PC ウピエル
場所 ルート
NPC ガン・バンジャン おぢいさん
___________________________________
草木も眠る丑三つ時、オーディルから街道を北へ独り行く影があった。
闇を払う光ももたず、この暗闇こそが我が居場所といわんばかりに堂々と。
★☆◆◇†☆★◇◆
「や、やっと付いたんだ……!!」
クーロンからちょっと離れた衛星都市…ならぬ衛星村に住む僕には、ある夢があった。
様々な苦労を経て早幾年。
ようやく、僕はこのルートの地を踏むことができたのだ!
……落ち着こう、自分。いくら目的地に付けたからって村の前でガッツポーズはマズい。
アヤシイ人に見られてしまうではないか。まずは深呼吸して落ち着こう。
すーはーすーはー、吸って吐いて吸って吐いて吐いて吐いて……死んでしまうわっ!
とにかく、昔ソフィニアにあると言う地下鉄の話を聞いて以来、僕はいつかソレに乗ってやろうと言う遠大な野望を持っていたのだ。
だけど、ソフィニアは遠い。僕みたいな一般人にはとても目指せる場所じゃない。
そんな時に聞いたのが大陸横断鉄道の噂だった。ソフィニアとクーロンの技術を合わせて現在試運転を重ねているという、幻の鉄道。
なんでも、移動中は異界を通る事で線路を敷かずに、駅だけで移動できる優れものなんだとか。ただ、新しい魔導技術の目白押しなものだからテストにテストを重ねて安全性をチェック、一般にはまだ情報も流していないって聞く。駅もまだ大きな工場に偽装してるくらいなんだって。
そして、一度にソフィニア⇔クーロン間を繋ぐのは危ないかもしれないから、要所要所に駅を置いてじょじょに距離を伸ばしていくのは当然のコト、そしてここがその要所の一つ、農村ルート。通りの向こうに大きな工場も見えるし、間違いない。
さぁ、夢に向かってまずは第一歩をふみだそ―「なぁなぁ、そこなお前さん」―う?
声を掛けてきたのは通りの入り口に机と椅子を置いて座っている人の良さそうなおぢいさんだった。
まるで占い師みたいな格好だけど、水晶球とかそういう小道具はないように見える。一体僕になんの用なんだろう?
「お前さん、名前はなんというのかな?」
目が隠れてしまっててよくみえない、お髭が長いおぢいさんは重ねてそう聞いてきた。
まぁ、隠すホドの名前でもないのでガン・バンジャンですなんて素直に名乗ってみる。
ガーン
まるでそんな効果音が聞こえてきたような錯覚に陥る。おぢいさんは瞼を見開き、口は半開きでカクカク震えている。何か僕の名前に問題でもあったのかな?
あ、何か呟いてる。いーとん、にーつ、やえぢゃないのかみたいな?よくわからないけど探してる人がいるみたい。ふるふると首をふって、今度は瞑想しはじめた。
よく、わからない。僕はもう行ってしまっていいのだろうか?
「喝ァァァァァァァァァァァァッ!!」
…うわ、びっくりした。突然目を見開いて叫ぶのはどうかと思う。
「ふむ。お前さんの夢はこの村で叶う……かもしれないとでたぞぃ」
ぱちくり。まばたきを一つ。
うん、今日もいい天気だなぁ。空は青く雲は白く。鳥はぴーちく囀りまくってるし。
ぱちくりこ、まばたきをもう一つ。そこで、ようやくこのおぢいさんが僕のコトを言ってるんだなってコトに気が付いた。
そこはかとなくいい加減だったけど、それでも希望が高まったことには違いなく。
僕は占い師のおぢいさんに頭をさげて、通りをまっすぐ進んでいった。
★☆◆◇†☆★◇◆
「よう、じいさん。調子はどうだい?」
希望に燃えた若者が立ち去ったその後に、入れ違うように金髪の若者が老人の前に姿を現した。
「ふむ、占い師の真似事もなかなか楽しいぞぃ。癖になりそうぢゃ」
村に入ってくるものは全て見えるようなそんな位置に座する老人は、その実ただの暇人でウピエルが雇ったアルバイターだ。
彼のバイト内容は、イートン、八重、ニーツの三人組を見かけたら強引にでも捕まえて、大陸横断鉄道のチケットを渡すこと。方法は問われていないので、占い師風に適当な値段で売りつけようと老人は画策している。
「まぁ、しっかり頼むゼ。多分夜の闇にまぎれてくるよーな連中じゃねぇと思うしナ」
そう言い残して、ウピエルは自分の宿に引っ込んでいった。一本通りを入ったところにある『眠れぬ森の野獣』亭という質はそこそこ値段は一流な宿は、主に普通の宿には泊まれない様な人達のための宿だが、ウピエルは三人組+一匹と鉢合わせしないようにこっちの宿を利用していた。
「さーて、ネタは仕込んだ。後は待つだけってか」
吸血鬼の呟きは、夜の闇にまぎれていった。
場所 ルート
NPC ガン・バンジャン おぢいさん
___________________________________
草木も眠る丑三つ時、オーディルから街道を北へ独り行く影があった。
闇を払う光ももたず、この暗闇こそが我が居場所といわんばかりに堂々と。
★☆◆◇†☆★◇◆
「や、やっと付いたんだ……!!」
クーロンからちょっと離れた衛星都市…ならぬ衛星村に住む僕には、ある夢があった。
様々な苦労を経て早幾年。
ようやく、僕はこのルートの地を踏むことができたのだ!
……落ち着こう、自分。いくら目的地に付けたからって村の前でガッツポーズはマズい。
アヤシイ人に見られてしまうではないか。まずは深呼吸して落ち着こう。
すーはーすーはー、吸って吐いて吸って吐いて吐いて吐いて……死んでしまうわっ!
とにかく、昔ソフィニアにあると言う地下鉄の話を聞いて以来、僕はいつかソレに乗ってやろうと言う遠大な野望を持っていたのだ。
だけど、ソフィニアは遠い。僕みたいな一般人にはとても目指せる場所じゃない。
そんな時に聞いたのが大陸横断鉄道の噂だった。ソフィニアとクーロンの技術を合わせて現在試運転を重ねているという、幻の鉄道。
なんでも、移動中は異界を通る事で線路を敷かずに、駅だけで移動できる優れものなんだとか。ただ、新しい魔導技術の目白押しなものだからテストにテストを重ねて安全性をチェック、一般にはまだ情報も流していないって聞く。駅もまだ大きな工場に偽装してるくらいなんだって。
そして、一度にソフィニア⇔クーロン間を繋ぐのは危ないかもしれないから、要所要所に駅を置いてじょじょに距離を伸ばしていくのは当然のコト、そしてここがその要所の一つ、農村ルート。通りの向こうに大きな工場も見えるし、間違いない。
さぁ、夢に向かってまずは第一歩をふみだそ―「なぁなぁ、そこなお前さん」―う?
声を掛けてきたのは通りの入り口に机と椅子を置いて座っている人の良さそうなおぢいさんだった。
まるで占い師みたいな格好だけど、水晶球とかそういう小道具はないように見える。一体僕になんの用なんだろう?
「お前さん、名前はなんというのかな?」
目が隠れてしまっててよくみえない、お髭が長いおぢいさんは重ねてそう聞いてきた。
まぁ、隠すホドの名前でもないのでガン・バンジャンですなんて素直に名乗ってみる。
ガーン
まるでそんな効果音が聞こえてきたような錯覚に陥る。おぢいさんは瞼を見開き、口は半開きでカクカク震えている。何か僕の名前に問題でもあったのかな?
あ、何か呟いてる。いーとん、にーつ、やえぢゃないのかみたいな?よくわからないけど探してる人がいるみたい。ふるふると首をふって、今度は瞑想しはじめた。
よく、わからない。僕はもう行ってしまっていいのだろうか?
