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2025/07/19 00:40 |
《Under The Moon》 ~ナスビと愉快な仲間達:9~/ニーツ(聖十夜)
PC:八重・イートン・ウピエル・ニーツ
場所:大陸横断鉄道車内
NPC :ナスビ
――――――――――――――――――――――――

夢を見た。
遠く封印した夢。
それはひどく甘く-ひどく切ない。


車窓からぼんやりと、人でごった返した駅を眺める。人込みの中に、見知った金色の
後ろ姿を見つけ、眉を潜めた。何処へ行くのだろうか。
先程まどろんでいた時に、一度帰って来たことは知っている。いたずらをしそうな気
配がしたので、もしそんな事をしたら張り倒してやろうと思った覚えがあるから間違
いない。
汽車の中は快適で、彼が何処かへ行くのなら、これ以上ないほど心地良い旅となるだ
ろう。
「ニーツ君」
通路からかけられた声に顔をあげると、イートンが立っていた。さっきの駅でちょう
ど空いた隣の席に座る。
「ウピエルさんは、用事が出来たそうで、さっきの駅で降りました」
「そうか」
静かになるな、とニーツが呟き、会話は途切れる。
カタタン、カタタン…
単調な汽車の音が、二人の耳を打った。
思い返せば、色々な事があって、元の関係に戻ってはいたが、まだ二人きりで話しあ
った事は無かった。
「あの…ニーツ君」
先に沈黙に耐えられなくなったのは、イートンだった。言ってからまた、沈黙。
ニーツは、視線で先を促す。だが、色々な言葉が頭の中を回ってるのだろう。あので
すね、という言葉を繰り返し呟いている。やがて、ようやく出た言葉は、
「僕の事、どう思ってるんですか?」
だった。
真意を測りきれず、思わずニーツはイートンをまじまじと見る。
その視線に、イートンは言った事を後悔したのだろう。すぐに赤くなって言い訳めい
た事を口走りはじめた。
「ベ、別に変な意味じゃありませんよ。ただ、ニーツ君って、他人はどうでも良いって
感じじゃないですか。あの子にも容赦なかったし。だから僕の事も…
…じゃなくて、ええっとぉ…」
つい、吹き出した。純粋に、笑った。
きょとん、とイートンがこちらを見る。
「な、ちょ…何で笑うんですか!」
真っ赤になってイートンが反論する。ようやく笑いが治まり、ニーツは深呼吸をし
た。
そうして吐き出した言葉は、一言。
「馬鹿者」
その言葉に、イートンは一瞬呆け、だがすぐに表情を崩す。
再びの沈黙。
だが、先程に比べて、どこか心地良い。
カタタン、カタタン…
汽車は変わらず走り続ける。
変わりゆく、人の想いを乗せて…

