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2024/11/01 10:06 |
46.「雪の女王」/ギゼー(葉月瞬)
PC:ギゼー、リング
NPC:メデッタ、春姫(ハルキ)、冬姫(ユキ)、
場所:白の遺跡(ソフィニア北)
---------------------------------------------------------------------

「リングちゃん、今の……」

 余裕の笑みを見せ、霞にも似た霧の中から一寸した仕事をやり終えたように
出て来たリングに対し最初に声を掛けたのは、<聖書>の力を目の当たりに
し、衝撃を受けたギゼーだった。

「ええ。今のが私の力の一つ、<聖書>です。……驚かせてしまって、すいま
せんでした」

 リングは微笑みの中に微かな悲しみを浮かべ、先程見せた強大な力の説明を
口頭に上らせた。自分の中に聖書が封印されていること。それを取り出し、一
説を朗読することにより聖書の内に秘められた魔法的な力を解放できる事。
 その話の始終、リングは声に哀愁を漂わせていた。

「……リングは、その<聖書>の力を余り良くは思っていないのかね?」
「……はい」

 リングは己の力に対する想いを伏目がちに打ち明けた。
 力などあるから、他人を傷つけてしまうのだと。自分は戦いなど望んでいな
い。もっと平和的な解決方法がきっと、ある筈だと。人間は、言葉を重ねれば
きっと解り合えるとも言っていた。リングの平和主義的な思考が、ひしひしと
伝わってくるようだ。

「だけど、平和的に解決できない問題というのもあるんだよ。リングちゃん」

 むしろ其方の方が世界中に蔓延っていたりする。その事を半分でも解っても
らおうと、ギゼーは口を開く。
 今まで、数多くの血生臭い事を体験してきた。
 自分なりに、数多の不正を目撃しても来た。
 世の中の表と裏、全くの正反対だが互いに無くては成らない物達を目の当た
りにして来たのだ。ギゼーは。戦いだって、時として必要になることもある。
まあ、平和的に解決出来るに越したことは無いが……。

「そんなに、悲しそうな顔をしないで欲しい。君の力は、きっと誰かの為にな
っているんだから。その強大な力を、誰かの盾になる為だけに使う……そんな
風に生きられたら……俺……幸せだなって、思うよ」
「……盾ですか。それもいいかもしれませんね」

 微かに笑みを浮かべるリング。
 その微笑が、自分ではなく自分を通り越した大勢の弱気者達、盾となってリ
ング自身が守るべき者達に向けられていることを、ギゼーは無意識の内に感じ
取っていた。

  ◆◇◆

「さてと。残るは、春姫(ハルキ)と冬姫(ユキ)だけだな」
「俺、思うんですけど、冬姫(ユキ)は放って置いても良いのではないでしょう
か?」

 メデッタの、駆除し切れなかった害虫を始末しようとでもするかのような口
調に、ギゼーは全く相反する様な提案を口にした。メデッタは当然不可思議な
視線をギゼーに向ける。それは、リングも同然だった。

「何故だね?」

 メデッタが不審に問うのも当然の話である。
 実際、春姫も冬姫もそれから先程リングが倒した二人の姫もギゼー達の前に
現れた時、敵として紹介されたのだ。敵以外の何者であろうというのか。その
彼女達――ギゼーが言っているのは冬姫だけだが――を擁護しようとしてい
る。それはいったい何故なのか、疑問に思わない方がおかしい。

「いいですか? 冬姫の方は俺に惚れています。それはまず間違いないでしょ
う」
「……おひ、自分で言うかフツー……」

 メデッタもリングもほぼ同時にギゼーをジト目で見る。二人とも彼の事を、
余程のナルシスだと思ったのだろう。それを察知してか、ギゼーは慌てて否定
する。

「……やっ、俺は、ただ事実を言ったまでですよー。やだなー、もー……」

 ギゼーの自己弁護は最後まで言い切れず、冷や汗に流された。
 二人のジト目攻撃は尚も続いたが、ギゼーは構わず先を続ける。

「……冬姫が俺に惚れているというのは事実でしょう。だから、彼女は別に放
って置いても、俺達にとって害にはならないと思うんです。いくらなんでも、
惚れた人間に刃を向ける様な真似はしないでしょうから。……逆にそれを利用
してやればいいんですよ。つまり、共同戦線ということですが」
「……刃を向けて来たらどうするんだね?」
「その時はその時です」
「……共同戦線……でもやっぱり戦うしかないんですね。もっと平和的に、話
し合いで解決出来る方法はないんでしょうか?」

