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2025/04/27 14:16 |
《Under The Moon》 ~ナスビと愉快な仲間達:12~/ウピエル(魅流)
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PC:八重・イートン・ニーツ・(ウピエル)
場所:ジュデッカ
NPC :魔界図書館司書
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目の前に立ち塞がる、高い塀を見上げ、ニーツは目を閉じた。フッとニーツの
姿が霞み、一瞬後には消え失せる。
次にニーツが姿を現したのは、近くの建物の上だった。
基本的に、この街では、監獄の付近には監獄の塀より高い建物は存在しない。
囚人の脱獄を防ぐ為の配慮だ。
よって、ニーツのように空でも飛ばなければ、中を覗き込む事も出来ない。
「一人なら入れないこともない、か」
今の一瞬で、ニーツは塀の中、空の上、建物の上と、空間を移動していた。ふ
うっと溜息を一つ付いて、座り込む。
ニーツは今、一人で牢獄の下見に来ていた。
流石に、塀の内側は、魔力制御の術が強く、少し空気が重かった。街中では全
く平気なニーツでさえ、魔力は普段の3分2の位だろう。
並の魔族なら、3日で発狂してしまいそうな、そんな感覚があった。地上でこ
れなら、下がるにつれて、だんだんきつくなっていくのは目に見えている。
いつもはほとんど使っていない魔力だが、久しぶりに、本気に近い力を出すこ
とになるかもしれない。
そうひとりごち、もう一度塀を見上げ、ニーツは座り込んだ。と
「YA-HA!やぁやあやぁ、そこのお嬢様!浮かない顔して可愛い顔が台なし
だぞ」
突然響いて来た声に、ニーツは反射的に拳を振るった。だが、予想した通り、
何の手応えもなく、それを通り過ぎる。
ニーツが目を向けると、そこにはハンサムな部類に入る男が一人、薔薇を手に
立っていた。
「こぉんな天気の良い日に、麗しのニーツ嬢は何を憂いているのかなぁ?お兄さ
んに話してごらん?」
薔薇をチャッと差し出しながら、予想通りの姿を持った男はニーツに笑いかけ
た。
ニーツはそれを見て無言で立ち上がり、今度は拳に魔力を付けて、男に叩き込
む。流石にこれは効いたのか、男はたまらず蹲った。
「ジジィの間違いだろう?」
「酷いよニーツ嬢…千年振りだってのに」
「俺はそこまで生きてない」
冷ややかに男を見下ろし、ニーツは一つ、溜息をついた。
「そうか、ここはお前の管轄だったか」
「まあ、そういう事。はい、これクーロンからの預かり物。
しっかし、あの爺さん見てると駄目だね。自分と同じだなんて思えない。あれ
も僕みたいに魔力使って若返ればハンサムになるのに」
「成程」
立ち直って座り込み、本を差し出す男-魔界図書館ソフィニア・ジュデッカ・
コールベル地区担当、ソフィニア-からそれを受け取り、ニーツは淡々と答え
る。
「つまり、お前の若返りを解けば、クーロンみたいになる訳か」
「またまたそんな冗談を……え?本気?やめてください。頼みます。マジで」
「冗談に決まってるだろう」
ペコペコと謝るソフィニアを横目に、ニーツはもう一度座り直し、受け取った
本をパラリとめくった。
ソフィニアも座り直し、牢獄へ視線を向けて、これまでとは一転、真面目な口
調で語り始める。
「一応、脱獄事件後の中の様子を調べてみたんだが、我々の情報網をもってして
も、それだけが限界だったよ。ジュデッカは情報に対するガードが固いから
ね」
「確かにお前達にしては少ないとは思うが…俺にとっては充分だ」
決して薄いとは言えない本をめくりながら、ニーツは言う。本一冊に収まる程
度の情報では、魔界図書館司書達は満足しないらしい。
世界中の知識、情報を網羅し、蓄える事。
それが彼らの存在意義であり、プライドなのだ。
次々とページをめくるニーツを見ながら、彼は突然真面目な顔でニーツの頭を
ぽんぽんと叩いた。
思わず手を止めるニーツに構わず、ふむっと呟く。
「…にしても、相変わらずちまくて可愛いねぇ、ニーツ嬢は。少し縮んだんじゃ
ない?」
「そんな訳あるか!」
ニーツの会心の鉄拳を喰らったソフィニアは、それからしばらく、沈黙して動
