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2024/05/18 20:55 |
異界巡礼-4 「忘れものの森」/フレア(熊猫)
キャスト:マレフィセント・フレア
NPC:リノツェロス
場所:クーロン市内→宿
―――――――――――――――

森の中を歩いている。

幾つもの光の柱が立ち並び、木々が葉ひとつ揺らさずそこにある。

森には音がなかった。

靴の裏から、踏んだ小枝が折れる感触が伝わってくる。
だがそれでも音はない。

気が付くと、足元に酒瓶が転がっていた。
未開封で、隣にはグラスさえあった。瓶だけを抱えてさらに歩きだす。

見上げれば碧い梢の向こうで青空が輝いている。雲ひとつない、青い空。
風の吹き抜ける声も、小鳥のさえずりも聞こえない世界。

しばらく行くと、本が落ちている。
児童書らしく、鮮やかな色刷りの表紙が落ち葉の上で目立って見えた。
右手に本、左腕に酒瓶を抱えてさらに進む。

木の根を踏みしめて歩く。何度か転んだのかもしれない。
でもとにかく、ただひたすらに進まないといけない気がする。

すると今度は、鮮やかな白が目に飛び込んできた。
それが誰の物なのか自分は知っている。あそこにあの人がいる。

名前を呼びたい。
だが口からは枯れた声しか出ない。
このままでは届かない。

走りだす。やっとのことで白い厚手の布――というよりマントを捕まえる。
安堵して木の向こうに本体を探す。

しかし。

そこには誰もいなかった。
手にしたマントは、鋭利な蔦にずたずたに裂かれている。
遠目からでは木に隠れてこの部分は見えていなかったのだ。
いつのまにか抱えていたはずの瓶と本もなくなっていた。

ただ音のない森のなかで、自分の枯れた悲鳴だけがこだまする。

…★…

ぺたぺたと頬を触られる感覚で、フレアは覚醒した。

透き通る青の瞳に自分の姿が映っている。つまりはその持ち主――
マレフィセントがそこまで顔を近付けているという事だった。
瞳の色とは裏腹に、少女の表情は暗い。
どうやらうなされていたのを心配しているようだ。
苦笑して、上半身を起こす。

「大丈夫…ありがとう」

そこは森などではなくて、ただの宿の一室だった。
窓からは朝の清浄な光がまぶしいまでに差し込んできている。
ひどい夢を見た。どんな内容だったかは忘れてしまったが、
恐ろしくて悲しい感覚と、枯れた喉の痛みが残っている。
風邪でもひいただろうか?

マレフィセントはまだ心配そうにこちらを見ていたが、
フレアが着替えているうちに、ベッドの上で遊びだした。
遊ぶといってもただ転がる程度だが、なかなか気に入ったらしく、
フレアの支度が終わるまで飽きずにやっていた。

フレアはもう一度窓の外を見た。小鳥が通り過ぎ、
床に落ちた光の中に小さな影を作って消える。
さっきの悪夢も、きっとこの影のようなものだったのだ。

…★…

一日のはじまりにリノが持ち出してきた話はお世辞にも気の利いた内容ではなかったが、

それでもフレアはオートミールを食べる手を止めて慎重に聞き返した。

「悪魔の森?」

うむ、とリノが頷く。彼の前には、とじられた紙の束が置いてある。

「私達が探しているものに何か関連があるのではないかと思ってな。
少しだけ調べてみた」

悪魔――いるのかいないのか、いたとしても遭遇して無事でいられるのかすら
わからない、そんな存在。

悪魔の少女を連れて、天使のような悪魔を探している男と一緒に悪魔を探す。
それこそ夢のようにありえない組み合わせの者が同じテーブルについている。

「バッカの東側に突如、意志を持った森が出現し、ひとつの旅団が全滅。
森へ討伐に入った傭兵、信徒なども含め、あわせて50人強の犠牲者を出した…。
と、この報告書にはあった。
君達もその方面から来たのだろう?何か知らないか?」

そういって、目の前の紙の束――報告書を無造作に持ち上げ、揺らしてみせる。
機密文書だからといって見せてもらえなかったのだが、内容は知っている。

知らないわけがない。何しろ、当事者だ。

リノが読んだ報告書は、おそらくイザベルの書いたものだろう。
だとすればマレフィセントの事に関しては書かれていまい。

またリノがフレア本人を目の前にしてその問いを発するという事は、
自分やディアンの事も伏せられているとみていい。

フレアは少し迷ったものの、真剣な面持ちでリノの顔を見た。
もう既に彼は行動を共にする仲間になったのだ。嘘をついていいわけがない。

「…実は」
「実は?」
「その森にいたんだ、私達。この子が…一人で迷い込んでしまって」

リノはそのセリフを聞いても、「ほう」とあいづちを打っただけだった。
意外な反応にこちらが驚いてしまう。開きかけた口を慌てて手でふさぐ。
彼は視線で「それで?」と訊いてきている。
頭の中を整理しながら、フレアは事の顛末を手短に話した。

「…なるほど」

リノはいくつかの質問をはさみつつも、なんとか理解してくれたらしい。
重々しい表情をどうにか払拭したかったのだろう。リノが顎をさすって顔を上げる。
その時にはもう、彼の口調はずいぶん明るさを取り戻していた。

「結論から言えば、君達が遭遇したのは七十七悪魔ではないようだ。すまないな、
尋問するつもりはなかったのだが」
「いや、いいんだ」

フレアもなんとか笑顔を作ってそれに応える。だが、リノの表情がいきなり変わる。
落ち着いた物腰の彼がそんな顔をする事をいぶかしんで――隣が静かな事に気がつく。
はっと、見るが。

「…マレフィセント!」
「まずい」

そこには空になった食器と、リノの外套のみが置いてあった。

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2007/02/12 23:16 | Comments(0) | TrackBack() | ○異界巡礼

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