PC:ギゼー リング
NPC:影の男 水の鍵(ちびちびギゼー君)
場所:白の遺跡
*++――――――――++**++――――――――++**++――――――――++*
「…………ど~でもいいけどよ、俺の名前で呼ぶなよ…。そのチビ助の事」
ギゼーは呆れ顔のまま、自分の名前をしきりと繰り返す影の男を半眼で睨ん
だ。
「まあ、そう連れなくするなって。ギゼー君。僕と君の仲じゃあないか」
「人に聞かれたら誤解されるようなことを、言うんじゃない!」
影の男のおどけに、突っ込みで返すギゼー。まるで双方共に楽しんでいるよ
うだ。
その不可思議な二人の様子をおどけた顔で見遣っていたリングであったが、
突然何を思ったか顔を綻ばせ、手を一つ叩いて言った。
「まあ!お二人とも、仲が宜しいんですねv」
違うぞリングちゃん、ギゼーはそうリングに対して突っ込みを入れたい衝動
に駆られたが、必死の思いで言葉を飲み込んだ。
◆◇◆
水の鍵(ちびちびギゼー君)が正面にある壁の隙間を柔軟に抜けると、そこ
には大冒険の舞台が待っていた。彼にとっての。
ミニチュアアスレチックは通常の人間には脱け出せない仕掛けになっている。
かてて加えて、壁の隙間をすり抜けないとそこに辿り着くことさえも出来ない
のである。言うなれば、此処は水の鍵(ちびちびギゼー君)の独壇場であった。
壁が透き通っていて、ギゼーたちの方からも見渡せるとは言え、所詮指示を与
える程度しか出来ない。つまり、このエリアを抜けるには、水の鍵(ちびちび
ギゼー君)に掛かっていると言っても過言ではないのだ。
「にゅー!」
必然的に、水の鍵(ちびちびギゼー君)に気合が入る。……気合が入ってい
るのかいないのか良く分からない上に、余り意味の無い気合であったが。
最初の難関は、動くプレートだった。
底なしの穴の上を二つのプレートが時間差で動いている。一つ目は上下運動、
もう一つ目は床と平行な高さで前後運動をしていた。
普通の人間でも突破するのが難しい難関に挑もうとしているのは、水で出来
たお惚けキャラ、ちびちびギゼー君なのだ。問題が無いはずは無い。
「にゅー!」
気合も新に、水の鍵(ちびちびギゼー君)は早速手前のプレートとの距離を
計る。
「にゅーー!」
計る。
「にゅっ」
…計る。
「にゅにゅっ?」
……計り過ぎて、逆にタイミングを逃してしまった様だ。
「ああっ!なにやってんだ!そこぉっ!!」
ギゼーはそんな水の鍵(ちびちびギゼー君)の間抜けな行動を、指を差して
指摘する。
野次馬達が気を揉むのも無理は無い。それほど、ちびちびギゼー君の行動に
は、無駄が多過ぎるのだ。
「さあっ!どぉする!?ちびちびギゼー君!…彼は、無事にアスレチックを抜
けることが出来るのかっ!??以下、後編へ続くっ!!!」
「続くかあぁぁっ!!!」
「突っ込みも板についてきましたね。ギゼーさん」
◆◇◆
ちびちびギゼーは今度こそ、タイミングを計って飛んだ。
そして、上下運動をしているプレートに着地すると同時に転んで、身体をプ
レートに打ち付けてしまった。当然プレートは、水浸しになった。だが、何と
かそのぶちまけてしまった水(からだ)を集め、元の形を取り戻すちびちびギ
ゼー君。
観客達は、観ていられないとばかりに目を覆う。
「ああっ!ちびちびギゼーさんっ!危ないですっっ!硝子の鍵は、落とさない
でくださいねぇっ!!」
「……あんた、どっちの心配してんだよ…」
リングのちょっとずれた心配に、ギゼーは半眼で突込みともつかない突っ込
みを入れる。その二人の様子を、少々離れた場所から眺めやる“影の男”。楽
しんでいるようでいて、何処か冷めたようなその雰囲気からは、陰謀めいたも
のを感じる。だが、二人はその男の様子など知る由も無く、ただただちびちび
ギゼー君を応援することに集中するのみであった―。
ちびちびギゼー君は、先程の上下運動プレートでコツを会得したのか、前後
運動プレートに飛び移るときは左程気を揉まずにすんだ。
ちびちびギゼー君は上下運動プレートと、前後運動プレートが交錯する瞬間
に跳躍したのだ。着地の仕方は前例のようだったが、どうやら無事に済んだよ
うである。思い切りの良いことをして、なぜかちびちびギゼー君は胸を張って
いた。
「ほほぉう。やれば出来るじゃん。あいつにも、学習能力があったんだぁ」
ギゼーは妙な関心の仕方を、周囲に披露した。
動くプレートにおいて、一番の難関を突破したちびちびギゼー君に敵は無か
った。アクロバットを披露した後、すんなりとインターバルへと飛び移ること
が出来たからだ。
NPC:影の男 水の鍵(ちびちびギゼー君)
場所:白の遺跡
*++――――――――++**++――――――――++**++――――――――++*
「…………ど~でもいいけどよ、俺の名前で呼ぶなよ…。そのチビ助の事」
ギゼーは呆れ顔のまま、自分の名前をしきりと繰り返す影の男を半眼で睨ん
だ。
「まあ、そう連れなくするなって。ギゼー君。僕と君の仲じゃあないか」
「人に聞かれたら誤解されるようなことを、言うんじゃない!」
影の男のおどけに、突っ込みで返すギゼー。まるで双方共に楽しんでいるよ
うだ。
その不可思議な二人の様子をおどけた顔で見遣っていたリングであったが、
突然何を思ったか顔を綻ばせ、手を一つ叩いて言った。
「まあ!お二人とも、仲が宜しいんですねv」
違うぞリングちゃん、ギゼーはそうリングに対して突っ込みを入れたい衝動
に駆られたが、必死の思いで言葉を飲み込んだ。
◆◇◆
水の鍵(ちびちびギゼー君)が正面にある壁の隙間を柔軟に抜けると、そこ
には大冒険の舞台が待っていた。彼にとっての。
ミニチュアアスレチックは通常の人間には脱け出せない仕掛けになっている。
かてて加えて、壁の隙間をすり抜けないとそこに辿り着くことさえも出来ない
のである。言うなれば、此処は水の鍵(ちびちびギゼー君)の独壇場であった。
壁が透き通っていて、ギゼーたちの方からも見渡せるとは言え、所詮指示を与
える程度しか出来ない。つまり、このエリアを抜けるには、水の鍵(ちびちび
ギゼー君)に掛かっていると言っても過言ではないのだ。
「にゅー!」
必然的に、水の鍵(ちびちびギゼー君)に気合が入る。……気合が入ってい
