PC:ヴォルボ ウェイスター
NPC:黒ローブの男達 ウォダック テスカトリポカ
場所:ソフィニア魔術学院
+++++++++++++++++++++++++++++++++++
転がっている状態では、危険だ。
ここは魔術都市ソフィニア。大きな規模の都市である。当然、道路は整備さ
れていて石畳が敷かれている。石畳が敷かれている状態で頭部の上下運動――
回転をしていると、首の骨が折れかねない。挙句の果てには痛みによるショッ
ク死か圧死が待っているだろう。そう、瞬時に判断したヴォルボは、回転を止
める事を試みることにした。
つまり、咄嗟に受身を取ったのだ。頭を胴体と足の間に埋めるように曲げ、
背が地に付いた途端に利き腕を横薙ぎに出し地面を勢いよく叩く。それによっ
てやっと回転が止まった。
回転が止まった事により、前進する力が削がれ急停止した。
やっとの思いで起き上がったヴォルボは、再び走り出す。目指すはソフィニ
ア魔術学院だ。だが、相変わらずののろまだった。
*□■*
「カミカゼ機動隊だ! 神妙に縄につけぃ!」
一足早く突入に成功したウェイスターは、カミカゼ機動隊の名の下に正義を
遂行しようとしていた。
だが、時既に遅し。
六人の美少女(一人除く)は既に揃っており、儀式が行われた後だった。
六人の少女の胴体の真ん中部分――胸の辺りはぽっかりと穴が穿たれ、儀式
の遂行者である黒ローブの男達が心臓を鷲掴みにして上に持ち上げていた。そ
の手からは鮮血が滴っている。血はまだ赤かった。酸素と結合してどす黒くな
る前の、色だった。つい今し方取り出したばかりのようであった。
ウェイスターはおぞましさに吐き気を催すのを覚えた。
「くっ、お前ら、なんてことを……」
胸が鷲掴みにされたように息苦しい。とても生きた心地はしなかった。
それは、周囲に禍々しい気が満ちていくのと呼応しているようだった。
何かが、出現しようとしている……。
その何かは、闇の奥底からゆっくりと鎌首を持ち上げるように姿を現した。
そいつは、六芒星の魔法陣の中央にどっしりと居を構えていた。
だが、そいつは魔法陣から一歩も出ようとはしなかった。否、出れなかった
のだ。
そいつは、今だ魔法陣に束縛されていた。
魔法陣に束縛されていたため、ウェイスターは幾分かそいつを観察する事が
できた。
外野で「えーい! 何をやっている! とっとと出てこんかぁ!」などと騒
ぎ立てている馬鹿は放っておいてじっくりと観察した。
そいつの体の中で一番目立った部分は、左足に付けた黒曜石で出来た鏡だっ
た。いや、つけたというより失われた左足の変わりに鏡を付けているという方
が真実に近いか。後ろに回り込めば、後頭部にも同じ黒曜石が埋め込まれてい
るのが見て取れただろう。顔を黄色と黒で彩り、一見すると神の様にも邪神の
ようにも見える。
魔術に知識のある者ならば、それが魔王テスカトリポカである事が解ったで
あろう。人身御供を好み、太陽神と敵対するモノ。「煙る鏡」テスカトリポ
カ。
召喚者である馬鹿者――ウォダックも「テスカトリポカ!」と連呼してい
る。ついでにこんなものを呼び寄せることに成功した自分自身を讃えていたり
する。
ウェイスターはそんな馬鹿者には目もくれず、静かにテスカトリポカに近付
いていった――。
*■□*
不意にヴォルボは呼び止められた。
何だと振り向いてみれば、そこには一人の占い師らしき人物が居た。
女性のようだった。ただし顔はローブの陰に隠れていて見えないが。水晶玉
に静かに手を翳し、ヴォルボに対してのたまった。
「世界が夜の闇に閉ざされようとしています。あなたの力が必要です。……で
も、今のあなたではたどり着けないでしょう。そこで――」
そう言って、女は一枚の紙切れを取り出した。
それには、マリリアンの家でも見た魔法陣が書き込まれていた。移動の魔法
陣だ。
「――これを、あなたに――」
女がそう言うと、ひらりと紙切れが風に舞い、ヴォルボの足元に滑り落ち
た。
ヴォルボは無言のままそれを見詰めていた。一瞬後、意を決するように一つ
頷くと、紙切れを踏んだ。
あ、と言う間もなく、ヴォルボの身体は移動呪文の呪字帯に包まれていた。
帯は一度ヴォルボの身体をくるむと、目にも見えない素早さで身体を分解し素
子に変換していく。原子レベルで分解し終わると、呪字帯は天高く伸び、ソフ
ィニア魔術学園の方角へと急速に伸びて行く。尾を引くように帯は真っ直ぐと
魔術学院に飛んで行き、ある一つの場所――ウェイスターが突入した地下講堂
の使われていない一室に到着した。後は分解された素子が元の情報を構成して
いくだけである。
瞑っていた目を開くと、ヴォルボの目の前にはテスカトリポカに向かってい
くウェイスターが映っていた。
だが、ヴォルボの瞳にはもう一つの悲劇が映し出されていた。
マリリアンの死――。
彼が愛を注ぎ込まんとしていた、彼の女性は今やただの亡骸へと変貌してい
た。それもおぞましい姿に。
ヴォルボは咆哮した。
地を揺るがせる雄叫びだった。
両の目に涙を溜め、ヴォルボは走った。
バトルアックスを両手で握り締め、悲劇の元凶を作り出したテスカトリポカ
に向かって駆け出していった。
NPC:黒ローブの男達 ウォダック テスカトリポカ
