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2024/11/01 12:45 |
51.「印の秘密」/リング(果南)
PC リング ギゼー
場所 白の遺跡
NPC メデッタ 影の男
___________________________________

――部屋が神秘の光に満ち溢れしとき
――六の印し鏡に映せ
――さすれば第七の道現われ出でん
――そは即ち天上への階段なり

 リングはその壁に描かれた、「印」を見つめていた。
「うう…」
 思い出せない。ここまできているのに…。自分の喉を押さえながらリングは
思った。
「どうしたんだね、リング?」
 メデッタが顔を覗き込む。
「そんなシブい顔して」
「メデッタさん、私、この印、どこかで見たことがあるような気がするんで
す…」
そう言って、リングは部屋の壁を指差した。
「この印、確か…、何かの本で…」
「ああ、私も見たことあるよ」
「!?」
 リングとギゼーが一緒にメデッタの顔を見た。
「えええ!メデッタさん!この印が何か知ってるんですか!?」
 ギゼーが目を大きく見開いて言う。
「教えてください!多分、メデッタさんの知っていることが、この詩の謎を解
く重要な鍵なんです!きっと」
「そ、そうですよっ。何で今まで黙ってたんですか!メデッタ伯父様!」
「だからリング、その、<伯父様>は止めろといっているだろう」
「はうっ」
 メデッタは一つ大きく息を吐くと、真っ白い天上を見上げていった。
「これは、この遺跡に眠る<竜の爪>以外の六つのアイテムに、刻まれている
印さ」
「えっ、<竜の爪>以外のアイテム?」
「知らなかったのかい?キゼー君。この<竜の爪>以外にも、それと同時に作
られた六つの竜のアイテムがあるのだよ。もともと、そのアイテムは一匹の竜
の体を七つに分けて、作られたものだからね」
「そ、そうなんですか??」
「ほら、その右側の壁に刻まれているのが、<竜の牙>、その左隣が<竜の瞳
>だよ」
「へえ…、そうなんですか、メデッタおじ…、メ、メデッタさん、よくご存知
ですねっ」
「そりゃそうだろうとも。リング、そのことはキミの実家の書庫にある本の中
に書いてあったことだからね」
「ええっ!」
 驚くリングの顔を見て、メデッタは薄く笑った。
「ふふ…、君もおおかた、本で一度見て思い出せなかっただけのことだろう
さ。さて、これで六つの印の謎は解けた訳だが、ギゼー君、リング、六つの印
を鏡に映せ、とはどういう意味だと思う?」
 伯父様は本当はもう答えを知っているはずだ。
そうリングは思った。しかし、あえて自分とギゼーさんに答えを見つけさせよ
うなんて、あの<影の男>と性格が似ているんじゃないかとリングは思った
が、それは伯父様のため、黙っておくことにした。
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2007/02/14 23:37 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング
52.「最後の謎解き」/ギゼー(葉月瞬)
PC:ギゼー リング
NPC:メデッタ=オーシャン
場所:白の遺跡(ソフィニア北)
+++++++++++++++++++++++++++++++++++

 鍵はある。
 そして、それがピタリと当て嵌まる様な台座も。
 そして、詩。伝承の内容――。

―― 部屋が神秘の光に満ち溢れしとき
―― 六の印し鏡に映せ
―― さすれば第七の道現われ出でん
―― そは即ち天上への階段なり

  ◆◇◆

 周囲は相変わらず、白く輝いていた。張り巡らされた六枚の壁には、壁画ら
しきレリーフが刻まれている。何かの風刺画らしく、中央に竜が天に向かって
吼えている姿が大きく掘り込まれ、その周囲に街が無惨にも瓦礫を晒してい
る。その周囲に張り巡らされた六つの壁画は、どれもが嵌め込み式になってい
た。そして、それぞれの形に刳[く]り抜かれた台座が鏡の前に鎮座している。
台座は回転式になっていて、宝珠が嵌め込まれている方が、ギゼーが今し方入
って来た扉側――既に扉自体は見えなくなっているが――に向いていた。

