇ」

つまらん、と言外ににじませ、しふみが顔を上げる。
その目は少しも濡れておらず、頬も乾いていた。
――つまりウソ泣きである。

驚いたのは、この場において一切何も知らない使用人どもである。
「むー!!」
「んぐーー!?」
一斉にくぐもった声をあげるので、やかましくてかなわない。
「あんたらは黙ってなさいっつーに」
ベアトリーチェはフライパンを手に取ると、がん、ごん、げん、とそいつらの頭を順
番に叩いた。
うまいこと急所に入ったらしく、使用人どもはあっさりと意識を失った。
「これは見事じゃ」
口元に手を当て、楽しそうにしふみは笑う。

「しかし、黙っておればよいものを。そうすれば、いろいろと楽しいことができたと
いうのに。嬢に少しでも気のありそうな輩を見つけ次第言い寄って、『そなたは妹の
方を愛しておるのじゃな』と泣きついてみたり、『妹は今のそなたと正反対の男が好
みじゃ』と言って悪戦苦闘する様を見物したり……」

「阿呆か、お前」
ぼそりと毒づくのはインである。

「ほほ、今はそなた一筋じゃ」

突然しなをつくり、インの胸元にぴとっとくっつくと、しふみはその鎖骨のあたりに
人差し指で丸を書く。

「離れろ」

胸に擦り寄るしふみを片手一本で、ぐぐぐ、と押しのけ、インは非常に非常に嫌そう
な顔をした。

「何、惚れた?」

ベアトリーチェに尋ねられ、しふみはしれっとした表情で赤い髪をかきあげる。

「さて、どうであろうな」

そこに、恋に落ちた女性特有の、浮かれた雰囲気は微塵もない。
――つまり冗談のたぐいだろう、と想像はつくものであった。

それから、つい、とベアトリーチェに顔を寄せ。

「……さて。呼子ということは、何者かが侵入してきたということじゃの」
「あ、それルフトだと思うわ。あたし、さっきブルフに会ったんだけど、あっちはル
フト連れて、あたしはあんた連れて10分後に落ち合う約束したの」
「なるほど」

「じゃ、そういうわけだから。さっさと来てちょーだい」

ベアトリーチェはそう言うと、しふみの腕をひっつかみ、すたすたと厨房を出た。
しふみは腕をひかれて厨房を出る間際、何を思ったか、インに投げキッスを飛ばす。
……無論、気色悪いものを見るような視線が返って来た。

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2007/02/12 23:32 | Comments(0) | TrackBack() | ○シベルファミト

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