 珍しくリングが自分の意見を明確に言ってのけている。二人は、彼女の身に
何が起こったのかと彼女を括目する。リングが少し、成長したように見えた。

「やっ、何です? 二人共。私はただ、話し合いで解決出来ないかなーと思っ
て……」
「いや、リングちゃんの言わんとしている事は大体解るよ。話し合いで解決出
来るなら、それに越した事は無いと思う。でも……見ろよ、アレ。あんな状況
で話し合いに持って行けると思うか?」

 ギゼーの指差した方向、丁度春姫と冬姫が凄絶なる死闘を繰り広げている辺
りを見遣るリング。戦いの様子を視界に納めると同時に、首を横に往復させる
リングであった。

「……だろ? 共同戦線しかないって」

  ◆◇◆

 三人の背後では、桜吹雪が織り成す桃色の奔流と吹雪が織り成す白色の奔流
とが激突し、白桜色の竜巻と化したものが暴れていた。
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2007/02/14 23:18 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング
47.「舞い散る二つの<吹雪>」/リング(果南)
PC ギゼー リング
場所 白の遺跡
NPC メデッタ 冬姫 春姫
___________________________________

 さて、困ったものだ…。

 リングは頭を悩ませていた。
 ここはギゼーのいうとおり、冬姫と共同戦線を張り、春姫を倒すのが正しい
のだろう。メデッタ伯父様も反論しない。
 けれど、そうするということはつまり、春姫を傷つけなくてはならない、と
いうことだ。どうあっても。
(うう…、ギゼーさんは正しいです…。しかし、しかし、春姫さんを傷つける
のはやはり…)
 そうやってリングがうだうだ悩んでいる間に、ギゼーはつかつかと戦いの場
に歩み寄ると、さっそく冬姫に接触を試みていた。
「あ、ギゼーさんっ!」
「おい、冬姫!ゆ・きぃっ!」

 ごおおおおおお!!!

 しかし、二人とも、今はそれどころではない様子だ。
 舞い散る、桜吹雪と吹雪。
 姉妹の力はほぼ互角。
 その吹雪の中で踊るように戦っている二人の美女の姿は、観ている側として
は美しいとすら思ってしまうものなのだが、二人の厳しい表情から、それが精
神をギリギリまで追い詰める厳しい戦いだということが分かる。
「ど、どうしましょうっ、伯父様!私、こんなに真剣に戦っていらっしゃるお
二人の、どちらにも加勢できません!」
「しかしだね…、リング、考えてもご覧よ」
 瞳をうるうるさせて必死に訴えるリングとは違い、メデッタの反応は冷静
だ。
「そもそもの原因はギゼー君なんだよ。冷静に考えてごらん。この二人はたか
だか男一人を取り合って、こうして暴れまわっているわけだよ。考えてみると
馬鹿馬鹿しい話じゃないか、全く」
「ええ…。そ、そんなこと言われましても、やはり争いは止めさせなくて
は…」
 メデッタとリングがこうして話している間にも、ギゼーは必死で冬姫に呼び
かけ続けていた。
「冬姫ー!冬姫ーっ!!ええいっ、くそっ!かわいい冬姫ちゃーんっ!」

 くるっ

 ギゼーが半ばやけくそ気味で叫んだこの言葉に、冬姫が反応した。
「なんですの~、ギゼー殿~」
「冬姫ちゃん!ちょっとていあ…」
 ギゼーの眼が、凍りついた。
 そこには背中に、無数の桜の花びらが突き刺さる冬姫の姿。
 
