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2024/05/16 19:05 |
光と影 6 「魔方陣」/ウェイスター(ノーマン)
PC:ウェイスター (ヴォルボ)
NPC:黒ローブの男達
場所:ソフィニア市街・ソフィニア魔法学院
+++++++++++++++++++++++++++++++++++

呼び止めるも止まらない黒ローブ。故にヴォルボは黒ローブを捕まえようと、駆け出
した。ーが、いかんせんドワーフ。足が短い。手足をばたつかせ懸命に駆けるも、黒
ローブとの差は詰まらない。ヴォルボとは対照的にその男の足は長かったのだ。しか
も、その男だって、呼び止められたと同時に駆け出していたから、なおのことだ。黒
ローブは加速していき、ヴォルボをぐんぐん突き放す。兎と亀の駆け比べだ。

「ッこの!」

歯噛みして、なおも追いかけるが、もうすっかり置いていかれていた。足を止め、息
を整えた。

「…マリリアンところに行こう。」

頭を切り替えたようで、マリリアンの所へ向かっていった。見失ってしまったのだか
ら仕方が無い。今の第一優先はマリリンに髪止めを届けることだ。

少女を飲み込んだ魔方陣の描かれた紙は宙を舞って、どこかへ消えていった…。

  +++++

そのころウェイスターはといえば、とりあえず高名なソフィニアの魔法学院に来てい
た。多くの学院生で賑わっており、マリリンを誘拐しようとした人間がいるのかどう
かさっぱりだった。聞き込みをしようかとも思ったが、目立ったまねをするのはまず
いと思い、結局止めた。怪しげな格好をした人間は多少散見されたが、魔法学院とい
うこともあり、それだけで怪しいとは言いかねる。
何より、ウェイスターは若者あふれる学院の雰囲気とは明らかに異なっており、浮い
ていた。
向こうの方で女性と数人がウェイスターの方をちらちらと見ながら何か話していた。


「なにアレー?いまどきガクラン?」
「応援団かなんかじゃないの?」
「えー。でも、青いガクラン…しかも、長ランじゃ無い。おかしいよ。」
「きっと、ツッパリなのよ。」

今日び、ツッパリだのチョウランだの言うのも珍しい。ましてや、青い。バカみたい
に目立つ。
暫くすると、リーゼントの、それこそツッパリファッションの男に睨み付けられる始
末だ。

「なんだよ、オメーは。ここはソフィニア魔法学院だぞ。」

しかも、因縁つけられてしまった。

「承知の上だ。」
「わかってんなら消えろや。場違いなんだよ。」

好都合。ウェイスターは思ってしまった。こういったヤンキーくんは割と顔が広いの
だ。

「お互い様だろう。なんだ、今日び短ランか。」
「長ランに言われたくねーよ。大体、なんだよ、他人(ヒト)の学校きといて、デ
ケー面すんなよ。」
「別にそんなつもりは無いが。君の思い違いだろう。」

ウェイスターが、あんまりに表情を変えないものだから、ヤンキーくんはなんだか、
頭にきていた。

「はい、そうですか…。」
「?」
「って、言うとでも思ってんのかコラァ-ッッ!」

ヤンキーくんは思いっきり振りかぶって、ウェイスターの右顔面にストレートを放
つ。
バチィ
乾いた音が響いた。
…が、ウェイスターは微動だにせずに、パンチを受けきっていた。右頬にヤンキーく
んの拳がめり込んでいる。

「…こんのやらぁッ!」

ヤンキーくんは半ばやけになって、ウェイスターに攻めかかる。
右ストレート、左フック、狙いをボディに変えて、右ミドル。最後に胸ぐらを掴んみ
…。
ガツン
強烈な頭突きを放った。

「ットォ…。頭突きは…ちょっと、自分もいてぇや…。」

ヤンキーくんは、数歩下がって、頭をなでた。多分、後でこぶになるだろう。リーゼ
ントが少し乱れていた。

「…気は済んだか。」

ウェイスターは、やっぱり微動だにしていなかった。

「聞きたいことがある。」

ヤンキーくんに選択の余地は無かった。

  +++++

「マリリアンちゃーん。」

マリリアン宅の戸を叩くのは、短い四肢と長いひげの彼だ。
こんこん
…返事が無い。

「?」

ヴォルボは失礼かと思ったが、ドアを開けた。
二、三回マリリンに呼びかけ、やっぱり返事が無かったので、中に上がった。

そして、ヴォルボの表情は凍りついた。

居間には返事の無いマリリアンの代わりに、魔方陣の描かれた紙が落ちていた。

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2007/02/12 17:17 | Comments(0) | TrackBack() | ▲光と影
光と影 第七回「真相への扉」/ヴォルボ(葉月瞬)
PC:ヴォルボ ウェイスター
NPC:黒ローブの男達 眼鏡の男 不良・千代田 番 マリリアン
場所:ソフィニア市街~魔術学院
+++++++++++++++++++++++++++++++++++

