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2024/05/19 11:17 |
異界巡礼 -3「天使を探しているんだ」/マレフィセント(Caku)
PC:フレア、マレフィセント
NPC:リノ、ミヤガワ
place:クーロン/宿
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「では、まず整理しようか」

従業員らしい豊満な太さの女性が、通りすがりに慣れた手つきでチーズの塊を
落とした。まるで心得たように手を差し出したリノは受け取ると、これまた慣
れた手付きでそれを切り分ける。

「君はその子を家まで届けたい、しかし家の宛先がとんと分からない、とこれ
でいいのかな?」

「あぁ、マレは私達の言葉が喋れないんだ」

チーズの塊を受け取ると、先程の籠から取ったくるみパンにチーズを塗りたく
りながら、フレアは溜息をついた。そのまま食べるかと思いきや、隣のマレの
シチュー皿の中においてやる。そのタイミングを待っていたかのようにマレフ
ィセントがフォークとナイフを両手もちという快挙で突き刺しながら大口を開
ける。
最近はフレアもマレフィセントも互いの呼吸があってきたので、タイミングの
バランスが絶妙である。

「マレ、という名前は?」

「それも不確かだ、自分のことを言ってるらしい単語がそう聞こえる」

「なるほど」

どこかの本にあるような、巨大肉を食べる原始人のように頬一杯にパンとチー
ズとシチューを突っ込むマレフィセント。いつもフレアはマレフィセントには
頬袋というリスとかにある器官がついているのでは、と常に怪しんでいる。
そんな姿を見ていると、ぷ、と思わず気が緩んで笑ってしまった。

「悪魔というより、小動物だな。それでは」

リノも穏やかに微笑みながら、今度はテーブル席の向こう側の女中に片手を上
げる。
気がついた女中の向けて、銀貨を一枚指で弾く。彗星のように空を飛んだ銀貨
を慌ててキャッチする女中。

「君の名前と歳は?」

「は?あ、名前はフレア、歳は16だ」

いきなり話しかけられて、もごもごするフレア。

「ではフレア、何か甘いものでも頼みなさい。そうそう、クーロンは食べ物の
流通も良い。
季節でない果実や野菜もあるだろうし、新鮮な卵もある」

「いや自分で払う、それぐらい」

「マレが頼れるのは君だけだ、まだ16歳の君だけしかその子は身を寄せるこ
とができないのだろう?それはとても大変で、苦労で、中々疲れることだ。
自己犠牲の精神は素晴らしいが、それだけでは人は壊れてしまうよ。ましてや
君はまだ16、ならば大人というものを思いっきり利用して、頼れる時は思い
っきり圧し掛かってしまいなさい」

リノは微笑んだまま、まるで一言一言釘を打つかのように、石に言葉を刻むよ
うに話す。
その口調には、責めるでもない説得するでもない、もっと穏やかで凪のよう
な、それでな深い響きがあった。

「ちなみに私は今年で37だ、21歳もの年下の少女に食事代を出さないとあっ
ては騎士道にも反するし、何より面目が立たん。銀貨とて、世の中にはいくら
でもある」

フレアは、しばし何もいえなくなって口をぱかっと開けていた。
お礼か、謙虚か、何かを言わねばと思ったその瞬間、何を勘違いしたかマレが
チーズの残りをフレアの口の中に突っ込んだので、思わずむせてしまう。
それを見たリノはさすがに悪いと思いつつも、豪快に笑い声をたてた。
年齢の差なのか、相手の人柄か、すっかり自分の強がりや不安が見抜かれてし
まっているフレアであった。




「簡単だ、悪魔のことなら悪魔に聞けばいい」

「…あ」

食事の後、部屋にやって来たリノは「既婚の身なので、夜は女性の部屋に入れ
ない」と妙に頑固に部屋へ入るのを断ったので、宿屋の外でランプを持ちなが
ら宿屋の庭にでたフレアとマレに、リノはさもあっさりと解決策を提案した。

「闇雲に探そうとて世界は広い、ましてや異界の住人の住処など人が知る以上
の知識だ。
イムヌス教の導師クラトルも、悪魔の居場所を知る為に悪魔に化けて聞き出し
たという」

「悪魔…でも、どうやって」

悪魔の知り合いなんて、フレアには思いつかない。
似たような知り合いはいたが、悪魔とは少し違うし、そもそもマレフィセント
とは少し、何かが違う気がした。

「悪魔と接触するのは危険を伴うぞ。悪魔といっても理性の欠片もない輩もい
る。
総じて人類に敵意を抱く者も多いし、そもそも人類の仮想敵とみなされている
悪魔と言葉を交わすだけでも悪しき心に魅入られるやもしれん」

「でも、それであの子を帰せるなら」

軽く肩をすくめるリノ。フレアは前々から薄々疑問に思うことを口にした。

「リノ、どうしてここまで私達に話をしてくれるんだ?少なくとも善意の幅を
超えている。
ここまでしてくれると、裏があるのじゃないか、と疑いたくなるんだ。
…でも貴方を疑いたくない。だから、何かあるのなら話してくれないか?」

