PC:ギゼー (リング)
NPC:真実の鍵
場所:白の遺跡(ソフィニア北)
+++++++++++++++++++++++++++++++++++
今までの白い空間とは一転して、其処は黒かった。
ギゼーは突然、漆黒の只中に放り出されたような格好になっていた。前後左
右上下の別なく、ただ暗黒が支配していた。
「なっ!? どこだ? ここは……」
ギゼーが驚きの声を上げても、誰も答える者は居なかった。
漆黒の中にたった一人、宙に浮いている風になっている。
「……!? リングちゃん!? メデッタさん!?」
ギゼーが呼び掛けても、誰も答えるものは居ない。ただ、声だけが空しく周
囲の暗黒に吸収されるだけであった。
「ここは部屋なのか? それとも……ん?」
ギゼーは目の前に、己と同じ様に宙に浮くようにして存在している鍵に気付
いた。
それは、何の変哲も無い鍵だった。素材は、黄金で出来ている事が遠目にも
判別できる。装飾と呼べる装飾も無く、ただ取っ手の部分が鳥の翼の形をして
いて、鍵の部分はそれに付属していた。片羽のそれを徐に手に取ると、不意に
目の前に扉が現れた。何の前触れもなく突如出現したそれに、ギゼーは驚きを
隠せないで居た。
「なっ、なんだっ!?」
『その扉は、君の心を映し出した扉だヨ』
何処からとも無く声が響いてくる。今までに聞いた事の無い、声。それは影
の男のものでも無く、勿論リングやメデッタのものでも無い声だった。
声はどうやらギゼーの手元から聞えて来るようだ。
「……これ、か? この、鍵から声が……?」
ギゼーが自分の手元にある鍵を見遣ると、声は頷くように答えた。
『有無。そうだヨ。ワタシだ。君が手にしている鍵、それがワタシだ。ワタシ
も、この迷宮も、君自身の心を反映しているのだヨ。ワタシをその扉の鍵穴に
差し込んでみたまエ。ギゼー君』
「!? 鍵が……鍵が本当に喋ってる……!?」
ギゼーは暫し呆然としていたが、ふと我に返ると鍵を鍵穴に差し込んだ。
今、この場において起こせる行動と言えば“鍵”の言うとおりに鍵穴に差し込
んで目前の扉を開けることだけだったからだ。
鍵を鍵穴に差し込むと、何の装飾もないただの一枚板でしかない石扉は音も
無く開いていった。それを待っていたかの如く、“鍵”は唐突に語りだした。
それは、静寂に満ちた辺りに厳かに響く。
『ギゼー君、君にはこれから試練に臨んでもらウ。この迷宮は、君の心を反映
しているノダ。この迷宮中に数多ある扉群の中から、一つだけ真実の扉を探し
出してもらいたイ。そして、ワタシをその鍵穴に差し込むのダ。ワタシのこと
は、そうだな……、真実の鍵とでも呼んでもらおうカ』
扉の向こう側は真実の鍵が言う通り、無数の扉がひしめき合っていた。それ
も、上下左右の別も無く。左右に扉があったと思いきや、上方にも扉は存在し
ていたり、正向きの階段があると思いきや、逆さまの階段があったりと、其処
は全くの出鱈目、ランダム性に富んだ迷宮だった。
「あー……、これが、俺の心を反映した迷宮だって?」
ギゼーは驚愕を通り越して、呆れ果てていた。こんな、途方も無い迷宮が自
分の心を反映した結果生じたものだとは。俄かには信じ難いものがある。
ギゼーの当然ともいえる疑問に、真実の鍵はあっさりと肯定して見せる。
『ソうだ。確かに、この迷宮はお前の心を反映して作られていル。そして、真
実の扉は君にしか判らない。君にしか、見つけられないのだヨ。ギゼー君』
「俺にしか……? って、お前は如何なんだよ。真実の鍵って言うからには、
お前の方が判るんじゃないのか?」
ギゼーが問い掛けると、真実の鍵は馬鹿にした様な、或いは自嘲めいた、笑
みを漏らした。含みのあるその笑いに、ギゼーはむかっ腹が立つ。
「なっ、なんだよぅ! 何も、笑わなくたっていいじゃないか! 俺には何が
どうなってるんだかさっぱり解らないんだから!」
『ワタシは、真実の扉を開けるためだけに存在しているモノ……』
その言葉を背に、ギゼーは手近にあった扉を取り敢えず開けてみる。
◆ ◇ ◆
そこは、地獄の業火に彩られていた。
紅に染め抜かれた家屋は、今にも崩れ落ちそうだった。
その紅の渦の中に、二つの人影が窺える。それは、微かに微笑んでいるよう
だった。ギゼーに向かって、微笑みかけているようだった。二人の口元が僅か
に動く。「自分達の事は大丈夫だから、心配しないで」ギゼーにはそう言って
いるように思えた。
