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2024/11/01 08:28 |
31.自分増殖。/リング(果南)
PC リング ギゼー ジュヴィア 場所 白の遺跡 NPC メデッタ伯父

***********************************

 わたしはなに? わたしはだれ?
 いったいだれがわたしを あいしてくれると いうのだろう・・・。


「くっ、ストーンゴーレムか!!」
 メデッタがちっと舌打ちした。
「こいつは少々厄介な相手だ。こいつは私に任せて、君たちは先に行け!」
「っ・・でも、伯父様っ!!」
とどまろうとするリングにメデッタはふっと笑った。
「大丈夫だ、私はヤツの弱点を知っている。・・・それより何度も言うようだ
が・・・、私のことを<伯父様>と呼ぶんじゃない」
 うなり声を上げて、ストーンゴーレムがメデッタに拳を振り下ろした。メデ
ッタはそれをひらりとかわす。
「解ったか、わかったら返事をしろ!リング!」
「リングちゃん、ここは彼の言うとおりにしよう」
ふっと気が付くと、ギゼーがリングの肩に手をかけていた。
「・・・彼が、俺たちを心配させないように気ぃつかってるの、解るよな?」
そうだ、本当ならこんな場合に自分の呼び方のことなど気にするはずがない。
リングは必死にストーンゴーレムと戦っているメデッタ伯父を見た。
(伯父様の・・・せいいっぱいの強がりですね)
ぎゅっ、と拳を握り締めると、リングはじんわり目に浮かんでいた涙を引っ込
めた。
「解りました、メデッタさんっ!行きましょう!ギゼーさん、ジュヴィアさ
ん!!」
「おう!入り口は七つに分かれている、けど、出口は一つだ!手分けして入ろ
うぜ!」
「解りました!」
 そういうとギゼーは一番右端の入り口、ジュヴィアは右から三番目の入り
口、そしてリングは一番左端の入り口へそれぞれ入っていった・・・。

 長く続く白い石の廊下を走り続け、出たところは、一面がきらきらと輝
く・・・。
「鏡のお部屋ですね」
リングはそう呟いた。この部屋の壁は全て鏡で出来ている。広さはそれほど広
くもなく、部屋の中には特に何も見つからない。
「うわあ・・・、凄いです、床も鏡です」
床を見たリングは思わず二三歩、下を見てぺたぺた歩いた。床にリングの顔が
下からのアングルという、変な角度で映る。思わずリングはあははっと声を出
して笑った。何が起こるかわからない遺跡の中にいて、相変わらずマイペース
というか、能天気な彼女である。
「しかし、このお部屋にも、先ほどのストーンゴーレムさんのような、トラッ
プが仕掛けてあるのでしょうか・・・」
ふっと顔を上げて、周りを見渡したリングは呟いた。彼女が一通り見た中で、
この部屋には特に危険なものは見つからない。
「貴方は、「月」ね」
突然、降ってきた声に、リングは驚いて回りを見渡した。しかし、どこを見渡
しても人の影はない。鏡の中の数人ものリングが、あせってきょろきょろと辺
りを見回した。
「っ・・・!一体誰ですか!貴方もトラップなんですか?」
「虚空の中で、悲しく輝き続ける、貴方はまさに「月」のような人だわ」
声はリングを無視して話続ける。
「そんな貴方は、「貴方」と戦うことが出来るかしら?」
「一体何を・・・!!」
リングは思わず言葉を飲み込んだ。目の前の鏡の中から、にゅーっと自分自身
の姿が出てきたのだ。目の前ばかりではない、自分の隣からも、後ろからも、
斜めからも、自分の姿が映った自分がにゅーっと、ぞろぞろ出てきたのだ。
あっというまにリングは総勢三十人はいるであろう<自分自身>たちにとり囲
まれてしまった。
 これには怖さを通り越して、リングはあっけにとられてしまった。
「うわ・・・あ・・・、私がたくさん、います・・・」
思わず近くにいる一人の頬を触ってみる。頬にはちゃんとぷにぷにとした弾力
があった。
「ちゃんと、生きてますね・・・」
「ふふふ、遊んでいられるのはここまでよ。さあ、お前たち、コイツを、殺す
のだ!!」
その言葉を号令に、たくさんの「リング」達は拳を振り上げ、一斉にリングに
襲い掛かってきた。
「うわあっ!!」
思わず飛びのいたリングを、「リング」の一人が襲う。しかし、それより驚い
たのは。
「なんだか、みんな私より腕力がありますっ!!」
拳を振り上げた後の床を見て、思わずリングの血の気が引いた。床にはぼこっ
とした拳の後がありありと残っている。
「だって、貴方タフで身軽な割にパワーが低いんですもの。ちょっとステイタ
スを追加したの」
「だからといいましても、これでは殴り殺されてしまいますっ!!」
「馬鹿ねぇ、それが目的よ」
「そんなっ!酷いですようっ!!」
そう言っている間にも、「自分」は次々とリングに襲い掛かってくる。攻撃の
手はやむことはない。
「やめてくださいっ!みなさんっ!!」
三人の「リング」がリングの進路を塞ぎ、同時に拳を振り上げた。
「やめてくださいっ!きっと・・・、一人倒したら、私っ・・・」
「貴方って以外にナルシストなのねぇ。さっきから逃げてばかり。一人ぐらい
倒そうと思わないの?」
「違いますっ!貴方には解りません!私は・・・っ・・・」
「あーあ、逃げるの見るのも飽きちゃった。ステイタスを追加しようかしら」
次の瞬間、今まで無口だった「リング」が口を開いた。
「<ユージン>」
瞬間、リングの髪の色と瞳の色が<蒼>に変化した。そして、