るのかいないのか良く分からない上に、余り意味の無い気合であったが。
最初の難関は、動くプレートだった。
底なしの穴の上を二つのプレートが時間差で動いている。一つ目は上下運動、
もう一つ目は床と平行な高さで前後運動をしていた。
普通の人間でも突破するのが難しい難関に挑もうとしているのは、水で出来
たお惚けキャラ、ちびちびギゼー君なのだ。問題が無いはずは無い。
「にゅー!」
気合も新に、水の鍵(ちびちびギゼー君)は早速手前のプレートとの距離を
計る。
「にゅーー!」
計る。
「にゅっ」
…計る。
「にゅにゅっ?」
……計り過ぎて、逆にタイミングを逃してしまった様だ。
「ああっ!なにやってんだ!そこぉっ!!」
ギゼーはそんな水の鍵(ちびちびギゼー君)の間抜けな行動を、指を差して
指摘する。
野次馬達が気を揉むのも無理は無い。それほど、ちびちびギゼー君の行動に
は、無駄が多過ぎるのだ。
「さあっ!どぉする!?ちびちびギゼー君!…彼は、無事にアスレチックを抜
けることが出来るのかっ!??以下、後編へ続くっ!!!」
「続くかあぁぁっ!!!」
「突っ込みも板についてきましたね。ギゼーさん」
◆◇◆
ちびちびギゼーは今度こそ、タイミングを計って飛んだ。
そして、上下運動をしているプレートに着地すると同時に転んで、身体をプ
レートに打ち付けてしまった。当然プレートは、水浸しになった。だが、何と
かそのぶちまけてしまった水(からだ)を集め、元の形を取り戻すちびちびギ
ゼー君。
観客達は、観ていられないとばかりに目を覆う。
「ああっ!ちびちびギゼーさんっ!危ないですっっ!硝子の鍵は、落とさない
でくださいねぇっ!!」
「……あんた、どっちの心配してんだよ…」
リングのちょっとずれた心配に、ギゼーは半眼で突込みともつかない突っ込
みを入れる。その二人の様子を、少々離れた場所から眺めやる“影の男”。楽
しんでいるようでいて、何処か冷めたようなその雰囲気からは、陰謀めいたも
のを感じる。だが、二人はその男の様子など知る由も無く、ただただちびちび
ギゼー君を応援することに集中するのみであった―。
ちびちびギゼー君は、先程の上下運動プレートでコツを会得したのか、前後
運動プレートに飛び移るときは左程気を揉まずにすんだ。
ちびちびギゼー君は上下運動プレートと、前後運動プレートが交錯する瞬間
に跳躍したのだ。着地の仕方は前例のようだったが、どうやら無事に済んだよ
うである。思い切りの良いことをして、なぜかちびちびギゼー君は胸を張って
いた。
「ほほぉう。やれば出来るじゃん。あいつにも、学習能力があったんだぁ」
ギゼーは妙な関心の仕方を、周囲に披露した。
動くプレートにおいて、一番の難関を突破したちびちびギゼー君に敵は無か
った。アクロバットを披露した後、すんなりとインターバルへと飛び移ること
が出来たからだ。
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PC ギゼー・リング
場所 白の遺跡内部
NPC 水の鍵(ちびちびギゼー君)
___________________________________
インターバルにたどりついたギゼー君の前には、一つの大きなプレートが、何
に支えられるわけでもなく、宙に浮かんでいた。
「にゅ?」
ギゼー君、首をかしげる。
「わかりました!」
リングが声を上げた。
「ギゼーさん、プレートの先を見てください」
言われたとおり、ギゼーはプレートの先…その先は足場のない空間を見た。
うっすらと、黒い玉のようなものが一定の間隔をあけて宙に浮いているのが見
える。そしてそれは、その先に見える次の足場まで点々と並んでいた。
「たぶん、これがこのプレートの通る道なんです。水の鍵さん、聞こえます
か?その場にある、なんでもいいですから、とにかく、何か物をプレートに置
いてみてください」
「にゅー!」
水の鍵にその声は届いたらしく、たぶん、「わかったぜ!」という意味合いの
返事を水の鍵は発すると、きょろきょろと辺りを見回した。
「にゅ~?」
しかし、その足場には石一つなく、床はまるで大理石でも使っているようなつ
るつるさだ。困ったギゼー君、あるものを発見して喜びの声を上げた。
「にゅー!」
それは、たぶんこのアスレチックのオプションと思われる、紫色をした柱だっ
た。ギゼー君、その柱に近寄り、手をかける。
「ふんにゅ~!!」
「おい、アイツ、何する気だ?」
必死でなにかしようとしているギゼー君を見て、心配そうに言うのは、本物の
ギゼーだ。
そしてギゼーとリングが心配そうに見守る中。
「にゅおおおおっ!!」
バキッ
紫色の柱は根元からぼっきりと折れた。
「にゅー」
軽々と、折れた柱を持ち、嬉しそうな声を上げるギゼー君。思わず二人の顔が
青ざめた。
「わあ…、水の鍵さん、力持ち…」
それを見たギゼーも一言呟く。
「…あれって反則じゃないのか?」
とにもかくにも、「乗せるモノ」を自力で獲得したギゼー君は、紫色の柱をプ
レートの上に乗せた。リングの予想通り、プレートは柱を乗せると、宙に浮か
ぶ球にそって、決められたコースを進んでゆく。そして向こう側にたどりつく
と同じコースを元の道をたどって引き返してきた。
「やっぱり、このプレートは何か上に物が載ると動き出す仕組みになっている
んですよ。しかも、ご親切に、一度乗り損ねてもちゃんと元の場所にかえって
きますし」
「何か、いかにも<乗ってくれ>って感じだな」
「そういわれれば確かにそうですね~。水の鍵さん、さあ、そのプレートに飛
び乗ってください!」
「にゅっ!」
リングの指示を受けて、水の鍵はジャンプする構えをとる。そしてプレートが
近寄ってきたところで大きくジャンプ!だいぶプレートに慣れてきたせいか、
すんなりと飛び乗ることができた。
「やったー!」
思わず二人とも歓声を上げる。気分は赤ちゃんの成長を見守るパパとママだ。
しばらくの間、水の鍵が乗ったプレートは何の問題もなくすいすいと進んだ。
上に乗っている水の鍵も暇そうにぶらぶらしている。
「何だ、上に乗っちゃえば何の問題もないな」
「そうでもありませんよ!ほら!」
リングが声を上げたとたん。
「にゅー!」
水の鍵の目の前に、自分と同じぐらいの大きさの岩が迫ってきた。いや、迫っ