***

八重が呼びに来て、三人は食堂車にやって来た。
お昼を少し過ぎた時間。比較的空いていたので、問題なく座ることが出来た。
「これからどうする?」
食前の一服を楽しむ事ができず、少々不満そうな八重がまず、口火を切った。
「ウピエルさんがいなくなっちゃいましたからね。牢獄内の情報は彼が持ってましたか
ら…ジュデッカについたら彼を待つしか無いでしょう」
「あんな男に頼る事もないだろう」
「そういう訳にはいかないさ」
八重は苦笑し、運ばれて来た料理に目を移す。流石、一流の料理人を積んでいるだけ
ある。
漂う芳香につられ、胃が空腹を訴えた。
八重はお先に、と一言添え、食事を口に運ぶ。
「ジュデッカについたらあの男を待つ。合流したら、真っ直ぐにドクター・レンを目指
す。それで良いか?」
「僕はそれで構いませんよ」
「我輩にも依存はない」
イートン、ナスビの賛成の声に、ニーツは、続かなかった。反対の声もあげず、じっ
と何かを考えている。
その逡巡に、イートンはおや、っという目でニーツを見た。やがてニーツは、「潮時
か」と小さく言葉を紡いだ。
「八重、イートン、勝手で悪いが、俺は少し別行動をとっても良いか?」
「は?」
野菜スープを口に運ぶ手を止め、イートンがぽかんとニーツを見た。
「今更何故だ」
「たいした事じゃない。寄りたい場所があるだけだ」
「ジュデッカ内にか?」
「ああ、知り合いの所だ」
その言葉に、八重も驚きの表情を浮かべ、食事の手を止めてニーツを見る。
「いるのか?知り合いが」
「ああ、この前クーロンのジジイから聞いた。俺の古い知り合いが、ジュデッカに入っ
ているらしい」
「そんな、古いって…若いうちからそんな言葉を使っちゃダメですよ」
イートンの的外れな指摘に、ニーツは一瞬苦笑を浮かべ、すぐに消し去った。魔族の
時間で考えても、遠い昔。イートンには想像できるだろうか。
ニーツにとっても、空白の時間。
「それにしても、ニーツに犯罪者の知り合いがいたとはな」
「牢に入るのが犯罪者ばかりとも限らないさ。人間との共存を説いて煙たがられ、牢に
追いやられた、そんな男だ」
「えー、良い人じゃないですか!」
口を尖らせて、イートンが反論する。ナスビが成る程、と訳知り顔で頷いた。
ニーツは一度軽く目を閉じ、再び口を開いた。
「そう、人間にとっては良い思想だろうな。一部の魔族もそれに賛同した。だが」
「大半の魔族は反感を持ったのだな?」
おもちゃのフリをすることが疲れたのか、だらんと寝そべりながらナスビが確認す
る。
人と子を成すほど人間に好意を持つ者もいることはいるが、大半の者は、人間を敵
視…いや、見下し、暇潰しの玩具としか思っていない。
「リアン兄弟を見ればわかるだろう?魔族は人間とは馴れ合わない」
「でもニーツ君は違いますよね?」
ニコニコとイートンに見つめられ、ニーツは否定の言葉が出てこず、一瞬言葉に詰ま
った。ごまかすように、咳払いをひとつ。
「…ああ、まあ、そんな訳でジュデッカに寄るなら挨拶でも、と思ってな」
「そうですか~なら僕らも行きますよ」
「は?」
今度はニーツがぽかんと声を上げる。
「だが、先を急ぐだろう?」
「ここまで来たら同じだな。どちらにしろ、この鉄道のおかげで大幅に時間は短縮した
んだ」
「そうですよ。僕たちは仲間なんですから、遠慮せずに」
代わる代わる言われ、ニーツは大きく息をついた。半眼で、呆れ顔で、それでも口元
を軽く綻ばせ、二人を見つめた。
「お前ら馬鹿だろう」
それに対してイートンもにっこりと笑う。
「ええ。人間って馬鹿なんですよ」
知りませんでした?と問い返すイートンに、ニーツは苦笑した。


***


遥か遠い昔。自ら記憶を封印すると言った時、思い出したときが辛いよとポポルは言
った。
確かに半分はその通り。
だが、今なら乗り越えられる強さがある。
さあ、捨てた過去を取り戻しに行こう-
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2007/02/18 00:04 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon
《Under The Moon》 ~ナスビと愉快な仲間達:10~ <上>/イートン(千鳥)
=======================================================
PC:八重・イートン・ニーツ・(ウピエル)
場所:ジュデッカ
NPC :ナスビ
=======================================================
 ウピエルがコモンウェルズで下車して数時間後、一行は深夜のうちに北端の最終駅で下車した。駅からジュデッカまで徒歩で、半日の距離だ。

「このまま、夜通し歩けば朝の開門までにはジュデッカに着くそうだ」
「そうですか…」

 八重の言葉に、イートンは長時間座り続けて硬くなった体を伸ばしながら答えた。
 二人の吐く息は、白い。
 ジュデッカの土を踏んで、まず最初に感じたのは身を刺す寒さだった。数日前まで、暖かいオーディルの宿屋にいたのが嘘のようだ。
 
「…では、宿を探すのはジュデッカに着いてからですね」

 その言葉に八重がほっと息をついたのが分かった。このメンバーで一番体力の無い自分が、これからの強行を渋るのを心配したのだろう。
 ニーツにはああ言ったものの、八重はやはり焦っている。自分の運命を握るドクター・レンの居場所が分かったのだ。当然のことだ。次の満月までに何としてでも決着をつけたいに違いない。
 彼と旅をするようになってから、イートンも月の満ち欠けに強く注意を払うようになった。

 ―――満月まで、あと18日。
 
 大陸横断鉄道を利用して、日数を稼いだものの、脱出不可能と謳われるジュデッカ地下監獄に乗り込むには、けして十分な期間ではない。一体どんな方法でドクター・レンに会うのか。イートンにはさっぱり思いつかなかったが、きっとニーツには考えがあるに違いない。楽観的にそう考えていた。