「真っ直ぐだな、そうやって本音を直線で問える年齢とは羨ましい。私には取
り戻せないものだ」

不躾ともとれる発言にさえ、リノの頑健ともいえる穏やかさは崩れなかった。
さして動揺の素振りさえも見せない仕草で、腕を組む。
ランプの明かりがカラリと揺れる。

「君と逆でね、悪魔を連れ帰らないといけないんだ」

「…は?」

軽くウインクしながらおどけて語るリノに、思わずフレアはまた口がぽかんと
開いた。

「【天使】になれる悪魔を探してるのさ、見つけるまで帰ってくるなと言われ
てる」

「て、天使?天使ってあの…?」

「というわけでね、悪魔らしい子を連れてる君を見かけて話をきこうと思った
のだよ。
君の連れ子は【天使】として連れていけないみたいだが、悪魔を探すというな
らぜひ私も連れて行って欲しいんだが…こう見えても剣術はそこそこできる
し、実は悪魔払いの真似事程度ならできるぞ?」

司祭でも修道士でもないので、せいぜい悪魔除けぐらいだが、と付け加える。

「こう見えても【厄種】とも対決したこともある、そこそこ頼りになるぞ」

「【厄種】?」

「イムヌス教で最も恐れ呪われている十体の悪魔のことさ。一番強いものから
順に数えて十体、これらを【厄種】と呼ぶ。到底人ではギリギリ耐えることは
出来ても、倒すことは不可能な悪魔らのことだ。
魔帝ゲルニカ、魔竜スターレス、堕天使イルズフィヨル…文字通り【天使】と
いった御使いでなければ倒せない怪物だ」

「そんな悪魔はどれくらいいるんだ?」

「さてね、そもそもイムヌス教が真の敵とするのは【七十七悪魔】と呼ばれる
聖戦で戦った七十七体のみ。悪魔種族は他にも無数にいる、それら全てを殲滅
対象にするか、は派閥ごとで解釈もことなる」

なかなかイムヌス教も曖昧だ とリノは取り繕ったように笑う。
フレアはよく考え、考えて顔をあげる。

「私には、そういったことはよく分からないけれど。
マレはそういった悪魔とは違う、貴方の言うような【天使】でも悪魔でもない
と思う。
本当に、本当に無邪気な子供なんだ」

「分かっている、君の連れ子には手を出さないよ。
だが、その子を戻すにしても闇雲に大陸中を彷徨うのは危険だ。もちろん、悪
魔を探すにしても危険極まりないことには変わりないがね」

だから、私のようなものを雇ってはみないか?とにこにこ笑うリノ。
穏やかさと人の良さそうな彼が、悪魔と本当に戦えるのだろうか?とフレアは
少し疑問に思ったが、彼の言うことも正しい。
自分らの知識では、あの子の名前ぐらいしか聞き取れない。ならば、毒を知る
には同じ毒を探さねばならないかもしれない。

「…じゃあ、むしろ私のほうからお願いしたい。
リノ、あの子を家に帰したい。だから、貴方にも協力して欲しい」

「交渉成立だな…ではそろそろ部屋に戻るか。
明日は行き先の検討をつけよう、悪魔の情報も欲しい、ギルドに出向くことに
なるかもしれないな」

気づけば、宿屋の看板の横でぼんやり光るランタンに群がる虫を掴もうと、マ
レフィセントが虚空に何度も手を伸ばしては空ぶっている。
指先に止まった鮮やかな蛾を、興味津々に見つめる頭に、手を置くフレア。
おやすみ、と挨拶して二人は宿屋へ戻る。その様子を父親のように見送った
後、別人のように鋭い視線を宿屋とは反対の向こうの闇にむける。



「ミヤガワか、ベルスモンドはどうした?」

「逃がした。だが、やはりブロッサムの血に固執しているようだ、ブロッサム
の不死の娘に【追跡者】が何人か見張りをつけている。ブロッサム周辺を固め
ればいずれ向こうから来るだろう」

「お前の【右目】は、あの少女に反応したか?」

「いや、悪魔のようだが七十七悪魔ではない」

「…そうか、あと」

「【虹追い人】は今だ行方知れずだ、ヴァルカンで異国風の女と瘴気じみた男
とパーティーを組んでいたらしいが、その後がまだつかめない」

「…そうか」

「心配するな、あの娘がそうくたばる訳も無い。なにせ最後の切り札に【聖グ
ラナダリアの声】があるんだ、でなければ女の一人旅など【白い貴婦人】どの
が許可するわけもないだろう」

「なに、妻には天使ラームンデルがついている。私が心配しているのは妻が周
囲に甚大な被害を与えていないか、だけだが」

「俺の世界ではああいうのを【不思議系】とか【天然】とか言ったぞ。
ああいうのはいるものさ、俺が知ってる限りでは眼鏡をかけた褌マニアだった
しな」

「フンドシ?なんだそれは?」

「…伝統的な男性下着の名前だ、まぁ、そういう訳の分からない奴ほどしぶと
いものさ」



声だけの会話はすぐに終ったらしく、しばらくするとリノは宿屋に戻ってい
く。
闇はすぐにまた闇だけになり、風の音だけが灯りの前を素通りしていった。

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2007/02/12 23:15 | Comments(0) | TrackBack() | ○異界巡礼

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