てきたというよりは、プレートがその方向に向かって一直線に突き進んでいる
のだから、向かっているという言い方のほうが正しいだろう。
「あぶなーい!!」
水の鍵はそれを間一髪、しゃがむことでかわした。岩は水の鍵の体すれすれを
通り過ぎる。リングとギゼーもほっと一息。
しかし、水の鍵が一息ついたのもつかの間、今度は自分の腰ぐらいの高さがあ
る岩が目の前に三つ連続で並んでいるのが見えた。
「にゅっ、にゅっ、にゅっ!」
水の鍵はそれを要領よくジャンプして飛び越えた。しかし、これはかなり体力
を使うらしい。飛び越えた後の水の鍵の表情はかなりしんどそうだ。
そうこうしているうちに向こう側の地面が見えてきた。地面との幅がどんどん
と狭まっていく。
「にゅっ!」
早く向こう岸にたどり着きたかったのだろうか。水の鍵は少し飛ぶタイミング
が早かった。距離が、あと少し、長い。
「ああっ!!」
「水の鍵さん!!」
ガシッ
しかし、水の鍵はぎりぎりのところで地面の端にぶら下がった。
「にゅ~っ」
水の鍵は持ち前の腕力で、いそいそと地面によじ登る。
「全く…、最後までハラハラさせてくれるやつだな。寿命が縮むぜ…」
「本当です…」
そう言って、二人は深いため息をついた。
場所 白の遺跡内部
NPC 水の鍵(ちびちびギゼー君)
___________________________________
インターバルにたどりついたギゼー君の前には、一つの大きなプレートが、何
に支えられるわけでもなく、宙に浮かんでいた。
「にゅ?」
ギゼー君、首をかしげる。
「わかりました!」
リングが声を上げた。
「ギゼーさん、プレートの先を見てください」
言われたとおり、ギゼーはプレートの先…その先は足場のない空間を見た。
うっすらと、黒い玉のようなものが一定の間隔をあけて宙に浮いているのが見
える。そしてそれは、その先に見える次の足場まで点々と並んでいた。
「たぶん、これがこのプレートの通る道なんです。水の鍵さん、聞こえます
か?その場にある、なんでもいいですから、とにかく、何か物をプレートに置
いてみてください」
「にゅー!」
水の鍵にその声は届いたらしく、たぶん、「わかったぜ!」という意味合いの
返事を水の鍵は発すると、きょろきょろと辺りを見回した。
「にゅ~?」
しかし、その足場には石一つなく、床はまるで大理石でも使っているようなつ
るつるさだ。困ったギゼー君、あるものを発見して喜びの声を上げた。
「にゅー!」
それは、たぶんこのアスレチックのオプションと思われる、紫色をした柱だっ
た。ギゼー君、その柱に近寄り、手をかける。
「ふんにゅ~!!」
「おい、アイツ、何する気だ?」
必死でなにかしようとしているギゼー君を見て、心配そうに言うのは、本物の
ギゼーだ。
そしてギゼーとリングが心配そうに見守る中。
「にゅおおおおっ!!」
バキッ
紫色の柱は根元からぼっきりと折れた。
「にゅー」
軽々と、折れた柱を持ち、嬉しそうな声を上げるギゼー君。思わず二人の顔が
青ざめた。
「わあ…、水の鍵さん、力持ち…」
それを見たギゼーも一言呟く。
「…あれって反則じゃないのか?」
とにもかくにも、「乗せるモノ」を自力で獲得したギゼー君は、紫色の柱をプ
レートの上に乗せた。リングの予想通り、プレートは柱を乗せると、宙に浮か
ぶ球にそって、決められたコースを進んでゆく。そして向こう側にたどりつく
と同じコースを元の道をたどって引き返してきた。
「やっぱり、このプレートは何か上に物が載ると動き出す仕組みになっている
んですよ。しかも、ご親切に、一度乗り損ねてもちゃんと元の場所にかえって
きますし」
「何か、いかにも<乗ってくれ>って感じだな」
「そういわれれば確かにそうですね~。水の鍵さん、さあ、そのプレートに飛
び乗ってください!」
「にゅっ!」
リングの指示を受けて、水の鍵はジャンプする構えをとる。そしてプレートが
近寄ってきたところで大きくジャンプ!だいぶプレートに慣れてきたせいか、
すんなりと飛び乗ることができた。
「やったー!」
思わず二人とも歓声を上げる。気分は赤ちゃんの成長を見守るパパとママだ。
しばらくの間、水の鍵が乗ったプレートは何の問題もなくすいすいと進んだ。
上に乗っている水の鍵も暇そうにぶらぶらしている。
「何だ、上に乗っちゃえば何の問題もないな」
「そうでもありませんよ!ほら!」
リングが声を上げたとたん。
「にゅー!」
水の鍵の目の前に、自分と同じぐらいの大きさの岩が迫ってきた。いや、迫っ
てきたというよりは、プレートがその方向に向かって一直線に突き進んでいる
のだから、向かっているという言い方のほうが正しいだろう。
「あぶなーい!!」
水の鍵はそれを間一髪、しゃがむことでかわした。岩は水の鍵の体すれすれを
通り過ぎる。リングとギゼーもほっと一息。
しかし、水の鍵が一息ついたのもつかの間、今度は自分の腰ぐらいの高さがあ
る岩が目の前に三つ連続で並んでいるのが見えた。
「にゅっ、にゅっ、にゅっ!」
水の鍵はそれを要領よくジャンプして飛び越えた。しかし、これはかなり体力
を使うらしい。飛び越えた後の水の鍵の表情はかなりしんどそうだ。
そうこうしているうちに向こう側の地面が見えてきた。地面との幅がどんどん
と狭まっていく。
「にゅっ!」
早く向こう岸にたどり着きたかったのだろうか。水の鍵は少し飛ぶタイミング
が早かった。距離が、あと少し、長い。
「ああっ!!」
「水の鍵さん!!」
ガシッ
しかし、水の鍵はぎりぎりのところで地面の端にぶら下がった。
「にゅ~っ」
水の鍵は持ち前の腕力で、いそいそと地面によじ登る。
「全く…、最後までハラハラさせてくれるやつだな。寿命が縮むぜ…」
「本当です…」
そう言って、二人は深いため息をついた。
PC:ギゼー、リング
NPC:水の鍵、影の男(声のみ)
場所:白の遺跡
--------------------------------------------------------------
水の鍵が既(すんで)の所で飛び移ったその地面は、インターバルだった。
「どうやら、装置と装置の間には、必ず一息つける場所が用意されているようだ
な」
