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2024/11/01 08:15 |
40.『闘い、そして……』/ギゼー(葉月瞬)
PC:ギゼー、リング
NPC:水の鍵、ビビンバ帝王(メス)とその子供達、メデッタ=オーシャン
場所:白の遺跡
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「絶対に許さないって、どう許さないんだよ。ってか、厭に生活感漂ったラ
スボスだな」

 冷静に突っ込みを入れるのは、ギゼー。

「水の鍵さん、負けないで下さいね~。頑張って扉を開けて下さい~」

 呑気な応援の仕方を敢行しているのは、リング。

 今や水の鍵は闘志を満面に湛え、ラスボス、ビビンバ帝王(メス)と対峙
していた。
 空っ風吹き荒ぶ効果音を、背に受けながら……。

――― ― ―――

 水の鍵とビビンバ帝王(メス)は、まんじりと対峙していた。
 双方共に、微動だにしない。いや、出来ないのだ。下手に動けば相手の攻
撃の餌食になる。それは、どちらも承知だった。だからこそ、一瞬一瞬に緊
張の糸が走っていた。

「みゃー! みゃー! みゃー!」

 ビビンバ帝王(メス)の子供達が、何やら騒いでいる。
 彼等をよくよく観察してみると、両手を高々と掲げ、飛び跳ねたり腕を上
げ下げしたり旗のようなものを振っていたりする。まるで……そう、応援で
もしているかの如く。

「…………ひょっとして……、あれって……、応援……?」
「…………そのようですね…………」

 ギゼーもリングも呆然と、観察し、推察した結果を呟く。


 チビ亀達の応援を背後に受けながら、ビビンバ帝王(メス)は静止状態にあ
る現在の戦況に、少々飽きて来ていた。不動の構えの最中での睨み合いに、
痺れを切らせつつあったのだ。外見は亀と言えども、仮にも魔物の一種であ
る。心――意思とも言うべきものを持ち合わせていても、可笑しくはない。
 ビビンバ帝王(メス)は痺れを切らし、今にも決着を付けんと言う意思が働
きかけていた。
 だが、相手――水の鍵が動かない以上は、己も動けない。ビビンバ帝王(メ
ス)は半ば、意固地になっていた。

 ギゼーとリングが固唾を呑んで見守る中、最初に動き出したのはビビンバ
帝王(メス)だった。終に、我慢の限界に達したらしい。
 亀特有の、その小さく窄んだ口を徐に開くや否や、喉仏の当りが膨らみ競
り上がって火炎が噴出した。その焔鞭はまるで赤竜の如くのた打ち回る。
 直打する範囲こそ狭いが、その威力は絶大である。一打打たれる毎に、灼
熱の激痛が襲うだろう。それは、傍から観戦しているギゼーやリングにもあ
りありと見て取れた。
 焔鞭の威力だけでも絶大なのに、更に悪いことは重なるもので、水の鍵は
文字通り水で形成されていた。つまり、紅蓮に猛る炎が掠っただけでも水分
が蒸発して甚大な被害は免れないのだ。いや、下手を打つとその形を維持す
ることが出来なくなる恐れもある。
 その結果を想像して見て、ギゼーは思わず空唾を嚥下した。

「……ちびの奴、大丈夫……なのか……?」
「きっと、大丈夫ですよ。……だって、ギゼーさんの模写体なんですよ」

 ギゼーの不安気な声に答えるかのように、リングが噛み締めるように言っ
た。まるで、自身の心も励まし奮い立たせるかのように。

 ギゼーの心配を余所に、水の鍵はアクロバティックな体捌きでうねる焔鞭
をかわしていった。それは、神業に近かった。今までのボケボケの水の鍵を
見知っていた二人にとって俄かには信じられない光景だった。
 どうやら水の鍵は先程の土管に入って、一回りも二回りも大きく、そして
強靭になったようだ。

「どーゆう土管だ……」

 ギゼーが呆然と呟き、リングが未だ嘗て見たことも無い現象を目の当たり
にして目を輝かせる。彼女は心もときめいている、そうギゼーが推察するほ
ど光り輝いて見えた。

「凄いです、土管さん。お持ち帰りしたいくらいですぅ」

 リングの独白を耳にして、ギゼーは眩暈を覚えた。

――― ― ―――

 ビビンバ帝王(メス)は何度も何度もしつこい位何度もこれでもか、と言
うほど焔鞭を、地を這う竜の如く、又は空を翔る飛竜の如く走らせ攻撃を試
みていた。だが、水の鍵はその都度避けまくり、一向に当たる気配を見せな
い。掠りすらしない。
 炎閃が走る度毎に炎が飛び火し、今や辺り一面火の海と化していた。
 水の鍵が硝子の鍵で開けるべき扉も又、紅に染まっていた……。
 だが、不思議と燃やし尽くされる様子も、溶解する様子も欠片ほど見せて
いない。まるで、何かの力でその扉だけ護られているかの様だ。

