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2025/04/28 02:51 |
《Under The Moon》 ~ナスビと愉快な仲間達:11~/八重(果南)
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PC:八重・イートン・ニーツ・(ウピエル)
場所:ジュデッカ(バンチャの髭→メイデン通り)
NPC :謎の少年
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 ジュデッカ…別名「罪人の街」。この街の地下に存在する監獄は、監獄とし
ては世界一の規模と警備の厳重さを誇っている。そしてこの街には比較的罪の
軽い者から凶悪な犯罪者まで、数多くの犯罪者が監獄に留置されている…。
 
 ***

 薄ぼんやりとした朝の光の中、八重は眼を覚ました。
 宿の窓から外の景色を見ると、ジュデッカの空には、今日も鬱屈とした鉛色
の雲がかかっている。
 
 まるでこの街が、光り輝く朝を拒絶しているかのように。
 
 隣のベッドを見ると、イートンは未だすうすうと寝息を立てて眠っていた。
 そんな彼の穏やかな眠りを邪魔しないよう、八重は静かに着替えを済ませる
と、ポケットに愛用の<アイボリー・グレイ>をねじ込み、部屋を後にした。
 
 ***

 以外にも宿の廊下でニーツと出合った。
 ニーツは八重を待っていたかのように廊下の壁に寄りかかり、相変わらずの
すねた悪ガキのような表情でこちらを睨んでいる。
 この姿を見れば、何も知らない大抵の人間は、魔法が極度に制限されている
このジュデッカでさえ魔法を使えるほどの実力者だとは思わないだろう。

「出かけるのか?」
「ああ、少し調べ物をしに、監獄資料館に行くつもりだが?」


 …ナスビの発言によりジュデッカ行きが決まった時点ですでに、八重は監獄
資料館に寄ることを考えていた。
 ドクター・レンに会うためには、ジュデッカについて知りたい情報は山ほど
ある、ジュデッカの監獄の構造、歴史、そして何より、ドクター・レンの監獄
内での居場所の手がかりを。
 たかだか資料館で重要な手がかりを発見できるとは思っていない。しかし、
計画を確実にするために、なるべく多くの情報を頭に入れ、そして確実に行動
する必要がある。
 なぜなら、八重には、知識の薄い今の時点でも推測できる一つの仮説があっ
た。


 ―ドクター・レンが居る場所は、おそらく最下層だ。


 そう、自分のような<禍々しい生き物>を創った者の罪は確実に、重い。
 そのことを思う時、(それはいつも膨らみつつある月を見つめる夜であった
が)八重の頭にオーバーラップするのは、今まで自分が食らった人々の映像、
残骸、あの市長の苦悩している姿、そして、市長の<憑き物>がとれたとき
の、あの心の底からの安堵の表情だった。


 あの時、市長は心から嬉しそうだった。眼に涙も浮かべていた。
 それはつまり、彼は一体、どれほどの苦しみを今まで耐えてきたのだろう?


 人間の姿を歪め、多くの苦しみを与えた者の罪は確実に重い。

 それだけは、推測できることだった。

「ところで、アイツには黙って出てきたのか」

 ニーツなりにイートンが心配なのだろう。機嫌がいいとはいえない顔つきで
八重に尋ねるニーツに、八重は、ニーツなりのイートンに対する思いやりを見
たような気がして薄く微笑んだ。
 すかさず八重の顔をニーツがギロッ、と睨む。

「何だ、何が可笑しい」
「いやいや。…なんだか幸せそうな寝顔だったんでね。起こさずに出てきてし
まった。何、書置きを部屋に置いてきたから心配は要らない」

「ふん。そうか」

 それきりニーツが無言になったため、八重はニーツの傍を通り過ぎようとし
た。
 が、ふと思いつき尋ねた。

「…そういえばニーツ、君は今日はどこかに出かけるのかね?」

「お前には関係ないだろう」

 突き放したような返事が返ってくる。
 しかし八重は、ニーツも何か調べ物をするために出かけるような気が
した。
 ニーツには意外とお人よしな面があるしな、と思いながら。

(ふ…、お互い健闘しようじゃないか)

 心の中でそっと呟き、八重は『バンチャの髭』を後にした。


 今日もジュデッカは、肌寒い。


 ***


 2時間後、メイデン通り、監獄資料館前。


 予想はしていたが、一般人が閲覧できる資料の中にドクター・レンの居場所
の手ががりとなるような事柄はなかった。八重の頭の中には、この監獄の成り
立ち、監獄で使われる器具一覧、街の観光名所、囚人が作る製品の目録の情報
が入るだけに終わった。

「もっと詳しい資料を見たいのだが」

 ダメもとで資料館のカウンターのかわいいお嬢さんに頼んでみたが、「これ
以上の資料は一般の方にお見せすることはできません」と笑顔で断られた。
 重要な資料を見せてもらうためには、ランクA以上のギルドハンターの証を
見せるか、強力なコネがあるか、…受付のお嬢さんを誘惑するか、ぐらいしか
手はない。

 自分の「ウサギ」体質上、今も昔も八重はギルドに所属していなかったし、
コネがあればとっくに使っている。

(…若ければ、な)

 資料館の入り口でそんなことをぼんやり考えつつ、八重は煙草を吹かしてい
た。
 
 そんな時、目の前を褐色の肌の少年がすっと横切った。
 今何をされたかをすぐに理解した八重は、少年の手を、決して力をいれず、
しかし確実に振りほどけないような圧力でもって掴んだ。

「!!」

 少年がおびえたような琥珀色の瞳を向ける。
 騒ぎにならないよう、八重は柔らかい口調で話しかけた。

「私のサイフの中身を見てごらん。君にとってはほとんど無意味なことが解る
から」

 言われるままにおずおずと少年がサイフの中を確認すると、逆さに振った中
身は、小さな手に、数枚の銅の小銭が落ちてきただけだった。

「…しょぼいなオッサン」

 思わず少年が本音を漏らす。八重も苦笑して、

「ああ、このところお金には縁が無くてね。…紫の瞳の小説家に出合ってから
かもしれないな」
「紫の瞳ねぇ」

 その言葉に少年は何か思い当たる節があるらしく、苦い顔つきになった。

「…ちっ、さっきのヤツの方が金持ちだったかも」
「…さっきの?」

 嫌な予感がして、八重は少年に尋ねる。

「君はさっきも同じようなことを?」
「…ああ。まあ、そうやって生きてるし。普通、想像つくだろ」
「…もしかして、さっき狙った相手は、金髪で、その…、まあいわゆるボンボ
ンという感じではなかったかい?」

 それを訊かれた少年の身が固くなる。

「…オッサンの知り合い?」

 その反応で理解した。
 どうやら嫌な予感は、確信に変わりつつある。

「そう、か…。そう、なんだな?…そいつは、何か面倒ごとに巻き込まれなか
ったかい」

 少年がばつが悪そうに黙りこくる。
 八重は…、ふう、と一つ長い長い煙を吐き出した。

「全く。また何かに巻き込まれたな、イートン」

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2007/02/18 00:05 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon

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