「インターバル、というやつですね。某アスレチック大会で有名な」
「某アスレチック大会?」
「え?知らないんですか?地上の何所かに、“アスレチック村”というのが有っ
て、其処で毎年行われる恒例行事だそうですよ。本に載っていました」
得意満面の笑顔で言うリングがその時読んだ本は、“面白本”だった。
――う、嘘くせぇ~。
ギゼーが口に出せない言葉を思惟の奔流に流しながらも水の鍵の方を見遣る
と、既に水の鍵は次の仕掛けに取り掛かる所だった。
水の鍵の目前には、今までに無かった鉄の柱―一地域では土管と呼ばれる物が
聳え立っていた。
「にゅー!」
水の鍵は、何やら得体の知れない掛け声を上げると、自分の身長よりも遥かに
高い土管を抱えるように徐に両手を付き、体を上方向に伸ばした。水の鍵の身体
は水そのもので来ている。水がジェル状に固まった物に意志の片鱗が芽生えた物
が、水の鍵の今の状態なのだ。詰まる所、水の鍵が身体を伸ばすとどうなるか。
たった今ギゼーとリングが目の当たりにしている光景が、その答えである。
即ち、水の鍵の身体の胴体に当る部分―“もう一つの鍵”が封入されている部
分が棒状に伸び上がったのだ。中身の“鍵”の長さは変わらないが、水の鍵の身
体は今や土管の天辺に手が届くほどの高さになっていた。
身体を棒状に伸ばし天辺に手が届くようになった水の鍵は、今度は身体を土管
の縁に擦り付けるように横に伸ばし、同時に足の部分を頭部に引き付け縮めた。
そして―水の鍵は、見事に土管の上に昇る事が出来たのだった。
「べっ、便利な奴だなぁ~」
ギゼーが感心し、妙な感想を述べる。
隣でリングがにこにこ顔で、水の鍵の動きを観察していた。その顔は、何時か
自分もやってやろうと言う思いがいっぱい詰まっていた…。
◆◇◆
土管の下は、空洞になっていた。
空洞といっても、足を降ろすべき地面は確かにあるようだ。時たま奥の方から
響いてくる地鳴りの様な音が、不気味さを強調していたが。
「はい!以上、水の鍵さんの視点で御送りしましたぁ!」
「?リングちゃん、誰に言ってるんだ??」
リングの言うように、土管の中身はリングやギゼーからは見えない構造になっ
ていた。土管の中に入ってしまえば、水の鍵の判断だけが頼り、という趣向のよ
うだ。彼を信じるしかない、とギゼーは思った。手には汗を握り、喉は唾を嚥下
する。そうは思っても、自分でも信じ切れない部分というものがあるのだ。
『でも、信じなくては。信じるんだ。君達には、それしか出来ないんだからね』
何処からとも無く響いて来た、影の男の声に一瞬びっくりして、周囲を見回す
ギゼー。だが、影の男は何処にも見当たらなかった。
影の男はなぜか、ギゼーやリングの心の動揺を察知して、的確に指摘してく
る。それがなぜかは解らないが、先程の言葉―信じることしか出来ない―も的を
射ていた。
(?なぜだ?)
ギゼーが疑問を胸に仕舞い込んでいる時、水の鍵もまた胸に決意を抱いてい
た。
土管の下に飛び込む決意を―。
NPC:水の鍵、影の男(声のみ)
場所:白の遺跡
--------------------------------------------------------------
水の鍵が既(すんで)の所で飛び移ったその地面は、インターバルだった。
「どうやら、装置と装置の間には、必ず一息つける場所が用意されているようだ
な」
「インターバル、というやつですね。某アスレチック大会で有名な」
「某アスレチック大会?」
「え?知らないんですか?地上の何所かに、“アスレチック村”というのが有っ
て、其処で毎年行われる恒例行事だそうですよ。本に載っていました」
得意満面の笑顔で言うリングがその時読んだ本は、“面白本”だった。
――う、嘘くせぇ~。
ギゼーが口に出せない言葉を思惟の奔流に流しながらも水の鍵の方を見遣る
と、既に水の鍵は次の仕掛けに取り掛かる所だった。
水の鍵の目前には、今までに無かった鉄の柱―一地域では土管と呼ばれる物が
聳え立っていた。
「にゅー!」
水の鍵は、何やら得体の知れない掛け声を上げると、自分の身長よりも遥かに
高い土管を抱えるように徐に両手を付き、体を上方向に伸ばした。水の鍵の身体
は水そのもので来ている。水がジェル状に固まった物に意志の片鱗が芽生えた物
が、水の鍵の今の状態なのだ。詰まる所、水の鍵が身体を伸ばすとどうなるか。
たった今ギゼーとリングが目の当たりにしている光景が、その答えである。
即ち、水の鍵の身体の胴体に当る部分―“もう一つの鍵”が封入されている部
分が棒状に伸び上がったのだ。中身の“鍵”の長さは変わらないが、水の鍵の身
体は今や土管の天辺に手が届くほどの高さになっていた。
身体を棒状に伸ばし天辺に手が届くようになった水の鍵は、今度は身体を土管
の縁に擦り付けるように横に伸ばし、同時に足の部分を頭部に引き付け縮めた。
そして―水の鍵は、見事に土管の上に昇る事が出来たのだった。
「べっ、便利な奴だなぁ~」
ギゼーが感心し、妙な感想を述べる。
隣でリングがにこにこ顔で、水の鍵の動きを観察していた。その顔は、何時か
自分もやってやろうと言う思いがいっぱい詰まっていた…。
◆◇◆
土管の下は、空洞になっていた。
空洞といっても、足を降ろすべき地面は確かにあるようだ。時たま奥の方から
響いてくる地鳴りの様な音が、不気味さを強調していたが。
「はい!以上、水の鍵さんの視点で御送りしましたぁ!」
「?リングちゃん、誰に言ってるんだ??」
リングの言うように、土管の中身はリングやギゼーからは見えない構造になっ
ていた。土管の中に入ってしまえば、水の鍵の判断だけが頼り、という趣向のよ
うだ。彼を信じるしかない、とギゼーは思った。手には汗を握り、喉は唾を嚥下
する。そうは思っても、自分でも信じ切れない部分というものがあるのだ。
『でも、信じなくては。信じるんだ。君達には、それしか出来ないんだからね』
何処からとも無く響いて来た、影の男の声に一瞬びっくりして、周囲を見回す
ギゼー。だが、影の男は何処にも見当たらなかった。
影の男はなぜか、ギゼーやリングの心の動揺を察知して、的確に指摘してく
る。それがなぜかは解らないが、先程の言葉―信じることしか出来ない―も的を
射ていた。
(?なぜだ?)
