PC:ギゼー (リング ジュヴィア
NPC:影の男
場所:白の遺跡
*++-----------++**++-----------++**++-----------++*
かくて城門は開かれた。
未だ嘗て誰一人、開ける事の叶わなかった白き城門が。
結界は解かれ、古の迷宮と現の世界とが融和した瞬間であった―。
淡く光る白銀の通路に一対の靴音が響く。
石壁に揺れる影も一人分のものだ。
ジュヴィア、リングと別れ一人右端の通路にひた走って行った、ギゼーであっ
た。通路自体に罠が無いか点検しながらの進行なので、通常よりも多少速度は減
退している。
「う~~む。思わずこっちの通路に入っちまったのはいいが、最初の鍵がまさか
こっちにあるとは…いかないだろうなぁ」
一人であることの寂しさを紛らわせるためか、独白するギゼー。それでも、虚
しさは募るばかりである。
とはいえギゼーは、自分が一人である事の寂しさを紛らわせる為の努力を怠ら
なかった。即ち、別れて通路に走って行った、二人の仲間の事を考えながら通路
を歩いていた。自殺志願のジュヴィアのこと、海竜族で世間知らずなお姫様のリ
ングのこと。リングは、大丈夫だ。あの明るく前向きな性格ならばどんな苦境も
乗り越えられるだろう。だが、ジュヴィアは?ジュヴィアは大丈夫だろうか?と
もすると手折れそうな儚さをも、その強靭さの内に秘めている少女に対し、いつ
しかギゼーは何か特別な感情を抱いていた。それは、父親が娘に対し抱く感情と
同質のものだ。ジュヴィアは、ギゼーにとってはクロースと同じくらい大切な存
在、仲間だった。少なくとも、そう感じてはいた。
そのジュヴィアが単独で行動している。リングもだが、彼にとって気が気でな
い事この上なかった。
(ジュヴィアちゃんも、リングちゃんも、一人で大丈夫かなぁ?)
☆★
どれくらい進んだだろうか。
気がつくと、目の前に扉が立ちはだかっていた。
片開きの、何も特別感を持たせない極々普通の扉だ。
唯一つ普通と違うものを上げるとすれば、通路と同じ素材―白い岩で出来てい
る所だ。
然して豪奢な装飾も無く、周りと一体化した違和感の無さ過ぎる扉。
ギゼーは、その扉の存在自体に違和感を感じていた。
(……?何だ?この違和感…?此処に入ってからずっと感じていたが…、この迷
宮…、白過ぎる。まるで、全てにおいて白を基調としているようだ…。不思議だ
…)
ギゼーは持ち前の慎重さを発揮して、目の前の扉に罠が無いか調べ始めた。
「へへへっ、こんな時こそ、トレジャーハンター七つ道具が役に立つんだよなぁ」
誰もいない空間で、得意満面に独白する。誰もいないという事実が、念頭から
外れたように。そして、言った後で寂然と後悔に苛まされるのだった。
通常は。
だが、今の独白を言い終わる少し前、扉にそっと手を掛けた瞬間に扉は自動的
に周囲の壁の中へと吸い込まれて行ったのだった。
「うわっととっ!」
ギゼーは焦って、室内に数メートル程入った所で蹈鞴(たたら)を踏む。
『ククククッ、ハハハハッ。…ようこそ。白の迷宮へ』
何所からとも無く嗤笑(ししょう)が響くと、ギゼーを嘲るような陳腐な台詞が
壁の透き間という透き間、室内のいたる所から漏れ出てきた。誰もいない、無人
の部屋。余計な装飾品など何も無い、唯一つ中央に台座があるだけの空間で。
「誰だ!!」
ギゼーが周囲を見回して誰何の声を張り上げても無駄だった。
見えるのは、唯々白い空間と、壁と同じ材質で出来た瀟洒な装飾を施された台
座だけだった。
その台座を目にした時、不意にこの迷宮に纏わる詩の一節が脳裏に過(よ)ぎる。
――一つとなりたる二つの鍵
(鍵……?)