「ふむ……」

 ギゼーは腕を組み、思考の渦中に入り込みながら呟いた。

「台座の凹みと壁画の凸部から推察するに、壁画の一部を嵌め込むのは明らか
だ……問題は、順番だな。…………ん? 台座の下に何か文字が刻まれている
ぞ」

―― かつて一の竜だったものは
―― 天高く吼え猛り
―― そして滅び去った
―― 七人の王は
―― 彼のものを讃え
―― 七つに分けた
―― 一つ目は王冠
―― 爪を切り取り有るべき姿に
―― 二つ目は剣
―― 角を削りだし有るべき姿に
―― 三つ目は玉[ぎょく]
―― 目玉を抉り出し有るべき姿に
―― 四つ目は鎧
―― 鱗を剥ぎ有るべき姿に
―― 五つ目は兜
―― 耳を切り取り有るべき姿に
―― 六つ目は首飾り
―― 牙を抜き取り有るべき姿に
―― 七つ目は竜の持てる力を全て
―― 水晶に閉じ込めて
―― 光の中に

「何て、残酷な詩なんでしょう」

 ギゼーが詩を謳う様に読み上げた後、最初に哀れみを持って言葉を発したの
はリングだった。同じ竜族としての同情の念を込め目を細める。竜を殺して一
つ残らず剥ぎ取っていくなんて、と言外に非難めいたものが込められていた。
リングと同じ竜族であるメデッタも、流石に眉を顰めて非難の眼差しを詩に向
けていた。だが、人間であるギゼーにはその詩がどれほど残酷なものなのか、
今一つピンと来るものが無かった。人として、竜は魔物と同格だと無意識の内
にでも感じていたからだ。人間に害を成すもの、それは即ち魔物以外の何者で
もない。だが、リングやメデッタのように良き竜が居るのもまた事実である。
それは、認めざるを得ない。
 リングやメデッタの手前、ギゼーは言葉に詰まった。何を口に出してみて
も、言い訳めいているように思えたからだ。やがて思い詰めたように、厳かに
口を開いた。

「……どんなに残酷な詩でも、手掛かりはこれしかないんだ。君達竜族の気持
ちは、何となくだけど……解る。気がする。でも……」
「そうだな。ギゼー君の言う通りだ。今はこの詩を解読し、道を開くべき時
だ。感情的になっては居られない」

 ギゼーの言い訳がましい口ぶりに、透かさずメデッタが賛同する。そういう
悟った部分は、流石に齢を重ねているだけの事はある。ある意味リングよりは
少しばかり融通の聞く人だ。
 リングはそんな二人のやり取りに、不服そうに頬を膨らませつつも押し黙る
ことで同意を示した。

「俺、思うんだけど……」

 暫しの重苦しい沈黙を破ったのは、人間であるギゼーであった。

「あの壁画にはどれにも竜の絵が描かれている。そして、この台座の窪みは、
壁画の一部分が嵌め込めるような形になっている。ということは、この詩の順
番の通りに壁画の一部分を嵌め込んでいけば道が開かれるんじゃないかな」
「うむ。私も同意見だよ、ギゼー君」

 壁画を見ると、そのどれもが天高く吼え猛る竜がレリーフとして刻まれてい
た。それを見てギゼーが思いの丈をぶちまけ、メデッタはそれに賛同したの
だ。最早答えは見ていた。それしかない。それしかないのだ。ギゼーの見出し
た答え、たった一つしか。リングもその事に早気付いたからこそ、首を縦に振
る事で賛同の意を表した。たった一つ気掛かりな事、「竜の一部を剥ぎ取る」
という残虐な行為に対する嫌悪感を残して――。


   ◆◇◆


 一つ目は爪。
 二つ目は角。
 三つ目は目玉。
 四つ目は鱗の一部。
 五つ目は片耳。
 六つ目は一際大きな牙を一つ。
 それぞれ六つの各部位を、天空に向かって吼え猛る竜のレリーフから一つ一
つ剥ぎ取っていった。そして、それを順番通りに台座の上に穿たれた穴へと押
し込める。全ての部位がまるで誂[あつら]えたかのようにピタリと嵌って行く
のを見て、ギゼーはほくそ笑んだ。
 嵌めこまれたレリーフは、それぞれが淡く光り輝いている。

「よっし! ここで、この台座を回転させて鏡に正面を向けさせれば……」

 唇をひと舐めして、ギゼーが口ずさむ。
 ギゼーの言う通り、台座の下には円形に溝が刻み込まれており、回転式にな
っている事が窺えた。

「あの、ギゼーさん。私も手伝いましょうか? 一人の力より二人の力の方
が……」
「なあに、リングちゃん大丈夫だって。このくらい。気遣い、ありがとな」

 リングの気遣う心に温かみを覚えたのか、ギゼーは優しい笑みを向ける。
 ギゼーが笑みを向けながらも力を込めると、台座はいとも簡単に回転した。
半回転した台座に乗ったレリーフは鏡に向けられると同時に輝きを増し、辺り
一面に光が満ちていった。

