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2025/04/29 02:53 |
《Under The Moon》 ~ナスビと愉快な仲間達:9~/ニーツ(聖十夜)
PC:八重・イートン・ウピエル・ニーツ
場所:大陸横断鉄道車内
NPC :ナスビ
――――――――――――――――――――――――

夢を見た。
遠く封印した夢。
それはひどく甘く-ひどく切ない。


車窓からぼんやりと、人でごった返した駅を眺める。人込みの中に、見知った金色の
後ろ姿を見つけ、眉を潜めた。何処へ行くのだろうか。
先程まどろんでいた時に、一度帰って来たことは知っている。いたずらをしそうな気
配がしたので、もしそんな事をしたら張り倒してやろうと思った覚えがあるから間違
いない。
汽車の中は快適で、彼が何処かへ行くのなら、これ以上ないほど心地良い旅となるだ
ろう。
「ニーツ君」
通路からかけられた声に顔をあげると、イートンが立っていた。さっきの駅でちょう
ど空いた隣の席に座る。
「ウピエルさんは、用事が出来たそうで、さっきの駅で降りました」
「そうか」
静かになるな、とニーツが呟き、会話は途切れる。
カタタン、カタタン…
単調な汽車の音が、二人の耳を打った。
思い返せば、色々な事があって、元の関係に戻ってはいたが、まだ二人きりで話しあ
った事は無かった。
「あの…ニーツ君」
先に沈黙に耐えられなくなったのは、イートンだった。言ってからまた、沈黙。
ニーツは、視線で先を促す。だが、色々な言葉が頭の中を回ってるのだろう。あので
すね、という言葉を繰り返し呟いている。やがて、ようやく出た言葉は、
「僕の事、どう思ってるんですか?」
だった。
真意を測りきれず、思わずニーツはイートンをまじまじと見る。
その視線に、イートンは言った事を後悔したのだろう。すぐに赤くなって言い訳めい
た事を口走りはじめた。
「ベ、別に変な意味じゃありませんよ。ただ、ニーツ君って、他人はどうでも良いって
感じじゃないですか。あの子にも容赦なかったし。だから僕の事も…
…じゃなくて、ええっとぉ…」
つい、吹き出した。純粋に、笑った。
きょとん、とイートンがこちらを見る。
「な、ちょ…何で笑うんですか!」
真っ赤になってイートンが反論する。ようやく笑いが治まり、ニーツは深呼吸をし
た。
そうして吐き出した言葉は、一言。
「馬鹿者」
その言葉に、イートンは一瞬呆け、だがすぐに表情を崩す。
再びの沈黙。
だが、先程に比べて、どこか心地良い。
カタタン、カタタン…
汽車は変わらず走り続ける。
変わりゆく、人の想いを乗せて…

***

八重が呼びに来て、三人は食堂車にやって来た。
お昼を少し過ぎた時間。比較的空いていたので、問題なく座ることが出来た。
「これからどうする?」
食前の一服を楽しむ事ができず、少々不満そうな八重がまず、口火を切った。
「ウピエルさんがいなくなっちゃいましたからね。牢獄内の情報は彼が持ってましたか
ら…ジュデッカについたら彼を待つしか無いでしょう」
「あんな男に頼る事もないだろう」
「そういう訳にはいかないさ」
八重は苦笑し、運ばれて来た料理に目を移す。流石、一流の料理人を積んでいるだけ
ある。
漂う芳香につられ、胃が空腹を訴えた。
八重はお先に、と一言添え、食事を口に運ぶ。
「ジュデッカについたらあの男を待つ。合流したら、真っ直ぐにドクター・レンを目指
す。それで良いか?」
「僕はそれで構いませんよ」
「我輩にも依存はない」
イートン、ナスビの賛成の声に、ニーツは、続かなかった。反対の声もあげず、じっ
と何かを考えている。
その逡巡に、イートンはおや、っという目でニーツを見た。やがてニーツは、「潮時
か」と小さく言葉を紡いだ。
「八重、イートン、勝手で悪いが、俺は少し別行動をとっても良いか?」
「は?」
野菜スープを口に運ぶ手を止め、イートンがぽかんとニーツを見た。
「今更何故だ」
「たいした事じゃない。寄りたい場所があるだけだ」
「ジュデッカ内にか?」
「ああ、知り合いの所だ」
その言葉に、八重も驚きの表情を浮かべ、食事の手を止めてニーツを見る。
「いるのか?知り合いが」
「ああ、この前クーロンのジジイから聞いた。俺の古い知り合いが、ジュデッカに入っ
ているらしい」
「そんな、古いって…若いうちからそんな言葉を使っちゃダメですよ」
イートンの的外れな指摘に、ニーツは一瞬苦笑を浮かべ、すぐに消し去った。魔族の
時間で考えても、遠い昔。イートンには想像できるだろうか。
ニーツにとっても、空白の時間。
「それにしても、ニーツに犯罪者の知り合いがいたとはな」
「牢に入るのが犯罪者ばかりとも限らないさ。人間との共存を説いて煙たがられ、牢に
追いやられた、そんな男だ」
「えー、良い人じゃないですか!」
口を尖らせて、イートンが反論する。ナスビが成る程、と訳知り顔で頷いた。
ニーツは一度軽く目を閉じ、再び口を開いた。
「そう、人間にとっては良い思想だろうな。一部の魔族もそれに賛同した。だが」
「大半の魔族は反感を持ったのだな?」
おもちゃのフリをすることが疲れたのか、だらんと寝そべりながらナスビが確認す
る。
人と子を成すほど人間に好意を持つ者もいることはいるが、大半の者は、人間を敵
視…いや、見下し、暇潰しの玩具としか思っていない。
「リアン兄弟を見ればわかるだろう?魔族は人間とは馴れ合わない」
「でもニーツ君は違いますよね?」
ニコニコとイートンに見つめられ、ニーツは否定の言葉が出てこず、一瞬言葉に詰ま
った。ごまかすように、咳払いをひとつ。
「…ああ、まあ、そんな訳でジュデッカに寄るなら挨拶でも、と思ってな」
「そうですか~なら僕らも行きますよ」
「は?」
今度はニーツがぽかんと声を上げる。
「だが、先を急ぐだろう?」
「ここまで来たら同じだな。どちらにしろ、この鉄道のおかげで大幅に時間は短縮した
んだ」
「そうですよ。僕たちは仲間なんですから、遠慮せずに」
代わる代わる言われ、ニーツは大きく息をついた。半眼で、呆れ顔で、それでも口元
を軽く綻ばせ、二人を見つめた。
「お前ら馬鹿だろう」
それに対してイートンもにっこりと笑う。
「ええ。人間って馬鹿なんですよ」
知りませんでした?と問い返すイートンに、ニーツは苦笑した。


***


遥か遠い昔。自ら記憶を封印すると言った時、思い出したときが辛いよとポポルは言
った。
確かに半分はその通り。
だが、今なら乗り越えられる強さがある。
さあ、捨てた過去を取り戻しに行こう-
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2007/02/18 00:04 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon

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