 「確かにお前は人を使うのが上手い。しかし、それは人に頼りすぎる短所でもある」イートンは小さい頃から、そう伯父に注意されてきた。残念ながら、その性格はちっとも変わっていないようだ。天才と呼ばれる伯父に育てられた分、自分が凡人である事を悟るのも早かった。不思議な伝説や、壮大な物語に憧れ作家を目指すのは
そんな無力な自分へのささやかな抵抗なのかもしれない。真実でも、作り話でも構わなかった。大きな運命や非凡なる者たちによって作り出される物語を知りたい、作りたい。その想いが今の自分の原動力になっていた。



「さぁ、急ぎましょう。八重さん」

 今まさに紡がれる物語。
 八重にとって少しでも幸せな結末が用意されている事を願いながら、イートンは彼の肩を叩いた。
 
 ★☆★

「ちょうど開門の時間に間に合ったようですよ」

 町から聞こえる鐘の音に、懐中時計で時間を確かめながらイートンは指差した。朝が遅いこの土地では、門の開く時間も他の町より遅いようだ。もし、門の前で数時間待つことになっていれば、凍死したかもしれない朝冷えの中、無事に到着出来たことに安堵する。

「監獄はどこにあるんですか?」
「あそこに、旗が見えるだろ」

 ニーツが指をさした先を目で追うと、城壁の向こうに3本の青い旗が僅かに顔を覗かせている。

「思ったより、小さいんですね」

 大陸最大の監獄という名に期待を込めてそれをみたイートンは、思わず拍子抜けする。それを口すると、ニーツが呆れたように視線を向けた。

「デュデッカは地下監獄だぞ?地上の建物などほんの一部分。地下監獄は実際、この町に蓋をされるように建てられてるんだ。ただ、正規の入り口は一つしかない」
「正規の…ということは他の入り口もあるということか?ニーツ」
「あのイカレ吸血鬼が、監獄は最近一部が崩壊したと言ってたろう?抜け穴や工事の為に作られた別の通路があるやもしれん」

 朝だというのに厚い雲に覆われる空は、今にも町を押しつぶそうとしているようだった。

 ――天上の光が届かない場所がある。罪深い人々が集まる町。
   囚人たちは、天国よりも地獄に近い独房で終焉を待つ。

 確か下車した駅で買った旅行本に、そんなフレーズがのっていた。

『えぇい、何をしりごみしておるのだ!早く進まぬか!』

 歩みが遅くなったイートンを、背負う荷袋の上に乗っていたナスビが叱咤した。ナスビもまた、自分の創造主に会えることに高揚しているようだった。自分を創った者に会うというのはどういった気分なのだろう。イートンは自分の両親の事を思い出したが、何の感慨も起こらなかった。
 遠くに見える山の中に教会が立っているのが見えた。ソフィニア周辺を本拠地とするイムヌス教の教会がこんな所にまであるのは少し意外だった。

 まるで神のように八重とナスビを作り出したドクター・レンは一体どんな人物なのだろう? 
  
 ★☆★ 

 “囚人の町”という陰気なイメージとは裏腹に、ジュデッカの町はそれなりに賑わっていた。
 門の近くに出ていた粥の屋台でまずは身体を温めると、イートンは店主に宿屋の場所を尋ねた。

「あんた達、観光かい?それとも…身内に会いに来たのかい?」

 思わず答えに窮すると、粥をすすっていたニーツが代わりに口を開いた。

「遠い親類がここに捕まってるって風の噂できいて、確かめにきたんだ」
「それなら、『バンチャの髭』って宿屋がいい。多少値は張るが、長い間泊まるならベッドが良い方がいいだろうよ」
「何日もかかるのか?」
 
 店主の言葉に八重が眉をひそめた。

「朝からそんな景気の悪い顔をしなさんな。お客さん」

 店主はそんな八重の器に、杓子で卵と香草の入った粥を注ぎ足した。湯気とともに、苦味のある香草の匂いが鼻に届く。その匂いには精神を安定させる効果があるといわれている。

「この監獄には大勢の囚人がいるからね。調べるのにも一苦労さ。それに、最近は親族の面会も厳しくなって、会えず泣く泣く帰っていく家族も大勢いるんだよ」
「どうして会えないんですか?」
「面会の折に、脱獄に加担しようとする者や、知人を殺された被害者が仇をうとうと近づいてくるのさ。最近そういう連中が増えて、看守たちも頭を悩ませているらしい」

 店主の情報は、どれもイートンを落胆させるに十分なものだった。ため息をつきながら、荷物に手を伸ばすと、ナスビが転がって地面に落ちた。

「あぁ!ナスビちゃん大丈夫ですか」
『……』

 慌てて拾い上げて汚れを払う。普段なら、ここでナスビの罵声が飛んでくるはずなのだが、ヴェルンの守護霊の宿った木兎はただ黙って、ガラスで出来た瞳をイートンに向けていた。