場所:ソフィニア魔術学院
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転がっている状態では、危険だ。
ここは魔術都市ソフィニア。大きな規模の都市である。当然、道路は整備さ
れていて石畳が敷かれている。石畳が敷かれている状態で頭部の上下運動――
回転をしていると、首の骨が折れかねない。挙句の果てには痛みによるショッ
ク死か圧死が待っているだろう。そう、瞬時に判断したヴォルボは、回転を止
める事を試みることにした。
つまり、咄嗟に受身を取ったのだ。頭を胴体と足の間に埋めるように曲げ、
背が地に付いた途端に利き腕を横薙ぎに出し地面を勢いよく叩く。それによっ
てやっと回転が止まった。
回転が止まった事により、前進する力が削がれ急停止した。
やっとの思いで起き上がったヴォルボは、再び走り出す。目指すはソフィニ
ア魔術学院だ。だが、相変わらずののろまだった。
*□■*
「カミカゼ機動隊だ! 神妙に縄につけぃ!」
一足早く突入に成功したウェイスターは、カミカゼ機動隊の名の下に正義を
遂行しようとしていた。
だが、時既に遅し。
六人の美少女(一人除く)は既に揃っており、儀式が行われた後だった。
六人の少女の胴体の真ん中部分――胸の辺りはぽっかりと穴が穿たれ、儀式
の遂行者である黒ローブの男達が心臓を鷲掴みにして上に持ち上げていた。そ
の手からは鮮血が滴っている。血はまだ赤かった。酸素と結合してどす黒くな
る前の、色だった。つい今し方取り出したばかりのようであった。
ウェイスターはおぞましさに吐き気を催すのを覚えた。
「くっ、お前ら、なんてことを……」
胸が鷲掴みにされたように息苦しい。とても生きた心地はしなかった。
それは、周囲に禍々しい気が満ちていくのと呼応しているようだった。
何かが、出現しようとしている……。
その何かは、闇の奥底からゆっくりと鎌首を持ち上げるように姿を現した。
そいつは、六芒星の魔法陣の中央にどっしりと居を構えていた。
だが、そいつは魔法陣から一歩も出ようとはしなかった。否、出れなかった
のだ。
そいつは、今だ魔法陣に束縛されていた。
魔法陣に束縛されていたため、ウェイスターは幾分かそいつを観察する事が
できた。
外野で「えーい! 何をやっている! とっとと出てこんかぁ!」などと騒
ぎ立てている馬鹿は放っておいてじっくりと観察した。
そいつの体の中で一番目立った部分は、左足に付けた黒曜石で出来た鏡だっ
た。いや、つけたというより失われた左足の変わりに鏡を付けているという方
が真実に近いか。後ろに回り込めば、後頭部にも同じ黒曜石が埋め込まれてい
るのが見て取れただろう。顔を黄色と黒で彩り、一見すると神の様にも邪神の
ようにも見える。
魔術に知識のある者ならば、それが魔王テスカトリポカである事が解ったで
あろう。人身御供を好み、太陽神と敵対するモノ。「煙る鏡」テスカトリポ
カ。
召喚者である馬鹿者――ウォダックも「テスカトリポカ!」と連呼してい
る。ついでにこんなものを呼び寄せることに成功した自分自身を讃えていたり
する。
ウェイスターはそんな馬鹿者には目もくれず、静かにテスカトリポカに近付
いていった――。
*■□*
不意にヴォルボは呼び止められた。
何だと振り向いてみれば、そこには一人の占い師らしき人物が居た。
女性のようだった。ただし顔はローブの陰に隠れていて見えないが。水晶玉
に静かに手を翳し、ヴォルボに対してのたまった。
「世界が夜の闇に閉ざされようとしています。あなたの力が必要です。……で
も、今のあなたではたどり着けないでしょう。そこで――」
そう言って、女は一枚の紙切れを取り出した。
それには、マリリアンの家でも見た魔法陣が書き込まれていた。移動の魔法
陣だ。
「――これを、あなたに――」
女がそう言うと、ひらりと紙切れが風に舞い、ヴォルボの足元に滑り落ち
た。
ヴォルボは無言のままそれを見詰めていた。一瞬後、意を決するように一つ
頷くと、紙切れを踏んだ。
あ、と言う間もなく、ヴォルボの身体は移動呪文の呪字帯に包まれていた。
帯は一度ヴォルボの身体をくるむと、目にも見えない素早さで身体を分解し素
子に変換していく。原子レベルで分解し終わると、呪字帯は天高く伸び、ソフ
ィニア魔術学園の方角へと急速に伸びて行く。尾を引くように帯は真っ直ぐと
魔術学院に飛んで行き、ある一つの場所――ウェイスターが突入した地下講堂
の使われていない一室に到着した。後は分解された素子が元の情報を構成して
いくだけである。
瞑っていた目を開くと、ヴォルボの目の前にはテスカトリポカに向かってい
くウェイスターが映っていた。
だが、ヴォルボの瞳にはもう一つの悲劇が映し出されていた。
マリリアンの死――。
彼が愛を注ぎ込まんとしていた、彼の女性は今やただの亡骸へと変貌してい
た。それもおぞましい姿に。
ヴォルボは咆哮した。
地を揺るがせる雄叫びだった。
両の目に涙を溜め、ヴォルボは走った。
バトルアックスを両手で握り締め、悲劇の元凶を作り出したテスカトリポカ
に向かって駆け出していった。
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