 ウェイスターが魔術学院でも屈指の不良、千代田 番と対峙している頃、ヴ
ォルボは今しがた空になったばかりの部屋を見詰め愕然としていた。
 ここは、マリリアンの家だ。質素だがこじんまりとしていて、清潔感のある
良い家だ。その家の居間の丁度台所に当たるところに一枚の紙切れが落ちてい
た。その紙切れから煙が出ていて、今し方魔法が発動したばかりのように見受
けられる。

「マ、マリリアンちゃん?」

 ヴォルボは呆然と呟いた。
 信じられない面持ちだった。昨日帰されたばかりだというのに、再び誘拐さ
れてしまうとは。何の為に帰されたのかこれでは解らない。
 暫し呆然としていたヴォルボだったが、唐突に気を取り直して現場検証をす
ることにした。まだ何か手がかりが残っているかもしれない。ぱっと見て先ず
目に付くのは、台所に面している窓が開きっぱなしだということだった。台所
には料理でもしていたのか、包丁と食材が散乱している。鍋の火が点きっぱな
しである事に気付き、慌てて鍋をどけて火を消す。そして、再び床の紙切れを
見る。
 先程少女が消えたときに落ちていた紙切れと同じように、その紙切れにも魔
方陣らしき模様替えがかれていた。円形の中に複雑に絡み合った幾何学模様は
魔術師にしかわからない図式で【転移魔法】の呪文が描かれていた。当然、ヴ
ォルボにその事を理解できる訳が無い。
 その紙切れをしげしげと眺めているヴォルボは、ふと思い立ちその紙切れに
乗ってみる事にした。その紙切れに乗れば、先程の少女と同じ現象――消失現
象が起こるのではないかと思ったのだ。
 だが、何も起こらなかった。
 当然、魔法陣の書かれた紙切れは簡易魔方陣で、一度上に乗って魔方陣を発
動すると魔力が失われ二度と使えなくなる代物だった。だから発動した後の魔
法陣に乗っても、発動するわけが無かった。
 ヴォルボの肩はがっくりと落ちた。
 自分もその同じ魔法陣に乗れば、同じ場所に行けるのではないかと思ったの
だ。
 ドワーフの浅はかな知恵だった。

「……!? 黒ローブの男!」

 ヴォルボははっとなって突然顔を上げた。何かをふと思い出したのだ。
 確か、黒ローブの男の胸元には何かの紋章のようなものが描かれていた。具
体的にどんな紋章かは遠目だったので解らないが、輪郭は何となくソフィニア
の魔術学院の紋章に似ていた。
 となれば、魔術学院に行くしかない。
 手掛かりはそこにあるはずだ。
 ヴォルボはそう、思い立つと、素早く行動に移った。



   *■□*



 いついかなる場所いかなる時代にも、不良と呼ばれる者達は居る。
 伝統と格式と実力を重んじるここ、ソフィニアの魔術学院にもやはり不良と
呼ばれる人種は居た。
 不良とは、そもそも自分の能力が他と比べて劣っている劣等感の塊のような
人間がなるものだ。だから、リーゼント頭が凛々しい不良、千代田 番も劣等
感に苛まされていた。だからこそ、むやみやたらと他人に突っ掛かるのだ。
 だが、今日は日が悪かった。
 運悪く、突っ掛かった者がカミカゼ機動隊のエース、ウェイスター・ロビン
だった事が災いした。
 番はウェイスターに突っ掛かっていって、殴り合いの末何故か優勢だった番
の方がウェイスターに屈服していた。これは不良たる者にとって、屈辱的な事
だった。だが、何故かウェイスターには逆らえないのだ。それほどの貫禄が、
彼にはあった。それは何故か。青い長ランの制服を着ているからか。否。ウェ
イスターの打たれても打ち負けない根性が不良、千代田 番を屈服させたの
だ。
 勝ち誇ったウェイスターは、見下す様に番を見――実際には目は前髪に隠れ
て見えないのだが――訊ねた。

