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2024/05/05 07:16 |
異界巡礼-5 「一時の日々」/マレフィセント(Caku)
キャスト:マレフィセント・フレア
NPC:リノツェロス
場所:クーロン宿
―――――――――――――――

幸いなことに、マレフィセントは部屋から見える庭のすぐ側にいた。
だがまずいことに、一人の少女と一緒にいたのだ。

「!」

慌ててフレアが駆け寄り、マレをかばうように抱きしめる。
相手はマレフィセントと同じくらいの年頃の少女、髪は腰ぐらいまであるごく
普通の亜麻色の髪の少女だ。フレアの登場にきょとんとした顔つきをしてい
る。

「あ、これはその!えぇと君は…!!」

マレの姿の言い訳をあれこれ探しているうちに、フレアは奇妙なことに気がつ
いた。相手はただ二人の様子をじっと見つめているだけだ、小首まで傾げてい
る。

「………」

「…君、どうかしたのか?」

表情はあるが、うんともすんともいわない少女をいぶかしんでいると、マレフ
ィセントが一言発した。最近はあまり見なくなったが、本来マレフィセントの
言葉でも青く光る声の不思議な言葉だ。
それを見ると、ぱっと花が咲いたように笑いながら、少女が光る言葉を手のひ
らで包み込んで捕まえる。すぐに光は青い雪となった手に散らばって、溶けて
しまった。空気中に放すと、きらきらと光を溢しながら舞っていく。
先ほどからこれを繰り返していたらしい。少女とマレはにこにこ互いを見つめ
ながら喜んでいる。

「…もしかして、君」

「やれやれ、若い子は忙しいな…ん、その子は?」

言葉とは裏腹に、ゆったりとしながらも機敏ある所作でリノがやってきた。フ
レアとマレ、そして少女に目を配ると、ふとそこで目が止まる。しばし、何か
を思い出すように考えながら黙り込む。
そして、ふと手を不思議な形で幾度か組み替える。少女はそれに反応して、似
たような動作をした。フレアには何をしているのかさっぱりだ。

「リノ、その動きはなんだ?」

「あぁ、手話だよフレア。この子は声が出せないんだ、昨日君たちを部屋に送
った後にこの子とご両親にすれ違った際、手で会話していたのを思い出して
ね」

「しゅわ…ってリノは何でもできるんだな」

初めて聞く会話法にただ感心するフレア。
剣士の手を珍しい品のようにみつめるが、そこにあるのは長年使いこまれた皮
膚と荒々しいまでの剛健さが垣間見える大きな甲だ。魔法品でもなければ骨董
品でもない、普通の男性の手だ。

「昔、妻が喉を患ってね…その時にひとつまみ程度に覚えただけだ。何も特別
な技術ではないぞ?」

問題なし、と見たのか、リノは自分の外套をマレフィセントにかぶせただけで
部屋に戻ってしまった。今日は出かけると言っていたから、これから準備をす
るのだろう。と、そこに少女の両親がやって来た。少女がぱっと笑いながら母
親に抱きつく。こちらに手を振っているらしい、マレフィセントがフレアの腕
の中でぴょんぴょんはねている。珍しく、表情が笑っている。

「お姉ちゃんですか?」

「は?」

母親らしい女性に語りかけられ、思わず絶句してしまう。

「私、か?」

「可愛い妹さんね、二人とも綺麗な瞳の色だわ。夕焼けと青空の色ね」

少女と同じ亜麻色の髪を揺らして、母親はにこにこ笑いかけた。
妙に気恥ずかしくなって、フレアは俯いた。何を言えばいいか迷ったからだ。

「うちの子もあなたの妹さんと同じで声が出ないの、私達は今日発ってしまう
けれど気をつけてね」

「あぁ…その、ありがとう」

そういって親子は、宿の扉のほうに連れ立って歩いていった。
しばらくフレアは立ち尽くしていたが、やがて見上げてくるマレフィセントの
顔を見て、小さく笑った。

「よかったなマレ、空のような瞳だってさ」

マレフィセントが小さく言葉を呟いて、瞳と同じ色の光がぽわりと浮かんだ。

----------------
三日後
----------------

「…見つからないのか?」

「まぁそう焦るな。むしろ私としては沢山出現されても困るからね」

クーロンについてから三日間が過ぎようとした。
マレフィセントが宿屋の部屋のベットで飛び込み大ジャンプを繰り返したり、
マレフィセントが宿屋の鶏と本気の縄張り対決をしようとしてあわててフレア
が止めたり、マレフィセントがリノが普段持ち歩いていた聖水を丸呑みして、
リノが本気で医者に見せようかフレアと悩んだり、マレフィセントが(以下
略)…な事を過ごしている内に三日間も経った。
だが近隣で悪魔の発生情報はなく、今も午後の昼下がりでマレフィセントがフ
レアに膝枕をしてもらいながら眠りこけている。

「教会で情報は得たが、どれも遠いうえに別件が絡んでいる。派閥の縄張り争
いに首を突っ込みたくはないな…」

「縄張り争いって…」

「教会指定の悪魔以外も視野に入れてみるが、ギルドに入ってくる情報は日が
経ってしまう場合も多い。しばらくは様子見だな」

粗末な紙に書かれた文章を指弾いて、リノは傍らにある銅のコップで黒紅茶を
飲む。さっきマレフィセントがこっそり口にして、思わずむせてフレアを心配
させるリアクションをみせたことから、相当に苦いらしい。

「聖堂関係を調べてもいいが、さすがにその子を中に入れるとまずいな」

「リノ」

「クーロンはあまり治安も良くない。たしかにそろそろ出発はしたいが…ん、
なんだね?」

フレアはしばらく迷って言葉を飲み込んだ。急かすことも切り出すこともな
く、リノはただ穏やかにこちらを見守っている。

「た、たいした事でもないんだ」

「そうだな、あまり大事でも困るな」

「いや、その」

また一呼吸あけて、ようやく言葉にする。

「手話ってどうやるんだ?」

「………」

「………」

しばし、どちらも無言。
意図を測りかねていたリノだったが、ふとマレフィセントを眺めているうちに
合点がいったらしい。

「…なるほど、な」

涎をたらしながら寝ているマレを眺めて、リノはにこやかに微笑む。しばらく
二人はいくつかの基本的な手話を試しながら、その日も事なく終った。


…後日談。
基本の挨拶や日常会話をマスターしたフレアはいざマレフィセント攻略へ向う
も、マレフィセントには手が文字を伝えている、という現象を全く理解せず、
フレアの手話を見て座ったり大の字になったり、何故かお手をし始める、など
まったく相互理解の出来ていない一日を過ごしたのであった。

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2007/02/12 23:16 | Comments(0) | TrackBack() | ○異界巡礼

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