ゴキッ

一人の「リング」の首がリングによってへし折られた。「リング」が口から血
を流して倒れる。
「なっ・・・!これは貴方が<最も苦手な言葉>のハズ・・・!」
「貴様に良い事を教えてやろう」
リングの体からは静かに怒りのオーラが漂っていた。感情のない「リング」た
ちが思わず引いてしまうほどの。
「私がこの世で一番嫌いなもの、それは<自分>だ。・・・一人殺せば、何人
殺すのもたやすい」
リングはゆらりと「リング」たちを見つめた。
「・・・来い、貴様ら全員、殺してやる」
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2007/02/14 23:04 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング
32.『白の遺跡攻略!―その1―』/ギゼー(葉月瞬)
PC:ギゼー (リング ジュヴィア
NPC:影の男
場所:白の遺跡
*++-----------++**++-----------++**++-----------++*

  かくて城門は開かれた。
  未だ嘗て誰一人、開ける事の叶わなかった白き城門が。
  結界は解かれ、古の迷宮と現の世界とが融和した瞬間であった―。


 淡く光る白銀の通路に一対の靴音が響く。
 石壁に揺れる影も一人分のものだ。
 ジュヴィア、リングと別れ一人右端の通路にひた走って行った、ギゼーであっ
た。通路自体に罠が無いか点検しながらの進行なので、通常よりも多少速度は減
退している。
「う~~む。思わずこっちの通路に入っちまったのはいいが、最初の鍵がまさか
こっちにあるとは…いかないだろうなぁ」
 一人であることの寂しさを紛らわせるためか、独白するギゼー。それでも、虚
しさは募るばかりである。
 とはいえギゼーは、自分が一人である事の寂しさを紛らわせる為の努力を怠ら
なかった。即ち、別れて通路に走って行った、二人の仲間の事を考えながら通路
を歩いていた。自殺志願のジュヴィアのこと、海竜族で世間知らずなお姫様のリ
ングのこと。リングは、大丈夫だ。あの明るく前向きな性格ならばどんな苦境も
乗り越えられるだろう。だが、ジュヴィアは?ジュヴィアは大丈夫だろうか?と
もすると手折れそうな儚さをも、その強靭さの内に秘めている少女に対し、いつ
しかギゼーは何か特別な感情を抱いていた。それは、父親が娘に対し抱く感情と
同質のものだ。ジュヴィアは、ギゼーにとってはクロースと同じくらい大切な存
在、仲間だった。少なくとも、そう感じてはいた。
 そのジュヴィアが単独で行動している。リングもだが、彼にとって気が気でな
い事この上なかった。
(ジュヴィアちゃんも、リングちゃんも、一人で大丈夫かなぁ?)