「ここ――魔術学院の中で不審な人物、最近何か不審な事をしているものが居
ないか?」

 高慢な質問だった。
 だが、番は何故か素直に答えてしまう。不良の世界とは不思議なものだ。

「あ? ああ。不審な事と言えばよぉ。最近夜中に魔術学院の実践魔法科の方
でよぉ、光が点ってたりするんだよなぁ。人が出入りしている痕跡もあるし。
人影だって見たんだ。で、肝試しついでに入ってみたのよ。そしたら、黒ロー
ブの男達が地下に潜っていくのを見たんだよ。実践魔法科の棟の地下講堂って
奴だ。何でも、実践魔法は危険が伴うから地下に講堂を作って結界魔法を張り
巡らしてんだとよ。なぁ、もういいだろう?」

 十分な情報を得たとばかりに、ウェイスターは首肯で返した。
 番はほっと胸を撫で下ろして、開放された喜びを噛み締めていた。



   *□■*



 一方、ここは地下講堂。

「まだだ。まだ足りない。あと、五人はいないと……」

 眼鏡をかけた一際背の低い黒ローブの男が、何やら低く呟いていた。
 男の背後には六芳星の魔方陣と、その頂点の一つに一人の少女が蹲ってい
た。どうやら気を失っているようだ。少女は、ヴォルボの目の前で消えうせた
あの美少女だった。
 眼鏡の男は歯噛みしていた。イライラして、その場をウロウロ往復してい
た。
 と、そこへ、一人の少女が転移して来た。少女の下には受け側の転移魔法陣
が描かれている。少女は否応無く、眼鏡の男の視線を一身に浴びた。
 一瞬後。
 眼鏡の男は肩を戦慄かせて周囲に怒鳴り散らした。

「こいつはどういうことだ! あれほどデブでブスな女はは連れてくるなと言
っただろうがっ!」

 二人目として連れてこられたのは、マリリアンだった。

「はっ、すいません。ガルの奴がこんなデブに目が無いもので」

「ふ、ふん。まぁ、いい。期日は差し迫っているんだ。こんな女でも使い物に
ならない訳ではあるまい。六芳星の頂点に連れて行け。……スリープクラウ
ド」

 眼鏡の男が何か呪文を呟いて手をマリリアンの方に掲げると、掌から雲のよ
うなものが出現して、マリリアンの頭部を覆った。すると、マリリアンは眠気
はまったく無い筈なのに、突如として睡魔に襲われたのだった。
 マリリアンはその場に倒れた。
 そして、六芳星の頂点へと連れて行かれた。

2007/02/12 17:17 | Comments(0) | TrackBack() | ▲光と影
光と影 第八回「勉強ができるだけのバカとヤンキーの巻」/ウェイスター(ノーマン)
PC:ウェイスター ヴォルボ
NPC:バン・チヨダ ウォダック
場所:ソフィニア市街・魔術学院
+++++++++++++++++++++++++++++++++++

「実践魔法…地下講堂…か。」

ウェイスターは得た情報の意味を反芻するように、何度か口に出してみる。そして、
重要なことに気付いた。
番は、もう、こういった輩と関わりたくないので、そろりそろりとウェイスターから
離れようと、太極拳のように動いていた。が、首根っこをウェイスターにつかまれ
「ぐぇ」と、カエルさながらの声を上げてしまった。

「その地下講堂とやらに案内してもらえないか。場所が分からない。」

返事はイエス。それしかないのだ。…番はなんだかひどく悲しい気分になっていた。



     +++++++++

とてとてとて…
まるでスピード感に欠けた速度で、ひぃひぃ言いながら走る樽が合った。樽がしゃべ
るわけは無いだろう。そうだ、これはヴォルボだ。彼は今、マリリアンの身を案じて
ソフィニア魔法学院に向かっているところだ。もっとも、マリリアンが魔法学院にい
る保障はどこにも無い。部屋に残された簡易魔方陣から推理して、魔法学院ではない
か…と、少し思っている程度だ。事の発端であった、黒尽くめの連中と同一犯である
かどうかも分かっていない。分かっていないが、今は一刻も早く彼女に会わなければ
ならないのだ。