 ふわり

 冬姫はその場に、羽のように倒れこんだ。
「冬姫ぃぃっ!!」
 ギゼーが冬姫の側に駆け寄り、その身体を抱き起こす。
「おい!大丈夫か!しっかりしろっ!!」
「私は…平気…ですわ、ギゼー殿、早く…逃げないと姉様が…」
「ふふふっ、男に気を取られたのが運の尽きよ!」
 冬姫の背後に、春姫が、自信たっぷりの笑みを浮かべて立ちはだかってい
た。
「おい!お前!いくらなんでも妹にこんな怪我させることなかったんじゃない
のか!?大体、卑怯じゃないか!今のは!」
「ふふっ、これくらいやらないと妹は懲りないわよ。さあ、冬姫の次は貴方。
私たちの<永遠>に、貴方は要らないわ」
 不敵な笑みを浮かべて、春姫がギゼーと冬姫に歩み寄る。
「消えておしまいっ!」
「くっ!」
 冬姫を抱えているため、ギゼーは動けない。桜の花びらをまとった春姫が、
二人に迫る。
 その時、
「…ダメです」
 春姫の前にリングが立ちふさがった。
「ギゼーさんと冬姫さんを、傷つけてはいけません。…そんなこと、私が赦せ
ません」
「うむ。リングが赦せないのなら、私も加勢しようかね」
 メデッタも、すっとリングの隣に並ぶ。
「貴方たち…。まとめて私の餌食になりたいらしいわね」
 今や、敵意をむき出しにしている春姫に、リングは言い放った。
「いいえ、餌食になってしまわれるのは、貴女かもしれませんよ。春姫さん」

2007/02/14 23:20 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング
48.「リングの<激怒>」/ギゼー(葉月瞬)
PT:ギゼー、リング
NPC:(メデッタ=オーシャン)、春姫(ハルキ)、冬姫(ユキ)
場所:白の遺跡
++++++++++++++++++++++++++++++++

 リングが激怒した。
 これは忌々しき事態である。

「もう怒っちゃいました。……今度こそ、本気で行かせて頂きます」

 そう静かにのたまって、青く燃え滾った双眸で二人の姫君に非難の眼差しを
向けるリングの意志を受け、ギゼーは自分も本気で観戦する事を決意した。


  *――――― ◆ ◇ ◆ ―――――*


 その真っ白き空間に、渦が巻いていた。
 白銀と薄紅と、水色からなる三色の渦。
 その三色に分かたれた渦柱が、激突しては離れ、離れては激突するを繰り返
していた。
 ギゼーは当然の如く、例の戦闘区域より離れた所で巻き込まれない様に配慮
しながら観戦を決め込んでいる。だが、その表情にはいつもの様な、半分茶化
したものは無く、真剣な面持ちで見守っていた。彼にしてみれば相争っている
三人の心情が何と無くだが理解(わか)るのだ。リングの半ば呆れた怒りも、
冬姫のやや歪んだ愛情も、春姫の血縁を想う心も……。
 一進一退の攻防を繰り広げている、手に汗握る戦闘(バトル)を文字通り、
手に汗握って見詰めていた。

 リングは半ば焦っていた。
 力が均衡しているからか、戦闘は膠着状態からめっきり抜け出せないでい
る。このままでは消耗戦になりかねない。否、もう既に消耗戦に片足を突っ込
んでいる状態なのだ。このままでは、あの二人はともかく、自分の方が持たな
いだろう。精神的にも、肉体的にも。地の利を得ていないから余計に、その心
配が募る。
 そう悟ったリングは、一つの決断を下した。
 それは、この下らない戦いを逸早く終結させる為の止むを得ない手段だっ
た。

(こうなれば、“聖書”を使うしかないようですね……)

 あれは、余り使いたくは無いのだが。
 やや焦燥気味の顔で、春姫と冬姫の二人を睨むリング。その一睨みで、決意
の固さの度合いが窺える。

「水の舞、竜の牙!」

 リングの、叫びというよりは絶叫に近い掛け声と共に扇子から供給され続け
ている水流が勢いを増す。それはまるで、水底で眠っていた竜の如く咆哮を上
げるように口を開くと、二人の姫に襲い掛かっていった。

「!?」

 これは攻撃では無い、牽制だ。本命は、後から来る。何か、大きな力
が……。
 そう咄嗟の内に判断を下した春姫は、妹の冬姫に一声掛けると避ける事を捨
て、受け流す事に専念する。
 吹雪の渦と、桜吹雪の渦が、水竜の進路を阻むように激突する。薄紅色と、
白銀色と、水色の三色の帯が互いに絡まりあって、まるで三色の反物の如くう
ねり、蠢く。それはさも、幻想的で美麗な戦いだった。

