PC:チップリード
NPC:チョロ、謎の男
場所:クーロンと戦士ギルド(過去)
ああ、やっと着いた・・。
俺はクーロンの町の門の前で感涙を抑え切れなかった。
たとえ門番が俺を不審な目で見ようと関係ない、町の人が白い目で見ようと関係ない。
この感動を抑えることなどなぜ出来よう?
俺がなぜこうなったか説明がいるな。
俺はある依頼を受けているのだ。
依頼内容はある人物のサポートだった。
そこまではいいだろう、いつものことだ。報酬も内容にしては破格だった気がする。
しかし解せなかったのは、依頼を受けた場所から依頼主の場所まで4日間寝ずに歩かなければたどり着かず、しかも町まではモンスターの徘徊する場所を通らなければならない。モンスターを回避するために遠回りした山中では山賊に襲われ、食料が底をつきて飢えを凌ぐために山菜を食べたら食中毒になりかけ、ようやくここまでたどり着くのに1週間もかかり・・・・・。
・・・・・まあ、いろいろあったのだ。
確かに自分の落ち目はあったと思う。
ちゃんとした所を通れば4日くらいですぐに着いただろう。
わざわざ山中を通ることもなければ山賊に襲われることもなかっただろうし、山賊との戦闘を回避するために食料を差し出す必要もなかったかもしれない。
猛烈な飢えを凌ぐためとはいえ、まだら模様のキノコやおかしな形をした雑草を食べなければあんな苦しみはなかったかもしれないな・・・。
・・・・・まあ、いろいろあったのよ。
俺は今までの苦い思い出を捨て、依頼主の指定した場所【酒場】に向かった。
そう、始まりはあの日だった。
「チップ、今日は面白い依頼があるんだけど・・・やってみるか?」
ギルドの依頼受付所にいたチョロさんはそう言って俺に切り出したのだ。
チョロさんは俺の親父・・・本当の親父じゃないが俺にとっては親父だ。
孤児の俺を引き取って、なおかつギルドに入れてくれた。それは感謝している。
だけどな・・・・
「面白い依頼?また夫の浮気相手の飼っている猫探しとか、バーのウェイトレスの口説き方を教えてくれとかいう変な依頼じゃないだろうな?」
ここは戦士のギルドである。しかし俺みたいな傭兵崩れが多く、実情は何でも屋だ。
俺はその中でも特に異端な人間だろう。まともな依頼を頼んできたことがない。だが、まともな依頼を望むならもっと繁栄した都市のギルドに行けばいいし、今の所俺にそのつもりはない。
チョロさんが俺を心配して危険な依頼は引き受けて来ないのは前々から分かってた。
もちろんモンスター退治とか行方不明者の捜索とか“まとも”そうな依頼もあった。
そのモンスターってのが体長3メートルある化け物「食用カエル」で、退治した後村でそれを素材にした料理を食わされる羽目になったとか。
行方不明者は実は家出少女で、彼女を説得する為に親と彼女の家を行ったり来たりするのに3日もかかり、しかもお互いに駄々をこねて進展せず、最後に俺がぶち切れて強引に仲直りさせたとか・・・。
まあ、そんなもんさ・・・、おかげでまだギルドランクはEだしな・・・。
「今度はちゃんとしたやつだよ・・・。ほら、これが依頼内容の書類だ」
そういってチョロさんはニヤニヤと俺に一枚の書類・・・というか紙切れと皮袋を取り出した。
「チョロさん。それは書類といえるのか?」
「ギルドの規約だからね、ほら」
そう言ってチョロさんは俺にその“書類”を手渡した。
彼はそういった“規約”には真面目なのだ。まあ、そこだけなのだが・・・。
俺はその“書類”に目を通してみた。
「どれ・・・・・ふむ・・・・・つまり、この依頼者のサポートすればいいって話なのか?」
「ま、そういうこと」
そういうチョロさんの表情は穏やかではなかった。
こういうときの依頼はただ事ではない。俺はほかのギルド員が依頼を受けている時を知っている。
どうやら本当に“まともな”依頼らしい。
「サポートっていうのはどんなことすればいいんだ?」
「ま、そこらへんは依頼者に聞いてくれ。あとこれが前金な。ちゃんとした報酬は依頼が完了したら後日払うらしいから。それじゃよろしくー」
チョロさんはそういって皮袋を俺に渡し、受付に戻っていった。
「ちょ、ちょっとチョロさん・・・・。ああ、行っちまった」
チョロさんは依頼内容の深入りは決してしない。あくまで依頼者が快適に依頼を頼めるギルドを目指しているらしい。