2007/02/14 23:38 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング
53.「待合室」/リング(果南)
PC ギゼー リング
場所 白の遺跡(ソフィニア北)
NPC 影の男
___________________________________

「…ここは?」
 白い光に眼が慣れたころ、リングは真っ白な空間に一人佇んでいた。
 いや、一人ではなかった。目の前には、あの「影の男」が怪しい笑みを浮か
べて立っていた。
 リングは、あたりをきょろきょろと見回してみる。
 誰もいない。
 伯父様も、ギゼーさんも。
「っ...、伯父様とギゼーさんはどうしたのですか!」
<ふふ、竜といえどもかわいいね。...『独り』はそんなに不安かい?>
 茶化すように笑う「影の男」に、リングは眼を見開いて怒鳴った。
「どうしたのかと訊いてるんです!」
<ギゼー君は、『最後の試練』をしている最中だよ。人間である彼は、『王』
になる資格があるからね>
「『王』...?」
<もう一匹の竜は、まあ、大体キミと同じ状況かな。いわゆる、私の遊び相
手、だ>
「どういうことです...?」
 影の男はにやりと笑った。
<竜族であるキミたちは、最後の試練を受ける資格がない者なんだよ。竜が竜
の秘宝を手にしたって何も面白くない。まあそこは私も同感だね。そこでそん
なキミたちは、ギゼー君の試練が終わるまで、この私と遊んでいてもらうこと
になっているんだよ>
「遊ぶ...?」
<ねぇ、リングちゃん、キミは魔族と戦ったことはあるかな?>
 リングはぎょっとした。影の男の姿が、まるでロウソクのロウが溶けるとき
のようにドロドロと、溶け始めたのだ。それに伴って、部屋の色が、純白から
見る見るうちに、血のような赤に変わっていく。
 ドロドロと体が溶けた影の男は、次第に真っ白な球体の姿になっていった。
 たとえるなら、まるで卵のような。
 その卵に、手足と、真っ赤な唇だけがついている。
 その唇が、残酷そうに微笑んで言った。
『さぁ、今から、殺し合いをして遊ぼうか』

2007/02/14 23:39 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング
54.「心の迷宮」/ギゼー(葉月瞬)
PC:ギゼー (リング)
NPC:真実の鍵
場所:白の遺跡(ソフィニア北)
+++++++++++++++++++++++++++++++++++

 今までの白い空間とは一転して、其処は黒かった。
 ギゼーは突然、漆黒の只中に放り出されたような格好になっていた。前後左
右上下の別なく、ただ暗黒が支配していた。

「なっ!? どこだ? ここは……」

 ギゼーが驚きの声を上げても、誰も答える者は居なかった。
 漆黒の中にたった一人、宙に浮いている風になっている。

「……!? リングちゃん!? メデッタさん!?」

 ギゼーが呼び掛けても、誰も答えるものは居ない。ただ、声だけが空しく周
囲の暗黒に吸収されるだけであった。

「ここは部屋なのか? それとも……ん?」

 ギゼーは目の前に、己と同じ様に宙に浮くようにして存在している鍵に気付
いた。
 それは、何の変哲も無い鍵だった。素材は、黄金で出来ている事が遠目にも
判別できる。装飾と呼べる装飾も無く、ただ取っ手の部分が鳥の翼の形をして
いて、鍵の部分はそれに付属していた。片羽のそれを徐に手に取ると、不意に
目の前に扉が現れた。何の前触れもなく突如出現したそれに、ギゼーは驚きを
隠せないで居た。

「なっ、なんだっ!?」
『その扉は、君の心を映し出した扉だヨ』

 何処からとも無く声が響いてくる。今までに聞いた事の無い、声。それは影
の男のものでも無く、勿論リングやメデッタのものでも無い声だった。
 声はどうやらギゼーの手元から聞えて来るようだ。

「……これ、か? この、鍵から声が……?」

 ギゼーが自分の手元にある鍵を見遣ると、声は頷くように答えた。

『有無。そうだヨ。ワタシだ。君が手にしている鍵、それがワタシだ。ワタシ
も、この迷宮も、君自身の心を反映しているのだヨ。ワタシをその扉の鍵穴に
差し込んでみたまエ。ギゼー君』
「!? 鍵が……鍵が本当に喋ってる……!?」