 春姫の推理は正しかった。
 リングは、自分が放った攻撃を二人が受け流すのを見届けるよりも前に、自
身の腹部から“聖書”を取り出すと頁を繰っていった。

「!? 第二波が来るぞっ! 気を付けろ、冬姫っ!!」

 緊迫した声音を張上げる、春姫。

「はいっ、お姉さまっ!!」

 それに対し、同じく緊迫した声音で答える、冬姫。
 二人の防衛の陣が交錯して ――。

「汝、その最も欲するを望む事なかれ。貪欲は、原罪なり。罪を償うべき最も
最たるものであり、拭い去れ得ぬものと知れ。貪欲は即ち愛なり。愛情であ
り、愛憎である。愛を望むもの全て、己が自身によりて身を滅ぼすであろう」

―― Key of the Pain.


 リングが“聖書”を朗々と読むのと、春姫と冬姫が声を掛け合うのとは、殆
ど同時だった。しかし、その力の波動は余りにも大き過ぎて気を付ける術が無
かった。
 春姫と冬姫の身体は螺旋を描く光の筋に包まれて、分子レベルで分解されて
いった。俗に言う、“消滅”と言うやつだ。“聖書”の力は、絶大だった。抵
抗する術も、逃れる術も無く二人を飲み込んだのだ ――。

2007/02/14 23:21 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング
49.「五つ目の<季節>」/リング(果南)
PC ギゼー・リング
場所 白の遺跡
NPC メデッタ 四姫
___________________________________

 ――その力は圧巻だった。


 その効力を発した聖書は、見る間にシュルシュルと小豆程度の大きさに縮ま
り、リングはそれを無表情で飲み込んだ。
「ふ…‥。この…‥下種ども…め…が…」
 呟き、聖書を飲み込んだのとほぼ同時に、リングの髪の色が元の黒色に戻
り、リングは発条の切れた人形のように、倒れた。

 とすっ

 そのまま床に倒れるかと思われたリングの体は、メデッタの手によって支え
られた。
「リング…」
 支えたメデッタの目に、目の端に皺がよるぐらい微かな憂いの表情を、ギゼ
ーは感じた。

 この人は哀しんでいるのだろうか。それとも…?