  ☆★

 どれくらい進んだだろうか。
 気がつくと、目の前に扉が立ちはだかっていた。
 片開きの、何も特別感を持たせない極々普通の扉だ。
 唯一つ普通と違うものを上げるとすれば、通路と同じ素材―白い岩で出来てい
る所だ。
 然して豪奢な装飾も無く、周りと一体化した違和感の無さ過ぎる扉。
 ギゼーは、その扉の存在自体に違和感を感じていた。
(……?何だ?この違和感…?此処に入ってからずっと感じていたが…、この迷
宮…、白過ぎる。まるで、全てにおいて白を基調としているようだ…。不思議だ
…)
 ギゼーは持ち前の慎重さを発揮して、目の前の扉に罠が無いか調べ始めた。
「へへへっ、こんな時こそ、トレジャーハンター七つ道具が役に立つんだよなぁ」
 誰もいない空間で、得意満面に独白する。誰もいないという事実が、念頭から
外れたように。そして、言った後で寂然と後悔に苛まされるのだった。
 通常は。
 だが、今の独白を言い終わる少し前、扉にそっと手を掛けた瞬間に扉は自動的
に周囲の壁の中へと吸い込まれて行ったのだった。
「うわっととっ!」
 ギゼーは焦って、室内に数メートル程入った所で蹈鞴(たたら)を踏む。

『ククククッ、ハハハハッ。…ようこそ。白の迷宮へ』

 何所からとも無く嗤笑(ししょう)が響くと、ギゼーを嘲るような陳腐な台詞が
壁の透き間という透き間、室内のいたる所から漏れ出てきた。誰もいない、無人
の部屋。余計な装飾品など何も無い、唯一つ中央に台座があるだけの空間で。
「誰だ!!」
 ギゼーが周囲を見回して誰何の声を張り上げても無駄だった。
 見えるのは、唯々白い空間と、壁と同じ材質で出来た瀟洒な装飾を施された台
座だけだった。
 その台座を目にした時、不意にこの迷宮に纏わる詩の一節が脳裏に過(よ)ぎる。

――一つとなりたる二つの鍵

(鍵……?)
 何かに思い至り、ギゼーは音も立てずに台座に近付いて行った。

 台座の手前、数メートルという所でギゼーはやむを得ず止らざるを得ない事態
に出くわす。
 突如として、男の姿をした何かが何も無い空間から湧き出てきたのだ。
 目の前に立ちはだかった男は、哄笑と共にのたまった。
『おおっとぉ!鍵は暫くお預けだよぉ、ギゼーくぅん。君がゲームに勝ってから
だぁ』
「何っ!ゲームって…!?それ以前に、なぜ俺の名前を知っている!?」
 ギゼーが目の前の男を直視する。
 そのギゼーの視線の先で、男は不可思議な容姿で宙を漂っていた。
 そう、あえて喩えるなら“影”そのものだった。
 そいつは、顔が―顔と呼べる部分が半分しかなかった。半分は幹竹割にされた
中年紳士のそれだが、もう半分は何も無い、漆黒の空間だけが型抜きされていた
。黒のシルクハットをちょこんと乗せて。その不気味としか言い様の無い頭部に
、夜を落とした様な漆黒のビロード地のマントと、同色の手袋とブーツがそれぞ
れ宙に浮いて漂っていた。時折言葉に合わせて動きを見せるが、それはあたかも
実体が在るかのように優雅な仕草だった。
『…君の事は全て知っている。君の仲間の事も…ね』
 中年紳士の面の目が細められる。微笑んでいるのだ。これから起こるであろう
、不快な事態を想像して。
 それを察知して、ギゼーは歯軋りをする。仲間の不幸を思い、その身柄の無事
を案じているのだ。
「……っ、仲間を…、リングちゃん達をどうする気だ!」
 男は―影の男は嗤っていた。その嗤い声を聞いていると、気が狂ってしまう様
だった。
『リングちゃん、リングちゃんかぁ。ハハハハハッ』
(ううっ、頭が、頭が痛くなって来た…)
 ギゼーが頭痛に苛まされて目を瞑っていると、何処からとも無く呪文の詠唱が
聞こえて来た。驚くべき事に、影の男が呪文を唱えているのだ。何の呪文かは分
からないが、朗々とした響きが流れ聞こえてくる。男の足元に、魔方陣のような
光の輪が浮かび上がり、一気に呪文は加速されていく。
 そして―。