「チーキショーッッ!!」

自分の体型が恨めしい。もっと足が長ければ、ついさっきの黒尽くめにも追いついた
はずだ。それなのに…。
なんてことを考えていたら、足元の小石に気付かなかった。
こつん
ちょっとしたバランスの変化だ。普段なら、少しよろけてそれで終わり。けれど、今
日は違った。いいだけ加速がついていたせいで、転んだ拍子に転がり始めてしまっ
た。運動会の玉転がしの玉の如く、ごろごろと転がったのだ。

「ワワッ!」

猛スピードで転がり、周りの全てをなぎ倒す。ボーリングのピンの如く人や物がはじ
かれていく。
このぶんなら、あと数分で学院につくことだろう。
…多くの被害を出して。


   +++++++++

「ここっス。」

ウェイスターが案内されたのは、いかにもホラー映画に使われるような洋館だった。
きっと、中には吸血鬼だの、フランケンシュタインがいることだろう。

「ずいぶんと雰囲気でてるじゃないか。」
「魔法は心粋ッスからね。」
「なるほど。」
「じゃ、オレ、失礼します。」

深々と頭を下げ、帰ろうとする番。だが、またしても首根っこを掴まれる。

「地下講堂に案内願いたい。」

(ちょっとはテメーでやれよ。)なんて番は思ったが、逆らえないのは理解してたの
で、「はい。」なんて、愛想の効いた声で返事をしてみた。どうせ、結果分かりきっ
ているんだ。下手に逆らっても仕方ない。

洋館の重たげなドアを押す。案の定、ギギギギギ…なんて音を上げながら、ドアが開
く。やっぱり、案の定、ドアの向こうは妙に暗く、照明は古臭いランプのみ、そのわ
りには豪奢なシャンデリアが飾られていたり、今にも動き出しそうな甲冑が幾体も並
んでいた。

「実践魔法というのは、一体何をしているんだ?」
「さぁ、しらねえっす。ただ、なんか毎日ヲタクくせー連中がセコセコ足繁く通って
んスヨ。めでてーっすよね。」
「勤勉で結構じゃないか。」

勤勉は結構だ。すばらしい。ただ、それが正しい方向に向かっていればだ。
二人は、暗い中を黙々と進んだ。薄暗いものの、平淡な廊下を歩くのは苦ではない。


「勤勉っすかね。オレには、ただ焦ってるように見えます。」
「焦る?」

意外な単語に、思わず歩みを止めてしまった。

「卒業が難しいんスよ。ほら、ここは歴史と伝統あるソフィニア魔法学院じゃねえっ
スか。半端な技量じゃ卒業できないんスよ。だから、才能ないヤツは焦ってるんす
よ。」
「…ほぅ。」
「ま、オレもその口っすよ。やっぱ、魔法って才能なんでしょうね。いくらやっても
技量がつかねえ。」
「…魔法ばかりが世界じゃないさ。」
「…そうっすね。」

すっかり黄昏ムードの二人だった。
もし、許されるなら、今この二人は河川敷で夕日をバックに石投げをしていることだ
ろう。それはなんて青春!

「そ、そこの君ッッ!」

そんな雰囲気は、いかにも生真面目そうな声で打ち砕かれた。

「ここは、か、関係者以外、立ッち入り禁止だ・ぞ!」

なぜか妙に、聞き取りずらい吃音で叫んでいたのは、背の低い眼鏡をかけた神経質そ
うな男だった。
多分、学生なんだろう。が、老けている。ぱっとみ41歳ぐらいだ。

「な、なんとか、い・言いたまえッ!」

そんな学生を見るなり、番はいつもの番長いのポジションを思い出し、高圧的な態度
に移る。

「あぁーん?うるせぇな。オレは、ここの学生。つまり、関係者。四の五の言わねー
で、地下講堂まで案内してくれや。」

すると、学生は、明らかにビビッた様子で、後ずさる。

「いや、でも、だって…ッ。」
「だってじゃねーよ、さっさとしろよ。オッサン。」

オッサン呼ばわりされた彼は、番より二つも年下だった。けれど、彼自身、自分が老
けているのは知っていた。
だから、禁呪を犯してでも容姿を変えたかった。オッサンと呼ばれても、彼にとって
はかけがえの無い青春時代だ。月並みな恋の一つでもしたいのだ。そう、地味にこの
男が、マリリアンをはじめ、魔法陣を使って多くの女性をさらった張本人である。尤
も、実行犯は別の人間だが。

