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2024/05/19 08:37 |
異界巡礼 -1.0「永い出会い」/マレフィセント(Caku)
PC:フレア、マレフィセント
NPC:リノ、いけすかないごろつき数人、馬
place:クーロン
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「お嬢ちゃん達?気持ちは分かるけれどねぇ…未成年は、ちょっと」



今日を迎えて七度目の言葉に、ぐっと怒りが煮詰まる思いのフレアであった。
今まで、自分の年齢など気にせずやってこれたのも、自分の力ではなく、周囲
の人々がいたからだと、否応にも痛感する。
傍目から見れば、頼りない少女と幼い子供。酷い対応の宿屋の店員は子供の家
出とせせら笑わらわれたが、いくら反論しても取り合ってくれなかった。

クーロンの人ごみの中で、悔しさに歯軋りをする。
と、俯いた視線にマレフィセントの青空のような瞳と出会った。

「…ごめんね、こんなところで突っ立って。行こうか、マレ」

自分を奮い立たせるように、フレアは今までのわだかまりを振り払ってマレフ
ィセントの手を引いた。
自分は一人でも、ディアンがいなくたってこの子ぐらい面倒を見れるんだ、
と。



明らかにフレアが無茶してる。
マレフィセントは困ったように彼女を見るも、自分の内面で精一杯の彼女には
マレフィセントの視線が届かない。
白い人がいなくて、昨日も一昨日もいなかった。
<小さなお母さん>は、それ以来まるで自身に怒っているように無口だ。時々、
苦しそうに思いつめた顔で、それでもマレフィセントを見ると笑顔を見せて手
を引いてくれる。
自分を抱きしめて、泣き続けたあの日から、<小さなお母さん>はずっと苦しん
でる。そうとわかっても、自分はどうすることもできていない。

「………」

なんていえばいいんだろう。
母親と二人暮しの生き方で、慰めてくれるのは常に母親の方だった。
頭をなでで、優しい声で謳ってくれる。異国の話、神様の話、最後は悪魔の
話。
1番目の真っ黒な王様の話から、2番目の真っ黒なドラゴンのお話。
そうして、最後は20番目のお父様のお話。

『身体は封じられても、必ずお父様は戻ってくる。
だから、空を見なさい。夜明けに抗う夜の果て、お前のお父様は空にいる』

お話してあげればいいのだろうか?
1番目の真っ黒な王様の話から、2番目の真っ黒なドラゴンのお話。
そうして、最後は20番目のお父様のお話。
神の有限さに逆らう私達の物語、ユピテルの金鎖を解き、世界の向こう側を目
指す黒い物語を。

「……a…」

でも、言葉はどうやって伝えよう?
お話してあげようにも、言葉が分からない。伝わらない。
どうしようもないもどかしさに、マレフィセントはただ、フレアの繋いだ手を
握り締めるだけだった。




…気がつくと、クーロン路地でもかなりはずれのほうに来てしまっていた。

「…あ…」

しまった、考え事に耽りすぎて道を誤ったことすら気がつかなかった。
クーロンにはつくづくいい思い出がない。もと来た道を戻ろうと、マレフィセ
ントの手を引いたまま、早足に駆け戻ろうとして、

「おっと、こちらの道は封鎖中だよ」

いけすかないごろつきに、前を塞がれた。
飄々とした風貌に、滴る悪意と害意。相手する価値もないと判断したフレア
は、素早く右の裏路地に滑り込むも、

「残念、こっちは袋小路だ」

今度は、酒臭い巨漢がこちらを見て笑っている。
どうやら何人かにつけられていたようだと悟り、フレアに憤りの感情が浮か
ぶ。

「金か?金なんてもってないぞ」

「色々あるさ…武器防具洋服髪の毛…そうそう、知ってるかい?
女の赤い眼球っていうのは、悪魔に取り付かれてるから魔力が残ってるとか
で、魔術師が大層高く買ってくれんだぜ」