「喝ァァァァァァァァァァァァッ!!」
…うわ、びっくりした。突然目を見開いて叫ぶのはどうかと思う。
「ふむ。お前さんの夢はこの村で叶う……かもしれないとでたぞぃ」
ぱちくり。まばたきを一つ。
うん、今日もいい天気だなぁ。空は青く雲は白く。鳥はぴーちく囀りまくってるし。
ぱちくりこ、まばたきをもう一つ。そこで、ようやくこのおぢいさんが僕のコトを言ってるんだなってコトに気が付いた。
そこはかとなくいい加減だったけど、それでも希望が高まったことには違いなく。
僕は占い師のおぢいさんに頭をさげて、通りをまっすぐ進んでいった。
★☆◆◇†☆★◇◆
「よう、じいさん。調子はどうだい?」
希望に燃えた若者が立ち去ったその後に、入れ違うように金髪の若者が老人の前に姿を現した。
「ふむ、占い師の真似事もなかなか楽しいぞぃ。癖になりそうぢゃ」
村に入ってくるものは全て見えるようなそんな位置に座する老人は、その実ただの暇人でウピエルが雇ったアルバイターだ。
彼のバイト内容は、イートン、八重、ニーツの三人組を見かけたら強引にでも捕まえて、大陸横断鉄道のチケットを渡すこと。方法は問われていないので、占い師風に適当な値段で売りつけようと老人は画策している。
「まぁ、しっかり頼むゼ。多分夜の闇にまぎれてくるよーな連中じゃねぇと思うしナ」
そう言い残して、ウピエルは自分の宿に引っ込んでいった。一本通りを入ったところにある『眠れぬ森の野獣』亭という質はそこそこ値段は一流な宿は、主に普通の宿には泊まれない様な人達のための宿だが、ウピエルは三人組+一匹と鉢合わせしないようにこっちの宿を利用していた。
「さーて、ネタは仕込んだ。後は待つだけってか」
吸血鬼の呟きは、夜の闇にまぎれていった。
PR
PC 八重・イートン・ニーツ
場所 ルート
NPC 占い師のじいさん
------------------------
ガン・バンジャン少年が怪しき占い師に声をかけられている頃。
占い師が探す3人組こと、八重・イートン・ニーツはオーディルからの街道を未だ北
上していた。
八重が、地図を見ながら唸った。
「この先に村がある。後半日位で着けそうだな」
「村、ですか」
「ああ。それにしても、ジュデッカまでの道のりは遠そうだな」
溜息と共に吐き出された言葉に、イートンがヒョイっと地図を覗き込み…
明らかに顔を曇らせた。
「あ―…本当ですね。まだまだかかりそうですね」
そこで、ふと思い立ったように、イートンはニーツを見た。
「そうだ、ニーツ君。ニーツ君の力でぱぱぱーとみんなで移動するっていうのは?」
「はぁ?」
思わぬ提案を吹っ掛けられたニーツは、眉をひそめてイートンを見た。
瞬間移動でみんなを運べないかと訊かれたと気付くと、ふいっとそっぽを向く。
その顔は明らかに迷惑そうだ。
「いやだ」
「何でですか?」
「めんどくさい」
ニーツの返答に、予想していたとばかりに、イートンは切り返す。
「歩く方がずっと面倒ですよ」
「若いうちは歩くものだ」
「そんな、親父くさい事を…イテ!!」
イートンの後頭部にぶつかって落ちたナスビが抗議の声をあげたが、誰も聞く者はい
なかった。
「いきなり投げるなんて酷いですよ~」
「まあまあ」
一部始終を見ていた八重が、苦笑して二人をなだめる。
なんにせよ、昔のようにじゃれあう姿は良いものだ、と八重は思う。
本人達にしてみれば、じゃれあっているつもりは無いのだろうけれど。
「さて、それはともかく、これからどうする?このままでは時間がかかって仕方が無
い」
「馬車でも使います?」
「……そんなお金があればな」
言われて、イートンは思わず自分達の所持金を思い浮かべた。
馬車を使ってジュデッカまでいくには…微妙に足りない。
「時間はまだまだあるんだ。ゆっくり行けばいいじゃないか」
「…人生は短いんだ、ニーツ…」
「ニーツ君は若いからまだ時間がありますけどね」
若い、を強調していうイートンに意味ありげな視線を送って、ニーツは視線を前に移
した。
「とりあえず、次の街までは歩きだぞ」
☆ ☆ ☆ ☆
丁度半日後、三人は小さな村に辿り着いた。
「八重、イートン、ニーツ」
村に入った途端、三人の名前を呟く声が聞こえ、ニーツを除く二人が振り返った。
その視線の先には、怪しげな占い師。
「…だな?お前達の名前は」
「はい、そうですが…どうしてそれを?」
「この水晶に出ておる」
怪しげな占い師は、にんやりと笑って三人を見た。
だがその後に、占い師が「ようやく当たった…」とこっそり呟いたのを、ニーツは聞い
た。
が、あえて何も言うことなく、イートンの様子を横目で見る。
予想通り、イートンは普通に感心していた。
「へぇ、凄いですね」
「イートン、そんなのに構っていないで…」
「どうだい?占ってあげようか。丁度お前達は本日二十人目の来村者だ。占い代は安く
するよ」
「本当ですか?お願いします」
安くするという言葉に、イートンとナスビがほてほてと占い師の方に歩き寄った。
ニーツと八重は呆れたようにそれを見守る。
「では、占ってしんぜよう。料金は前金制じゃ」
「いくらですか?」
イートンの問いかけに告げられた金額に、イートンは目を丸くした。
「安くするって言ったじゃないですか!」
「たわけ!これでも十分安くしておるわ!
さあさあ、男に二言は無い。払ってもらうぞよ」
「…仕方ないですねぇ…」
しぶしぶとイートンは財布を開ける。
お金を受け取るなりなり、占い師はいきなりバッと両手を広げた。
そのままうーんうーんと唸る。
その姿は神秘的というには程遠い。
だが、イートンは何も疑問を持たない様子で、それを見守っていた。
やがて、ふんっと大きく気合をいれ、占い師が顔を上げる。
「な、なんとぉ!」
「な…なんですか!?どうしたんですか」
「おおあたりじゃ!!」
大声で予想外の事を叫ぶ占い師に、イートンはぽかんとした表情を浮かべた。
「お主は大当たりじゃ!」
「大当たり…?」
「そうじゃ、なので、これを差し上げよう」
そう言って、占い師はイートンの手に何かを握らせた。
「それじゃ」
そのまますさまじいスピードで占い師は机を片付け、その場から急スピードで立ち去
る。
イートンは、握らされたものを手に、ぽかんと立ち尽くした。
「大当たりって、占いなんですか?」
『いや、普通は福引だと思うが』
「…何を貰ったんだ?」
いつの間にか近づいてきた八重が、イートンの手の中を覗き込んだ。
その手に握られていたのは勿論…
『……大陸横断鉄道乗車券?』
八重とイートン、二人の声が、見事にハモッた。
場所 ルート
NPC 占い師のじいさん
------------------------
ガン・バンジャン少年が怪しき占い師に声をかけられている頃。
占い師が探す3人組こと、八重・イートン・ニーツはオーディルからの街道を未だ北
上していた。
八重が、地図を見ながら唸った。
「この先に村がある。後半日位で着けそうだな」
「村、ですか」
「ああ。それにしても、ジュデッカまでの道のりは遠そうだな」
溜息と共に吐き出された言葉に、イートンがヒョイっと地図を覗き込み…
明らかに顔を曇らせた。
「あ―…本当ですね。まだまだかかりそうですね」
そこで、ふと思い立ったように、イートンはニーツを見た。
「そうだ、ニーツ君。ニーツ君の力でぱぱぱーとみんなで移動するっていうのは?」
「はぁ?」
思わぬ提案を吹っ掛けられたニーツは、眉をひそめてイートンを見た。
瞬間移動でみんなを運べないかと訊かれたと気付くと、ふいっとそっぽを向く。
その顔は明らかに迷惑そうだ。
「いやだ」
「何でですか?」
「めんどくさい」
ニーツの返答に、予想していたとばかりに、イートンは切り返す。
「歩く方がずっと面倒ですよ」
「若いうちは歩くものだ」
「そんな、親父くさい事を…イテ!!」
イートンの後頭部にぶつかって落ちたナスビが抗議の声をあげたが、誰も聞く者はい
なかった。
「いきなり投げるなんて酷いですよ~」
「まあまあ」
一部始終を見ていた八重が、苦笑して二人をなだめる。
なんにせよ、昔のようにじゃれあう姿は良いものだ、と八重は思う。
本人達にしてみれば、じゃれあっているつもりは無いのだろうけれど。
「さて、それはともかく、これからどうする?このままでは時間がかかって仕方が無
い」
「馬車でも使います?」
「……そんなお金があればな」
言われて、イートンは思わず自分達の所持金を思い浮かべた。
馬車を使ってジュデッカまでいくには…微妙に足りない。
「時間はまだまだあるんだ。ゆっくり行けばいいじゃないか」
「…人生は短いんだ、ニーツ…」
「ニーツ君は若いからまだ時間がありますけどね」
若い、を強調していうイートンに意味ありげな視線を送って、ニーツは視線を前に移
した。
「とりあえず、次の街までは歩きだぞ」
☆ ☆ ☆ ☆
丁度半日後、三人は小さな村に辿り着いた。
「八重、イートン、ニーツ」
村に入った途端、三人の名前を呟く声が聞こえ、ニーツを除く二人が振り返った。
その視線の先には、怪しげな占い師。
「…だな?お前達の名前は」
「はい、そうですが…どうしてそれを?」
「この水晶に出ておる」
怪しげな占い師は、にんやりと笑って三人を見た。
だがその後に、占い師が「ようやく当たった…」とこっそり呟いたのを、ニーツは聞い
た。
が、あえて何も言うことなく、イートンの様子を横目で見る。
予想通り、イートンは普通に感心していた。
「へぇ、凄いですね」
「イートン、そんなのに構っていないで…」
「どうだい?占ってあげようか。丁度お前達は本日二十人目の来村者だ。占い代は安く
するよ」
「本当ですか?お願いします」
安くするという言葉に、イートンとナスビがほてほてと占い師の方に歩き寄った。
ニーツと八重は呆れたようにそれを見守る。
「では、占ってしんぜよう。料金は前金制じゃ」
「いくらですか?」
イートンの問いかけに告げられた金額に、イートンは目を丸くした。
「安くするって言ったじゃないですか!」
「たわけ!これでも十分安くしておるわ!
