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2024/11/01 12:38 |
49.「五つ目の<季節>」/リング(果南)
PC ギゼー・リング
場所 白の遺跡
NPC メデッタ 四姫
___________________________________

 ――その力は圧巻だった。


 その効力を発した聖書は、見る間にシュルシュルと小豆程度の大きさに縮ま
り、リングはそれを無表情で飲み込んだ。
「ふ…‥。この…‥下種ども…め…が…」
 呟き、聖書を飲み込んだのとほぼ同時に、リングの髪の色が元の黒色に戻
り、リングは発条の切れた人形のように、倒れた。

 とすっ

 そのまま床に倒れるかと思われたリングの体は、メデッタの手によって支え
られた。
「リング…」
 支えたメデッタの目に、目の端に皺がよるぐらい微かな憂いの表情を、ギゼ
ーは感じた。

 この人は哀しんでいるのだろうか。それとも…?

「怖かった?」
「…ふぇ?」
 メデッタの突然の問いに、ギゼーは思わず変な声を出してしまった。…い
や、それだけではない。メデッタが珍しく真摯な表情で見つめてくる所為もあ
るだろう。その細長い、黒い瞳の奥に、炎に似た赤い光が宿っているようにギ
ゼーには感じられた。
「この子のチカラ、怖かったかね?」
 正直、今は何が何だか分からなかった。ただ、分かるのは、春姫と冬姫が、
光に飲み込まれて、その存在ごと、消えてしまったという真実だけだ。
「…‥」
 返事が出来ないギゼーに、メデッタはふ…と笑いかけた。と、同時にその瞳
の中の光も消えたように、ギゼーは感じた。
「今はそれでいい。迷えばいいさ。ただ、この世界に、この子を一人ぼっちに
しなければそれでいい…」
「メデッタさん…」
「ギゼー君、惑っている暇はないぞ、ほら、新しい<お姫様>がやってきたよ
うだ」
「え…」
 振り返ると、先ほど四人の姫がやってきたときと同じように、目の前の空間
が歪みはじめていた。
 その空間から、透明で細い何かがぬうっと現れる。
 それは少女の細い足だった。
 その空間から現れた姫は、先のどの姫とも印象が違っていた。
 顔だちは幼く、羽衣のようにひらひらとした服を着ている。そして、その体
も、その服も半透明だった。後ろの白い空間が透けて見える。そしてその顔
は、決して不細工ではないのだが、美しいともいえない顔だ。と、いうか、そ
の顔には全く感情がないのだ。何もかもを悟りきった顔、というのがこの少女
の表情を表すのに最も近い表現かもしれない。
 少女は、ぼんやりと、空間に降り立つと、感情が全く入っていない、空ろな
瞳で足元の白い床を見下ろした。
『壊れちゃった…』
「え…?」
『シキのお人形…、全部壊れちゃった…』
 ガラスのように透明な声で、少女はそう言った。同時に、ぼうっという音と
ともに、少女の手には四対の人形が現れる。それは先ほど戦った四人の姫とそ
っくりの人形だった。少女は呟く。
『シキのお人形…、みんなボロボロ…、また新しいお人形…つくらなきゃ…』
「えっ…。じゃあ、今まで戦ってきたのは…」
 ギゼーが呆然として呟く。
「全部、命のない人形…?」
「いや、命のある人形、じゃないかな」
「え…?」
 メデッタはギゼーのほうを見ていう。
「だってそうじゃないか。命がなきゃ、キミに恋なんて出来るわけないだろ
う?憎しみも、生まれない」
「じゃあ、やっぱり彼女は命を奪ったことに…」
「いや、季節は巡っていく。彼女たちも、いつか新しいものに取り替えられな
きゃいけなかったハズだ。そうだろう、<四姫>?」
 四姫はその問いには答えずに、ゆっくりとその瞳を上げた。
『お人形を壊したの、だあれ?』
「この子だよ」
 メデッタはそういって今は腕に抱えているリングを目で指した。
「キミは、この子にかわいいお人形を壊されたお仕置きでもする気かい?そう
だったら、私はキミに容赦しないよ」
『季節はひとつの道』
 少女は、そのガラスの声で、歌うように、詩を朗読するように話す。
『春に産声を上げ、夏に恋をする。秋に結ばれ、冬に朽ちていく。終わらない
ワルツ、私はそれを紡ぐ者。私は五つ目の季節…、五つ目の<道>』
 少女は目の前に手をかざすと、その空間をぐにゃり、と粘土を掴む時の様に
むしりとった。むしりとった後の空間には、すべてを飲み込むような暗い闇が
口を開けている。
「ここが<永遠>の出口…か」
 メデッタの呟きに、ギゼーは驚いて目を丸くした。
「えええ!メデッタさん、冗談じゃないですよ!?この中に入れっていうんで
すかっ!」
「キミは怖いのかね?」
「だって、あの闇…、メデッタさん、何でそんなに平気なんですか!」
「はぁ…、しょうがないなぁキミは」
 メデッタは、ひとつため息をつくと、リングをゆっくりと床に下ろした。そ
してギゼーの背後に回り…、
「行ってこい」
 どんっ、といきおいよく背中を押した。その反動でギゼーは前に押し出さ
れ…、
「うわわわっ!!ちょっ!メデッタさぁ~ん!!」
「大丈夫だ、私もリングと後から行くからな~」
 深い闇の中に吸い込まれていくギゼーに、メデッタはにこやかに手を振っ
た。

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2007/02/14 23:22 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング

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