あははは、ははははは、と哄笑が響く。

「迷信だのに、実際高く売れるんだなこれが」

自分の体質を言われて、思わず握った拳に力が入るフレア。
目の前の男を睨んでいて、後ろから伸ばされた薄汚い手がマレフィセントのフ
ードを掴んだことに気がつかなかった。

「!?」

「なっ…こ、こいつ!?」

ローブの裂ける音に驚いたフレアと、ローブの残りで隠そうにも隠せない角を
抱えるマレフィセントに、周囲のごろつきの笑いがとまった。

「な、こ、こいつ…化け物!?」

「マレに触れるな!」

思わず反射的にマレフィセントを抱えながら、相手の手を蹴り上げる。
マレフィセントを隠すように抱きしめて、周囲を睨む。

「さぁどけ!もういいだろう!」

「…珍しい赤目の女に、見たこともない化け物か。珍しさできっと売れるぞ、
お前ら…」

ざわざわと周囲に満ちた殺気に、唇を噛むフレア。
このままだと、自分だけじゃなくマレフィセントまで…こんなときにディアン
がいてくれたら、と思い、自分を叱咤する。

この子を守れるのは、今ここで、私だけなのだから

そう決断し、腕の一本を失くすと決め、剣を取ろうとした、その時。

Hiiiiiiiiiin!!

甲高い嘶きと共に、横にいた三人ぐらいの禿げ頭のごろつきが前を光速でぶっ
飛んでいった。

「…はっ?」

「なっ、こんどはおぶわっ!!!?」

乗り手のいない馬が、蹄を振りかざして男の横っ腹に体当たりした。
ついてに後ろ足で思いっきり、巨漢の男を蹴り上げて失神させる。馬は平均的
な大きさだったが、それでも人体と比べると強度や質量はとんでもない破壊力
だ。よほどのじゃじゃ馬なのか、興奮して綺麗にごろつきどもを片付けてい
る。

何がなんだか、呆然と目を丸くして抱き合うフレアとマレフィセントの横で、
ぼやくような声がした。

「…まったく騙された。何が貞淑な妻のようにだ、あれではノクテュルヌと同
じぐらいではないか」

ぽかん、と振り返ると、そこには非常に遺憾な顔をした男性が立っていた。
歳は30半過ぎ、40には届かないという感じで、肩に届くチョコレートのように
深いウェーブを一まとめにくくっている。
その瞳は穏やかで父性を感じさせる、緑色。稲穂の青を思わせる緑色の瞳に映
るのは呆れた感情だろうか。

「……ええと、その、助けてくれて?」

「…残念だが、そういうわけではない。その気はあったのだが私が気がつく前
にあれが勝手に興奮して、私を振り落としたのだよ。
…っく、我が神よ…常に我が伴侶となるべくものは試練ばかりとは何故か…」

どうやら、額がちょっと紅く腫れているのは、どこかにぶつかったのか。
想像するに、馬に振り落とされた際に道端の木箱にでも当たったのだろう。神
に呪いじみた問いかけをする男に慰めの言葉を捜したが、フレアの脳内にはそ
んな複雑な状況で慰める言葉は思いつかなかった。

「…その、ご愁傷様だ…」

「…嫌な予感はしてたんだ。手綱を握った時から頼まなくても爆走しはじめ
た。歳を考えて欲しいものだ、私は若くないのだから」

む、としかめる男に、思わずフレアはくすっと笑ってしまった。
慌てて笑いを押さえるも、一度緩んだ頬は止まらない。



くつくつと笑い始めるフレアに抱きしめられたまま、マレフィセントはきょと
んとしたまま目の前の大惨劇を見つめていた。
男は顔に手を当てて諦めたように瞼を閉じた。

やがて、ごろつきが綺麗にのされた後、男性は穏やかな微笑で手を差し伸べ
た。

「さて、とりあえず夜も来たようだ。宿まで送ろう」

「あ、ありがとう。ええと…貴方の名前は?」

ふむ、と少し意味ありげな沈黙の後、彼はフレアの頭を撫でながらこういっ
た。

「リノ、そう呼んでくれ」

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2007/02/12 23:15 | Comments(0) | TrackBack() | ○異界巡礼

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