さあさあ、男に二言は無い。払ってもらうぞよ」
「…仕方ないですねぇ…」
しぶしぶとイートンは財布を開ける。
お金を受け取るなりなり、占い師はいきなりバッと両手を広げた。
そのままうーんうーんと唸る。
その姿は神秘的というには程遠い。
だが、イートンは何も疑問を持たない様子で、それを見守っていた。
やがて、ふんっと大きく気合をいれ、占い師が顔を上げる。
「な、なんとぉ!」
「な…なんですか!?どうしたんですか」
「おおあたりじゃ!!」
大声で予想外の事を叫ぶ占い師に、イートンはぽかんとした表情を浮かべた。
「お主は大当たりじゃ!」
「大当たり…?」
「そうじゃ、なので、これを差し上げよう」
そう言って、占い師はイートンの手に何かを握らせた。
「それじゃ」
そのまますさまじいスピードで占い師は机を片付け、その場から急スピードで立ち去
る。
イートンは、握らされたものを手に、ぽかんと立ち尽くした。
「大当たりって、占いなんですか?」
『いや、普通は福引だと思うが』
「…何を貰ったんだ?」
いつの間にか近づいてきた八重が、イートンの手の中を覗き込んだ。
その手に握られていたのは勿論…
『……大陸横断鉄道乗車券?』
八重とイートン、二人の声が、見事にハモッた。
PC 八重・イートン・ニーツ・ウピエル
場所 ルート
------------------------
「大陸横断券…?」
押し付けられたチケットを覗き込み、誰とは無しにそう口にした。すでにあの
占い師の姿はない。もっとも、用心深いニーツは占い師がイートンにチケットを
押し付けると同時に逃げるように走り去って行ったのを見ていたのだが。
「鉄道と言うと、あの、ソフィニアのですかね?」
『なんだ?その『テツドウ』とか言うのは』
ナスビが首をかしげて問う。魔道やルナシーについては通じていても、所詮こ
の木兎は遥か昔に滅亡した古代国家の遺産なのである。現在の先端技術を駆使し
たこの交通手段について知るはずもなかった。
そんなナスビの様子にイートンが笑って説明する。
「ソフィニアには、魔法力機関を利用した地下鉄道が走っているのですよ。」
「確か異空間を利用してクーロン-ソフィニア間に鉄道を敷く計画があったな。
ふむ。今はここまで繋がったということか…」
イートンの言葉をニーツが補足する。
「クーロンまであともう少しですね。でも、まだ正規のルートとしては利用でき
ないと聞いてますけど…」
「試運転が始まっているのだろう。未開の分野だ、危険は大きいだろうが急ぎの
用がある者には何ヶ月とかかる道のりを短縮できる利は大きいさ。裏では試験中
の搭乗券も出回っているのだろうさ」
ニーツはイートンの手からその券を奪い取り疑わしそうに眺めた。
「まぁ、こんなフザケタ券を偽装したところで何の特にもならないのだから、こ
の村に駅があるのだろう」
誰の差し金かしらないが…。最後の台詞は誰にも聞こえないほど小さかった。
「まだ完成した訳じゃないんですよねぇ…ソレ」
「しかし、私たちがこのままデュデッカに向かえば、私は…最低1回は満月迎え
なければならない。ソフィニアまでの道のりを短縮できれば……」
「まぁ…取りあえず出発の日付だけでも聞いておくのも、悪くはないな。それほ
ど頻繁に行き来しているとは思えんからな」
八重の沈痛な面持ちを横目で見ながら、ニーツは長閑な家々の屋根からほんの
少し突き出している工場を指差した。
□■ □■ □■ □■ □■ □■
「確かに…ソフィニア行きの列車が出とるが…」
「本当か!?」
工場の入り口に立っていた男は、どうみてもこの先端技術を担う鉄道の関係者
というよりは、農夫といった印象が強い。
「この券を何処で手に入れなさったね?どうみてもお前さんたちは学院やギルド
の関係者にも見えないが」
「えーと…福引です」
不思議そうな顔の男に、イートンはさらに不思議の深まる答えを返した。
「明日の昼ごろに一便出るな。これを逃したら二週間は出なかった。お前さんた
ち運が良いね」
思ったより早い出発に一同に、主に八重だったが、安堵の表情が浮かぶ。ここ
で数週間も待たされたら元も子もない。そういえば、小さな村だというのに宿屋
がいくつか点在していたことをイートンは思い出した。この地下鉄を利用する旅
行者の為に用意されたものなのだろう。
電車に乗れるし、出発の日にちも良い。順調と思われた、その当日―――――
――――
朝一番で工場に向かった一向に衝撃の事実が伝えられた。
「お客さん。実はこの券は一枚につき2人しか乗せられないんだよ」
「――――!?」
イートンは思わず頭の中で人数を数える。ニーツに八重に、自分で三人。ナス
ビは多分人数には入らないだろうから、一人、足りない。
「ニーツ、お前一人なら地下鉄に乗らなくても自分でいけるだろう?ほら、いつ
ものように」
「……」
八重の提案にニーツは何故か不機嫌な顔をした。
「あれ?もしかしてニーツ君乗りたかったんですか?」
「べ、べつにそう言うわけじゃない」
珍しく慌てたニーツにイートンはおや、という顔で尋ねた。そこでナスビが意
地悪く笑った。
『いくら魔族が自由に空間を行き来できるとは言え、何の所縁もない場所にいき
なり現れたりすることは出来ぬよ。お主デュデッカには行ったことないのであろ
う?出来ぬことではないがそれこそ「めんどくさい」だな』
「イートンの魔力じゃ、追うには薄すぎる。八重がルナシーにでも変身すれば、
その背後にだって現れてやるさ」
すこし言い訳じみた口調で拗ねる様にニーツが言う。なんだか年相応に見えて
イートンは微笑ましく思う。最初に自分がけなされた事はあえて忘れることにし
て。
「でも、出来ないことは無いんだろう?」
「まぁな」
やはりどこか渋った口調でニーツが続けようとした瞬間、彼の細い肩を誰かが
馴れ馴れしく叩いた。
「諦める必要は無いぜ!」
「お前は」
「あ~、あの時の…」
そこには、あの『ウピエル』と名乗った男が立っていた。相変わらず人を食っ
たような表情で、あまり趣味のいいと思えない柄のついた開襟シャツに、黒いズ
ボン。その瞳は早朝の空と同じ済んだ青。
「やはり貴様だったか…やっぱり俺は一人で行く」
ニーツは先ほどの態度は何処にいったのか、急に地下鉄を乗ることに興味を失
ったようだった。
「え??ニーツ君?」
「だーかーら、乗れるって言ってンだろう?オレの持ってるチケットが一枚。乗
るのはオレ一人。そこの魔族の坊やがオレの連れになればお前たち3人乗れて、
問題もない」
「貴様、その『坊や』という言葉、分かって言ってるんだろう?訂正する気は無
いのか?」
剣呑な目つきで脅すニーツにウピエルは怯まない。チッチと舌を鳴らしながら
笑って言った。
「力で上下が決まる世界もあれば、『見た目で』上下が決まる世界もある。人間
の世界はどちらかといえば…後者だな」