しかし、実行する俺らギルド員が後々苦労するのは言うまでもない。もう少し内容をはっきりさせて欲しいが・・・ま、要は慣れだ。
俺は皮袋の中身を確認する・・・。これは前金にしては凄い量だ。
「ま、何とかなるでしょ!」
そう言って俺は旅立つ準備をする為、ギルドから出た・・・。
まあ、ここまではよかったかもしれない。でも、よくよく考えてみればこれが“何とかなる”
依頼で終わるはずがないというのは容易に想像がついただろう。
確かに前金の多さに浮かれていたのも事実だ。
その金が酒場で半分まで消えるくらい飲んだのも失敗だったと思う。結果食料の量が減り、あんな事態に陥ったのだ・・・。
ま、要は慣れさ・・・。
そんな思い出に浸っているうちに待ち合わせの酒場に着いた。
俺は憂鬱と不安と諦めが入り混じった顔をしたままその入口に入っていった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「チョロさん、俺に依頼が来ているんだって?」
そう言って戦士ギルドの入り口から入ってきたのは体格のいい男だった。
その肉体は鋼鉄のように硬そうで、その腕は丸太のように太い。
「ああ、・・・・・・さん。やっと下山してきたね。まったく、少しは顔を出してくれないと困るよなぁ」
チョロは男を見て困った顔をしながら笑った。
「ふん、俺がどうしようと勝手だろ。それより今回の依頼はやばいんじゃないのか?」
「ああ、結構なヤマだよ・・・これはSランク並みかな。あんたじゃなくちゃ頼めないよ・・・」
そう言いながらチョロは真剣な顔をして話し始めた・・・。
「なるほどな、そりゃやばい」
「あの会社が絡んでいるとなると・・・ね」
「んで、その依頼書はどこだ?早く見せてくれ」
「はいはい、今出すよ・・・」
そう言いながらチョロは受付の机をごそごそと漁りだした。
「・・・・・・あれ?」
「どうした?」
チョロは慌ただしく机を探す・・・。
「・・・・・・無い」
「は?」
「依頼書が・・・無い!!」
「な、何!?」
チョロは顔を青ざめて放心している。
「おいチョロ!依頼書が無いってどういうことだ!?」
「ま、まさか・・・」
「まさか・・・って何が!?」
「チップだ・・・」
「チップ?あいつがどうしたんだ?」
「先日あいつに別件の依頼が来ててね、その時きっと依頼書を間違えたんだ・・・どおりでおかしいと思った。あの依頼であいつが真面目な顔をするはずがないのに・・・あいつ妙に真面目な顔つきになってて・・・、それで・・・。」
「別件の依頼ってこれの事か?」
男が持ってるのは一枚の紙切れ・・・。
「何々・・・【八百屋】の荷物運び?お前・・・まだこんなのをチップにやらせてるのか?」
その時、チョロの目つきが変わった。
「それの何が悪い。あいつは・・・・・・」
「お前の養子・・・いや息子だってんだろ?分かっちゃいるけどなぁ・・・」
「分かっているなら・・・」
「分かっているからさ。あいつももう子供じゃない。あいつの実力はもうAランクはあると俺は思ってる、後は実戦だけだ。あいつに足らないのはそれさ・・・あんたが過保護にしてるからさ」
「・・・・っく」
黙り込むチョロ。ギルド内は沈黙に包まれる。
その沈黙を先に破ったのはチョロのほうだった。
「まあ、そんなことで話し合ってる暇は無い。早くチップを探さんと・・・」
「もう遅い・・・あいつは4日前にはここを発った・・・」
「そ、そんな・・・それじゃあ・・・」
「ああ、普通ならもう着いてるだろう・・・」
「クーロンに行くまでの道はモンスターの巣があるんだぞ!あいつに何かあったら・・・」
「まあ、落ち着け。俺が今からクーロンに行ってあいつと代わってくるなんて無理な話だ。下手すればお前はギルドから破門だ。それはチップの生活にも響く・・・。安心しろ、あいつは簡単には死なん」
「あ、ああ・・・そうだな、そうだよな・・・」
「こっちの依頼は俺が受けておこう。荷物運びなんて久しぶりだしな」
そう言って男は持っていた依頼書をポケットに突っ込んだ。
(まあ、あいつが早々くたばるはずがないだろ・・・。なんて言ったって俺が見込んだ男だからな。)
男はそんなことを考えながら、青白くなっているチョロに背を向け出口に向かった。
(ああいう奴は一回でもスイッチが入れば化けるものだ。果たして俺を超える奴に化けるかな?)