何かに思い至り、ギゼーは音も立てずに台座に近付いて行った。
台座の手前、数メートルという所でギゼーはやむを得ず止らざるを得ない事態
に出くわす。
突如として、男の姿をした何かが何も無い空間から湧き出てきたのだ。
目の前に立ちはだかった男は、哄笑と共にのたまった。
『おおっとぉ!鍵は暫くお預けだよぉ、ギゼーくぅん。君がゲームに勝ってから
だぁ』
「何っ!ゲームって…!?それ以前に、なぜ俺の名前を知っている!?」
ギゼーが目の前の男を直視する。
そのギゼーの視線の先で、男は不可思議な容姿で宙を漂っていた。
そう、あえて喩えるなら“影”そのものだった。
そいつは、顔が―顔と呼べる部分が半分しかなかった。半分は幹竹割にされた
中年紳士のそれだが、もう半分は何も無い、漆黒の空間だけが型抜きされていた
。黒のシルクハットをちょこんと乗せて。その不気味としか言い様の無い頭部に
、夜を落とした様な漆黒のビロード地のマントと、同色の手袋とブーツがそれぞ
れ宙に浮いて漂っていた。時折言葉に合わせて動きを見せるが、それはあたかも
実体が在るかのように優雅な仕草だった。
『…君の事は全て知っている。君の仲間の事も…ね』
中年紳士の面の目が細められる。微笑んでいるのだ。これから起こるであろう
、不快な事態を想像して。
それを察知して、ギゼーは歯軋りをする。仲間の不幸を思い、その身柄の無事
を案じているのだ。
「……っ、仲間を…、リングちゃん達をどうする気だ!」
男は―影の男は嗤っていた。その嗤い声を聞いていると、気が狂ってしまう様
だった。
『リングちゃん、リングちゃんかぁ。ハハハハハッ』
(ううっ、頭が、頭が痛くなって来た…)
ギゼーが頭痛に苛まされて目を瞑っていると、何処からとも無く呪文の詠唱が
聞こえて来た。驚くべき事に、影の男が呪文を唱えているのだ。何の呪文かは分
からないが、朗々とした響きが流れ聞こえてくる。男の足元に、魔方陣のような
光の輪が浮かび上がり、一気に呪文は加速されていく。
そして―。
いつの間にか、ギゼーの足元から光が放出されていた。
波打つ蛇の如く、円を描くように疾るその光の動きに呼応するかのごとく、部
屋全体が暗転していった。ギゼーの意識が暗転した訳ではない。彼自身の意識は
、確かさを保っていた。だが、部屋全体が奇妙に歪み、まるで映画の場面が入れ
替わるかのように景色が変転して行くのだ。
「……………っ!」
何かが変だ。何かが、これから起ころうとしている。それは、自分にとって災
厄以外の何者でもない。ギゼーは咄嗟にそう、直感していた。しかし、動くに動
けない。鈍痛が酷く、思うように身体を動かせないのが理由の一つ。足元から競
り上がって来るプレッシャーに、今動けば間違いなく死ぬであろう事が想定され
るのが理由の二つ目だ。
動けないでいるギゼーを余所に、加速度的に早まっていく呪文の詠唱。歌うよ
うに、滑らかに紡がれていく。
やがて、影の男は呪文を唱え終えた。
途端、周囲の情景が溶けて流れてしまった。漆黒の数秒間を経た後、景色は再
構成されていく。まるで、塗料を塗りたくるかのごとく、それは迅速に行われて
いった。
足元から今まであった足場が消え、新たなる足場が構築される。
そこは、恐怖の象徴だった。
今、ギゼーの足元にあるのは、この世で最も不安定な足場―林立する岩柱だっ
た。その更に下方には紅蓮に猛るマグマが見え隠れしている。暗い室内と、真紅
の光と熱気が充分に死地を演出していた。ギゼーは、不本意ながらも足元が震え
るのを覚えた。
『さあ、君はこの恐怖を超えられるカナ?クククッ』
影の男は含み笑いを哄笑に変え、ギゼーに道を示した。
『ここを越えれば、台座は目の前だ。台座まで辿り着ければ、“鍵”は君の物だ
ヨ。フフフッ。まあ、無事に辿り着ければの話だがね』
不吉な言葉と、哄笑を残して影の男は現れた時と同様に忽然と消えた。