「ナスビちゃん…?」
「イートンどうした」

 ナスビを激しくシェイクするイートンに気がついて八重が覗き込む。そんな八重に、イートンは真っ青になって叫んだ。

「た、大変です!ナスビちゃんが成仏しちゃった!!」
「じょ…成仏!?」

 渡されたナスビは、確かにうんともすんとも言わない唯の木彫りの人形だった。二人は慌ててニーツを呼んだ。

「確かに、魂が抜け落ちてる」

 ナスビを渡されたニーツは、目を細めてナスビを見ると、そう診断した。

「じゃ、じゃあ本当に成仏ですか!?」
「それは分からない。だが、この入れ物の中にはいない。多分ジュデッカの土地のせいだろうな。この町は魔法を制限する仕掛けが至る所に施されている。イートン、試しに何か魔法を使ってみろ」
「え!?」

 突然の指名に驚きながらも、初歩的な〝光〟を唱える。本来なら蛍ほどの小さな光を灯すはずの呪文はジュデッカの冷たい風にあっさり吹き飛ばされた。

「駄目、みたいですね」
「君も使えないのか?ニーツ」

 八重の心配そうな問いに、青い方の目を冷たく向けるとニーツは「まさか」と鼻で笑った。途端、粥屋の鍋の火がゴォと音を立てながら炎を増し、客を驚かせた。

「ナスビの魂はきっとこの町の何処かにいるはずだ。案外ドクター・レンのところに戻ってるんじゃないか?」
「ナスビちゃん…」

 慰めるようにニーツにそう言われると、イートンはそっとナスビを荷袋の中にしまった。 


 ★☆★ 
 
 宿屋、『バンチャの髭』に着くとイートンはそのままベッドに倒れこんで眠った。粥屋の店主が言ったように、ベッドは他の町の宿屋に比べ値段の割りに上等で、いい夢を見れたように思う。

「あれ…八重さん…?」

 起きてすぐに、同室に泊まっているはずの仲間の名を呼ぶが返事は無かった。窓の外はまだ十分に明るく、八重は出かけているようだった。

「起してくれれば良かったのに…」

 ぼんやりとした頭で、部屋に目を走らせるとテーブルに書置きが残っていた。

「監獄資料館…?」

 そこには八重の字で〝ジュデッカの西にある監獄資料館に行って来る〟と書かれていた。手がかりを探しに出かけたのだろう。身支度を整えると、隣のニーツの部屋をノックした。返事が無いということは、彼も八重と一緒に出かけたのかもしれない。

「西か…」

 地図を広げて場所を確認すると、イートンは宿屋を後にした。 

2007/02/18 00:04 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon
《Under The Moon》 ~ナスビと愉快な仲間達:10~ <下>/イートン(千鳥)
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PC:八重・イートン・ニーツ・(ウピエル)
場所:ジュデッカ
NPC :ナスビ(抜け殻)
=======================================================
 
 東西に向かって一直線にのびる大通りでは、週に一度の市がたち人々の賑わいを見せていた。 
 店のいくつかには、ジュデッカのシンボルである〝赤い足枷と青い天秤〟のマークが描かれている。これは、囚人たちが労働によって生産した製品の印である。町人の殆どが看守という特殊なこの町では囚人たちが重要な労働源となっているようだ。 
 体格の良いジュデッカの人々にもまれ、商品を見る余裕がなくなってくると、イートンは人ごみから逃れるために、脇道を探した。ぶつかる人に何度も謝りながら、人の流れから逸れてゆく。その時、自分の懐に伸びる小さな手を感じた。

「!?」

 素早く掴んだ腕は、小さな少年のものだった。驚いた表情は、まさかイートンに捕まるとは思わなかったようだ。

「は、放せよっ」

 暴れる少年を伴って裏路地へ入る。イートンの表情は苦笑だった。故郷では自分も仲間たちとよく同じ事をしたものだ。ちょうどこの少年と同じような年頃だった。

「君を役人に突き出すつもりはありませんけどね、ここはジュデッカですよ?捕まったらきっとあの監獄に入れられてしまいますよ」

 褐色の肌に琥珀色の目をもつ少年は、どうみても異国の人間だった。旅の途中に金に困ってしまったのだろうか。子供にお説教するというのは、どうにも楽しくなかったが、イートンは少しだけ怖がらせるように言った。
 少年にはそれが気に入らなかったのかもしれない。
 思い切り、脛を蹴られた。