そんなことを思う男の顔はなぜか薄く笑っていた・・・。
NPC:チョロ、謎の男
場所:クーロンと戦士ギルド(過去)
ああ、やっと着いた・・。
俺はクーロンの町の門の前で感涙を抑え切れなかった。
たとえ門番が俺を不審な目で見ようと関係ない、町の人が白い目で見ようと関係ない。
この感動を抑えることなどなぜ出来よう?
俺がなぜこうなったか説明がいるな。
俺はある依頼を受けているのだ。
依頼内容はある人物のサポートだった。
そこまではいいだろう、いつものことだ。報酬も内容にしては破格だった気がする。
しかし解せなかったのは、依頼を受けた場所から依頼主の場所まで4日間寝ずに歩かなければたどり着かず、しかも町まではモンスターの徘徊する場所を通らなければならない。モンスターを回避するために遠回りした山中では山賊に襲われ、食料が底をつきて飢えを凌ぐために山菜を食べたら食中毒になりかけ、ようやくここまでたどり着くのに1週間もかかり・・・・・。
・・・・・まあ、いろいろあったのだ。
確かに自分の落ち目はあったと思う。
ちゃんとした所を通れば4日くらいですぐに着いただろう。
わざわざ山中を通ることもなければ山賊に襲われることもなかっただろうし、山賊との戦闘を回避するために食料を差し出す必要もなかったかもしれない。
猛烈な飢えを凌ぐためとはいえ、まだら模様のキノコやおかしな形をした雑草を食べなければあんな苦しみはなかったかもしれないな・・・。
・・・・・まあ、いろいろあったのよ。
俺は今までの苦い思い出を捨て、依頼主の指定した場所【酒場】に向かった。
そう、始まりはあの日だった。
「チップ、今日は面白い依頼があるんだけど・・・やってみるか?」
ギルドの依頼受付所にいたチョロさんはそう言って俺に切り出したのだ。
チョロさんは俺の親父・・・本当の親父じゃないが俺にとっては親父だ。
孤児の俺を引き取って、なおかつギルドに入れてくれた。それは感謝している。
だけどな・・・・
「面白い依頼?また夫の浮気相手の飼っている猫探しとか、バーのウェイトレスの口説き方を教えてくれとかいう変な依頼じゃないだろうな?」
ここは戦士のギルドである。しかし俺みたいな傭兵崩れが多く、実情は何でも屋だ。
俺はその中でも特に異端な人間だろう。まともな依頼を頼んできたことがない。だが、まともな依頼を望むならもっと繁栄した都市のギルドに行けばいいし、今の所俺にそのつもりはない。
チョロさんが俺を心配して危険な依頼は引き受けて来ないのは前々から分かってた。
もちろんモンスター退治とか行方不明者の捜索とか“まとも”そうな依頼もあった。
そのモンスターってのが体長3メートルある化け物「食用カエル」で、退治した後村でそれを素材にした料理を食わされる羽目になったとか。
行方不明者は実は家出少女で、彼女を説得する為に親と彼女の家を行ったり来たりするのに3日もかかり、しかもお互いに駄々をこねて進展せず、最後に俺がぶち切れて強引に仲直りさせたとか・・・。
まあ、そんなもんさ・・・、おかげでまだギルドランクはEだしな・・・。
「今度はちゃんとしたやつだよ・・・。ほら、これが依頼内容の書類だ」
そういってチョロさんはニヤニヤと俺に一枚の書類・・・というか紙切れと皮袋を取り出した。
「チョロさん。それは書類といえるのか?」
「ギルドの規約だからね、ほら」
そう言ってチョロさんは俺にその“書類”を手渡した。
彼はそういった“規約”には真面目なのだ。まあ、そこだけなのだが・・・。
俺はその“書類”に目を通してみた。
「どれ・・・・・ふむ・・・・・つまり、この依頼者のサポートすればいいって話なのか?」
「ま、そういうこと」
そういうチョロさんの表情は穏やかではなかった。
こういうときの依頼はただ事ではない。俺はほかのギルド員が依頼を受けている時を知っている。
どうやら本当に“まともな”依頼らしい。
「サポートっていうのはどんなことすればいいんだ?」
「ま、そこらへんは依頼者に聞いてくれ。あとこれが前金な。ちゃんとした報酬は依頼が完了したら後日払うらしいから。それじゃよろしくー」
チョロさんはそういって皮袋を俺に渡し、受付に戻っていった。
「ちょ、ちょっとチョロさん・・・・。ああ、行っちまった」
チョロさんは依頼内容の深入りは決してしない。あくまで依頼者が快適に依頼を頼めるギルドを目指しているらしい。
しかし、実行する俺らギルド員が後々苦労するのは言うまでもない。もう少し内容をはっきりさせて欲しいが・・・ま、要は慣れだ。