「オ・オッサンじゃ…ない…。ぼ、ぼくは…ウォダック・トレインマンだ!」
「ヲタクだか、ウォダックだかしらねーけど、うるせぇんだよ。オッサン!」

普通に考えれば悪いのはウェイスターらである。番はともかく、ウェイスターは明ら
かに不法侵入である。にもかかわらず、なぜか正論であろうウォダックのほうが論破
されつつある。世の中とは不条理だ。

「ち、ちきしょー…。」

そのまま彼は、力なく駆けていった。

「なんだ、アレは。」
「さぁ。勉強ができるだけのバカですよ。」

残された二人そんなヤリトリをしながら、奥へと進む。突き当りには階段があり、そ
れを下る。

「ココっす。」
「有難う。帰っても構わんぞ。」
「じゃ、お疲れさまっした。」

ずばっと頭を下げて、番は立ち去る。きっと、今日の彼の日記には、ウェイスターへ
の様々な思いが書き綴られることだろう。その証拠に、開放されたとたん、彼の口元
は緩んでいた。

悪趣味なドアを前にウェイスターは深呼吸をひとつ。
そして、ドアを勢い良く押し開ける。
ばん

「カミカゼ機動隊だ。神妙に縄につけぃ!」


2007/02/12 17:18 | Comments(0) | TrackBack() | ▲光と影
光と影 第九回「召喚されたモノ」/ヴォルボ(葉月瞬)
PC:ヴォルボ ウェイスター
NPC:黒ローブの男達 ウォダック テスカトリポカ
場所:ソフィニア魔術学院
+++++++++++++++++++++++++++++++++++

 転がっている状態では、危険だ。
 ここは魔術都市ソフィニア。大きな規模の都市である。当然、道路は整備さ
れていて石畳が敷かれている。石畳が敷かれている状態で頭部の上下運動――
回転をしていると、首の骨が折れかねない。挙句の果てには痛みによるショッ
ク死か圧死が待っているだろう。そう、瞬時に判断したヴォルボは、回転を止
める事を試みることにした。
 つまり、咄嗟に受身を取ったのだ。頭を胴体と足の間に埋めるように曲げ、
背が地に付いた途端に利き腕を横薙ぎに出し地面を勢いよく叩く。それによっ
てやっと回転が止まった。
 回転が止まった事により、前進する力が削がれ急停止した。
 やっとの思いで起き上がったヴォルボは、再び走り出す。目指すはソフィニ
ア魔術学院だ。だが、相変わらずののろまだった。



   *□■*



「カミカゼ機動隊だ! 神妙に縄につけぃ!」

 一足早く突入に成功したウェイスターは、カミカゼ機動隊の名の下に正義を
遂行しようとしていた。
 だが、時既に遅し。
 六人の美少女(一人除く)は既に揃っており、儀式が行われた後だった。
 六人の少女の胴体の真ん中部分――胸の辺りはぽっかりと穴が穿たれ、儀式
の遂行者である黒ローブの男達が心臓を鷲掴みにして上に持ち上げていた。そ
の手からは鮮血が滴っている。血はまだ赤かった。酸素と結合してどす黒くな
る前の、色だった。つい今し方取り出したばかりのようであった。
 ウェイスターはおぞましさに吐き気を催すのを覚えた。

「くっ、お前ら、なんてことを……」

 胸が鷲掴みにされたように息苦しい。とても生きた心地はしなかった。
 それは、周囲に禍々しい気が満ちていくのと呼応しているようだった。
 何かが、出現しようとしている……。
 その何かは、闇の奥底からゆっくりと鎌首を持ち上げるように姿を現した。
 そいつは、六芒星の魔法陣の中央にどっしりと居を構えていた。
 だが、そいつは魔法陣から一歩も出ようとはしなかった。否、出れなかった
のだ。
 そいつは、今だ魔法陣に束縛されていた。