「痛っ!?」

 思わずうずくまると、横で少年が思い切り叫んだ。
 
「誰か助けてーっ!!人さらいだ!!」
「えぇ!?」

 そのまま、少年は走り出す。慌てて後を追おうと立ち上がったイートンを、後ろから幾つもの太い腕が捕まえた。

「大人しくしろ!誘拐犯めっ」
「ち、違います!あの男の子がっ」
「親の敵めっ、言い訳なら後でたっぷり言わせてやる!」
「そんな~~~」
  
 こうしてイートンは、ジュデッカ監獄への侵入を果たすこととなる。 

 ★☆★ 

「イートン・アレイド、24歳。フレデリア出身……あなた貴族でしょう?子供を誘拐するなんて恥ずかしくないですか?」
「だから濡れ衣ですって!」
「しかし、あなたが少年を人気の無い場所に連れて行くところを目撃している人が居るんですよ」
「それは、彼が僕の財布を盗もうとしたからです」

 取調室で、このような問答を続けて一時間は経つ。肝心の少年は逃げてしまったので、罪としては実証しにくいようだ。しかし、取調官は、ニヤリと口の端を上げてこう言った。

「誘拐は重い罪ですが、保釈金、金貨30枚であなたを直ぐに釈放することも出来ますよ」
「30!?」

 そんな大金直ぐに払えるわけが無い。

(困ったなぁ……)

 貴族だと知ってこちらの足元を見てきたのだ。しかし、イートンにはそれだけの金はない。実家に知れたら間違いなく兄が「払ってやるから勘当しろ」といってくるだろう。アレイド家にそれだけの執着は無かったが、作家としてひとり立ちできるまでは父の援助が必要だった。
 情けないといわれても、それが事実なのだ。
 自分を溺愛している二番目の兄ならば、金貨30枚だろうが300枚だろうが払ってくれるに違いなかったが、船で世界を飛び回る彼を捕まえるのは至難の業だったし、間違いなく金を送金してくれるだけでは済まないだろう。彼がやってくれば確実にこれからの計画に支障が出る。

「・・・払えないと言ったら、どうなるんですか?」
「監獄で半年、誰かがあなたを無実だと証明してくれる事を待つことになりますね」

2007/02/18 00:05 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon
《Under The Moon》 ~ナスビと愉快な仲間達:11~/八重(果南)
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PC:八重・イートン・ニーツ・(ウピエル)
場所:ジュデッカ(バンチャの髭→メイデン通り)
NPC :謎の少年
=======================================================

 ジュデッカ…別名「罪人の街」。この街の地下に存在する監獄は、監獄とし
ては世界一の規模と警備の厳重さを誇っている。そしてこの街には比較的罪の
軽い者から凶悪な犯罪者まで、数多くの犯罪者が監獄に留置されている…。
 
 ***

 薄ぼんやりとした朝の光の中、八重は眼を覚ました。
 宿の窓から外の景色を見ると、ジュデッカの空には、今日も鬱屈とした鉛色
の雲がかかっている。
 
 まるでこの街が、光り輝く朝を拒絶しているかのように。
 
 隣のベッドを見ると、イートンは未だすうすうと寝息を立てて眠っていた。
 そんな彼の穏やかな眠りを邪魔しないよう、八重は静かに着替えを済ませる
と、ポケットに愛用の<アイボリー・グレイ>をねじ込み、部屋を後にした。
 
 ***

 以外にも宿の廊下でニーツと出合った。
 ニーツは八重を待っていたかのように廊下の壁に寄りかかり、相変わらずの
すねた悪ガキのような表情でこちらを睨んでいる。
 この姿を見れば、何も知らない大抵の人間は、魔法が極度に制限されている
このジュデッカでさえ魔法を使えるほどの実力者だとは思わないだろう。

「出かけるのか?」
「ああ、少し調べ物をしに、監獄資料館に行くつもりだが?」


 …ナスビの発言によりジュデッカ行きが決まった時点ですでに、八重は監獄
資料館に寄ることを考えていた。
 ドクター・レンに会うためには、ジュデッカについて知りたい情報は山ほど
ある、ジュデッカの監獄の構造、歴史、そして何より、ドクター・レンの監獄
内での居場所の手がかりを。
 たかだか資料館で重要な手がかりを発見できるとは思っていない。しかし、
計画を確実にするために、なるべく多くの情報を頭に入れ、そして確実に行動
する必要がある。
 なぜなら、八重には、知識の薄い今の時点でも推測できる一つの仮説があっ
た。