ギゼーが疑問を胸に仕舞い込んでいる時、水の鍵もまた胸に決意を抱いてい
た。
土管の下に飛び込む決意を―。
PC ギゼー・リング
場所 白の遺跡
NPC 水の鍵・カメ数匹・ビビンバ帝王
___________________________________
水の鍵が土管に入ってから数分たった。
「…」
無言でリングとギゼーは土管を見つめる。
「水の鍵さん、大丈夫でしょうか…」
「大丈夫だよ、あいつ、タフだからな。体伸びるし」
そう言うギゼーの表情には心配の色がうかがえる。
「でも…」
不安げに下を向いたリング。そしてちらっとギゼーの顔を覗いた。
「水の鍵さんって、少しドジですよ…?」
「うーん、まあ、たしかになぁ…」
ギゼーはぼりぼりと頭をかいたが、さしあたって今の自分たちにできること
は彼(?)を遠くから応援することぐらいだ。
「ま、信じてやろうよ」
ギゼーはぽんとリングの肩を叩いた。
「水の鍵をさ、俺たちは信じてやることぐらいしかできないんだから」
「そうですね…」
ギゼーの言葉にリングは頷く。
無言でじっと、二人は水の鍵が出てくる予定の土管を見つめた。
水の鍵が土管の先から、軽快なジャンプで飛び出したのは、それから数分後
のことだった。
「水の鍵さん!!」
「水の鍵っ!!」
二人は同時に喜びの声を上げる。
「よかったですっ!水の鍵さんご無事のようです…」
「そうだな…」
リングとギゼーの声に、水の鍵は元気よく手を振ってみせる。土管の中から
生還した水の鍵は、一段とたくましくなったように見えた。
そして元気よく歩き出す。
「にゅっ、にゅっ、にゅ~」
前方から、カメが近づいてきた。ただし、二本の足で立って歩いている、カ
メにしてはかなり大きいカメだ。
「すごいです、地上のカメは二本足で歩くこともできるなんて…。なのに、ど
うして普段はあんなにのろのろと歩いているんでしょうね?」
「いや…、アレは例外だと思うぞ…」
「そうなんですか?」
二人がそんな会話を交わしている間にも、カメは水の鍵の側まで近寄ってき
た。
「にゅ?」
水の鍵は首をかしげる。なんだか、とても無害そうなカメである。手になに
か武器を持っているわけでもなく、顔つきもぽやーっとしている。
しかし、土管の中でたくさんの修羅場(?)を潜り抜けてきた水の鍵は、い
ちおう用心してかかることにした。体の中からガラスの鍵を取り出すと、先っ
ぽでカメをつついてみる。
つんつんつん…。
びくっ、とカメは体を甲羅の中に引っ込めた。
「にゅおっ!」
これには水の鍵がびっくりした。驚いて一、二歩後ろに下がると、カメはまた
体を甲羅の外に出し…。
泣いている。
甲羅から出てきたカメは目にいっぱいの涙を浮かべていた。そして水の鍵があ
っと思うまもなく、カメはダッシュで逃げていく。
「にゅ~?」
水の鍵は首を傾げたが、気にせずまた先を歩いていくことにした。
「あっ、あれなんですか?」
リングが指差すほうをギゼーが見ると、そこにはまたもカメがいた。ただ
し、さっき会ったのよりかなり大きい。そのカメを、さきほど会った大きさぐ
らいのカメがたくさん周囲を取り囲んでいた。
「どうしましょう、あんなにたくさん。とくにあの大きなカメさんは強そうで
す」
「でも、いくしかないみたいだぜ、ほら、後ろ」
見ると、大きなカメの後ろに、大きな穴が見える。
「あれ、鍵穴ですね!」
「じゃあ、あのカメはラスボスってとこか」
水の鍵は、カメの大群のいる場所へ、臆することなくずんずんと歩いてい
く。とうとう、大ガメのところにたどりついた。
『貴様が水の鍵か。我輩はビビンバ帝王だ』
大ガメが口を開いた。水の鍵は大ガメを睨みつける。
『貴様、よくもうちのかわいい息子を泣かせてくれたな』
大ガメの言葉に、ギゼーとリングは大ガメの足元を見た。
先ほどのカメが涙を浮かべて大ガメの丸太のような足元にかじりついてい
る。
『うちの息子は心臓病を患っているのだぞ。おかげで月に払う医療費もバカに
ならないんだ。ただでさえ、こんな大家族だって言うのに…。ウチはね、数年
前に夫が他界して母子家庭なんだよ。なのに、全く、今月も大赤字だよ』
そういって大ガメはふんっと鼻を鳴らす。
『とにかく、ウチの息子を泣かすヤツは絶対に許さないからね』
場所 白の遺跡
NPC 水の鍵・カメ数匹・ビビンバ帝王
___________________________________
水の鍵が土管に入ってから数分たった。
「…」
無言でリングとギゼーは土管を見つめる。
「水の鍵さん、大丈夫でしょうか…」
「大丈夫だよ、あいつ、タフだからな。体伸びるし」
そう言うギゼーの表情には心配の色がうかがえる。
「でも…」
不安げに下を向いたリング。そしてちらっとギゼーの顔を覗いた。
「水の鍵さんって、少しドジですよ…?」
「うーん、まあ、たしかになぁ…」
ギゼーはぼりぼりと頭をかいたが、さしあたって今の自分たちにできること
は彼(?)を遠くから応援することぐらいだ。
「ま、信じてやろうよ」
ギゼーはぽんとリングの肩を叩いた。
「水の鍵をさ、俺たちは信じてやることぐらいしかできないんだから」
「そうですね…」
ギゼーの言葉にリングは頷く。
無言でじっと、二人は水の鍵が出てくる予定の土管を見つめた。
水の鍵が土管の先から、軽快なジャンプで飛び出したのは、それから数分後
のことだった。
「水の鍵さん!!」
「水の鍵っ!!」
二人は同時に喜びの声を上げる。
「よかったですっ!水の鍵さんご無事のようです…」
「そうだな…」
リングとギゼーの声に、水の鍵は元気よく手を振ってみせる。土管の中から
生還した水の鍵は、一段とたくましくなったように見えた。
そして元気よく歩き出す。
「にゅっ、にゅっ、にゅ~」
前方から、カメが近づいてきた。ただし、二本の足で立って歩いている、カ
メにしてはかなり大きいカメだ。
「すごいです、地上のカメは二本足で歩くこともできるなんて…。なのに、ど