 いつの間にか、ギゼーの足元から光が放出されていた。
 波打つ蛇の如く、円を描くように疾るその光の動きに呼応するかのごとく、部
屋全体が暗転していった。ギゼーの意識が暗転した訳ではない。彼自身の意識は
、確かさを保っていた。だが、部屋全体が奇妙に歪み、まるで映画の場面が入れ
替わるかのように景色が変転して行くのだ。
「……………っ!」
 何かが変だ。何かが、これから起ころうとしている。それは、自分にとって災
厄以外の何者でもない。ギゼーは咄嗟にそう、直感していた。しかし、動くに動
けない。鈍痛が酷く、思うように身体を動かせないのが理由の一つ。足元から競
り上がって来るプレッシャーに、今動けば間違いなく死ぬであろう事が想定され
るのが理由の二つ目だ。
 動けないでいるギゼーを余所に、加速度的に早まっていく呪文の詠唱。歌うよ
うに、滑らかに紡がれていく。
 やがて、影の男は呪文を唱え終えた。
 途端、周囲の情景が溶けて流れてしまった。漆黒の数秒間を経た後、景色は再
構成されていく。まるで、塗料を塗りたくるかのごとく、それは迅速に行われて
いった。
 足元から今まであった足場が消え、新たなる足場が構築される。
 そこは、恐怖の象徴だった。
 今、ギゼーの足元にあるのは、この世で最も不安定な足場―林立する岩柱だっ
た。その更に下方には紅蓮に猛るマグマが見え隠れしている。暗い室内と、真紅
の光と熱気が充分に死地を演出していた。ギゼーは、不本意ながらも足元が震え
るのを覚えた。
『さあ、君はこの恐怖を超えられるカナ?クククッ』
 影の男は含み笑いを哄笑に変え、ギゼーに道を示した。
『ここを越えれば、台座は目の前だ。台座まで辿り着ければ、“鍵”は君の物だ
ヨ。フフフッ。まあ、無事に辿り着ければの話だがね』
 不吉な言葉と、哄笑を残して影の男は現れた時と同様に忽然と消えた。
 後に残されたのはギゼーと、ギゼーの目の前に広がる不確かな足場―林立する
岩柱とその向こうに見える台座だけだった。
 かくして、“安全で何も無い部屋”は、一瞬で“恐怖の死地”へと変貌したの
だった―。


2007/02/14 23:04 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング
33.ガラスの涙/リング(果南)
--------------------------------------------------------------------------------
パーティ リング・ギゼー
場所 白の遺跡内部
NPC なし
___________________________________

 ゆっくりと、リングは目を開いた。
「う・・・ん・・」
ここはどこなのだろう。意識を取り戻したリングは、一瞬、今いる所がわから
なくなり躊躇した。しかし、起き上がるため手を触れた床の冷たさに、はっと
気がついた。急いで近くに落ちていた眼鏡を拾い、掛けなおす。
(そうでした・・・、ここは遺跡の中です・・・)
眼鏡をかけて辺りを見回すと、少し今までの状況が整理できてきた。周りにあ
る鏡は全て、大きな亀裂が入っていたり、あるいは粉々に壊されていたり、全
てひどく破壊されている。あたりには鏡のかけらが散らばり、きらきらと輝く
さまは少し雪に似ていた。
(そうでした・・・私、このお部屋で不思議な声を聞いて、私がたくさん出て
きて・・・)
ん?とリングは首をかしげた。その先を覚えていない。不思議な声の挑発に、
思わず頭に血が上って、<私>のうちの一人の胸倉を掴んで・・・。
 その先を思い出そうとすると、ずきずきと頭が痛んだ。
 
 オモイダスナ

誰かが囁いているように。

 オモイダシタラ オマエハコワレルゾ

びくっとリングは体を痙攣させた。そして、ごく自然に、その記憶をデリート
させる道を選んだ。無意識のうちに。逃げるように。
 思い出すことをやめ、意識を辺りの風景に向けたリングは、ふいに、散らば
る鏡の破片の中に、鏡の破片ではない物体を見つけた。
「何でしょう・・・?」
きらきらと輝く破片の中で、それだけ、微妙に輝き具合が違う。と、いっても
普通の人間なら見落としてしまうほどの微妙な光の屈折の違いだったが。かし
ゃかしゃと、破片を踏みしだいて歩き、リングはそれを手に取った。
「鍵・・・ですか・・・?」
 それは、一見ガラスで出来た鍵だった。
「鍵・・・、何故ここにあるのでしょう・・?」
その鍵の表面は研磨剤で磨いたようにつるつるしていた。どう見ても人工的に
作られたものだ。ふいに、リングの頭に唄の一節がよぎった。

