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2024/05/21 16:10 |
クロスフェードA 第4話 『Gathering』/リーデル(陽)
PC:リーデル ライン チップ
NPC:ローガン
場所:ソフィニア(アスクレピオス本社)
___________________________________

「よく来てくれましたね」
 
製薬会社アスクレピオスの社長ディアン・ローガンは、部屋に入ってきた俺を
にこやかな笑顔で迎えた。やや白髪の混じった壮年の容貌は柔和で、その筋で
は梟雄として名を馳せる男としては驚くほど穏やかな物腰だ。だが、口元に浮
かべた笑みは作り物めいており、瑪瑙色の瞳はどこか昏く、底が知れない。

「まあ、掛けてください。今、秘書がコーヒーを持ってきます」

 俺はローガン氏の指差した革張りのソファーに視線を向けた。そこには、す
でに二人の先客がいた。窓側に座った常に笑顔を浮かべているような白に近い
銀灰髪の男、もう一人はどこか緊張の表情を浮かべた戦士風の青年。

「ああ、彼らも私が同じ目的で雇った人たちですよ。こちらの窓側の青年がラ
イン・トェイブさん、そしてこちらがチップリード・ラクフェールさん。報酬
は山分けではなく人数分払いますので、協力を忌避しなくても結構ですよ」

 俺はうなずくと、上座にローガンが座るのを確認してから、ソファーの一角
に腰を下ろした。

「さて、では早速仕事の話に移らせてもらいます」

 ローガン氏は紙袋に入った資料をテーブル上に広げた。

「皆さんは事前に大まかな話を聞いていると思いますが、あなた方にはある誘
拐犯の追跡をお願いしたい」
 
 ローガン氏が示したのは一枚の写真だった。まだ若い男女が二人写ってい
る。二人ともまだ若い。年上に見える女の方も、おそらく20歳に届いていな
いだろう。
よく似通った容姿を見る限り、姉弟のようだ。

「攫われたのは、ここに写っている二人――リーズ・エルダートとラーズ・エ
ルダート。我が社の新薬開発研究所に入院していた患者です」
「新薬開発研究所?」

 首を傾げたのは、戦士風の青年――チップリード・ラクフェールだ。

「文字通り、新薬を開発すべく5年前に作られた研究所です。うちの社員の間
では、初代所長の名をとって『グレゴール研究所』と呼ばれています」
「そこの患者ということは、この姉弟は何かの病気だったんですか?」
「はい――ラクフェールさんは、『遺伝子』というものをご存知ですか?」

 逆に聞き返され、答えたのは反対側に座るライン・トェイブだった。

「確か、人の身体の中に『人間の設計図』があるとかいう話ですか?」
「大まかな認識はそれで構いません。人を人たらしめているもの。存在の決定
因子。少しロマンチックな科学者は神の設計図とも呼びますがね――グレゴー
ル研究所では、この遺伝子と、そして遺伝子の欠陥から来る様々な遺伝病の治
療法を研究していました」
「すると、この二人にも何か遺伝子的な欠陥が?」
「はい、私たちは『月光病』と呼んでいました」
「月光病……ですか」
「はい、ある一定の周波数の光線――この姉弟の場合は月の光ですね――を視
神経が捉えると全神経が過剰反応を起こし、脳内で一種の興奮物質が異常分泌
される状態に陥ります。つまり、まるで人が変わったように凶暴化するので
す。さながら、伝説上の人狼のように。実際、中世期にはこの遺伝病が原因で
人狼だと勘違いされ、迫害されたケースも少なくないようです」

 ラインが粛然と頷いたところで、俺は口を挟んだ。

「……それで、犯人の目星は?」
「すでに判明しています」

 と、ローガン氏はもう二枚、新たな写真を差し出した。年齢は20代半ばら
しい若い男と壮年の男性の写真だ。
二人とも生真面目さそうな容貌をしており、パッと見た感じでは誘拐犯という
単語から程遠い。だが、人物の容姿と中身が一致しないことなど、この稼業に
ついてから無数にあったことだ。

「若い男はケヴィン・ローグ。グレゴール研究所では月光病治療の第一人者
で、エルダート姉弟の治療にあたっていた男です。もう一人は、グレゴール研
究所第3研究室室長のゼリッグ・ベルナール」
「この二人が姉弟を攫う理由は?」

 俺の質問に、ローガンは首を傾げてみせた。

「さあ、誘拐犯の気持ちなど私には分かりかねますが――おそらく、月光病の
治療薬の独占を狙っているのでしょう。実際、ケヴィン・ローグは研究資料を
洗いざらい持ち出していますしね。姉弟は生きたサンプルというわけです」
「それは違うな」

 俺は即座に首を振った。

「遺伝子の研究なんて大層なものは、ちょっとやそっとの施設できるもんじゃ
ない。ただの一研究員でしかなかった二人が、一体どこで治療薬を作るってい
うんだ?」 

 それなりに核心を突いたつもりだったが、ローガン氏の口元に浮かべた笑み
はいささかも揺らぎはしなかった。

「ふふ、『ただの研究員』ですか。たしかにゼリッグ・ベルナールについては
その単語もあてはまります。が、ケヴィン・ローグは違いますよ。何といって
も彼はデューロンのローグ家の次期当主ですからね」
 
 それは俺も予想していなかった答えだった。デューロンのローグ家といえ
ば、元々はとある王家の宮廷医師を務めていた名家の一族で、数多くの優秀な
医者を世に輩出している。また、医療の世界においては最大の派閥を持つ一族
としても知られており、ローグ家資本の製薬会社『エリクサー』は、このアス
クレピオスに匹敵する規模を持つ。

「ケヴィン・ローグがローグ家の次期当主……だが、ならばなぜ彼はエリクサ
ーではなく、アスクレピオスに?」
「本人は経営方針の違いから父と諍いとなり、家を勘当されて当主の座は弟が
継ぐことになった、と言っていたそうですが……おそらく今の状況から察する
に、それも嘘でしょうね。そう言ってこちらの研究を盗む機会を窺っていたの
かもしれません」
「――となると、ケヴィン達の目的地は……」

 俺はテーブルに広げられた世界地図の一点を指で示した。

「デューロンのエリクサー本社、か」

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2007/02/14 21:20 | Comments(0) | TrackBack() | ▲クロスフェードA

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