 ―ドクター・レンが居る場所は、おそらく最下層だ。


 そう、自分のような<禍々しい生き物>を創った者の罪は確実に、重い。
 そのことを思う時、(それはいつも膨らみつつある月を見つめる夜であった
が)八重の頭にオーバーラップするのは、今まで自分が食らった人々の映像、
残骸、あの市長の苦悩している姿、そして、市長の<憑き物>がとれたとき
の、あの心の底からの安堵の表情だった。


 あの時、市長は心から嬉しそうだった。眼に涙も浮かべていた。
 それはつまり、彼は一体、どれほどの苦しみを今まで耐えてきたのだろう?


 人間の姿を歪め、多くの苦しみを与えた者の罪は確実に重い。

 それだけは、推測できることだった。

「ところで、アイツには黙って出てきたのか」

 ニーツなりにイートンが心配なのだろう。機嫌がいいとはいえない顔つきで
八重に尋ねるニーツに、八重は、ニーツなりのイートンに対する思いやりを見
たような気がして薄く微笑んだ。
 すかさず八重の顔をニーツがギロッ、と睨む。

「何だ、何が可笑しい」
「いやいや。…なんだか幸せそうな寝顔だったんでね。起こさずに出てきてし
まった。何、書置きを部屋に置いてきたから心配は要らない」

「ふん。そうか」

 それきりニーツが無言になったため、八重はニーツの傍を通り過ぎようとし
た。
 が、ふと思いつき尋ねた。

「…そういえばニーツ、君は今日はどこかに出かけるのかね?」

「お前には関係ないだろう」

 突き放したような返事が返ってくる。
 しかし八重は、ニーツも何か調べ物をするために出かけるような気が
した。
 ニーツには意外とお人よしな面があるしな、と思いながら。

(ふ…、お互い健闘しようじゃないか)

 心の中でそっと呟き、八重は『バンチャの髭』を後にした。


 今日もジュデッカは、肌寒い。


 ***


 2時間後、メイデン通り、監獄資料館前。


 予想はしていたが、一般人が閲覧できる資料の中にドクター・レンの居場所
の手ががりとなるような事柄はなかった。八重の頭の中には、この監獄の成り
立ち、監獄で使われる器具一覧、街の観光名所、囚人が作る製品の目録の情報
が入るだけに終わった。

「もっと詳しい資料を見たいのだが」

 ダメもとで資料館のカウンターのかわいいお嬢さんに頼んでみたが、「これ
以上の資料は一般の方にお見せすることはできません」と笑顔で断られた。
 重要な資料を見せてもらうためには、ランクA以上のギルドハンターの証を
見せるか、強力なコネがあるか、…受付のお嬢さんを誘惑するか、ぐらいしか
手はない。

 自分の「ウサギ」体質上、今も昔も八重はギルドに所属していなかったし、
コネがあればとっくに使っている。

(…若ければ、な)

 資料館の入り口でそんなことをぼんやり考えつつ、八重は煙草を吹かしてい
た。
 
 そんな時、目の前を褐色の肌の少年がすっと横切った。
 今何をされたかをすぐに理解した八重は、少年の手を、決して力をいれず、
しかし確実に振りほどけないような圧力でもって掴んだ。

「!!」

 少年がおびえたような琥珀色の瞳を向ける。
 騒ぎにならないよう、八重は柔らかい口調で話しかけた。

「私のサイフの中身を見てごらん。君にとってはほとんど無意味なことが解る
から」

 言われるままにおずおずと少年がサイフの中を確認すると、逆さに振った中
身は、小さな手に、数枚の銅の小銭が落ちてきただけだった。

「…しょぼいなオッサン」

 思わず少年が本音を漏らす。八重も苦笑して、

「ああ、このところお金には縁が無くてね。…紫の瞳の小説家に出合ってから
かもしれないな」
「紫の瞳ねぇ」

 その言葉に少年は何か思い当たる節があるらしく、苦い顔つきになった。

「…ちっ、さっきのヤツの方が金持ちだったかも」
「…さっきの?」

 嫌な予感がして、八重は少年に尋ねる。

「君はさっきも同じようなことを?」
「…ああ。まあ、そうやって生きてるし。普通、想像つくだろ」
「…もしかして、さっき狙った相手は、金髪で、その…、まあいわゆるボンボ
ンという感じではなかったかい?」