「親父……。お袋……。何だ、これ……。何なんだ!」
ギゼーの目から無意識の内に零れ落ちる涙。
炎の中から差し伸べられた母の手に、ギゼーは堪え切れ得ぬ思いを胸に詰ま
らせていた。
お袋、やめてくれ。あんたは死んだんだ。死んじまったんだよ。喉から出る
か出ないかのところで詰まらせている言葉を、必死の思いで飲み込むギゼー。
本当は心の底から信じたかった。両親も、村人達も全て生きていると。元気に
今もアラウネ酒を作って馬鹿騒ぎしていると。
しかし、実のところギゼーは知っていた。希望は希望でしかないと言うこと
を。希望は希望的観測でしかなく、事実には到底なり得ない。事実を突きつけ
られて、そうはっきりと認識せざるを得なかった。
ギゼーは、何かを悟ったかのように、静かに一つ目の扉を閉じた。
「なんだ? 何なんだこれは……。ここの扉、全部俺の記憶そのものじゃあな
いか……」
怒りだか脱力感だかを噛み殺すように、呟くギゼー。その瞳は自分の爪先を
見詰めていた。
ギゼーの心の叫びと呟きを聞いた真実の鍵は、含むように笑うと呟いた。
『……だから言っただろウ? ココは、お前の心の中だっテ』
「う、うるさい! 黙れ!」
ギゼーは触れられたくない傷を抉られたような気がして、気分を害した。そ
れもよりにもよって無機物などに。声を荒げ、相手を威嚇するギゼー。既に解
っていることを指摘されることほど、むかつく事は無い。自分に理解力が無
い、と言われているようで腹立たしくなるものだ。
俺はそれほど馬鹿じゃない。
ギゼーはそう叫びたかった。ここがどういう所なのか、先程から散々情報提
供されているのだ。それを理解していない訳じゃない。頭の何処かで否定した
がっているだけなのだ。そして、一つ目の扉を開けた時、否定しようとしてい
たこと自体が否定され現実として突き付けられたのだ。脳内で混乱しているの
は事実だが、それも指摘して欲しくない。
「……っ! 真実の扉、とやらを探せばいいんだな……」
『そうだ。それが、最後の試練ダ』
「さ、さぁ、気を取り直してこの調子で次行って見よー!」
誤魔化し半分、気合半分の掛け声だった――。
NPC:真実の鍵
場所:白の遺跡(ソフィニア北)
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今までの白い空間とは一転して、其処は黒かった。
ギゼーは突然、漆黒の只中に放り出されたような格好になっていた。前後左
右上下の別なく、ただ暗黒が支配していた。
「なっ!? どこだ? ここは……」
ギゼーが驚きの声を上げても、誰も答える者は居なかった。
漆黒の中にたった一人、宙に浮いている風になっている。
「……!? リングちゃん!? メデッタさん!?」
ギゼーが呼び掛けても、誰も答えるものは居ない。ただ、声だけが空しく周
囲の暗黒に吸収されるだけであった。
「ここは部屋なのか? それとも……ん?」
ギゼーは目の前に、己と同じ様に宙に浮くようにして存在している鍵に気付
いた。
それは、何の変哲も無い鍵だった。素材は、黄金で出来ている事が遠目にも
判別できる。装飾と呼べる装飾も無く、ただ取っ手の部分が鳥の翼の形をして
いて、鍵の部分はそれに付属していた。片羽のそれを徐に手に取ると、不意に
目の前に扉が現れた。何の前触れもなく突如出現したそれに、ギゼーは驚きを
隠せないで居た。
「なっ、なんだっ!?」
『その扉は、君の心を映し出した扉だヨ』
何処からとも無く声が響いてくる。今までに聞いた事の無い、声。それは影
の男のものでも無く、勿論リングやメデッタのものでも無い声だった。
声はどうやらギゼーの手元から聞えて来るようだ。
「……これ、か? この、鍵から声が……?」
ギゼーが自分の手元にある鍵を見遣ると、声は頷くように答えた。
『有無。そうだヨ。ワタシだ。君が手にしている鍵、それがワタシだ。ワタシ
も、この迷宮も、君自身の心を反映しているのだヨ。ワタシをその扉の鍵穴に
差し込んでみたまエ。ギゼー君』
「!? 鍵が……鍵が本当に喋ってる……!?」
ギゼーは暫し呆然としていたが、ふと我に返ると鍵を鍵穴に差し込んだ。
今、この場において起こせる行動と言えば“鍵”の言うとおりに鍵穴に差し込
んで目前の扉を開けることだけだったからだ。
鍵を鍵穴に差し込むと、何の装飾もないただの一枚板でしかない石扉は音も
無く開いていった。それを待っていたかの如く、“鍵”は唐突に語りだした。
