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2025/04/30 06:20 |
《Under The Moon》 ~ナスビと愉快な仲間達:6~/イートン(千鳥)
PC 八重・イートン・ニーツ・ウピエル
場所 ルート
------------------------

「大陸横断券…?」

 押し付けられたチケットを覗き込み、誰とは無しにそう口にした。すでにあの
占い師の姿はない。もっとも、用心深いニーツは占い師がイートンにチケットを
押し付けると同時に逃げるように走り去って行ったのを見ていたのだが。

「鉄道と言うと、あの、ソフィニアのですかね?」
『なんだ?その『テツドウ』とか言うのは』

 ナスビが首をかしげて問う。魔道やルナシーについては通じていても、所詮こ
の木兎は遥か昔に滅亡した古代国家の遺産なのである。現在の先端技術を駆使し
たこの交通手段について知るはずもなかった。
 そんなナスビの様子にイートンが笑って説明する。

「ソフィニアには、魔法力機関を利用した地下鉄道が走っているのですよ。」
「確か異空間を利用してクーロン-ソフィニア間に鉄道を敷く計画があったな。
ふむ。今はここまで繋がったということか…」

 イートンの言葉をニーツが補足する。

「クーロンまであともう少しですね。でも、まだ正規のルートとしては利用でき
ないと聞いてますけど…」
「試運転が始まっているのだろう。未開の分野だ、危険は大きいだろうが急ぎの
用がある者には何ヶ月とかかる道のりを短縮できる利は大きいさ。裏では試験中
の搭乗券も出回っているのだろうさ」

 ニーツはイートンの手からその券を奪い取り疑わしそうに眺めた。

「まぁ、こんなフザケタ券を偽装したところで何の特にもならないのだから、こ
の村に駅があるのだろう」

 誰の差し金かしらないが…。最後の台詞は誰にも聞こえないほど小さかった。

「まだ完成した訳じゃないんですよねぇ…ソレ」
「しかし、私たちがこのままデュデッカに向かえば、私は…最低1回は満月迎え
なければならない。ソフィニアまでの道のりを短縮できれば……」
「まぁ…取りあえず出発の日付だけでも聞いておくのも、悪くはないな。それほ
ど頻繁に行き来しているとは思えんからな」

 八重の沈痛な面持ちを横目で見ながら、ニーツは長閑な家々の屋根からほんの
少し突き出している工場を指差した。

 □■ □■ □■ □■ □■ □■

「確かに…ソフィニア行きの列車が出とるが…」
「本当か!?」

 工場の入り口に立っていた男は、どうみてもこの先端技術を担う鉄道の関係者
というよりは、農夫といった印象が強い。

「この券を何処で手に入れなさったね?どうみてもお前さんたちは学院やギルド
の関係者にも見えないが」
「えーと…福引です」

 不思議そうな顔の男に、イートンはさらに不思議の深まる答えを返した。

「明日の昼ごろに一便出るな。これを逃したら二週間は出なかった。お前さんた
ち運が良いね」

 思ったより早い出発に一同に、主に八重だったが、安堵の表情が浮かぶ。ここ
で数週間も待たされたら元も子もない。そういえば、小さな村だというのに宿屋
がいくつか点在していたことをイートンは思い出した。この地下鉄を利用する旅
行者の為に用意されたものなのだろう。
 電車に乗れるし、出発の日にちも良い。順調と思われた、その当日―――――
――――
 
 朝一番で工場に向かった一向に衝撃の事実が伝えられた。

「お客さん。実はこの券は一枚につき2人しか乗せられないんだよ」
「――――!?」

 イートンは思わず頭の中で人数を数える。ニーツに八重に、自分で三人。ナス
ビは多分人数には入らないだろうから、一人、足りない。

「ニーツ、お前一人なら地下鉄に乗らなくても自分でいけるだろう?ほら、いつ
ものように」
「……」

 八重の提案にニーツは何故か不機嫌な顔をした。

「あれ?もしかしてニーツ君乗りたかったんですか?」
「べ、べつにそう言うわけじゃない」

 珍しく慌てたニーツにイートンはおや、という顔で尋ねた。そこでナスビが意
地悪く笑った。

『いくら魔族が自由に空間を行き来できるとは言え、何の所縁もない場所にいき
なり現れたりすることは出来ぬよ。お主デュデッカには行ったことないのであろ
う?出来ぬことではないがそれこそ「めんどくさい」だな』
「イートンの魔力じゃ、追うには薄すぎる。八重がルナシーにでも変身すれば、
その背後にだって現れてやるさ」

 すこし言い訳じみた口調で拗ねる様にニーツが言う。なんだか年相応に見えて
イートンは微笑ましく思う。最初に自分がけなされた事はあえて忘れることにし
て。

「でも、出来ないことは無いんだろう?」
「まぁな」

 やはりどこか渋った口調でニーツが続けようとした瞬間、彼の細い肩を誰かが
馴れ馴れしく叩いた。

「諦める必要は無いぜ!」
「お前は」
「あ~、あの時の…」

 そこには、あの『ウピエル』と名乗った男が立っていた。相変わらず人を食っ
たような表情で、あまり趣味のいいと思えない柄のついた開襟シャツに、黒いズ
ボン。その瞳は早朝の空と同じ済んだ青。

「やはり貴様だったか…やっぱり俺は一人で行く」

 ニーツは先ほどの態度は何処にいったのか、急に地下鉄を乗ることに興味を失
ったようだった。

「え??ニーツ君?」
「だーかーら、乗れるって言ってンだろう?オレの持ってるチケットが一枚。乗
るのはオレ一人。そこの魔族の坊やがオレの連れになればお前たち3人乗れて、
問題もない」
「貴様、その『坊や』という言葉、分かって言ってるんだろう?訂正する気は無
いのか?」

 剣呑な目つきで脅すニーツにウピエルは怯まない。チッチと舌を鳴らしながら
笑って言った。 

「力で上下が決まる世界もあれば、『見た目で』上下が決まる世界もある。人間
の世界はどちらかといえば…後者だな」
「なろほど。では、前者の世界に場所を変えてやっても俺は構わないが?」
「ちょ、ちょっと落ち着いてくださいよ~~」

 この二人はどうも相性が悪いようだ。イートンは二人の様子をはらはらと見守
っていたが、男と何か話し込んでいた八重が彼らに向かって大声で怒鳴った。

「あと少しで出発するらしい。取りあえず君も来るんだ!ニーツ!」

 機体の整備は工場内で行われていたが、問題の駅は工場から少し離れたところ
にあるらしい。工場の裏に作られた地下通路を通って、彼らは遠い場所から場所
へ一瞬で移動できるという、夢のような横断鉄道を体験することになるのだ。
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2007/02/18 00:02 | Comments(0) | TrackBack() | ○Under The Moon

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