 それを訊かれた少年の身が固くなる。

「…オッサンの知り合い?」

 その反応で理解した。
 どうやら嫌な予感は、確信に変わりつつある。

「そう、か…。そう、なんだな?…そいつは、何か面倒ごとに巻き込まれなか
ったかい」

 少年がばつが悪そうに黙りこくる。
 八重は…、ふう、と一つ長い長い煙を吐き出した。

「全く。また何かに巻き込まれたな、イートン」


2007/02/18 00:05 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon
《Under The Moon》 ~ナスビと愉快な仲間達:12~/ウピエル(魅流)
=======================================================
PC:八重・イートン・ニーツ・(ウピエル)
場所:ジュデッカ
NPC :魔界図書館司書
=======================================================


目の前に立ち塞がる、高い塀を見上げ、ニーツは目を閉じた。フッとニーツの
姿が霞み、一瞬後には消え失せる。
次にニーツが姿を現したのは、近くの建物の上だった。
基本的に、この街では、監獄の付近には監獄の塀より高い建物は存在しない。
囚人の脱獄を防ぐ為の配慮だ。
よって、ニーツのように空でも飛ばなければ、中を覗き込む事も出来ない。
「一人なら入れないこともない、か」
今の一瞬で、ニーツは塀の中、空の上、建物の上と、空間を移動していた。ふ
うっと溜息を一つ付いて、座り込む。
ニーツは今、一人で牢獄の下見に来ていた。
流石に、塀の内側は、魔力制御の術が強く、少し空気が重かった。街中では全
く平気なニーツでさえ、魔力は普段の3分2の位だろう。
並の魔族なら、3日で発狂してしまいそうな、そんな感覚があった。地上でこ
れなら、下がるにつれて、だんだんきつくなっていくのは目に見えている。
いつもはほとんど使っていない魔力だが、久しぶりに、本気に近い力を出すこ
とになるかもしれない。
そうひとりごち、もう一度塀を見上げ、ニーツは座り込んだ。と
「YA-HA!やぁやあやぁ、そこのお嬢様!浮かない顔して可愛い顔が台なし
だぞ」
突然響いて来た声に、ニーツは反射的に拳を振るった。だが、予想した通り、
何の手応えもなく、それを通り過ぎる。
ニーツが目を向けると、そこにはハンサムな部類に入る男が一人、薔薇を手に
立っていた。
「こぉんな天気の良い日に、麗しのニーツ嬢は何を憂いているのかなぁ?お兄さ
んに話してごらん?」
薔薇をチャッと差し出しながら、予想通りの姿を持った男はニーツに笑いかけ
た。
ニーツはそれを見て無言で立ち上がり、今度は拳に魔力を付けて、男に叩き込
む。流石にこれは効いたのか、男はたまらず蹲った。
「ジジィの間違いだろう?」
「酷いよニーツ嬢…千年振りだってのに」
「俺はそこまで生きてない」
冷ややかに男を見下ろし、ニーツは一つ、溜息をついた。
「そうか、ここはお前の管轄だったか」
「まあ、そういう事。はい、これクーロンからの預かり物。
しっかし、あの爺さん見てると駄目だね。自分と同じだなんて思えない。あれ
も僕みたいに魔力使って若返ればハンサムになるのに」
「成程」
立ち直って座り込み、本を差し出す男-魔界図書館ソフィニア・ジュデッカ・
コールベル地区担当、ソフィニア-からそれを受け取り、ニーツは淡々と答え
る。
「つまり、お前の若返りを解けば、クーロンみたいになる訳か」
「またまたそんな冗談を……え?本気?やめてください。頼みます。マジで」
「冗談に決まってるだろう」
ペコペコと謝るソフィニアを横目に、ニーツはもう一度座り直し、受け取った
本をパラリとめくった。
ソフィニアも座り直し、牢獄へ視線を向けて、これまでとは一転、真面目な口
調で語り始める。
「一応、脱獄事件後の中の様子を調べてみたんだが、我々の情報網をもってして
も、それだけが限界だったよ。ジュデッカは情報に対するガードが固いから
ね」
「確かにお前達にしては少ないとは思うが…俺にとっては充分だ」
決して薄いとは言えない本をめくりながら、ニーツは言う。本一冊に収まる程
度の情報では、魔界図書館司書達は満足しないらしい。
世界中の知識、情報を網羅し、蓄える事。
それが彼らの存在意義であり、プライドなのだ。
次々とページをめくるニーツを見ながら、彼は突然真面目な顔でニーツの頭を
ぽんぽんと叩いた。
思わず手を止めるニーツに構わず、ふむっと呟く。
「…にしても、相変わらずちまくて可愛いねぇ、ニーツ嬢は。少し縮んだんじゃ
ない?」
「そんな訳あるか!」
ニーツの会心の鉄拳を喰らったソフィニアは、それからしばらく、沈黙して動
かなかった。