俺は皮袋の中身を確認する・・・。これは前金にしては凄い量だ。
「ま、何とかなるでしょ!」
そう言って俺は旅立つ準備をする為、ギルドから出た・・・。
まあ、ここまではよかったかもしれない。でも、よくよく考えてみればこれが“何とかなる”
依頼で終わるはずがないというのは容易に想像がついただろう。
確かに前金の多さに浮かれていたのも事実だ。
その金が酒場で半分まで消えるくらい飲んだのも失敗だったと思う。結果食料の量が減り、あんな事態に陥ったのだ・・・。
ま、要は慣れさ・・・。
そんな思い出に浸っているうちに待ち合わせの酒場に着いた。
俺は憂鬱と不安と諦めが入り混じった顔をしたままその入口に入っていった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「チョロさん、俺に依頼が来ているんだって?」
そう言って戦士ギルドの入り口から入ってきたのは体格のいい男だった。
その肉体は鋼鉄のように硬そうで、その腕は丸太のように太い。
「ああ、・・・・・・さん。やっと下山してきたね。まったく、少しは顔を出してくれないと困るよなぁ」
チョロは男を見て困った顔をしながら笑った。
「ふん、俺がどうしようと勝手だろ。それより今回の依頼はやばいんじゃないのか?」
「ああ、結構なヤマだよ・・・これはSランク並みかな。あんたじゃなくちゃ頼めないよ・・・」
そう言いながらチョロは真剣な顔をして話し始めた・・・。
「なるほどな、そりゃやばい」
「あの会社が絡んでいるとなると・・・ね」
「んで、その依頼書はどこだ?早く見せてくれ」
「はいはい、今出すよ・・・」
そう言いながらチョロは受付の机をごそごそと漁りだした。
「・・・・・・あれ?」
「どうした?」
チョロは慌ただしく机を探す・・・。
「・・・・・・無い」
「は?」
「依頼書が・・・無い!!」
「な、何!?」
チョロは顔を青ざめて放心している。
「おいチョロ!依頼書が無いってどういうことだ!?」
「ま、まさか・・・」
「まさか・・・って何が!?」
「チップだ・・・」
「チップ?あいつがどうしたんだ?」
「先日あいつに別件の依頼が来ててね、その時きっと依頼書を間違えたんだ・・・どおりでおかしいと思った。あの依頼であいつが真面目な顔をするはずがないのに・・・あいつ妙に真面目な顔つきになってて・・・、それで・・・。」
「別件の依頼ってこれの事か?」
男が持ってるのは一枚の紙切れ・・・。
「何々・・・【八百屋】の荷物運び?お前・・・まだこんなのをチップにやらせてるのか?」
その時、チョロの目つきが変わった。
「それの何が悪い。あいつは・・・・・・」
「お前の養子・・・いや息子だってんだろ?分かっちゃいるけどなぁ・・・」
「分かっているなら・・・」
「分かっているからさ。あいつももう子供じゃない。あいつの実力はもうAランクはあると俺は思ってる、後は実戦だけだ。あいつに足らないのはそれさ・・・あんたが過保護にしてるからさ」
「・・・・っく」
黙り込むチョロ。ギルド内は沈黙に包まれる。
その沈黙を先に破ったのはチョロのほうだった。
「まあ、そんなことで話し合ってる暇は無い。早くチップを探さんと・・・」
「もう遅い・・・あいつは4日前にはここを発った・・・」
「そ、そんな・・・それじゃあ・・・」
「ああ、普通ならもう着いてるだろう・・・」
「クーロンに行くまでの道はモンスターの巣があるんだぞ!あいつに何かあったら・・・」
「まあ、落ち着け。俺が今からクーロンに行ってあいつと代わってくるなんて無理な話だ。下手すればお前はギルドから破門だ。それはチップの生活にも響く・・・。安心しろ、あいつは簡単には死なん」
「あ、ああ・・・そうだな、そうだよな・・・」
「こっちの依頼は俺が受けておこう。荷物運びなんて久しぶりだしな」
そう言って男は持っていた依頼書をポケットに突っ込んだ。
(まあ、あいつが早々くたばるはずがないだろ・・・。なんて言ったって俺が見込んだ男だからな。)
男はそんなことを考えながら、青白くなっているチョロに背を向け出口に向かった。
(ああいう奴は一回でもスイッチが入れば化けるものだ。果たして俺を超える奴に化けるかな?)
そんなことを思う男の顔はなぜか薄く笑っていた・・・。
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