「なろほど。では、前者の世界に場所を変えてやっても俺は構わないが?」
「ちょ、ちょっと落ち着いてくださいよ~~」
この二人はどうも相性が悪いようだ。イートンは二人の様子をはらはらと見守
っていたが、男と何か話し込んでいた八重が彼らに向かって大声で怒鳴った。
「あと少しで出発するらしい。取りあえず君も来るんだ!ニーツ!」
機体の整備は工場内で行われていたが、問題の駅は工場から少し離れたところ
にあるらしい。工場の裏に作られた地下通路を通って、彼らは遠い場所から場所
へ一瞬で移動できるという、夢のような横断鉄道を体験することになるのだ。
場所 ルート
------------------------
「大陸横断券…?」
押し付けられたチケットを覗き込み、誰とは無しにそう口にした。すでにあの
占い師の姿はない。もっとも、用心深いニーツは占い師がイートンにチケットを
押し付けると同時に逃げるように走り去って行ったのを見ていたのだが。
「鉄道と言うと、あの、ソフィニアのですかね?」
『なんだ?その『テツドウ』とか言うのは』
ナスビが首をかしげて問う。魔道やルナシーについては通じていても、所詮こ
の木兎は遥か昔に滅亡した古代国家の遺産なのである。現在の先端技術を駆使し
たこの交通手段について知るはずもなかった。
そんなナスビの様子にイートンが笑って説明する。
「ソフィニアには、魔法力機関を利用した地下鉄道が走っているのですよ。」
「確か異空間を利用してクーロン-ソフィニア間に鉄道を敷く計画があったな。
ふむ。今はここまで繋がったということか…」
イートンの言葉をニーツが補足する。
「クーロンまであともう少しですね。でも、まだ正規のルートとしては利用でき
ないと聞いてますけど…」
「試運転が始まっているのだろう。未開の分野だ、危険は大きいだろうが急ぎの
用がある者には何ヶ月とかかる道のりを短縮できる利は大きいさ。裏では試験中
の搭乗券も出回っているのだろうさ」
ニーツはイートンの手からその券を奪い取り疑わしそうに眺めた。
「まぁ、こんなフザケタ券を偽装したところで何の特にもならないのだから、こ
の村に駅があるのだろう」
誰の差し金かしらないが…。最後の台詞は誰にも聞こえないほど小さかった。
「まだ完成した訳じゃないんですよねぇ…ソレ」
「しかし、私たちがこのままデュデッカに向かえば、私は…最低1回は満月迎え
なければならない。ソフィニアまでの道のりを短縮できれば……」
「まぁ…取りあえず出発の日付だけでも聞いておくのも、悪くはないな。それほ
ど頻繁に行き来しているとは思えんからな」
八重の沈痛な面持ちを横目で見ながら、ニーツは長閑な家々の屋根からほんの
少し突き出している工場を指差した。
□■ □■ □■ □■ □■ □■
「確かに…ソフィニア行きの列車が出とるが…」
「本当か!?」
工場の入り口に立っていた男は、どうみてもこの先端技術を担う鉄道の関係者
というよりは、農夫といった印象が強い。
「この券を何処で手に入れなさったね?どうみてもお前さんたちは学院やギルド
の関係者にも見えないが」
「えーと…福引です」
不思議そうな顔の男に、イートンはさらに不思議の深まる答えを返した。
「明日の昼ごろに一便出るな。これを逃したら二週間は出なかった。お前さんた
ち運が良いね」
思ったより早い出発に一同に、主に八重だったが、安堵の表情が浮かぶ。ここ
で数週間も待たされたら元も子もない。そういえば、小さな村だというのに宿屋
がいくつか点在していたことをイートンは思い出した。この地下鉄を利用する旅
行者の為に用意されたものなのだろう。
電車に乗れるし、出発の日にちも良い。順調と思われた、その当日―――――
――――
朝一番で工場に向かった一向に衝撃の事実が伝えられた。
「お客さん。実はこの券は一枚につき2人しか乗せられないんだよ」
「――――!?」
イートンは思わず頭の中で人数を数える。ニーツに八重に、自分で三人。ナス
ビは多分人数には入らないだろうから、一人、足りない。
「ニーツ、お前一人なら地下鉄に乗らなくても自分でいけるだろう?ほら、いつ
ものように」
「……」
八重の提案にニーツは何故か不機嫌な顔をした。
「あれ?もしかしてニーツ君乗りたかったんですか?」
「べ、べつにそう言うわけじゃない」
珍しく慌てたニーツにイートンはおや、という顔で尋ねた。そこでナスビが意
地悪く笑った。
『いくら魔族が自由に空間を行き来できるとは言え、何の所縁もない場所にいき
なり現れたりすることは出来ぬよ。お主デュデッカには行ったことないのであろ
う?出来ぬことではないがそれこそ「めんどくさい」だな』
「イートンの魔力じゃ、追うには薄すぎる。八重がルナシーにでも変身すれば、
その背後にだって現れてやるさ」
すこし言い訳じみた口調で拗ねる様にニーツが言う。なんだか年相応に見えて
イートンは微笑ましく思う。最初に自分がけなされた事はあえて忘れることにし
て。
「でも、出来ないことは無いんだろう?」
「まぁな」
やはりどこか渋った口調でニーツが続けようとした瞬間、彼の細い肩を誰かが
馴れ馴れしく叩いた。
「諦める必要は無いぜ!」
「お前は」
「あ~、あの時の…」
そこには、あの『ウピエル』と名乗った男が立っていた。相変わらず人を食っ
たような表情で、あまり趣味のいいと思えない柄のついた開襟シャツに、黒いズ
ボン。その瞳は早朝の空と同じ済んだ青。
「やはり貴様だったか…やっぱり俺は一人で行く」
ニーツは先ほどの態度は何処にいったのか、急に地下鉄を乗ることに興味を失
ったようだった。
「え??ニーツ君?」
「だーかーら、乗れるって言ってンだろう?オレの持ってるチケットが一枚。乗
るのはオレ一人。そこの魔族の坊やがオレの連れになればお前たち3人乗れて、
問題もない」
「貴様、その『坊や』という言葉、分かって言ってるんだろう?訂正する気は無
いのか?」
剣呑な目つきで脅すニーツにウピエルは怯まない。チッチと舌を鳴らしながら
笑って言った。
「力で上下が決まる世界もあれば、『見た目で』上下が決まる世界もある。人間
の世界はどちらかといえば…後者だな」
「なろほど。では、前者の世界に場所を変えてやっても俺は構わないが?」
「ちょ、ちょっと落ち着いてくださいよ~~」
この二人はどうも相性が悪いようだ。イートンは二人の様子をはらはらと見守
っていたが、男と何か話し込んでいた八重が彼らに向かって大声で怒鳴った。
「あと少しで出発するらしい。取りあえず君も来るんだ!ニーツ!」
機体の整備は工場内で行われていたが、問題の駅は工場から少し離れたところ
にあるらしい。工場の裏に作られた地下通路を通って、彼らは遠い場所から場所
へ一瞬で移動できるという、夢のような横断鉄道を体験することになるのだ。
PC イートン・ニーツ・ウピエル・八重
場所 ルート
NPC 駅員 ナスビ