うして普段はあんなにのろのろと歩いているんでしょうね?」
「いや…、アレは例外だと思うぞ…」
「そうなんですか?」
二人がそんな会話を交わしている間にも、カメは水の鍵の側まで近寄ってき
た。
「にゅ?」
水の鍵は首をかしげる。なんだか、とても無害そうなカメである。手になに
か武器を持っているわけでもなく、顔つきもぽやーっとしている。
しかし、土管の中でたくさんの修羅場(?)を潜り抜けてきた水の鍵は、い
ちおう用心してかかることにした。体の中からガラスの鍵を取り出すと、先っ
ぽでカメをつついてみる。
つんつんつん…。
びくっ、とカメは体を甲羅の中に引っ込めた。
「にゅおっ!」
これには水の鍵がびっくりした。驚いて一、二歩後ろに下がると、カメはまた
体を甲羅の外に出し…。
泣いている。
甲羅から出てきたカメは目にいっぱいの涙を浮かべていた。そして水の鍵があ
っと思うまもなく、カメはダッシュで逃げていく。
「にゅ~?」
水の鍵は首を傾げたが、気にせずまた先を歩いていくことにした。
「あっ、あれなんですか?」
リングが指差すほうをギゼーが見ると、そこにはまたもカメがいた。ただ
し、さっき会ったのよりかなり大きい。そのカメを、さきほど会った大きさぐ
らいのカメがたくさん周囲を取り囲んでいた。
「どうしましょう、あんなにたくさん。とくにあの大きなカメさんは強そうで
す」
「でも、いくしかないみたいだぜ、ほら、後ろ」
見ると、大きなカメの後ろに、大きな穴が見える。
「あれ、鍵穴ですね!」
「じゃあ、あのカメはラスボスってとこか」
水の鍵は、カメの大群のいる場所へ、臆することなくずんずんと歩いてい
く。とうとう、大ガメのところにたどりついた。
『貴様が水の鍵か。我輩はビビンバ帝王だ』
大ガメが口を開いた。水の鍵は大ガメを睨みつける。
『貴様、よくもうちのかわいい息子を泣かせてくれたな』
大ガメの言葉に、ギゼーとリングは大ガメの足元を見た。
先ほどのカメが涙を浮かべて大ガメの丸太のような足元にかじりついてい
る。
『うちの息子は心臓病を患っているのだぞ。おかげで月に払う医療費もバカに
ならないんだ。ただでさえ、こんな大家族だって言うのに…。ウチはね、数年
前に夫が他界して母子家庭なんだよ。なのに、全く、今月も大赤字だよ』
そういって大ガメはふんっと鼻を鳴らす。
『とにかく、ウチの息子を泣かすヤツは絶対に許さないからね』
PC:ギゼー、リング
NPC:水の鍵、ビビンバ帝王(メス)とその子供達、メデッタ=オーシャン
場所:白の遺跡
--------------------------------------------------------------------
「絶対に許さないって、どう許さないんだよ。ってか、厭に生活感漂ったラ
スボスだな」
冷静に突っ込みを入れるのは、ギゼー。
「水の鍵さん、負けないで下さいね~。頑張って扉を開けて下さい~」
呑気な応援の仕方を敢行しているのは、リング。
今や水の鍵は闘志を満面に湛え、ラスボス、ビビンバ帝王(メス)と対峙
していた。
空っ風吹き荒ぶ効果音を、背に受けながら……。
――― ― ―――
水の鍵とビビンバ帝王(メス)は、まんじりと対峙していた。
双方共に、微動だにしない。いや、出来ないのだ。下手に動けば相手の攻
撃の餌食になる。それは、どちらも承知だった。だからこそ、一瞬一瞬に緊
張の糸が走っていた。
「みゃー! みゃー! みゃー!」
ビビンバ帝王(メス)の子供達が、何やら騒いでいる。
彼等をよくよく観察してみると、両手を高々と掲げ、飛び跳ねたり腕を上
げ下げしたり旗のようなものを振っていたりする。まるで……そう、応援で
もしているかの如く。
「…………ひょっとして……、あれって……、応援……?」
「…………そのようですね…………」
ギゼーもリングも呆然と、観察し、推察した結果を呟く。
チビ亀達の応援を背後に受けながら、ビビンバ帝王(メス)は静止状態にあ
る現在の戦況に、少々飽きて来ていた。不動の構えの最中での睨み合いに、
痺れを切らせつつあったのだ。外見は亀と言えども、仮にも魔物の一種であ
る。心――意思とも言うべきものを持ち合わせていても、可笑しくはない。
ビビンバ帝王(メス)は痺れを切らし、今にも決着を付けんと言う意思が働
きかけていた。
だが、相手――水の鍵が動かない以上は、己も動けない。ビビンバ帝王(メ
ス)は半ば、意固地になっていた。
ギゼーとリングが固唾を呑んで見守る中、最初に動き出したのはビビンバ
帝王(メス)だった。終に、我慢の限界に達したらしい。
亀特有の、その小さく窄んだ口を徐に開くや否や、喉仏の当りが膨らみ競
り上がって火炎が噴出した。その焔鞭はまるで赤竜の如くのた打ち回る。
直打する範囲こそ狭いが、その威力は絶大である。一打打たれる毎に、灼
熱の激痛が襲うだろう。それは、傍から観戦しているギゼーやリングにもあ
りありと見て取れた。
焔鞭の威力だけでも絶大なのに、更に悪いことは重なるもので、水の鍵は
文字通り水で形成されていた。つまり、紅蓮に猛る炎が掠っただけでも水分
が蒸発して甚大な被害は免れないのだ。いや、下手を打つとその形を維持す
ることが出来なくなる恐れもある。
その結果を想像して見て、ギゼーは思わず空唾を嚥下した。
「……ちびの奴、大丈夫……なのか……?」
「きっと、大丈夫ですよ。……だって、ギゼーさんの模写体なんですよ」
ギゼーの不安気な声に答えるかのように、リングが噛み締めるように言っ
た。まるで、自身の心も励まし奮い立たせるかのように。
ギゼーの心配を余所に、水の鍵はアクロバティックな体捌きでうねる焔鞭
をかわしていった。それは、神業に近かった。今までのボケボケの水の鍵を
見知っていた二人にとって俄かには信じられない光景だった。
どうやら水の鍵は先程の土管に入って、一回りも二回りも大きく、そして
強靭になったようだ。
「どーゆう土管だ……」
ギゼーが呆然と呟き、リングが未だ嘗て見たことも無い現象を目の当たり