「怖かった?」
「…ふぇ?」
 メデッタの突然の問いに、ギゼーは思わず変な声を出してしまった。…い
や、それだけではない。メデッタが珍しく真摯な表情で見つめてくる所為もあ
るだろう。その細長い、黒い瞳の奥に、炎に似た赤い光が宿っているようにギ
ゼーには感じられた。
「この子のチカラ、怖かったかね?」
 正直、今は何が何だか分からなかった。ただ、分かるのは、春姫と冬姫が、
光に飲み込まれて、その存在ごと、消えてしまったという真実だけだ。
「…‥」
 返事が出来ないギゼーに、メデッタはふ…と笑いかけた。と、同時にその瞳
の中の光も消えたように、ギゼーは感じた。
「今はそれでいい。迷えばいいさ。ただ、この世界に、この子を一人ぼっちに
しなければそれでいい…」
「メデッタさん…」
「ギゼー君、惑っている暇はないぞ、ほら、新しい<お姫様>がやってきたよ
うだ」
「え…」
 振り返ると、先ほど四人の姫がやってきたときと同じように、目の前の空間
が歪みはじめていた。
 その空間から、透明で細い何かがぬうっと現れる。
 それは少女の細い足だった。
 その空間から現れた姫は、先のどの姫とも印象が違っていた。
 顔だちは幼く、羽衣のようにひらひらとした服を着ている。そして、その体
も、その服も半透明だった。後ろの白い空間が透けて見える。そしてその顔
は、決して不細工ではないのだが、美しいともいえない顔だ。と、いうか、そ
の顔には全く感情がないのだ。何もかもを悟りきった顔、というのがこの少女
の表情を表すのに最も近い表現かもしれない。
 少女は、ぼんやりと、空間に降り立つと、感情が全く入っていない、空ろな
瞳で足元の白い床を見下ろした。
『壊れちゃった…』
「え…?」
『シキのお人形…、全部壊れちゃった…』
 ガラスのように透明な声で、少女はそう言った。同時に、ぼうっという音と
ともに、少女の手には四対の人形が現れる。それは先ほど戦った四人の姫とそ
っくりの人形だった。少女は呟く。
『シキのお人形…、みんなボロボロ…、また新しいお人形…つくらなきゃ…』
「えっ…。じゃあ、今まで戦ってきたのは…」
 ギゼーが呆然として呟く。
「全部、命のない人形…?」
「いや、命のある人形、じゃないかな」
「え…?」
 メデッタはギゼーのほうを見ていう。
「だってそうじゃないか。命がなきゃ、キミに恋なんて出来るわけないだろ
う?憎しみも、生まれない」
「じゃあ、やっぱり彼女は命を奪ったことに…」
「いや、季節は巡っていく。彼女たちも、いつか新しいものに取り替えられな
きゃいけなかったハズだ。そうだろう、<四姫>?」
 四姫はその問いには答えずに、ゆっくりとその瞳を上げた。
『お人形を壊したの、だあれ?』
「この子だよ」
 メデッタはそういって今は腕に抱えているリングを目で指した。
「キミは、この子にかわいいお人形を壊されたお仕置きでもする気かい?そう
だったら、私はキミに容赦しないよ」
『季節はひとつの道』
 少女は、そのガラスの声で、歌うように、詩を朗読するように話す。
『春に産声を上げ、夏に恋をする。秋に結ばれ、冬に朽ちていく。終わらない
ワルツ、私はそれを紡ぐ者。私は五つ目の季節…、五つ目の<道>』
 少女は目の前に手をかざすと、その空間をぐにゃり、と粘土を掴む時の様に
むしりとった。むしりとった後の空間には、すべてを飲み込むような暗い闇が
口を開けている。
「ここが<永遠>の出口…か」
 メデッタの呟きに、ギゼーは驚いて目を丸くした。
「えええ!メデッタさん、冗談じゃないですよ!?この中に入れっていうんで
すかっ!」
「キミは怖いのかね?」
「だって、あの闇…、メデッタさん、何でそんなに平気なんですか!」
「はぁ…、しょうがないなぁキミは」
 メデッタは、ひとつため息をつくと、リングをゆっくりと床に下ろした。そ
してギゼーの背後に回り…、
「行ってこい」
 どんっ、といきおいよく背中を押した。その反動でギゼーは前に押し出さ
れ…、
「うわわわっ!!ちょっ!メデッタさぁ~ん!!」
「大丈夫だ、私もリングと後から行くからな~」
 深い闇の中に吸い込まれていくギゼーに、メデッタはにこやかに手を振っ
た。


2007/02/14 23:22 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング
50.ギゼー&リング「“影の男”の<思惑>」/ギゼー(葉月瞬)
PC:ギゼー リング
NPC:メデッタ=オーシャン、影の男
場所:白の遺跡(ソフィニア北)
+++++++++++++++++++++++++++++++++++

☆あらすじ☆

ソフィニアの酒場で歌っていた吟遊詩人の詩の導きで、白の遺跡に挑戦する事
になったギゼー、リング、ジュヴィア、メデッタの四人。
白の遺跡には、『竜の爪』と呼ばれる宝が眠っているのだとギゼーは言う。
結界を潜り抜け門扉の前まで辿り着くが、門番であるゴーレムに阻まれてしま
う。
メデッタの機転のお陰で何とか中に潜り込んだ三人。
だが、最初の詩にあった三つの道でジュヴィアとはぐれてしまう。
ジュヴィアを失った悲しみを抱く暇もなく、第一の試練を乗り越えた二人は第
二の試練に挑む。
メデッタと無事合流し、第二の試練をもクリアしたギゼーとリング。
だが、“第五の季節”と名乗る謎の少女の作り出した暗黒の穴にギゼーのみが
吸い込まれてしまうのだった。

――そのもの七つの光を抱き
――七つの日を数え
――七つの王国にて眠らん
――七つ目の王国の主
――七つの言葉を残し
――七つ目の竜の背びれに
――神殿を築かん
――七人目の王
――そこに七つの魔法を掛け
――七つの扉の向うに
――竜の爪を隠さん
――一つとなりたる二つの鍵
――三つ目の道指し示さん
――道は四つに分かたれて
――第五の部屋へと誘わん
――部屋が神秘の光に満ち溢れしとき
――六の印し鏡に映せ
――さすれば第七の道現われ出でん
――そは即ち天上への階段なり