___________________________________
地下に続く通路は、照らす明かりが足元についている長方形で緑色の明かり
しかない、なんとも薄暗い通路だった。その長方形の緑色の明かりには一つ一
つ白い字で文字が書いてある。そうそれはこの鉄道を作るのに出資したスポン
サーの名である。
コツコツと、四人とプラス一匹の、淋しい足音だけが通路に響く。
長い階段を下りると、三つに分かれた通路で紺の制服を着た男達…この駅の
駅員が改札を行っていた。通路の先からは、煌々とした明かりが漏れている。
「お客様、乗車券を拝見いたします」
丸顔で人のよさそうな顔をした駅員が白手袋をはめた手を差し出した。
「は、はぁ…」
その言葉にイートンがおずおずと券を差し出す。駅員はふむふむと券を確認
すると、
「お客様のお席はAの8番になります。どうぞよい旅を」
カチッと券にハサミを入れると、微笑んでイートンに券を返した。
「ふむ、では私の席はイートンの隣になるな。番号が続いている」
そういって八重も駅員に券を渡す。カチッ。
「そうなりますね。お客様のお席はAの9番ですから」
笑みを絶やさず、駅員は八重にハサミの入った券を渡した。
「ふーん、じゃあオレたちはどこの席になるんだ?こいつらとは席、近いの
か?」
ウピエルが口をとがらせながら券を渡すと、駅員は券を見つめた後、
「お客様のお席は…、Cの7番ですね。このお席ですとA席からは車両一台分離
れた場所です」
「えー、じゃあオレ、こいつらとは離れちゃうのか?なんだよ、オレどうもコ
イツとはソリがあわねぇような気ぃするんだよなぁ…。つーか、コイツがあわ
せる気ないって言うカンジ」
ぷーっとほっぺたを膨らませてウピエルが言うと、ニーツはギロッとウピエ
ルを一瞥し、ぷんとそっぽを向く。
「ふん、馬鹿馬鹿しい。誰がお前みたいなやつに合わせるか」
「けーっ、なんだよ可愛くねぇー」
ウピエルは拗ねたように横を向くと、付け加えるようにぼそっと一言。
「見た目はけっこう可愛い系なのによぉ」
その言葉を聞いて、ニーツがウピエルを鬼のような形相でくわっ、と睨む。
可愛い、というのはニーツには禁句だというのに…。
「あわわ…。ウピエルさん…、これ以上言ったらニーツ君に殺されますって
ぇ…」
二人の狭間であわあわとうろたえるイートン。
それを遠くから傍観するように八重とナスビは眺めていた。
「全く、あの男はわざわざニーツのヤツを挑発するようなことを言って…。あ
の二人を一緒にして死人が出ても知らんぞ。私は」
『いや、あの二人、口論にはなっても互いに手は出さんだろうな。感じぬか?
あいつら何気に魔力はほぼ互角に近いものがある…』
「え?」
おもむろにタバコをくわえようとする八重を駅員が静止した。
「お客様、当列車では全車両禁煙になっております」
「あ、ああ、すまない」
急いで八重はタバコを床に押し付けてもみ消した。すると、ふっと腕に抱い
ていたナスビを駅員にとられた。
「なっ…」
「お客様、申し訳ございません。当列車では他のお客様のご迷惑になる場合が
ありますので<ペット>は専用車両でお預かりすることになっているんです
よ」
『なぬ?我輩をペットとな?なんて無礼な!』
ペット扱いされたナスビの目がきっと持ち上がる。
『おい、駅員!我輩は断じて!ペットなどではないぞ!由緒正しきヴェルンの
守護神であーる』
しかし、駅員はそうのたまうナスビを見てにっこり笑うと、
「はは、めずらしいウサちゃんですね。ご安心ください、ウサちゃんは専用車
両できちんとお預かりしますから」
『だから!我輩、ウサちゃんなどではないぞ!いやむしろウサちゃんなのは我
輩ではなく八重のほう…』
しかしナスビの言葉もむなしく、ナスビはじたばたするのを駅員二人に押さ
えつけられ、『我輩ペットではないぞぉ~』という叫びを残しながらも、ペッ
ト専用車両に連行されたしまった。次第にその声は遠くなっていく。
(ああ…)
目の前ではニーツとウピエルが…今は冷戦状態で争っている。そしてナスビ
はペット扱いされて連れ去られ。
「はぁ…」
これからのことを考え、また今日も深いため息をつく八重だった。
場所 ルート
NPC 駅員 ナスビ
___________________________________
地下に続く通路は、照らす明かりが足元についている長方形で緑色の明かり
しかない、なんとも薄暗い通路だった。その長方形の緑色の明かりには一つ一
つ白い字で文字が書いてある。そうそれはこの鉄道を作るのに出資したスポン
サーの名である。
コツコツと、四人とプラス一匹の、淋しい足音だけが通路に響く。
長い階段を下りると、三つに分かれた通路で紺の制服を着た男達…この駅の
駅員が改札を行っていた。通路の先からは、煌々とした明かりが漏れている。
「お客様、乗車券を拝見いたします」
丸顔で人のよさそうな顔をした駅員が白手袋をはめた手を差し出した。
「は、はぁ…」
その言葉にイートンがおずおずと券を差し出す。駅員はふむふむと券を確認
すると、
「お客様のお席はAの8番になります。どうぞよい旅を」
カチッと券にハサミを入れると、微笑んでイートンに券を返した。
「ふむ、では私の席はイートンの隣になるな。番号が続いている」
そういって八重も駅員に券を渡す。カチッ。
「そうなりますね。お客様のお席はAの9番ですから」
笑みを絶やさず、駅員は八重にハサミの入った券を渡した。
「ふーん、じゃあオレたちはどこの席になるんだ?こいつらとは席、近いの
か?」
ウピエルが口をとがらせながら券を渡すと、駅員は券を見つめた後、
「お客様のお席は…、Cの7番ですね。このお席ですとA席からは車両一台分離
れた場所です」
「えー、じゃあオレ、こいつらとは離れちゃうのか?なんだよ、オレどうもコ
イツとはソリがあわねぇような気ぃするんだよなぁ…。つーか、コイツがあわ
せる気ないって言うカンジ」
ぷーっとほっぺたを膨らませてウピエルが言うと、ニーツはギロッとウピエ
ルを一瞥し、ぷんとそっぽを向く。
「ふん、馬鹿馬鹿しい。誰がお前みたいなやつに合わせるか」
「けーっ、なんだよ可愛くねぇー」
ウピエルは拗ねたように横を向くと、付け加えるようにぼそっと一言。
「見た目はけっこう可愛い系なのによぉ」
その言葉を聞いて、ニーツがウピエルを鬼のような形相でくわっ、と睨む。
可愛い、というのはニーツには禁句だというのに…。
「あわわ…。ウピエルさん…、これ以上言ったらニーツ君に殺されますって
ぇ…」
二人の狭間であわあわとうろたえるイートン。
それを遠くから傍観するように八重とナスビは眺めていた。
「全く、あの男はわざわざニーツのヤツを挑発するようなことを言って…。あ
の二人を一緒にして死人が出ても知らんぞ。私は」
『いや、あの二人、口論にはなっても互いに手は出さんだろうな。感じぬか?