後に残されたのはギゼーと、ギゼーの目の前に広がる不確かな足場―林立する
岩柱とその向こうに見える台座だけだった。
かくして、“安全で何も無い部屋”は、一瞬で“恐怖の死地”へと変貌したの
だった―。
NPC:影の男
場所:白の遺跡
*++-----------++**++-----------++**++-----------++*
かくて城門は開かれた。
未だ嘗て誰一人、開ける事の叶わなかった白き城門が。
結界は解かれ、古の迷宮と現の世界とが融和した瞬間であった―。
淡く光る白銀の通路に一対の靴音が響く。
石壁に揺れる影も一人分のものだ。
ジュヴィア、リングと別れ一人右端の通路にひた走って行った、ギゼーであっ
た。通路自体に罠が無いか点検しながらの進行なので、通常よりも多少速度は減
退している。
「う~~む。思わずこっちの通路に入っちまったのはいいが、最初の鍵がまさか
こっちにあるとは…いかないだろうなぁ」
一人であることの寂しさを紛らわせるためか、独白するギゼー。それでも、虚
しさは募るばかりである。
とはいえギゼーは、自分が一人である事の寂しさを紛らわせる為の努力を怠ら
なかった。即ち、別れて通路に走って行った、二人の仲間の事を考えながら通路
を歩いていた。自殺志願のジュヴィアのこと、海竜族で世間知らずなお姫様のリ
ングのこと。リングは、大丈夫だ。あの明るく前向きな性格ならばどんな苦境も
乗り越えられるだろう。だが、ジュヴィアは?ジュヴィアは大丈夫だろうか?と
もすると手折れそうな儚さをも、その強靭さの内に秘めている少女に対し、いつ
しかギゼーは何か特別な感情を抱いていた。それは、父親が娘に対し抱く感情と
同質のものだ。ジュヴィアは、ギゼーにとってはクロースと同じくらい大切な存
在、仲間だった。少なくとも、そう感じてはいた。
そのジュヴィアが単独で行動している。リングもだが、彼にとって気が気でな
い事この上なかった。
(ジュヴィアちゃんも、リングちゃんも、一人で大丈夫かなぁ?)
☆★
どれくらい進んだだろうか。
気がつくと、目の前に扉が立ちはだかっていた。
片開きの、何も特別感を持たせない極々普通の扉だ。
唯一つ普通と違うものを上げるとすれば、通路と同じ素材―白い岩で出来てい
る所だ。
然して豪奢な装飾も無く、周りと一体化した違和感の無さ過ぎる扉。
ギゼーは、その扉の存在自体に違和感を感じていた。
(……?何だ?この違和感…?此処に入ってからずっと感じていたが…、この迷
宮…、白過ぎる。まるで、全てにおいて白を基調としているようだ…。不思議だ
…)
ギゼーは持ち前の慎重さを発揮して、目の前の扉に罠が無いか調べ始めた。
「へへへっ、こんな時こそ、トレジャーハンター七つ道具が役に立つんだよなぁ」
誰もいない空間で、得意満面に独白する。誰もいないという事実が、念頭から
外れたように。そして、言った後で寂然と後悔に苛まされるのだった。
通常は。
だが、今の独白を言い終わる少し前、扉にそっと手を掛けた瞬間に扉は自動的
に周囲の壁の中へと吸い込まれて行ったのだった。
「うわっととっ!」
ギゼーは焦って、室内に数メートル程入った所で蹈鞴(たたら)を踏む。
『ククククッ、ハハハハッ。…ようこそ。白の迷宮へ』
何所からとも無く嗤笑(ししょう)が響くと、ギゼーを嘲るような陳腐な台詞が
壁の透き間という透き間、室内のいたる所から漏れ出てきた。誰もいない、無人
の部屋。余計な装飾品など何も無い、唯一つ中央に台座があるだけの空間で。
「誰だ!!」
ギゼーが周囲を見回して誰何の声を張り上げても無駄だった。
見えるのは、唯々白い空間と、壁と同じ材質で出来た瀟洒な装飾を施された台
座だけだった。
その台座を目にした時、不意にこの迷宮に纏わる詩の一節が脳裏に過(よ)ぎる。
――一つとなりたる二つの鍵
(鍵……?)