にして目を輝かせる。彼女は心もときめいている、そうギゼーが推察するほ
ど光り輝いて見えた。
「凄いです、土管さん。お持ち帰りしたいくらいですぅ」
リングの独白を耳にして、ギゼーは眩暈を覚えた。
――― ― ―――
ビビンバ帝王(メス)は何度も何度もしつこい位何度もこれでもか、と言
うほど焔鞭を、地を這う竜の如く、又は空を翔る飛竜の如く走らせ攻撃を試
みていた。だが、水の鍵はその都度避けまくり、一向に当たる気配を見せな
い。掠りすらしない。
炎閃が走る度毎に炎が飛び火し、今や辺り一面火の海と化していた。
水の鍵が硝子の鍵で開けるべき扉も又、紅に染まっていた……。
だが、不思議と燃やし尽くされる様子も、溶解する様子も欠片ほど見せて
いない。まるで、何かの力でその扉だけ護られているかの様だ。
「不思議ですね~。あの扉、あれだけ火に炙られているのに、前々平気なん
ですよ~。何ででしょうね? ギゼーさん」
リングが、鋭い中にも何処か惚けた様な意見を述べる。
確かに、そうだ。と、ギゼーも同意する。
あの、白い扉は。
あの、何処までも透き通った純白に染められた、次なる試練への扉は。
その、白を最も強調した威風を保ったままなのだ。
溶解するでもなく。
炎の海に飲み込まれ崩れることもなく。
踏み止まって、ただその場で立ちはだかっているのだ。
ギゼーは、その扉を見詰める内に不思議な感覚に捉われていた。
何と言うことは無い、不思議な感覚。実際に自分がこの場に居ない様な、夢
見心地に。
「……!? ギゼーさん!」
「……はぁっ、……はぁっ。……っ。何なんだ。この迷宮は」
今や、ギゼーは辛うじて立っている状態だった。
不思議な感覚は未だ治まってはいない。浮遊するような感覚。精神が疲弊し
ていくような感覚。今までに味わった事のある、それでいて一度に味わった事
の無い感覚――。
何かが狂っている、ギゼーはそう思わざるを得なかった。
――― ― ―――
朱色に染まる扉。
そしてその手前には、怒りの炎で真っ赤に染めた、ビビンバ帝王(メス)の
顔があった。
「我が子を苛める奴は、許るさへんで~~~!!」
地を揺るがすような、怒りの声にもめげずに敢然と立ち向かう水の鍵。
「にゅ―――っ!!」
気合の入り方も違う。
裂帛の気合と共に、水の鍵は突撃を敢行した。
右腕を鍵の形に変化させ、その中に硝子の鍵を収めて。
水の鍵は決死の覚悟だった。辛うじて立っているギゼーもそれを支えている
リングも、感嘆の色を隠せないほどに勇猛果敢だった。
敢然とビビンバ帝王(メス)の懐に飛び込む水の鍵。右腕を突き出し、ビビ
ンバ帝王(メス)の腹部目掛けて強烈な突きを繰り出す。
ビビンバ帝王(メス)も流石に一瞬怯んだが、何とか持ち堪え焔鞭を吐き出
す。
意地と意地が激突した。
水の鍵は焔鞭の横を掏り抜け、勢いを重心に込め、渾身の一撃を放った。彼
は後の事など考えていなかった。彼の頭の中にあるのは、たった一つ。硝子の
鍵を、鍵穴に差し込む事だけだった。だからこそ、ビビンバ帝王(メス)の体
が鍵穴と重なり合った時を見計らって飛び込んだのである。
勝算はあった。
何故なら――。
「にゅ――――っ!!!」
水蒸気に包まれながら水の鍵が放った渾身の一撃は、見事ビビンバ帝王(メ
ス)の腹部を貫いていた。腹部を貫いた腕は、強固な甲羅をも貫き通し、背後
の鍵穴へと真っ直ぐに伸びていた。そしてその先端には……鍵があった。
硝子の鍵が。
水の鍵には、こうなる事が解っていた。
何故なら彼の身体を形成している“水”は、唯の“水”ではなかったからだ。
「ぐっ、ぐおぉぉぉぉぉ――――っ!!」
断末魔の叫び声が、地響きを伴って轟いた。
それが、ビビンバ帝王(メス)の最後の肉声だった――。
――― ― ―――
かくて扉は開かれた。
次なる試練へと、二人を導かんと――。
「いよぅ!遅かったじゃないか。二人とも」
呑気な声が扉の奥から聞こえて来た。
白煙の向こうに立っていたのは……。
「叔父さ……あっ、メデッタ……さん!?」
「って、何であんたがいるんだぁっ!!」
リングの驚愕の声と、ギゼーの突っ込みの声が上がったのは殆ど同時だった
――。
NPC:水の鍵、ビビンバ帝王(メス)とその子供達、メデッタ=オーシャン
場所:白の遺跡
--------------------------------------------------------------------
「絶対に許さないって、どう許さないんだよ。ってか、厭に生活感漂ったラ
スボスだな」
冷静に突っ込みを入れるのは、ギゼー。
「水の鍵さん、負けないで下さいね~。頑張って扉を開けて下さい~」
呑気な応援の仕方を敢行しているのは、リング。
今や水の鍵は闘志を満面に湛え、ラスボス、ビビンバ帝王(メス)と対峙
していた。
空っ風吹き荒ぶ効果音を、背に受けながら……。
――― ― ―――
水の鍵とビビンバ帝王(メス)は、まんじりと対峙していた。
双方共に、微動だにしない。いや、出来ないのだ。下手に動けば相手の攻
撃の餌食になる。それは、どちらも承知だった。だからこそ、一瞬一瞬に緊
張の糸が走っていた。
「みゃー! みゃー! みゃー!」
ビビンバ帝王(メス)の子供達が、何やら騒いでいる。
彼等をよくよく観察してみると、両手を高々と掲げ、飛び跳ねたり腕を上
げ下げしたり旗のようなものを振っていたりする。まるで……そう、応援で
もしているかの如く。
「…………ひょっとして……、あれって……、応援……?」
「…………そのようですね…………」
ギゼーもリングも呆然と、観察し、推察した結果を呟く。
チビ亀達の応援を背後に受けながら、ビビンバ帝王(メス)は静止状態にあ
る現在の戦況に、少々飽きて来ていた。不動の構えの最中での睨み合いに、
痺れを切らせつつあったのだ。外見は亀と言えども、仮にも魔物の一種であ
る。心――意思とも言うべきものを持ち合わせていても、可笑しくはない。