 一つとなりたる 二つの鍵・・・。

 リングはそれを持っていくことに決めた。なぜだか、その鍵はこの遺跡にと
ても関係のあるものに思えたからだ。それにしても、この鍵はリングの手の中
でつるつると光り輝き、その透明さは、リングに何故か涙をイメージさせた。
 その<涙>と、何故か、さっき、自分が胸倉を掴んだ<自分>の姿がダブ
る。
(これは、『私』の涙・・・)
その考えにリングは自分で考えたことにもかかわらずドキッとした。
(何故ですか、私は泣いてなどいません。悲しくなんか、ないんです)
その言葉に、心の底で<チガウ>と反応する自分がいたが、リングはその反応
も無視した。
(違いません!私は幸せです。私は・・・)
 ガラスの鍵は、そんなリングを否定するように、現実を象徴するように、少
し意地悪くきらきらと光り輝いていた。

2007/02/14 23:05 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング
34.『白の遺跡攻略!―その2―』/ギゼー(葉月瞬)
PC:ギゼー (リング
NPC:影の男
場所:白の遺跡
*++-----------++**++-----------++**++-----------++*

「ごくりっ」
 マグマの煮え滾る音だけが響く空間に、唯一無二の生物であるギゼーの生唾
を飲み込む音だけがいやに大きく聞こえる。思った以上に大きかったその音に
、ギゼーは一瞬背中に悪寒が走るのを覚えた。
 最悪、自分は死ぬだろう。直ぐ下に広がるマグマの海にダイブして。その恐
怖にギゼーの心は囚われていた。
 そして、ギゼーは恐怖と共に焦りに似た感情もまた、抱いていた。
 自分は兎も角、リングやジュヴィアにもしもの事があったら…。未だ年端も
いかない少女達が危険な目に遭っているとしたらと、考えただけでゾッとする
。それにあの黒い紳士の言葉も重なって、早く此処を突破して二人を助けに行
かなければと考えれば、焦りも生じて来るというものだ。
「フッ……、俺、死ぬかもな……」
 予感がギゼーの背に走った。でも、何時までもこうしていても仕方が無いと
言うことも、彼は知っている。
「ええいっ!どうせ死ぬなら……ままよっ!!」
 意を決して、ギゼーは思い切り良く跳躍した。
 見えない未来に向かって―。

  『勇気を示せば、道は開かれる』

「えっ!?」
 ギゼーは、ふと誰かの声が聞こえたような気がした。いや、彼の脳裏に“声
”が響いたのだ。
「……!?誰だ!誰か、其処に居るのか!?」
 辺りを見回してみても、誰も居ない。
 錯覚か?そう思い始めた時、異変が起こった。
 道が浮かび上がったのだ。マグマの上、足場が無い筈の空間に。
 “道”は硝子で出来ているかのようだった。透明で、光の加減で見えなくな
る。足を踏み出せば、脆く崩れ去りそうな。今まで目を凝らしても、注意深く
凝視しても、何も見えなかった部分に突如何者かが硝子の破片を塗したかのよ
うに、“それ”は無数の光の欠片に彩られていた。
「……?どういうことだ??」
 不意に出現した足場に着地して、誰へとも無くそう問い質すギゼー。
 しかし、兎にも角にもこれですんなりと鍵を取りに行けるのだから、こんな
所で一人で余計な詮索をしていても仕方が無い。それに、脆い足場なのでそれ
程時間を掛けていられないだろう。ギゼーは瞬時にそう判断し、最新の注意を
払って足幅と同じだけしか無い、細くて脆い足場を渡って行った。
 不思議と、その足場の存在感だけで恐怖は薄らいでいた。地に足が付いてい
る、と言う事の安堵感を改めて実感したギゼーであった。