 ギゼーは暫し呆然としていたが、ふと我に返ると鍵を鍵穴に差し込んだ。
今、この場において起こせる行動と言えば“鍵”の言うとおりに鍵穴に差し込
んで目前の扉を開けることだけだったからだ。
 鍵を鍵穴に差し込むと、何の装飾もないただの一枚板でしかない石扉は音も
無く開いていった。それを待っていたかの如く、“鍵”は唐突に語りだした。
それは、静寂に満ちた辺りに厳かに響く。

『ギゼー君、君にはこれから試練に臨んでもらウ。この迷宮は、君の心を反映
しているノダ。この迷宮中に数多ある扉群の中から、一つだけ真実の扉を探し
出してもらいたイ。そして、ワタシをその鍵穴に差し込むのダ。ワタシのこと
は、そうだな……、真実の鍵とでも呼んでもらおうカ』

 扉の向こう側は真実の鍵が言う通り、無数の扉がひしめき合っていた。それ
も、上下左右の別も無く。左右に扉があったと思いきや、上方にも扉は存在し
ていたり、正向きの階段があると思いきや、逆さまの階段があったりと、其処
は全くの出鱈目、ランダム性に富んだ迷宮だった。

「あー……、これが、俺の心を反映した迷宮だって?」

 ギゼーは驚愕を通り越して、呆れ果てていた。こんな、途方も無い迷宮が自
分の心を反映した結果生じたものだとは。俄かには信じ難いものがある。
 ギゼーの当然ともいえる疑問に、真実の鍵はあっさりと肯定して見せる。

『ソうだ。確かに、この迷宮はお前の心を反映して作られていル。そして、真
実の扉は君にしか判らない。君にしか、見つけられないのだヨ。ギゼー君』
「俺にしか……? って、お前は如何なんだよ。真実の鍵って言うからには、
お前の方が判るんじゃないのか?」

 ギゼーが問い掛けると、真実の鍵は馬鹿にした様な、或いは自嘲めいた、笑
みを漏らした。含みのあるその笑いに、ギゼーはむかっ腹が立つ。

「なっ、なんだよぅ! 何も、笑わなくたっていいじゃないか! 俺には何が
どうなってるんだかさっぱり解らないんだから!」
『ワタシは、真実の扉を開けるためだけに存在しているモノ……』

 その言葉を背に、ギゼーは手近にあった扉を取り敢えず開けてみる。


    ◆ ◇ ◆


 そこは、地獄の業火に彩られていた。
 紅に染め抜かれた家屋は、今にも崩れ落ちそうだった。
 その紅の渦の中に、二つの人影が窺える。それは、微かに微笑んでいるよう
だった。ギゼーに向かって、微笑みかけているようだった。二人の口元が僅か
に動く。「自分達の事は大丈夫だから、心配しないで」ギゼーにはそう言って
いるように思えた。

「親父……。お袋……。何だ、これ……。何なんだ!」

 ギゼーの目から無意識の内に零れ落ちる涙。
 炎の中から差し伸べられた母の手に、ギゼーは堪え切れ得ぬ思いを胸に詰ま
らせていた。
 お袋、やめてくれ。あんたは死んだんだ。死んじまったんだよ。喉から出る
か出ないかのところで詰まらせている言葉を、必死の思いで飲み込むギゼー。
本当は心の底から信じたかった。両親も、村人達も全て生きていると。元気に
今もアラウネ酒を作って馬鹿騒ぎしていると。
 しかし、実のところギゼーは知っていた。希望は希望でしかないと言うこと
を。希望は希望的観測でしかなく、事実には到底なり得ない。事実を突きつけ
られて、そうはっきりと認識せざるを得なかった。
 ギゼーは、何かを悟ったかのように、静かに一つ目の扉を閉じた。