 魔法陣に束縛されていたため、ウェイスターは幾分かそいつを観察する事が
できた。
 外野で「えーい! 何をやっている! とっとと出てこんかぁ!」などと騒
ぎ立てている馬鹿は放っておいてじっくりと観察した。
 そいつの体の中で一番目立った部分は、左足に付けた黒曜石で出来た鏡だっ
た。いや、つけたというより失われた左足の変わりに鏡を付けているという方
が真実に近いか。後ろに回り込めば、後頭部にも同じ黒曜石が埋め込まれてい
るのが見て取れただろう。顔を黄色と黒で彩り、一見すると神の様にも邪神の
ようにも見える。
 魔術に知識のある者ならば、それが魔王テスカトリポカである事が解ったで
あろう。人身御供を好み、太陽神と敵対するモノ。「煙る鏡」テスカトリポ
カ。
 召喚者である馬鹿者――ウォダックも「テスカトリポカ!」と連呼してい
る。ついでにこんなものを呼び寄せることに成功した自分自身を讃えていたり
する。
 ウェイスターはそんな馬鹿者には目もくれず、静かにテスカトリポカに近付
いていった――。



   *■□*



 不意にヴォルボは呼び止められた。
 何だと振り向いてみれば、そこには一人の占い師らしき人物が居た。
 女性のようだった。ただし顔はローブの陰に隠れていて見えないが。水晶玉
に静かに手を翳し、ヴォルボに対してのたまった。

「世界が夜の闇に閉ざされようとしています。あなたの力が必要です。……で
も、今のあなたではたどり着けないでしょう。そこで――」

 そう言って、女は一枚の紙切れを取り出した。
 それには、マリリアンの家でも見た魔法陣が書き込まれていた。移動の魔法
陣だ。

「――これを、あなたに――」

 女がそう言うと、ひらりと紙切れが風に舞い、ヴォルボの足元に滑り落ち
た。
 ヴォルボは無言のままそれを見詰めていた。一瞬後、意を決するように一つ
頷くと、紙切れを踏んだ。
 あ、と言う間もなく、ヴォルボの身体は移動呪文の呪字帯に包まれていた。
帯は一度ヴォルボの身体をくるむと、目にも見えない素早さで身体を分解し素
子に変換していく。原子レベルで分解し終わると、呪字帯は天高く伸び、ソフ
ィニア魔術学園の方角へと急速に伸びて行く。尾を引くように帯は真っ直ぐと
魔術学院に飛んで行き、ある一つの場所――ウェイスターが突入した地下講堂
の使われていない一室に到着した。後は分解された素子が元の情報を構成して
いくだけである。
 瞑っていた目を開くと、ヴォルボの目の前にはテスカトリポカに向かってい
くウェイスターが映っていた。
 だが、ヴォルボの瞳にはもう一つの悲劇が映し出されていた。
 マリリアンの死――。
 彼が愛を注ぎ込まんとしていた、彼の女性は今やただの亡骸へと変貌してい
た。それもおぞましい姿に。
 ヴォルボは咆哮した。
 地を揺るがせる雄叫びだった。
 両の目に涙を溜め、ヴォルボは走った。
 バトルアックスを両手で握り締め、悲劇の元凶を作り出したテスカトリポカ
に向かって駆け出していった。

2007/02/12 17:18 | Comments(0) | TrackBack() | ▲光と影
光と影 第十回「絶望」/ウェイスター(ノーマン)
PC:ウェイスター ヴォルボ
NPC:黒ローブの男達 ウォダック テスカトリポカ
場所:ソフィニア魔術学院
+++++++++++++++++++++++++++++++++++

バトルアックスは儚く砕け散った。テスカトリポカにあたる直前、見えない壁…い
や、なにかの障壁なのだろう。それにぶつかり、粉々になった。

「くっ!」

ヴォルボは柄だけになったバトルアックスを投げ捨て、渾身の体当たりを試みる。
ドカァン
渾身の体当たりは、またしても儚く散った。というか、はじき返されたわけだが。
どうやら、あの障壁はあらゆる衝撃を弾くようだ。傍観していたウェイスターはそれ
を感じた。
そして、低い…どこまでも低い地を這うような声が室内に響いた。

「…貴様が、我を呼び出した者か…。」

幾度となく繰り返し体当たりを放つヴォルボをよそに、テスカトリポカはウォダック
のほうを向き、値踏みするように見下していた。
ウォダックは、高揚感と恐怖でがたがたになり、震える声で「そうだ。」と、かろう
じて言った。