「不思議ですね~。あの扉、あれだけ火に炙られているのに、前々平気なん
ですよ~。何ででしょうね? ギゼーさん」

 リングが、鋭い中にも何処か惚けた様な意見を述べる。
 確かに、そうだ。と、ギゼーも同意する。
 あの、白い扉は。
 あの、何処までも透き通った純白に染められた、次なる試練への扉は。
 その、白を最も強調した威風を保ったままなのだ。
 溶解するでもなく。
 炎の海に飲み込まれ崩れることもなく。
 踏み止まって、ただその場で立ちはだかっているのだ。
 ギゼーは、その扉を見詰める内に不思議な感覚に捉われていた。
 何と言うことは無い、不思議な感覚。実際に自分がこの場に居ない様な、夢
見心地に。

「……!? ギゼーさん!」
「……はぁっ、……はぁっ。……っ。何なんだ。この迷宮は」

 今や、ギゼーは辛うじて立っている状態だった。
 不思議な感覚は未だ治まってはいない。浮遊するような感覚。精神が疲弊し
ていくような感覚。今までに味わった事のある、それでいて一度に味わった事
の無い感覚――。
 何かが狂っている、ギゼーはそう思わざるを得なかった。

――― ― ―――

 朱色に染まる扉。
 そしてその手前には、怒りの炎で真っ赤に染めた、ビビンバ帝王(メス)の
顔があった。

「我が子を苛める奴は、許るさへんで~~~!!」

 地を揺るがすような、怒りの声にもめげずに敢然と立ち向かう水の鍵。

「にゅ―――っ!!」

 気合の入り方も違う。
 裂帛の気合と共に、水の鍵は突撃を敢行した。
 右腕を鍵の形に変化させ、その中に硝子の鍵を収めて。
 水の鍵は決死の覚悟だった。辛うじて立っているギゼーもそれを支えている
リングも、感嘆の色を隠せないほどに勇猛果敢だった。
 敢然とビビンバ帝王(メス)の懐に飛び込む水の鍵。右腕を突き出し、ビビ
ンバ帝王(メス)の腹部目掛けて強烈な突きを繰り出す。
 ビビンバ帝王(メス)も流石に一瞬怯んだが、何とか持ち堪え焔鞭を吐き出
す。
 意地と意地が激突した。
 水の鍵は焔鞭の横を掏り抜け、勢いを重心に込め、渾身の一撃を放った。彼
は後の事など考えていなかった。彼の頭の中にあるのは、たった一つ。硝子の
鍵を、鍵穴に差し込む事だけだった。だからこそ、ビビンバ帝王(メス)の体
が鍵穴と重なり合った時を見計らって飛び込んだのである。
 勝算はあった。
 何故なら――。

「にゅ――――っ!!!」

 水蒸気に包まれながら水の鍵が放った渾身の一撃は、見事ビビンバ帝王(メ
ス)の腹部を貫いていた。腹部を貫いた腕は、強固な甲羅をも貫き通し、背後
の鍵穴へと真っ直ぐに伸びていた。そしてその先端には……鍵があった。
 硝子の鍵が。
 水の鍵には、こうなる事が解っていた。
 何故なら彼の身体を形成している“水”は、唯の“水”ではなかったからだ。

「ぐっ、ぐおぉぉぉぉぉ――――っ!!」

 断末魔の叫び声が、地響きを伴って轟いた。
 それが、ビビンバ帝王(メス)の最後の肉声だった――。

――― ― ―――

 かくて扉は開かれた。
 次なる試練へと、二人を導かんと――。


「いよぅ!遅かったじゃないか。二人とも」

 呑気な声が扉の奥から聞こえて来た。
 白煙の向こうに立っていたのは……。

「叔父さ……あっ、メデッタ……さん!?」
「って、何であんたがいるんだぁっ!!」

 リングの驚愕の声と、ギゼーの突っ込みの声が上がったのは殆ど同時だった
――。
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2007/02/14 23:15 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング

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