あいつら何気に魔力はほぼ互角に近いものがある…』
「え?」
おもむろにタバコをくわえようとする八重を駅員が静止した。
「お客様、当列車では全車両禁煙になっております」
「あ、ああ、すまない」
急いで八重はタバコを床に押し付けてもみ消した。すると、ふっと腕に抱い
ていたナスビを駅員にとられた。
「なっ…」
「お客様、申し訳ございません。当列車では他のお客様のご迷惑になる場合が
ありますので<ペット>は専用車両でお預かりすることになっているんです
よ」
『なぬ?我輩をペットとな?なんて無礼な!』
ペット扱いされたナスビの目がきっと持ち上がる。
『おい、駅員!我輩は断じて!ペットなどではないぞ!由緒正しきヴェルンの
守護神であーる』
しかし、駅員はそうのたまうナスビを見てにっこり笑うと、
「はは、めずらしいウサちゃんですね。ご安心ください、ウサちゃんは専用車
両できちんとお預かりしますから」
『だから!我輩、ウサちゃんなどではないぞ!いやむしろウサちゃんなのは我
輩ではなく八重のほう…』
しかしナスビの言葉もむなしく、ナスビはじたばたするのを駅員二人に押さ
えつけられ、『我輩ペットではないぞぉ~』という叫びを残しながらも、ペッ
ト専用車両に連行されたしまった。次第にその声は遠くなっていく。
(ああ…)
目の前ではニーツとウピエルが…今は冷戦状態で争っている。そしてナスビ
はペット扱いされて連れ去られ。
「はぁ…」
これからのことを考え、また今日も深いため息をつく八重だった。
PC:イートン・八重・ニーツ・ウピエル
場所:大陸横断鉄道車内
NPC :ナスビ・乗務員s
--------------------------------------------------------------------------------
乗客名簿に指定席の客全員の署名がならんだのを確認して、車掌は運転士に出発の合図を出した。
この世界と異世界の技術を併せ、初めて完成した列車が鉄の道を行く――。
◆◇★☆†◇◆☆★
「さて、俺様はちょいと車内をみまわらにゃあいかんのでな。席を外させてもらうぜ」
「ふん、どこへなりと行くがいいだろう」
列車が動きだし無事空間を抜けて異世界を走り出すと、ウピエルは席を立った。ニーツの相変わらずそっけない反応に苦笑しながら軽く手を振って後部車両を目指す。当然のように、反応はなかった。まぁ初対面でああいう事をすればそれも当たり前か、とウピエルは自分で納得する。自分と同じくらいに生きている存在なんてそうそう会えるモノでもないからといって少々羽目を外し過ぎたといったか。予想以上にからかった時の反応がよかったので関係修復はムリかもしれない、とそこまで考えたところで最後尾の車両に辿り着いた。
「よう、なんか異常はあったか?」
偶然最後尾に居合わせた乗務員に声を掛ける。振り向いた乗務員は敬礼し、異常はありませんと答えた。それに「そいつァよかった」と相槌を打ちながらざっと全体を見て歩く。この車両は貨物車で、クーロンからソフィニアの方へ運ぶ荷物やらなにやらを載せてある。そして、その隅っこには乗るときにペットとして回収されたナスビの姿もあった。抵抗しても無駄だと悟ったのか、今ではただ哀愁が漂う背中をみせるのみだ。
「なぁ、そこのピンク色の物体の事なんだが」
「はい?」
乗務員は首をかしげ辺りを見回し……ああ、得心のいった声をあげる。
「このペットちゃんですね。どうかなさいましたか?」
自分の事に関する話題を聞きつけたのか、ピクりと反応するナスビ。直後に来る地獄の事を彼はまだ知らない。
「実はな、ソレペットじゃなくて今度商品化される予定の玩具だそうだゼ?」
「本当ですか!?」
「ああ。向こうでプレゼンするらしくて最終確認がしたいんだと。返してやれネェか?」
「ええ、そういう事なら大丈夫ですよ。それではアレイド様のところに届けてきますね」
そういって乗務員はナスビをケージから取り出した。
「しかしコレ、まるで生きてるみたいですね~」
言いながら体の各部を生物学的にアリエナイ方向へ動かそうといろいろいじくる。やめろぉぉぉ、と叫ぼうにも叫べないナスビの表情を思う存分堪能してから、あんまり弄って壊すなよ?と助け舟を出した。その言葉でようやく自分のやっている事に気付いたのか乗務員はそれ以上ナスビを弄るのをやめ、持ち主に手渡すべく貨物車両から出て行った。
貨物列車の隣は食堂車になっていて、一流に分類されるシェフが美味い料理でもてなさんと待機している。窓も大きめにつくってあり、特に景色と風景を楽しめる大陸横断鉄道の目玉だ。ここでも特に異常がない事を確認すると、ウピエルは次の車両に向かった。
「ああ、ちょうどよかった。ウピエル様、お手紙が届いております」
食堂車から次の客車に移動しようとしている時に、先ほどの乗務員と再び顔をあわせた。ナスビを持ち主?の元へ返し、戻ってくる所なのだろう。しかし、その手にはさっきまでは持っていなかった白い封筒が握られている。
「手紙?俺様宛のか?」
「はい、どうやら緊急の用事だそうで、先刻停車した駅でくれぐれも、と頼まれました」
移動距離を少しずつ増やしていった流れで、現在横断鉄道にはそれなりの数の駅が用意されている。もし操業となった場合にはもう少し厳選して数を減らす事になるのだが、とりあえず今は全部とは言わないまでもそれなりの数の駅に停車して、客や貨物を降ろしたり乗せたりしている。半分くらいは、鉄道の有益さのアピールもかねて。
どうやらこの手紙も食堂車でシェフと少し話をしている間に止まった駅で渡されたらしい。受け取ってひっくり返し、差出人を見ると古物商や屋敷の管理を任せているメイドの名前が記してあった。
「ふむ……まぁいい。サンキュ、助かった」
乗務員にチップを渡し、封筒を開ける。中にはもう一つ封筒があり、その封筒はどこぞの紋章で封印が押されていた。家宛に送られてきた手紙をわざわざこっちに転送してくれたのだろう。この列車の切符の手配といい、よく気が回る。彼女が居なければウピエルはかなり面倒な思いをする事になっていただろう。そこまで考えた所で、指に触れた蝋の感触に意識が手紙に引き戻される。見た事もない紋章を訝しがりながらもその封筒をあけ、中の手紙を読む事にした。手紙に使われている紙も同じ紋章が入っている特別製で、その手紙がどこかかなりの上流階級から送られてきたという事がよくわかる。
手紙を読み終わったウピエルはしばらく考え事をした後、唇の端をニィっと吊り上げた。
後ろから三両目、食堂車の隣にある客車はウピエルやニーツの席がある車両だ。乗ったり降りたりしているので満席ではないが、それなりに席は埋まっている。目新しいモノを試そうとする物好きな金持ちも、スポンサーというほどのレベルに限定しなければそこそこにいるといういい証拠だ。ちなみにニーツはというと、特にやる事もなかったのか小さな寝息を立てて眠っていた。――こうしていると本気で子供とかわんねぇなぁ――と、本人に知られたら烈火の如く怒るであろう思考がウピエルの脳裏を掠めていった。続いて、悪戯書きでもしてやろうかとも思うがこれ以上警戒心や敵対心をつくってもしょうがないので我慢して、次の車両へ進む事にした。
前から三両目、二つある客車の一両目に当たる。内装や混み具合は他方の客車と特に変わる所はなかった。こちらには、イートンや八重の席がある。
「よう」
二人+一匹が座る席にひょいっと顔を出した。イートンは興味深げに窓の外の景色を眺めている。八重は腕を組んで頭を背もたれに預けていたが、別に寝ているというわけではないようだ。ナスビは窓の枠の所でまるで置物のように硬直している。
「ああ、ウピエルさんですか」
外を見ていたイートンが振り返った。他の二人と違ってかなり警戒心がない動作に、この様子じゃあ二人とも苦労してるんだろうなぁと内心苦笑する。
「どーだい、この列車の乗り心地は?なかなかのモンだろう」
廊下からイートンの椅子の背に手を当てて窓を覗き込む。ちょうどてっぺんが白い雪に覆われた山の横を通過していく所だった。
「ええ、そうですね。すごく快適です」
