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人物:カイ クレイ
場所:王都イスカーナ
NPC:クレア
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足音が近付いていた。奥まった部屋の位置とカイの社交性の無さから、目の前の廊下を利用する人間は少ない。しかしクレイにしては少し不自然な歩き方だ。
カイは入り口から中を見渡せないように、さり気なく立ち位置を変えた。
「たっだいまぁ」
よっ、と肩でドアを押すように入ってきたのはやはりクレイだった。
両手に余るほどの大きな紙袋を二つ抱えて、少しよろけながらテーブルに向かう。
「収穫は?」
「もう、予想以上」
重かったらしい荷物をテーブルに載せ終えると、ゆっくりと伸びをした。
「さて、どうする? 相棒」
「拾ってきた情報次第だが、どうも彼女を送り届けることになりそうだ」
「……へぇ、コッチでも収穫があったってコトか」
「不確かだが、そうとも言えるな」
小声で話す二人の会話が聞こえているのか聞こえていないのか。勝手に紙袋を開け始めたお嬢様は、中身を見て少しがっかりしたようだった。
「プレゼントでも入っているかと思ったのに」
クレイはにっこり笑って見せた。
「間違ってはいないな」
片方の袋には三人分の食事、もう片方には少年用の洋服や帽子が詰め込まれていたのだ。もちろん彼女の変装用である。
「腹ごしらえをしたら送っていこう。一人で返すのは危険だからね」
「じゃ、お父様に挨拶してくれるの?」
「あー、ソレ、ソレね。その事は、う゛~ん、また落ち着いてから話そう」
「ふぅん、ま、いいけど」
少し口を尖らせながらも、クレアは洋服を広げ始めた。
「これって私が着るのよね?」
成人前の少年の、簡易礼装と上着、帽子と靴が入っていた。
帽子はゆったり目で、何とか髪の毛を押し込めそうな作りにはなっている。
「なんて言って買ってきたの?」
「新品じゃなくて悪いんだが、お古なんだ。家から取ってきた」
不承不承と言った顔がぱぁっと輝いた。
「じゃあ、クレイが着ていたモノなのね」
「あまり着る機会もなくて、新品同様だけどね」
「あー、見てみたかったなぁ」
「……聞いちゃいねぇ」
そんなこんなで(どんなだ?)軽い食事を済ませると、クレアが着替えるためにクレイとカイは部屋を閉め出された。まぁ、彼女に知られずに情報交換が出来るというのは、非常にありがたかったのだが。
「……というワケ」
「それは引き返すのは無理だろうな」
「だろうね。執事の偽物が出た時点で、神殿が動いてたって考えるのが妥当でしょ」
カイはウルザに対する違和感をどう伝えるべきか、迷っていた。
カラスの条件を満たすのは女性というだけ。年齢的なコト以外にも、おかしなところがたくさんあるからだ。しかし、一度浮かんだ疑惑はそう簡単に拭い去れない。
「ウルザという女性のことだが……」
結局、感じたモノを正直に伝えることしかできなかった。
「カイを信じよう」
疑うでもなく、クレイはあっさりと言い切った。
「噂は噂でしかない。誇張もされれば間違いもする。カラスが代替わりしてる可能性だってある。だったら、カイの直感の方があてになりそうだ」
胸が、熱くなった。
「信用して、間違っていたらどうするんだ」
「どうもしない。コレでも人を見る目には自信があるからね」
クレアの着替えが済んだようだ。クレイが先に部屋へ入る。カイは僅かの間、頬を緩めると、すぐに何事もなかったかのようにクレイに続いた。
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