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2024/05/19 12:22 |
異界巡礼-2 「美味しい食事」/フレア(熊猫)
キャスト:ディアン・マレフィセント・フレア
NPC:リノツェロス
場所:クーロン市内→宿
―――――――――――――――

「さ、行くとしようか」

そのまま拉致される可能性もないこともなかったが、フレアは助けられた手前、
戸惑いながらも男のことばに頷かざるを得なかった。
いくらクーロンでも悪人ばかりだとは思いたくない。

なにより、リノと名乗ったこの男の物腰の柔らかさと紳士的な態度は、
そんな邪推とは無縁に思えた。

黙考したまま立ち止まっているこちらを訝って、リノが言う。

「どうした?怪我でもしたか?」

見せなさい、と、伸ばした手を下ろして本気で心配そうに顔を覗き込んでくる。
フレアは慌ててかぶりを振ると、遮るように男の前に両手をかざした。

「なんでもない!大丈夫だ…でも、その」
「でも?」
「宿をまだ、とっていない」

とれなかった、と言わなかったのは意地だった。
なぜか申し訳なくなって、フレアは顔を伏せた。
リノはそんな自分と、その後ろで破れたローブで遊んでいる
マレフィセントを見比べると、納得したように頷いた。

「なるほど」

ささやかな嘘はどうやらあっさりばれたらしい。
ますますみじめになって、フレアは顔をあげることができない。

「では、こういうのはどうだろう?」

そういって男は、自分の着ていたマントをばさりとマレフィセントに被せる。
驚いてフレアが顔を上げたときには、男は馬の手綱を手に
ひとつの提案をしてから、答えも待たずに歩き出していた。

・・・★・・・

「…」

運ばれてきた鶏肉のシチューを前に、 フレアは正直に
こくりと喉を鳴らした。

リノの提案というのは、宿を彼の名で二部屋とるという事だった。
最初は断った――助けられた上にそこまでやってもらうのは忍びない。
だが、宿なしで夜を越すつもりか、と問われて言い返せなかったのは
本当のことで、結局フレアたちが甘えている形になっている。

このままだと宿代も負担するといいかねないので先に精算しようと申し出たが、
リノは腹が減ったと妙なタイミングでいい、今に至る。

「食べなさい。今にも倒れそうな顔をしている」
「え」

向かいに座っているリノが、間にあるパンを盛った籠をこちらに押しやる。
食堂に誘ったのは向こうなのに、驚いてフレアはとっさに顔に手をやった。
だがそれで顔色がわかるわけでもなく、鏡を探してせわしなく周囲を見渡す。

しかし食堂には椅子と、テーブル。そして少し離れた場所に厨房があるだけだ。
周囲はそれなりに繁盛しており、酒が回っているテーブルもいくつかある。
フレアの様子を見て、はは、とリノが笑う。
皮肉でも嘲笑でもない、純粋な笑い声だった。

「とにかく今日は食べて、ゆっくり休むといい。そうすれば大抵のことは
治ってしまうものだよ」

穏やかにそう言うと、手を組んで短い祈りを捧げ、パンを手に取る。
その横ではマレフィセントが一人でシチューと格闘していた。

「でも」
「そのシチューを美味しく食べてくれることが、君から私への礼だと
思うことにするよ」

遠慮をしすぎて、逆に相手に気を使わせていることに気づく。
フレアは随分ためらってから「いただきます」と言うと、
空腹で逸る手を自制しながらスプーンを手にした。

沈黙が流れる。
だが食堂のにぎやかさがその空白を埋めるように滑り込み、
陰鬱とした空気とはほど遠い雰囲気を保っていた。

ややしばらくして、リノが口を開く。

「…君を見ていると妻を思い出すよ。あれも同じ色の瞳をしている」
「ん?」

いつの間にか食事に没頭していたフレアは、
あつかましさを恥じながらも口を拭き、顔を上げた。
ついでにマレフィセントの口の周りも拭いてやる。

「…さっきの話、どう思う?」
「さっきの話?」
「赤い色の瞳…」

スプーンを皿に置いて、リノを見る。彼は聞き返してきて――記憶を辿ってから
「あぁ」と合点がいったように頷いた。

「気にすることはないよ。あれは浅はかな者の言った事だ。
いちいち気に掛けていてはきりがない。それに、それを肯定してしまうのは
妻を卑下しているのと同じことだからね」
「…そう、か」

うなずく。

フレア自身、赤い瞳であることにコンプレックスはなかった。

いや、コンプレックスを抱かせるような出来事が今までなかったと言うべきか。
出会う人はみな普通に接してくれていたし、フレアもまたそれが
普通だと思っていた。

「だが、気をつけるべきだな…今後また、ああいった輩が出ないとも限らない」

そこで話を切って、リノは店員に食後のコーヒーを注文して――フレアに
「何か追加は?」と訊いてくる。
フレアは首を振ったが、彼はかまわず「紅茶を二つ」と言い添えた。

「ρυ」

まだシチューを食べているマレフィセント。リノのマントを着たままなので、
汚しはしないかとフレアが見ていると、前触れなく名前を呼ばれた。
まるで恐縮している自分をどうにか和ませたかったのか、その声色は
ごくごく明るい。

「ひとつ、訊いてもいいかね」

フレアが頷くと、彼は空になった皿を横に押しやり、軽く咳払いをした。

「この街に来たのは何か理由があるのかな?」
「…理由…」

考える。
そもそも目的はマレフィセントを親元に帰すことだ。ただ、そのために
一番異界に近いであろうという理由だけでライガールへ向かっているのだ。
クーロンに来たのは、その通過点であるからに過ぎない。

「この子の家に向かっている途中に立ち寄っただけだ。目的地はここじゃない」

結局、大幅に詳細を省いて答える。リノはふむ、と両の手を組んだ。

「家、とは?」
「……」
「答えられないのならそれでいいが…」
「いや、答える。わからないんだ…この子が、どこから来たのか」

そこで、コーヒーと紅茶を盆に載せた店員がやってきた。
コーヒーをリノの前に、紅茶をフレアとマレフィセントの前に置いて、
てきぱきと空の皿を片して持ってゆく。

「なるほど…」

そう謎めいた答えを返したつもりはなかったのだが、リノはやってきた
コーヒーに手もつけず、組んだ手をテーブルに置いて考え込む。
フレアは何を言われるのか不安だったものの、マレフィセントのカップに
砂糖とミルクをたっぷり入れてやらなければいけなかったので、
その作業にしばらく気を取られていた。

次にリノを見たとき、彼は額に手を当てて真剣なまなざしでコーヒーの
渦を見つめていた。

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2007/02/12 23:15 | Comments(0) | TrackBack() | ○異界巡礼

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