もともとのスポンサー連が物好きとは言え上流階級の人間で、彼らは当然のように椅子の座り心地やらなんやら非常に拘った。食堂車に一流のシェフを乗せたのと同じように、客車の椅子にも一流の物を起用してあるのだ。その座り心地は硬すぎず柔らかすぎず、長時間座っていても平気なように計算しつくされたモノだった。それが快適でないハズがない。
「ここの二両後ろにゃ食堂車があるんだ。俺様の名前を出せば無料だから行ってみな」
ウピエルは先ほど見回ってきた時に客がこなくて暇だとぼやいていたシェフを思い出す。どの客もまだ馬車よりも早くしかも普段見慣れない風景の中を走る列車の存在が珍しくて、わざわざ食堂車にまで赴こうと思う者が少ないらしい。
「本当ですか?じゃあ後でニーツ君を誘って行ってみますよ」
「ああ、堪能してくれ。さて、あの坊やにとってはちょいと嬉しい知らせがある」
ひと段落ついたところで、ウピエルは本題を切り出す事にした。ポケットからついさっき受け取ったばかりの手紙を取り出しながら、これからの自分の行動を思考し、説明する。
「…なんですか?」
ニーツにとって嬉しい知らせ、それをウピエルが今自分達に言うという状況がよく分からなくてイートンは瞬きをした。
「実はな、俺様ちょいとヤボ用が出来て次の駅で降りる事になった」
そういってウピエルは取り出した封筒を振ってみせた。蝋で押された封印を重しにしてひらひらと揺れる。
「あれ、その紋章は断崖の国の……?」
地方の伝承というものにはそこの生活と密接な関係がある。また、その伝承を元にして紋章を創る一族も少なくはなく、結果としてイートンにはそういう方面の知識も多少は得る機会があった。そして、鳳凰を象ったその紋章は大陸でも北部にある宗教国家のそれと一致する。
「お、知ってんのか。そこの女王さんにちょいと頼まれごとがあってな」
ほれ、と封筒を放って渡す。イートンが中の手紙を取り出し、ざっと目を通すと丁寧な字で簡潔に纏められた文章が目に飛び込んできた。
--------------------------------------------------------------------------------
拝啓 ジグムンド・ウピエル・ギターマン様
本日は最近我が断崖の国コモンウェルズにおいて頻発している事件の解決に貴殿の知恵をお借りしたく、こうしてお手紙を差し上げる次第でございます。
急なお願いで誠に恐縮ですが、事情御賢察の上御高配くださいますようお願い申し上げます。
まずはとり急ぎご連絡いたします。
敬具
断崖の国コモンウェルズ 女王ピザ・マルガリータ
--------------------------------------------------------------------------------
「うわぁ……」
読み終わったイートンの目に不思議な輝きが宿った。断崖の国コモンウェルズは熱狂的な鳳凰信仰の国で、その形態は相当に閉鎖的だ。そんな国の女王から、人間ならざる者への事件解決の依頼が来ている。久しぶりに作家としての魂が揺さぶられるようなシチュエーションに興奮を禁じえない様子だ。
「そうなると、ドクター・レンの居場所の情報はどうなるんだ?」
イートンの次に目を通した八重が口を開いた。落ち着いた口調だが、その奥底には重い物が潜んでいる。そんな印象を抱かせるような声だった。
「ま、あの坊やもいる事だし大丈夫だろ……って言いたい所だけどな」
そこで一度言葉を切って、挑発するように八重の目を覗き込む。が、八重も心得ているようで無反応なので、ウピエルは諦めてさっさと続きを口にした。
「ま、ちゃっちゃと片付けてジュデッカ辺りで合流って所でどうだ?」
コモンウェルズがあるスズナ山脈は大陸北東部に位置する山脈だ。そこを抜けて北西に向かえばもうジュデッカ、やや遠回りではあるものの無茶というほどの距離ではない。特に、人並みはずれた身体能力を持つウピエルにはなんら苦となるものはないのだ。
「そういう事なら私は別にかまわないさ」
そうこうしているうちに列車はゲートを越え、工場に見せかけられた駅に停車した。
乗客の乗り降りや貨物の移動が行われ、自然と雰囲気が慌しくなる。
「ま、そういうコトだから俺様はいくわ。またジュデッカでな」
じゃ、と軽く手を振って立ち去ろうとするウピエルの服の裾をイートンがガシッっと捕まえた。
「お土産をお願いします。あの国は閉鎖的であまり資料がないんですよ」
椅子に座ったままウピエルを見上げるイートンの目は、未知なる情報への期待に燃えている。ウピエルはその様子にいっそある種の感動さえ覚えた。
「ま、土産話くらいでよかったら聞かせてやるさ」
「本当ですか!お願いします!」
イートンの手が離れたのを確認して、ウピエルは今度こそ降車口へと向かう。鳳凰が住まう国を目指して――
場所:大陸横断鉄道車内
NPC :ナスビ・乗務員s
--------------------------------------------------------------------------------
乗客名簿に指定席の客全員の署名がならんだのを確認して、車掌は運転士に出発の合図を出した。
この世界と異世界の技術を併せ、初めて完成した列車が鉄の道を行く――。
◆◇★☆†◇◆☆★
「さて、俺様はちょいと車内をみまわらにゃあいかんのでな。席を外させてもらうぜ」
「ふん、どこへなりと行くがいいだろう」
列車が動きだし無事空間を抜けて異世界を走り出すと、ウピエルは席を立った。ニーツの相変わらずそっけない反応に苦笑しながら軽く手を振って後部車両を目指す。当然のように、反応はなかった。まぁ初対面でああいう事をすればそれも当たり前か、とウピエルは自分で納得する。自分と同じくらいに生きている存在なんてそうそう会えるモノでもないからといって少々羽目を外し過ぎたといったか。予想以上にからかった時の反応がよかったので関係修復はムリかもしれない、とそこまで考えたところで最後尾の車両に辿り着いた。
「よう、なんか異常はあったか?」
偶然最後尾に居合わせた乗務員に声を掛ける。振り向いた乗務員は敬礼し、異常はありませんと答えた。それに「そいつァよかった」と相槌を打ちながらざっと全体を見て歩く。この車両は貨物車で、クーロンからソフィニアの方へ運ぶ荷物やらなにやらを載せてある。そして、その隅っこには乗るときにペットとして回収されたナスビの姿もあった。抵抗しても無駄だと悟ったのか、今ではただ哀愁が漂う背中をみせるのみだ。
「なぁ、そこのピンク色の物体の事なんだが」
「はい?」
乗務員は首をかしげ辺りを見回し……ああ、得心のいった声をあげる。
「このペットちゃんですね。どうかなさいましたか?」
自分の事に関する話題を聞きつけたのか、ピクりと反応するナスビ。直後に来る地獄の事を彼はまだ知らない。
「実はな、ソレペットじゃなくて今度商品化される予定の玩具だそうだゼ?」
「本当ですか!?」
「ああ。向こうでプレゼンするらしくて最終確認がしたいんだと。返してやれネェか?」
「ええ、そういう事なら大丈夫ですよ。それではアレイド様のところに届けてきますね」
そういって乗務員はナスビをケージから取り出した。
「しかしコレ、まるで生きてるみたいですね~」
言いながら体の各部を生物学的にアリエナイ方向へ動かそうといろいろいじくる。やめろぉぉぉ、と叫ぼうにも叫べないナスビの表情を思う存分堪能してから、あんまり弄って壊すなよ?と助け舟を出した。その言葉でようやく自分のやっている事に気付いたのか乗務員はそれ以上ナスビを弄るのをやめ、持ち主に手渡すべく貨物車両から出て行った。
貨物列車の隣は食堂車になっていて、一流に分類されるシェフが美味い料理でもてなさんと待機している。窓も大きめにつくってあり、特に景色と風景を楽しめる大陸横断鉄道の目玉だ。ここでも特に異常がない事を確認すると、ウピエルは次の車両に向かった。
「ああ、ちょうどよかった。ウピエル様、お手紙が届いております」