何かに思い至り、ギゼーは音も立てずに台座に近付いて行った。
台座の手前、数メートルという所でギゼーはやむを得ず止らざるを得ない事態
に出くわす。
突如として、男の姿をした何かが何も無い空間から湧き出てきたのだ。
目の前に立ちはだかった男は、哄笑と共にのたまった。
『おおっとぉ!鍵は暫くお預けだよぉ、ギゼーくぅん。君がゲームに勝ってから
だぁ』
「何っ!ゲームって…!?それ以前に、なぜ俺の名前を知っている!?」
ギゼーが目の前の男を直視する。
そのギゼーの視線の先で、男は不可思議な容姿で宙を漂っていた。
そう、あえて喩えるなら“影”そのものだった。
そいつは、顔が―顔と呼べる部分が半分しかなかった。半分は幹竹割にされた
中年紳士のそれだが、もう半分は何も無い、漆黒の空間だけが型抜きされていた
。黒のシルクハットをちょこんと乗せて。その不気味としか言い様の無い頭部に
、夜を落とした様な漆黒のビロード地のマントと、同色の手袋とブーツがそれぞ
れ宙に浮いて漂っていた。時折言葉に合わせて動きを見せるが、それはあたかも
実体が在るかのように優雅な仕草だった。
『…君の事は全て知っている。君の仲間の事も…ね』
中年紳士の面の目が細められる。微笑んでいるのだ。これから起こるであろう
、不快な事態を想像して。
それを察知して、ギゼーは歯軋りをする。仲間の不幸を思い、その身柄の無事
を案じているのだ。
「……っ、仲間を…、リングちゃん達をどうする気だ!」
男は―影の男は嗤っていた。その嗤い声を聞いていると、気が狂ってしまう様
だった。
『リングちゃん、リングちゃんかぁ。ハハハハハッ』
(ううっ、頭が、頭が痛くなって来た…)
ギゼーが頭痛に苛まされて目を瞑っていると、何処からとも無く呪文の詠唱が
聞こえて来た。驚くべき事に、影の男が呪文を唱えているのだ。何の呪文かは分
からないが、朗々とした響きが流れ聞こえてくる。男の足元に、魔方陣のような
光の輪が浮かび上がり、一気に呪文は加速されていく。
そして―。
いつの間にか、ギゼーの足元から光が放出されていた。
波打つ蛇の如く、円を描くように疾るその光の動きに呼応するかのごとく、部
屋全体が暗転していった。ギゼーの意識が暗転した訳ではない。彼自身の意識は
、確かさを保っていた。だが、部屋全体が奇妙に歪み、まるで映画の場面が入れ
替わるかのように景色が変転して行くのだ。
「……………っ!」
何かが変だ。何かが、これから起ころうとしている。それは、自分にとって災
厄以外の何者でもない。ギゼーは咄嗟にそう、直感していた。しかし、動くに動
けない。鈍痛が酷く、思うように身体を動かせないのが理由の一つ。足元から競
り上がって来るプレッシャーに、今動けば間違いなく死ぬであろう事が想定され
るのが理由の二つ目だ。
動けないでいるギゼーを余所に、加速度的に早まっていく呪文の詠唱。歌うよ
うに、滑らかに紡がれていく。
やがて、影の男は呪文を唱え終えた。
途端、周囲の情景が溶けて流れてしまった。漆黒の数秒間を経た後、景色は再
構成されていく。まるで、塗料を塗りたくるかのごとく、それは迅速に行われて
いった。
足元から今まであった足場が消え、新たなる足場が構築される。
そこは、恐怖の象徴だった。
今、ギゼーの足元にあるのは、この世で最も不安定な足場―林立する岩柱だっ
た。その更に下方には紅蓮に猛るマグマが見え隠れしている。暗い室内と、真紅
の光と熱気が充分に死地を演出していた。ギゼーは、不本意ながらも足元が震え
るのを覚えた。
『さあ、君はこの恐怖を超えられるカナ?クククッ』
影の男は含み笑いを哄笑に変え、ギゼーに道を示した。
『ここを越えれば、台座は目の前だ。台座まで辿り着ければ、“鍵”は君の物だ
ヨ。フフフッ。まあ、無事に辿り着ければの話だがね』
不吉な言葉と、哄笑を残して影の男は現れた時と同様に忽然と消えた。
後に残されたのはギゼーと、ギゼーの目の前に広がる不確かな足場―林立する
岩柱とその向こうに見える台座だけだった。
かくして、“安全で何も無い部屋”は、一瞬で“恐怖の死地”へと変貌したの
だった―。
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