+++++++++++++++++++++++++++++++++++

 その黒い穴は、躊躇うことなくギゼーを吸引した。
 漆黒の円陣を抜けるとそこは、回廊だった。回廊とはいえ、闇中の只中に沈
み込み、そこが「通路であろう」という不確かな認識しかなかった。
 闇に沈む回路の真ん中に放り込まれたギゼーは、霞がかった自分の記憶を弄
った。ギゼーが漆黒の円陣に放り込まれる寸前、最後に耳にした言葉はメデッ
タの「行って来い」だった。瞬時に振り向くと、そこにリングの力強い微笑が
重なった。
 二人の事を思い出した途端、ギゼーは孤独感を覚え、寂しさに急き立てられ
るようにもう一度後ろを振り向いた。
 漆黒の円陣は、その直径こそ狭まっているがまだ消えた訳ではない。あと、
どれ位の時が経てば二人と合流出来るのかは定かではないが、少なくとも希望
が消失した訳ではない事をギゼーは悟った。と、同時に安堵の吐息が漏れる。

『まだ、安堵するのは早いと思うよ。ギゼー君』

 何処からとも無く聞えて来た、“影の男”の声にギゼーは思わず心臓を跳ね
上がらせた。

「……!? なっ、この声は、“影の男”!? 何処だっ!」
『しかし、嬉しいねぇ。最初に通り抜けて来たのが君で。この試練を受けるに
値する正当なる者は、厳密に言えば、人間である君だけだからねぇ。ギゼー
君』

 恐怖を漲らせて喚き四方に視線を這わせるギゼーに反して、“影の男”はさ
も楽しそうにマントとシルクハットのみを周囲に浮遊させて謳う様にのたまっ
た。ギゼーが少しでも恐怖を感じると、それが快感となって前身を駆け巡り、
堪らなく嬉しくなるのだ。人間の負の感情を糧としている、魔族特有の楽しみ
の一つである。例外もあるにはあるようだが、大部分の魔族が彼の如き存在な
のだ。

「俺が、試練を受けるに値する者……? どういう事だか説明してもらおう
か。姿を現しやがれっ!」
『これはこれは、失礼をば』

 ギゼーの叱責に応えるかのように、哄笑と共に現れた“影の男”の姿は今ま
でと違って、真っ白だった。顔から、つま先まで全てが白で統一していた。そ
こだけが、白く抜き取られてでも居るようだった。ただ、口だけが笑みの形に
歪に掘り込まれている事だけは今までと同じだった。

「……っ!?」

 “影の男”の容姿を目の当たりにしたギゼーは、息を呑んだ。
 人間ならば当然するべきであろう行動。常識をわきまえた人間ならば、当然
発狂してもおかしくは無い姿で現れたのだ。
 そのギゼーの吃驚の様子を見て取って、“影の男”は肩を竦ませておどけて
見せた。

『おやおや、これは心外ですな。実は私の本当の姿は、この様な姿でして。此
処は魔界と地上世界との狭間に当たる空間ですから、私も本当の姿で居られる
のですよ。もっと厳密に言ってしまいますと――』

 そう言って、“影の男”は身体を一回宙返りさせると今度は大きな顔だけの
姿――ゆで卵に黒いシルクハットと黒いマント、そして大きな口唇と鼻だけの
容姿に早変わりした。

『この様な姿こそが、私の真実の姿でして』

 “影の男”らしき卵は、早口で捲くし立ててシルクハットを掲げると、唇だ
けでにこやかに笑った。目がない分不気味なことこの上ない。

「で? さっきの俺の質問に対する答えがまだだけど?」

 幾分か落ち着いて来たのか、ギゼーはさして驚きもまた恐怖を露にする事も
無く平静を装い先を促した。

『……ああ、そうでしたね。しかし、流石はこれまでの試練を乗り越えて来た
だけの事はある。さして驚かないのですねぇ。私の本当の姿を見ても。……つ
まらん』
「ああ、いろんな摩訶不思議を目の当たりにして来たからな。もう、慣れちま
った」

 “影の男”の最後に付け加えた小さな呟きは流す事にして、ギゼーが大真面
目に答えた。リングと行動を共にするようになってからというもの、数々の不
思議や恐怖の対象を目の当たりにして来た。その事実を踏まえての自信だ。少
しぐらいの揺さぶりでは、びくともしない。それが、慣れというものだ。