ビビンバ帝王(メス)は痺れを切らし、今にも決着を付けんと言う意思が働
きかけていた。
だが、相手――水の鍵が動かない以上は、己も動けない。ビビンバ帝王(メ
ス)は半ば、意固地になっていた。
ギゼーとリングが固唾を呑んで見守る中、最初に動き出したのはビビンバ
帝王(メス)だった。終に、我慢の限界に達したらしい。
亀特有の、その小さく窄んだ口を徐に開くや否や、喉仏の当りが膨らみ競
り上がって火炎が噴出した。その焔鞭はまるで赤竜の如くのた打ち回る。
直打する範囲こそ狭いが、その威力は絶大である。一打打たれる毎に、灼
熱の激痛が襲うだろう。それは、傍から観戦しているギゼーやリングにもあ
りありと見て取れた。
焔鞭の威力だけでも絶大なのに、更に悪いことは重なるもので、水の鍵は
文字通り水で形成されていた。つまり、紅蓮に猛る炎が掠っただけでも水分
が蒸発して甚大な被害は免れないのだ。いや、下手を打つとその形を維持す
ることが出来なくなる恐れもある。
その結果を想像して見て、ギゼーは思わず空唾を嚥下した。
「……ちびの奴、大丈夫……なのか……?」
「きっと、大丈夫ですよ。……だって、ギゼーさんの模写体なんですよ」
ギゼーの不安気な声に答えるかのように、リングが噛み締めるように言っ
た。まるで、自身の心も励まし奮い立たせるかのように。
ギゼーの心配を余所に、水の鍵はアクロバティックな体捌きでうねる焔鞭
をかわしていった。それは、神業に近かった。今までのボケボケの水の鍵を
見知っていた二人にとって俄かには信じられない光景だった。
どうやら水の鍵は先程の土管に入って、一回りも二回りも大きく、そして
強靭になったようだ。
「どーゆう土管だ……」
ギゼーが呆然と呟き、リングが未だ嘗て見たことも無い現象を目の当たり
にして目を輝かせる。彼女は心もときめいている、そうギゼーが推察するほ
ど光り輝いて見えた。
「凄いです、土管さん。お持ち帰りしたいくらいですぅ」
リングの独白を耳にして、ギゼーは眩暈を覚えた。
――― ― ―――
ビビンバ帝王(メス)は何度も何度もしつこい位何度もこれでもか、と言
うほど焔鞭を、地を這う竜の如く、又は空を翔る飛竜の如く走らせ攻撃を試
みていた。だが、水の鍵はその都度避けまくり、一向に当たる気配を見せな
い。掠りすらしない。
炎閃が走る度毎に炎が飛び火し、今や辺り一面火の海と化していた。
水の鍵が硝子の鍵で開けるべき扉も又、紅に染まっていた……。
だが、不思議と燃やし尽くされる様子も、溶解する様子も欠片ほど見せて
いない。まるで、何かの力でその扉だけ護られているかの様だ。
「不思議ですね~。あの扉、あれだけ火に炙られているのに、前々平気なん
ですよ~。何ででしょうね? ギゼーさん」
リングが、鋭い中にも何処か惚けた様な意見を述べる。
確かに、そうだ。と、ギゼーも同意する。
あの、白い扉は。
あの、何処までも透き通った純白に染められた、次なる試練への扉は。
その、白を最も強調した威風を保ったままなのだ。
溶解するでもなく。
炎の海に飲み込まれ崩れることもなく。
踏み止まって、ただその場で立ちはだかっているのだ。
ギゼーは、その扉を見詰める内に不思議な感覚に捉われていた。
何と言うことは無い、不思議な感覚。実際に自分がこの場に居ない様な、夢
見心地に。
「……!? ギゼーさん!」
「……はぁっ、……はぁっ。……っ。何なんだ。この迷宮は」
今や、ギゼーは辛うじて立っている状態だった。
不思議な感覚は未だ治まってはいない。浮遊するような感覚。精神が疲弊し
ていくような感覚。今までに味わった事のある、それでいて一度に味わった事
の無い感覚――。
何かが狂っている、ギゼーはそう思わざるを得なかった。
――― ― ―――
朱色に染まる扉。
そしてその手前には、怒りの炎で真っ赤に染めた、ビビンバ帝王(メス)の
顔があった。
「我が子を苛める奴は、許るさへんで~~~!!」
地を揺るがすような、怒りの声にもめげずに敢然と立ち向かう水の鍵。
「にゅ―――っ!!」
気合の入り方も違う。
裂帛の気合と共に、水の鍵は突撃を敢行した。
右腕を鍵の形に変化させ、その中に硝子の鍵を収めて。
水の鍵は決死の覚悟だった。辛うじて立っているギゼーもそれを支えている
リングも、感嘆の色を隠せないほどに勇猛果敢だった。
敢然とビビンバ帝王(メス)の懐に飛び込む水の鍵。右腕を突き出し、ビビ
ンバ帝王(メス)の腹部目掛けて強烈な突きを繰り出す。
ビビンバ帝王(メス)も流石に一瞬怯んだが、何とか持ち堪え焔鞭を吐き出
す。
意地と意地が激突した。
水の鍵は焔鞭の横を掏り抜け、勢いを重心に込め、渾身の一撃を放った。彼
は後の事など考えていなかった。彼の頭の中にあるのは、たった一つ。硝子の
鍵を、鍵穴に差し込む事だけだった。だからこそ、ビビンバ帝王(メス)の体
が鍵穴と重なり合った時を見計らって飛び込んだのである。
勝算はあった。
何故なら――。
「にゅ――――っ!!!」
水蒸気に包まれながら水の鍵が放った渾身の一撃は、見事ビビンバ帝王(メ
ス)の腹部を貫いていた。腹部を貫いた腕は、強固な甲羅をも貫き通し、背後
の鍵穴へと真っ直ぐに伸びていた。そしてその先端には……鍵があった。
硝子の鍵が。
水の鍵には、こうなる事が解っていた。
何故なら彼の身体を形成している“水”は、唯の“水”ではなかったからだ。
「ぐっ、ぐおぉぉぉぉぉ――――っ!!」
断末魔の叫び声が、地響きを伴って轟いた。
それが、ビビンバ帝王(メス)の最後の肉声だった――。
――― ― ―――
かくて扉は開かれた。
次なる試練へと、二人を導かんと――。
「いよぅ!遅かったじゃないか。二人とも」
呑気な声が扉の奥から聞こえて来た。
白煙の向こうに立っていたのは……。
「叔父さ……あっ、メデッタ……さん!?」
「って、何であんたがいるんだぁっ!!」
リングの驚愕の声と、ギゼーの突っ込みの声が上がったのは殆ど同時だった
――。