それは、静寂に満ちた辺りに厳かに響く。
『ギゼー君、君にはこれから試練に臨んでもらウ。この迷宮は、君の心を反映
しているノダ。この迷宮中に数多ある扉群の中から、一つだけ真実の扉を探し
出してもらいたイ。そして、ワタシをその鍵穴に差し込むのダ。ワタシのこと
は、そうだな……、真実の鍵とでも呼んでもらおうカ』
扉の向こう側は真実の鍵が言う通り、無数の扉がひしめき合っていた。それ
も、上下左右の別も無く。左右に扉があったと思いきや、上方にも扉は存在し
ていたり、正向きの階段があると思いきや、逆さまの階段があったりと、其処
は全くの出鱈目、ランダム性に富んだ迷宮だった。
「あー……、これが、俺の心を反映した迷宮だって?」
ギゼーは驚愕を通り越して、呆れ果てていた。こんな、途方も無い迷宮が自
分の心を反映した結果生じたものだとは。俄かには信じ難いものがある。
ギゼーの当然ともいえる疑問に、真実の鍵はあっさりと肯定して見せる。
『ソうだ。確かに、この迷宮はお前の心を反映して作られていル。そして、真
実の扉は君にしか判らない。君にしか、見つけられないのだヨ。ギゼー君』
「俺にしか……? って、お前は如何なんだよ。真実の鍵って言うからには、
お前の方が判るんじゃないのか?」
ギゼーが問い掛けると、真実の鍵は馬鹿にした様な、或いは自嘲めいた、笑
みを漏らした。含みのあるその笑いに、ギゼーはむかっ腹が立つ。
「なっ、なんだよぅ! 何も、笑わなくたっていいじゃないか! 俺には何が
どうなってるんだかさっぱり解らないんだから!」
『ワタシは、真実の扉を開けるためだけに存在しているモノ……』
その言葉を背に、ギゼーは手近にあった扉を取り敢えず開けてみる。
◆ ◇ ◆
そこは、地獄の業火に彩られていた。
紅に染め抜かれた家屋は、今にも崩れ落ちそうだった。
その紅の渦の中に、二つの人影が窺える。それは、微かに微笑んでいるよう
だった。ギゼーに向かって、微笑みかけているようだった。二人の口元が僅か
に動く。「自分達の事は大丈夫だから、心配しないで」ギゼーにはそう言って
いるように思えた。
「親父……。お袋……。何だ、これ……。何なんだ!」
ギゼーの目から無意識の内に零れ落ちる涙。
炎の中から差し伸べられた母の手に、ギゼーは堪え切れ得ぬ思いを胸に詰ま
らせていた。
お袋、やめてくれ。あんたは死んだんだ。死んじまったんだよ。喉から出る
か出ないかのところで詰まらせている言葉を、必死の思いで飲み込むギゼー。
本当は心の底から信じたかった。両親も、村人達も全て生きていると。元気に
今もアラウネ酒を作って馬鹿騒ぎしていると。
しかし、実のところギゼーは知っていた。希望は希望でしかないと言うこと
を。希望は希望的観測でしかなく、事実には到底なり得ない。事実を突きつけ
られて、そうはっきりと認識せざるを得なかった。
ギゼーは、何かを悟ったかのように、静かに一つ目の扉を閉じた。
「なんだ? 何なんだこれは……。ここの扉、全部俺の記憶そのものじゃあな
いか……」
怒りだか脱力感だかを噛み殺すように、呟くギゼー。その瞳は自分の爪先を
見詰めていた。
ギゼーの心の叫びと呟きを聞いた真実の鍵は、含むように笑うと呟いた。
『……だから言っただろウ? ココは、お前の心の中だっテ』
「う、うるさい! 黙れ!」
ギゼーは触れられたくない傷を抉られたような気がして、気分を害した。そ
れもよりにもよって無機物などに。声を荒げ、相手を威嚇するギゼー。既に解
っていることを指摘されることほど、むかつく事は無い。自分に理解力が無
い、と言われているようで腹立たしくなるものだ。
俺はそれほど馬鹿じゃない。
ギゼーはそう叫びたかった。ここがどういう所なのか、先程から散々情報提
供されているのだ。それを理解していない訳じゃない。頭の何処かで否定した
がっているだけなのだ。そして、一つ目の扉を開けた時、否定しようとしてい
たこと自体が否定され現実として突き付けられたのだ。脳内で混乱しているの
は事実だが、それも指摘して欲しくない。
「……っ! 真実の扉、とやらを探せばいいんだな……」
『そうだ。それが、最後の試練ダ』
「さ、さぁ、気を取り直してこの調子で次行って見よー!」
誤魔化し半分、気合半分の掛け声だった――。
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