『……。まあ、良いでしょう。特別に教えて差し上げます。此処に封じられて
いる“竜の爪”の持ち主は、人間でした。人の世は、人の手によって治められ
るべきである、と考えた当時の持ち主がある制約を掛けたのです。…不届きな
…。いや、失礼。ともかく、その制約とは、私も含めた魔族等の人以外の生物
がそれを手にすれば、恐ろしい災厄が当人に降りかかると言うものでした。封
印そのものにその制約が掛けられている。ならば、その封印を解いた後なら…
…?
 私はここの守護の為に召喚させられてから今日まで、長い年月を費やして考
えて来ました。そして、待っていたのですよ。貴方のような人間を――』
「――っ!?」

 “影の男”の本音を聞かされたギゼーは、怒りよりも寧ろ恐怖の方が先走っ
ていた。一歩後退ってから、慄呻(りっしん)する。

「この、俺に、その封印を、解け、と?」

 “影の男”の語った真実は、理致的ではあるが、ギゼーにとってそれは納得
しかねる提案でもあった。だが、“影の男”はそんなギゼーの慄きぶりを目の
当たりにし、ますますもって楽しくなって来たとでも言いたげに宙返りすると
白い人型に戻って笑言した。

『ご名答! 私はねギゼー君、力が欲しいのだよ。“支配の力”が』

 “影の男”は大仰に両手を天に翳すと、大義を振り翳すように演説ぶって言
った。ギゼーは舌打ちする。哀しいかな、今はこの男と事を構える訳には行か
ない。そんな暇はないし、戦力的に見ても地の利から見ても、圧倒的にあちら
側が有利に決まっている。それに、ギゼーの目的も宝冠を手にする事だから
だ。

「そんな事より、後の二人は無事なんだろうな……」

 事を構える訳には行かないが“影の男”の思惑に嵌りたくも無い、ギゼーが
取った最善の道は話の筋道を逸らす事だった。
 “影の男”は思い出したように反応を返す。

『おっと! そうでした。忘れる所でした。貴方を最後の試練の間に誘って差
し上げましょう。お二人がお待ちですよ』
「二人が!? どういう……」

 ギゼーが疑問を皆まで言い終わる前に、“影の男”は片手を一振りして両開
きの扉を宙に現出させる。これまでに見慣れてきた、さして装飾の施されてい
ない簡素な両開きの扉だ。
 その扉がギゼーの目の前で、ゆっくりと開いて行く。
 その向こうには――。

  *――――― ◆ ◇ ◆ ―――――*

「ギゼーさん、遅かったじゃないですか。どうしたんです? 顔色が悪いよう
ですけど……」

 扉の開いたその向こうには、“影の男”の言うとおりリングとメデッタの二
人が待ち構えていた。

「い、いや、先に飛び込んだはずだったんだが……変な場所に飛ばされ
て……」

 どうやら、今まで居た場所とこの場所とは時間の流れが違うようである。
 ギゼーは語尾を濁らせて曖昧にし、先程の“影の男”との会話を二人に伝え
ないように努力した。メデッタはそんなギゼーの様子から何かを感じ取ったら
しく、問い質そうとするリングを手で制し二人を見渡しながら言った。

「さて、いよいよ最後の試練の時のようだよ。二人とも、覚悟は良いね」

 今までと同じ様に、白く輝く部屋。六角形のその部屋の中央に等身大の鏡が
宙に浮いてこちら側――扉の方に鏡面を向けている。壁には六つの方角にそれ
ぞれ一つずつ何かの印の様な物が描かれている。古代文字とも少し違うそれを
見て、ギゼーはピンと来た。これが、例の詩に出て来た“六つの印”なのでは
ないか、と。

「さてと、ギゼー君。詩の続きは何だったかな?」

 背後に存在していた筈の扉は、何時の間にやら消失していた。
 変わりに何かの台座が現れていた。上部に、何かを嵌められる様な凹みが刻
み込まれている。

「詩の続き? 確か……」

 ギゼーは、懐からメモ紙を取り出し朗々と謳うように読み上げた。

  *――――― ◆ ◇ ◆ ―――――*

――部屋が神秘の光に満ち溢れしとき
――六の印し鏡に映せ
――さすれば第七の道現われ出でん
――そは即ち天上への階段なり

2007/02/14 23:31 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング

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