かなかった。

「じゃ、僕はこれで」
「もっと早く帰っても良かったんだがな」
「相変わらずつれないねぇ!お兄さんは困っちゃうぞ」
あれから復活したソフィニアは、ニーツが本を読み終えるのを待って、帰ると
立ち上がった。
「クーロン達にも、礼を言っておいてくれ。ああ後、心配しないで良いともな」
ニーツが言うと、ソフィニアは思いがけず柔らかな眼差しで、ニーツを見た。
嬉しそうに目を細めて、ニーツの額に軽く口付けた。
「わかった。伝えておこう」
「早く帰れ!!」
「照れやさんだねぇはっはっは~」
ニーツの拳が飛んでくる前に、彼の姿は掻き消えた。ニーツは怒りのやり場が
無くなり、口元を歪めて、そのまま腰を下ろす。
手にした本をしまい込み、小さく息をついた。そろそろ戻るべきだろう。まず
はこの情報を元に、この壁を越える方法を考えなければならない。
そう結論付けて立ち上がろうとした時、聞き慣れた声が下の方から耳に飛び込
んで来た。
「やめてください!ちょっと、離して!いや~誰か」
「いいから黙って来い!」
まるで女性が悪党に絡まれているような会話だが、残念ながら男同士、それ
も、片方はよく知っている声だ。
見ると、イートンが屈強な警官に引きずられながら、牢獄へ向かっている所だ
った。
街の人々は日常茶飯事となっているのか、見向きもしない。
「僕は何もしてませぇんんん~~~」
綺麗にフィードアウトしながら塀の内側に消えていく仲間の声を聞き流しなが
ら、ニーツはふむ、と口元に手を当てる。
「成程…たまには馬鹿の方が上手く行くこともあるんだな」
狙ってやった訳ではないだろうが、見事に潜入を果たしている。それから行動
を起こせるかが問題だが。
目を転じると、八重がこちらに向かって駆けてくるのが見えた。地を蹴って、
その横に跳び降りると、八重が驚いたように足を止める。
「何だニーツ、こんな所にいたのか。イートンが大変な事になっているみたいな
んだが」
「ああ、さっき見た。塀の向こうに消えていったが」
「ああ、そなんだ…って、見てたのか!?」
頷きかけて、八重はハッと気がつき、ニーツの肩を掴んだ。
「見てたけど?」
はっきりと言われて、八重は思わず脱力する。
「見ていたのなら助けるべきだろう」
がっくりとうなだれる八重から離れて、ニーツは口の端を吊り上げた。
「まあ、あれも馬鹿で間抜けだけど、頭は悪くない。自分で何とかするだろう。
それに、真っ先に潜入を果たしているじゃないか」
「あれを潜入というのか?」
気を取り直した八重の突っ込みに、ニーツはクスクスと笑う。
「そうだ、お前もあれで潜入したらどうだ?」
いきなりとんでもない事を言い出したニーツに、八重は目を丸くした。イート
ンと同じように、捕まって潜入することを、ニーツは八重に勧めたのだ。当然
ながら、八重は渋い表情で答える。
「確かに有効かもしれんが…前科者になるのはなぁ」
「取り調べ官の記録と記憶位消してやるぞ?取り調べ中は牢獄にはまだ入らない
から、脱出も比較的楽だしな」
「…お前はどうするんだ?」
「俺一人なら、潜入位はどうとでも出来るさ」
ニッコリと微笑んで、ニーツは八重を見た。八重は、あさっての方向を見て、
聞こえない振りをする。
それを見てニーツはフッと表情を消し、監獄へ視線を向けた。
「ジュデッカの監獄は、地上と地下の二つに分類される。地上は取り調べや面会
の為の、比較的単純な施設だ。
有罪になった者達は、地上と地下を結ぶ『隔世の道』を通り、『幽玄の門』を
潜る。資料館にもあっただろう?もしイートンがそこを潜ってしまえば、一人
での脱出は…無理だろう」
八重は、黙って同じように監獄を見た。不気味に佇むその施設は、一体どれだ
けの悲劇を呑み込んで来たのか。
ニーツは、そんな八重を見て、問いかけた。
「どうする?」
「…俺は…」
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2007/02/18 00:05 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon

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