  ◆◇◆

 漸くの思いで、台座の元へと辿り着いたギゼー。己の中の恐怖と長時間に渡
り戦って来た為であろう、額には玉のような汗が無数に光り、肩を上下させ息
を弾ませていた。
 ギゼーは今、疲労困憊の局地にいた。極度の緊張状態の上で、自分の足幅し
か幅が無い一本道を熱く滾る熱気に当てられながら歩いて来たのである。ギゼ
ーは時間の流れが止っているように感じた。永遠と思える一瞬を体感したので
ある。疲労も蓄積すると言うものだ。
 ギゼーの目の前にある台座には、氷で出来た“鍵”が静かに横たわっていた

「鍵……氷で出来ているのか?……?こんなに熱い部屋の中にあって、溶けて
いる様子も無い…。魔法の氷か。……ま、どうでも良いか。兎も角これさえあ
れば、先へ進めるからな」
 手にした“鍵”は冷たく、心地よかった。

「!?」
 ギゼーが“鍵”を手にした途端、辺りの風景が一変した。
 今まであった炎の色に彩られた室内から、突如として本来の室内―白一色に
塗り込められた室内に変化したのだ。やがて、何処からとも無く含み笑いが響
いてくる。
「クククッ。おめでとう、ギゼー君」
 先程の“影の男”が黒い染みが広がるように沸き出て言った。
「……!?お前はっ!なんのつもりだっっ!」
 ギゼーは“影の男”に向かって、叫び返す。恐怖の色を隠そうとして、隠し
切れていないと言うのは皮肉か。
「どうもこうも……ねぇ」
 “影の男”は大仰に肩を竦めて見せる。まるで、ギゼーのことを馬鹿にして
いるようにしか見えない。そう思われても仕方が無い行動を、彼は解ってやっ
ているのだ。
「どうもこうも………って、俺達に何か用があって、ちょっかい出しているん
だろう?何の用があるんだよ。それとも……、戦闘するならするでハッキリし
て欲しいんだけどな……」
 そのようなことを言っても、ハッキリ言ってギゼーには戦闘をして勝つだけ
の自信は無かった。だが、相手の真意がわからない今、挑発して相手に手持ち
のカードを切らせようとしているのだ。
「………フフンッ。そんなことを言って、この私を、挑発しても無駄だよ。君
達とは戦わない。今は未だ…ね。……それに、君としても此処で戦いたくは、
無いようだしね。フフフ」
 図星を付かれたギゼーは、更に焦りの色を濃くする。自分は、本当にこいつ
から逃げられるのか。此処から無事に抜け出し、リングと合流することが出来
るのか。
 暫く逡巡した結果、ギゼーは賭けに出ることにした。
「…………へぇ、じゃあ、今は戦うことはないって事か。それじゃ、俺がこう
いうことをしても、お前は追撃してこないって事…だよな」
 ギゼーは“影の男”にそう断言すると、先程手に取った“氷の鍵”をポケッ
トに大事そうに仕舞い、徐に出口に向かって全力疾走した。

  ◆◇◆

 結局、“影の男”は何もしてこなかった。
 何も。
 ただ、ギゼーが出入り口から擦り抜けて行くのを黙って見ているだけだった
。ギゼーの方も、納得ずくの行動だったから、そんな“影の男”を目の当たり
にしても動揺することは無かった。
 再び果てしなく続く白い空間を、疾駆するギゼー。
 目指すはリングとの合流だ。
(恐らくリングちゃんも“鍵”を手にしている筈だから…それと合わせて…)

――一つとなりたる二つの“鍵”

 再び詩の一節が蘇る。
(……?同時に使うということか?それとも……)

2007/02/14 23:06 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング
35.それゆけ!ちびちびギゼー君/リング(果南)
PC リング・ギゼー  NPC 影の男・ちびちびギゼー君  場所 白の遺跡
___________________________________