「なんだ? 何なんだこれは……。ここの扉、全部俺の記憶そのものじゃあな
いか……」

 怒りだか脱力感だかを噛み殺すように、呟くギゼー。その瞳は自分の爪先を
見詰めていた。
 ギゼーの心の叫びと呟きを聞いた真実の鍵は、含むように笑うと呟いた。

『……だから言っただろウ? ココは、お前の心の中だっテ』
「う、うるさい! 黙れ!」

 ギゼーは触れられたくない傷を抉られたような気がして、気分を害した。そ
れもよりにもよって無機物などに。声を荒げ、相手を威嚇するギゼー。既に解
っていることを指摘されることほど、むかつく事は無い。自分に理解力が無
い、と言われているようで腹立たしくなるものだ。
 俺はそれほど馬鹿じゃない。
 ギゼーはそう叫びたかった。ここがどういう所なのか、先程から散々情報提
供されているのだ。それを理解していない訳じゃない。頭の何処かで否定した
がっているだけなのだ。そして、一つ目の扉を開けた時、否定しようとしてい
たこと自体が否定され現実として突き付けられたのだ。脳内で混乱しているの
は事実だが、それも指摘して欲しくない。

「……っ! 真実の扉、とやらを探せばいいんだな……」
『そうだ。それが、最後の試練ダ』

「さ、さぁ、気を取り直してこの調子で次行って見よー!」

 誤魔化し半分、気合半分の掛け声だった――。


2007/02/14 23:39 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング
55.「秘めた思い 彼の理由」/リング(果南)
PC ギゼー リング
場所 白の遺跡
NPC メデッタ 影の男
___________________________________

 時を同じくして…。

 メデッタもまた、あの影の男と真っ白な空間の中で対峙していた。
 二人の間に、静かな時間が流れている。
 互いの気が張り詰めた空間、一見談話でもできそうなほどゆるやかな雰囲気
に見えるが、他の感情が入り込めないほどの濃密な気が空間に満ちている。

 この雰囲気の中、姿勢を崩し、最初に口火を切ったのは、影の男だった。

「…キミはおもしろいんだか、クソつまらないんだか」
 影の男がニヤリと笑う。
「…リングちゃんとは、ずいぶん違うねぇ。あの竜は、揺さぶればすぐ感情を
乱すのに」
 <リング>という単語にメデッタが、ピクリと片眉だけを歪める。
「…今、リングと話しているのか?」
 その様子を見て、影の男が微笑んだ。
「ふふ。やっぱりそうなんだ。キミのウィークポイントはあの竜だね?」
 メデッタはただ表情を硬くして黙り込む。
 影の男はにたあっと気持ち悪い笑みを浮かべた。まるでイタズラを思いつい
た子供のように。
「そうだ、キミには肉弾戦を仕掛けるより、こっちのほうがいいかもしれない
ね」
 みるみるうちに、影の男の姿が変わっていく。その笑みは、やがて彼、メデ
ッタがよく見知った顔になった。
「…どうですか、伯父様?なかなかそっくりだと思いません…?」
「…ッ!!」
 メデッタの身体からどっと冷や汗が出てくる。今まで冷静沈着だった彼が始
めて動揺を見せた。メデッタは思わず一歩あとずさる。
 影の男、いや…リングは、ふふ、と微笑むと、さらにメデッタへの間合いを
詰めた。
「伯父様はそんなに私のことが好きなんですか…?」
「…やめろ。やめてくれ…っ」
「かわいそうな伯父様。でも、私は所詮あなたのことを<叔父>としかみてい
ないんですよね?」
「…っ!」
「だから、だから貴方は私に<叔父様>と呼ばれるのを嫌がるのでしょう…?
私に、一人の男として見てもらいたいから」
「知っているさ!」
 思わずメデッタが大声を出した。
「それで構わない。それで良いのだ!私は…っ」

<私は、呪われているのだから>

「<本当に?>」
 リングがそっと、メデッタの頬に触れた。メデッタの瞳の中を、哀願するよ
うに覗き込む。…彼が、ずっと望んでいた眼差しで。
『…私が、貴方の望みを叶えてあげましょうか?』
「…っ!」
 メデッタはリングが頬に触れた手を振り払ったが、力は弱々しかった。
 リングはにやり、と笑うと、横を向いて視線を合わせまいとするメデッタの
顔を両手で掴んでこちらを向かせた。
『ねぇ、どうして私を見て下さらないんですか…?』
 たとえ理性ではニセモノだと解っていても、本物そっくりの姿の「彼女」の
誘惑を拒むことは、メデッタにはできなかった。
 今まで、喉から手が出るほど、欲しくてたまらなかったものをちらつかせる
誘惑。
 堪え切れない感情。
 たとえそれが自分に対する罠だと解っていても。
『答えて…?ねぇ、メデッタ?』

 彼の中で何かが壊れた。

2007/02/14 23:40 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング

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