食堂車から次の客車に移動しようとしている時に、先ほどの乗務員と再び顔をあわせた。ナスビを持ち主?の元へ返し、戻ってくる所なのだろう。しかし、その手にはさっきまでは持っていなかった白い封筒が握られている。
「手紙?俺様宛のか?」
「はい、どうやら緊急の用事だそうで、先刻停車した駅でくれぐれも、と頼まれました」
移動距離を少しずつ増やしていった流れで、現在横断鉄道にはそれなりの数の駅が用意されている。もし操業となった場合にはもう少し厳選して数を減らす事になるのだが、とりあえず今は全部とは言わないまでもそれなりの数の駅に停車して、客や貨物を降ろしたり乗せたりしている。半分くらいは、鉄道の有益さのアピールもかねて。
どうやらこの手紙も食堂車でシェフと少し話をしている間に止まった駅で渡されたらしい。受け取ってひっくり返し、差出人を見ると古物商や屋敷の管理を任せているメイドの名前が記してあった。
「ふむ……まぁいい。サンキュ、助かった」
乗務員にチップを渡し、封筒を開ける。中にはもう一つ封筒があり、その封筒はどこぞの紋章で封印が押されていた。家宛に送られてきた手紙をわざわざこっちに転送してくれたのだろう。この列車の切符の手配といい、よく気が回る。彼女が居なければウピエルはかなり面倒な思いをする事になっていただろう。そこまで考えた所で、指に触れた蝋の感触に意識が手紙に引き戻される。見た事もない紋章を訝しがりながらもその封筒をあけ、中の手紙を読む事にした。手紙に使われている紙も同じ紋章が入っている特別製で、その手紙がどこかかなりの上流階級から送られてきたという事がよくわかる。
手紙を読み終わったウピエルはしばらく考え事をした後、唇の端をニィっと吊り上げた。
後ろから三両目、食堂車の隣にある客車はウピエルやニーツの席がある車両だ。乗ったり降りたりしているので満席ではないが、それなりに席は埋まっている。目新しいモノを試そうとする物好きな金持ちも、スポンサーというほどのレベルに限定しなければそこそこにいるといういい証拠だ。ちなみにニーツはというと、特にやる事もなかったのか小さな寝息を立てて眠っていた。――こうしていると本気で子供とかわんねぇなぁ――と、本人に知られたら烈火の如く怒るであろう思考がウピエルの脳裏を掠めていった。続いて、悪戯書きでもしてやろうかとも思うがこれ以上警戒心や敵対心をつくってもしょうがないので我慢して、次の車両へ進む事にした。
前から三両目、二つある客車の一両目に当たる。内装や混み具合は他方の客車と特に変わる所はなかった。こちらには、イートンや八重の席がある。
「よう」
二人+一匹が座る席にひょいっと顔を出した。イートンは興味深げに窓の外の景色を眺めている。八重は腕を組んで頭を背もたれに預けていたが、別に寝ているというわけではないようだ。ナスビは窓の枠の所でまるで置物のように硬直している。
「ああ、ウピエルさんですか」
外を見ていたイートンが振り返った。他の二人と違ってかなり警戒心がない動作に、この様子じゃあ二人とも苦労してるんだろうなぁと内心苦笑する。
「どーだい、この列車の乗り心地は?なかなかのモンだろう」
廊下からイートンの椅子の背に手を当てて窓を覗き込む。ちょうどてっぺんが白い雪に覆われた山の横を通過していく所だった。
「ええ、そうですね。すごく快適です」
もともとのスポンサー連が物好きとは言え上流階級の人間で、彼らは当然のように椅子の座り心地やらなんやら非常に拘った。食堂車に一流のシェフを乗せたのと同じように、客車の椅子にも一流の物を起用してあるのだ。その座り心地は硬すぎず柔らかすぎず、長時間座っていても平気なように計算しつくされたモノだった。それが快適でないハズがない。
「ここの二両後ろにゃ食堂車があるんだ。俺様の名前を出せば無料だから行ってみな」
ウピエルは先ほど見回ってきた時に客がこなくて暇だとぼやいていたシェフを思い出す。どの客もまだ馬車よりも早くしかも普段見慣れない風景の中を走る列車の存在が珍しくて、わざわざ食堂車にまで赴こうと思う者が少ないらしい。
「本当ですか?じゃあ後でニーツ君を誘って行ってみますよ」
「ああ、堪能してくれ。さて、あの坊やにとってはちょいと嬉しい知らせがある」
ひと段落ついたところで、ウピエルは本題を切り出す事にした。ポケットからついさっき受け取ったばかりの手紙を取り出しながら、これからの自分の行動を思考し、説明する。
「…なんですか?」
ニーツにとって嬉しい知らせ、それをウピエルが今自分達に言うという状況がよく分からなくてイートンは瞬きをした。
「実はな、俺様ちょいとヤボ用が出来て次の駅で降りる事になった」
そういってウピエルは取り出した封筒を振ってみせた。蝋で押された封印を重しにしてひらひらと揺れる。
「あれ、その紋章は断崖の国の……?」
地方の伝承というものにはそこの生活と密接な関係がある。また、その伝承を元にして紋章を創る一族も少なくはなく、結果としてイートンにはそういう方面の知識も多少は得る機会があった。そして、鳳凰を象ったその紋章は大陸でも北部にある宗教国家のそれと一致する。
「お、知ってんのか。そこの女王さんにちょいと頼まれごとがあってな」
ほれ、と封筒を放って渡す。イートンが中の手紙を取り出し、ざっと目を通すと丁寧な字で簡潔に纏められた文章が目に飛び込んできた。
--------------------------------------------------------------------------------
拝啓 ジグムンド・ウピエル・ギターマン様
本日は最近我が断崖の国コモンウェルズにおいて頻発している事件の解決に貴殿の知恵をお借りしたく、こうしてお手紙を差し上げる次第でございます。
急なお願いで誠に恐縮ですが、事情御賢察の上御高配くださいますようお願い申し上げます。
まずはとり急ぎご連絡いたします。
敬具
断崖の国コモンウェルズ 女王ピザ・マルガリータ
--------------------------------------------------------------------------------
「うわぁ……」
読み終わったイートンの目に不思議な輝きが宿った。断崖の国コモンウェルズは熱狂的な鳳凰信仰の国で、その形態は相当に閉鎖的だ。そんな国の女王から、人間ならざる者への事件解決の依頼が来ている。久しぶりに作家としての魂が揺さぶられるようなシチュエーションに興奮を禁じえない様子だ。
「そうなると、ドクター・レンの居場所の情報はどうなるんだ?」
イートンの次に目を通した八重が口を開いた。落ち着いた口調だが、その奥底には重い物が潜んでいる。そんな印象を抱かせるような声だった。
「ま、あの坊やもいる事だし大丈夫だろ……って言いたい所だけどな」
そこで一度言葉を切って、挑発するように八重の目を覗き込む。が、八重も心得ているようで無反応なので、ウピエルは諦めてさっさと続きを口にした。
「ま、ちゃっちゃと片付けてジュデッカ辺りで合流って所でどうだ?」
コモンウェルズがあるスズナ山脈は大陸北東部に位置する山脈だ。そこを抜けて北西に向かえばもうジュデッカ、やや遠回りではあるものの無茶というほどの距離ではない。特に、人並みはずれた身体能力を持つウピエルにはなんら苦となるものはないのだ。
「そういう事なら私は別にかまわないさ」
そうこうしているうちに列車はゲートを越え、工場に見せかけられた駅に停車した。
乗客の乗り降りや貨物の移動が行われ、自然と雰囲気が慌しくなる。
「ま、そういうコトだから俺様はいくわ。またジュデッカでな」
じゃ、と軽く手を振って立ち去ろうとするウピエルの服の裾をイートンがガシッっと捕まえた。
「お土産をお願いします。あの国は閉鎖的であまり資料がないんですよ」
椅子に座ったままウピエルを見上げるイートンの目は、未知なる情報への期待に燃えている。ウピエルはその様子にいっそある種の感動さえ覚えた。
「ま、土産話くらいでよかったら聞かせてやるさ」
「本当ですか!お願いします!」
イートンの手が離れたのを確認して、ウピエルは今度こそ降車口へと向かう。鳳凰が住まう国を目指して――