 リングが次の部屋へと続くドアを開けると、そこは広間になっていた。一面
真っ白で、何もない空間が目に痛い。
「ギゼーさん!!」
 広間の真ん中に見知った顔を見つけ、リングはぱあっと顔を輝かせると、ギ
ゼーのそばに駆け寄った。
「ギゼーさんっ、よかったです・・・、ご無事だったんですね!」
「リングちゃん!」
 ギゼーのほうも、顔いっぱいに安堵の表情を表して喜ぶ。
「ギゼーさん、お怪我はありませんか?」
「おう、ま、怪我はないけどさ、全く、大変な目にあっちまったぜ・・・。気
持ちわりぃ変な男にはあっちまうしな・・・。リングちゃんは?」
「私は・・・」
リングの表情が微かに翳った。あの出来事を、ギゼーに話すのにはやはり抵抗
があるらしい。しかし、話すことを促すように見つめるギゼーに、仕方なくリ
ングが微かに口を開こうとした、その時、
「くくくっ、オメデトウ、二人とも。みごと<二つの鍵>を手に入れたねぇ」
二人の目の前に、ぼわーんと、まるで黒い煙がゆっくり立ち昇るように、例の
「影の男」が現れた。
「なっ・・・!お前っ・・・!」
「ギゼーさん、この人が例の・・・!」
 ギゼーは腰のナイフに手を伸ばし、リングはすっと体を後ろに引き、反射的
に二人とも身構える。
「おいおいおい、そりゃないんじゃないか?私は次の部屋に続く道を教えてあ
げたいだけなのに」
 影の男はオーバーに目の前で手を振ってみせる。
「どういうことだ?」
「こういうことさ。<一つとなりたる、二つの鍵>・・・」
 これは例の詩の一説・・・!と、ギゼーが感じた直後、
「うわっ!!」
 ギゼーは唖然として目を見開いた。ポケットがびっしょりだ。と、いうこと
は・・・
「鍵が・・・」
 ギゼーがポケットに入れておいた鍵は、跡形もなく消えていた。大方、あの
男の仕業で、解けて液体になってしまったのだ。そうすると、今、ギゼーのポ
ケットから滴っている水、それが元「鍵」の姿ということになる。
「てめぇっ!何を!!」
「まあそう怒る前に、液体を良く見てもらいたいね。私は、その鍵の封印をと
いただけだよ」
「なっ・・・封印・・・?」
 男の言葉に、ギゼーはポケットから流れて、床に滴った水を見つめた。
(何だ、別に、何も・・・)
 と、床に滴った水がさらっと波打ったように見えた。
「!!」
「あ、もしかしてこれが<アメーバ>という生き物ですか?けれど鍵から生ま
れるなんて初めて知りました~」
「フフッ、残念ながらもっと高度な生き物だよ」
 ギゼーの目の前で、その水はぐらぐらと動き始めると、むくむくと何かの生
き物の姿を模り始めた。そして出来上がった姿は・・・
「わあ、可愛らしいですね~」
 リングはその場にちょこんとかがむと、嬉しそうにその生き物を見つめた。
ギゼーは唖然として見つめている。
「なっ・・・、俺っ!?」
 それは、水で出来た、体長約十センチの<ギゼー>だった。姿かたちも本人
そのままだ。
「あのっ、このギゼーさんはお話は出来るんですか?」
「にゅー」
「残念ながらそれしか話せないよ」
 にゅーにゅー、といいながらちびちび<ギゼー君>はぴょんぴょこ飛び跳ね
ている。
「その水は<形状記憶水>と言ってね、触った者の姿と性質をコピーするん
だ。どうだい、君そっくりだろう?」
 影の男は、にやにやしながらそう言ってギゼーに話しかける。
「なっ・・・!」
思わずギゼーは赤面する。
「なっ・・・、そんな俺を作って一体何しようって言うんだよ!!」
「いいじゃないですか、すごく可愛らしいですよ?特にその話し方・・・」
「リングちゃん!!」
 ギゼーに怒られ、リングはしゅんと下を向いた。
「すみません・・・」
「とにかく、どうするんだよ、コレ、何か意味があってしたことなのか?」
「大アリだよ、その子にはここを抜けてもらう」
 男がそういうと、ふわっと、目の前の壁が透明になった。そこには一面にア
スレチック・・・ただしミニチュアサイズ・・・が、広がっていた。アスレチ
ックの向こうには、一枚の大きな扉がある。そしてその扉には鍵穴が。
「なるほど、分かりました。つまりこの<ギゼーさん>に私の鍵をもたせて、
向こうの扉を開けるんですね」
 リングが自分も、ポケットからガラスの鍵を取り出して言う。
「フフッ、そういうことだ。じゃあ、がんばりたまえ、<ギゼー君>」
「にゅー!」
 ちびちびギゼー君は、元気よく返事をした。

2007/02/14 23:08 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング

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