「じゃ、僕はこれで」
「もっと早く帰っても良かったんだがな」
「相変わらずつれないねぇ!お兄さんは困っちゃうぞ」
あれから復活したソフィニアは、ニーツが本を読み終えるのを待って、帰ると
立ち上がった。
「クーロン達にも、礼を言っておいてくれ。ああ後、心配しないで良いともな」
ニーツが言うと、ソフィニアは思いがけず柔らかな眼差しで、ニーツを見た。
嬉しそうに目を細めて、ニーツの額に軽く口付けた。
「わかった。伝えておこう」
「早く帰れ!!」
「照れやさんだねぇはっはっは~」
ニーツの拳が飛んでくる前に、彼の姿は掻き消えた。ニーツは怒りのやり場が
無くなり、口元を歪めて、そのまま腰を下ろす。
手にした本をしまい込み、小さく息をついた。そろそろ戻るべきだろう。まず
はこの情報を元に、この壁を越える方法を考えなければならない。
そう結論付けて立ち上がろうとした時、聞き慣れた声が下の方から耳に飛び込
んで来た。
「やめてください!ちょっと、離して!いや~誰か」
「いいから黙って来い!」
まるで女性が悪党に絡まれているような会話だが、残念ながら男同士、それ
も、片方はよく知っている声だ。
見ると、イートンが屈強な警官に引きずられながら、牢獄へ向かっている所だ
った。
街の人々は日常茶飯事となっているのか、見向きもしない。
「僕は何もしてませぇんんん~~~」
綺麗にフィードアウトしながら塀の内側に消えていく仲間の声を聞き流しなが
ら、ニーツはふむ、と口元に手を当てる。
「成程…たまには馬鹿の方が上手く行くこともあるんだな」
狙ってやった訳ではないだろうが、見事に潜入を果たしている。それから行動
を起こせるかが問題だが。
目を転じると、八重がこちらに向かって駆けてくるのが見えた。地を蹴って、
その横に跳び降りると、八重が驚いたように足を止める。
「何だニーツ、こんな所にいたのか。イートンが大変な事になっているみたいな
んだが」
「ああ、さっき見た。塀の向こうに消えていったが」
「ああ、そなんだ…って、見てたのか!?」
頷きかけて、八重はハッと気がつき、ニーツの肩を掴んだ。
「見てたけど?」
はっきりと言われて、八重は思わず脱力する。
「見ていたのなら助けるべきだろう」
がっくりとうなだれる八重から離れて、ニーツは口の端を吊り上げた。
「まあ、あれも馬鹿で間抜けだけど、頭は悪くない。自分で何とかするだろう。
それに、真っ先に潜入を果たしているじゃないか」
「あれを潜入というのか?」
気を取り直した八重の突っ込みに、ニーツはクスクスと笑う。
「そうだ、お前もあれで潜入したらどうだ?」
いきなりとんでもない事を言い出したニーツに、八重は目を丸くした。イート
ンと同じように、捕まって潜入することを、ニーツは八重に勧めたのだ。当然
ながら、八重は渋い表情で答える。
「確かに有効かもしれんが…前科者になるのはなぁ」
「取り調べ官の記録と記憶位消してやるぞ?取り調べ中は牢獄にはまだ入らない
から、脱出も比較的楽だしな」
「…お前はどうするんだ?」
「俺一人なら、潜入位はどうとでも出来るさ」
ニッコリと微笑んで、ニーツは八重を見た。八重は、あさっての方向を見て、
聞こえない振りをする。
それを見てニーツはフッと表情を消し、監獄へ視線を向けた。
「ジュデッカの監獄は、地上と地下の二つに分類される。地上は取り調べや面会
の為の、比較的単純な施設だ。
有罪になった者達は、地上と地下を結ぶ『隔世の道』を通り、『幽玄の門』を
潜る。資料館にもあっただろう?もしイートンがそこを潜ってしまえば、一人
での脱出は…無理だろう」
八重は、黙って同じように監獄を見た。不気味に佇むその施設は、一体どれだ
けの悲劇を呑み込んで来たのか。
ニーツは、そんな八重を見て、問いかけた。
「どうする?」
「…俺は…」

2007/02/18 00:05 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon

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