「ほほう。我を呼び出すとはいい度胸だ。…生贄をささげるまでして…。して、我に
何のようか。」

声だけで命を奪っていきそうな威圧感。多分、ヤツが小指を弾くほどの力で人間の頭
吹き飛ぶことだろう。
ウォダックは、すっかりテスカトリポカの放つ雰囲気に飲まれていた。が、質問に答
えることぐらいはできた。

「あ、あ…の、その…。ボクを変えてくれ…。」

おずおずと話し始めるウォダック。

「ボクは…容姿もこんなんだし、スポーツだってできない。…だから、魔法を学んだ
んだけど…それだって…。だから!ボクを…!」
「承知した。」

瞬間。辺りが闇に飲まれた。ゆらゆらと揺れるろうそくの炎や、わずかな光源が消え
うせた。そして、数秒後、何事もなかったうように光が戻る。

「ははッ…。」

魔方陣の中からテスカトリポカの姿が消えていた。ついでに、生贄にささげられた少
女たちも血の一滴の後も残さず消えていた。
ヴォルボは、突然いなくなったテスカトリポカを探した。
それらしい姿はなかった。姿はなかった。…が、その邪悪なオーラは漂ったままだっ
た。
その発生源は…あのヲタクだ…。

「…ははッ。なんだこれ、すごい、体中に力がみなぎっている!」

不気味に笑うウォダック。容姿は大して変わっていない。ガリガリで背が低く、ひ弱
そうな外見に違いはない。だが、眼鏡の奥、細い目が暗い光を放っていた。

周りにた数人の学生達もウォダックの豹変振りに気付いていた。いつもは、身分の低
いものには高圧的で、自分より上のものにはおびえて暮らすだけの人間だったはずな
のに…。

「ははははははッッ!」

笑い転げるウォダック。ヴォルボはなんとなく思った。あのヲタクの中にテスカトリ
ポカが入り込んだだろう。理屈は分からないが、あれだけ凶悪なオーラを放っていた
存在だ。ましてやここは魔法学院。なにかしらの魔力などを助長させる装置があった
のかもしれない。
拳を握り、ウォダックに殴りかかる。

「うぉぉぉおおおお!」

バチンッ
妙に低い音がしたと思うと、ヴォルボは宙を舞っていた。
ウォダックのデコピンでだ。

「カハッ…。」

そして、短く息と血を吐いて動かなくなった。かすかに、胸が上下しているから死ん
でいないだろうが、放っておいていいとは思えない。
ウェイスターは、ようやく我に返った。
正直、ヴォルボがここにいる理由は良く分からないが、彼がまずい状況に有るのは理
解できた。だが、どうできるといえよう。多分、あのヲタクはもはやヲタクではな
く、 テスカトリポカであるのは間違いないだろう。となれば、何ができるだろう
か。
ヴォルボの戦闘能力がどの程度かは詳しく知らないが、さっきの様子を見ると決して
弱くはないだろう。それが、いとも簡単にだ。
真正面からの戦闘では勝ち目はないだろう。なら、どうする?

「…なんだったんだ?さっきのドワーフは。」

しれっと言ってのける。ヲタクが、だ。
周りの学生は、それを機に出口に向けて走り出す。なにかが間違っている。それに気
付くと、その場にはいられなくなったのだ。
ばたばたと走り抜ける学生たち。取り残されたのは、ウォダックとウェイスター、
ヴォルボだけだった。

薄暗い部屋。黒い世界が始まった。
一瞬だった。ウォダックが、ウェイスターと距離を詰める。咄嗟に剣を取るウェイス
ター。

「オオッ!こんなに早く歩けるなんて!」

驚愕のウェイスターとは対照的に歓喜の声を上げるウォダック。

「このッ!」

剣を横に一閃。が、それを跳躍してかわすウォダック。

「ははッ!」

天井まで跳ね上がり、天井を蹴ってウェイスターに向かって落下する。
ウェイスターはかろうじて顔を上げた。
落下と脚力をあわせた推進力に加えた、テスカトリポカの力でウェイスターの頭を叩
きおろす。
ばし
目の玉が飛び出るくらいの衝撃を受け、ウェイスターはあっけなく昏倒した。
少しだけ残った意識の中で、ウェイスターは絶望を思った。

高笑いするウォダックの声だけが暗い地下室に鳴り響いていた…。


2007/02/12 17:19 | Comments(0) | TrackBack() | ▲光と影

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