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2025/03/10 07:26 |
光と影 第八回「勉強ができるだけのバカとヤンキーの巻」/ウェイスター(ノーマン)
PC:ウェイスター ヴォルボ
NPC:バン・チヨダ ウォダック
場所:ソフィニア市街・魔術学院
+++++++++++++++++++++++++++++++++++

「実践魔法…地下講堂…か。」

ウェイスターは得た情報の意味を反芻するように、何度か口に出してみる。そして、
重要なことに気付いた。
番は、もう、こういった輩と関わりたくないので、そろりそろりとウェイスターから
離れようと、太極拳のように動いていた。が、首根っこをウェイスターにつかまれ
「ぐぇ」と、カエルさながらの声を上げてしまった。

「その地下講堂とやらに案内してもらえないか。場所が分からない。」

返事はイエス。それしかないのだ。…番はなんだかひどく悲しい気分になっていた。



     +++++++++

とてとてとて…
まるでスピード感に欠けた速度で、ひぃひぃ言いながら走る樽が合った。樽がしゃべ
るわけは無いだろう。そうだ、これはヴォルボだ。彼は今、マリリアンの身を案じて
ソフィニア魔法学院に向かっているところだ。もっとも、マリリアンが魔法学院にい
る保障はどこにも無い。部屋に残された簡易魔方陣から推理して、魔法学院ではない
か…と、少し思っている程度だ。事の発端であった、黒尽くめの連中と同一犯である
かどうかも分かっていない。分かっていないが、今は一刻も早く彼女に会わなければ
ならないのだ。

「チーキショーッッ!!」

自分の体型が恨めしい。もっと足が長ければ、ついさっきの黒尽くめにも追いついた
はずだ。それなのに…。
なんてことを考えていたら、足元の小石に気付かなかった。
こつん
ちょっとしたバランスの変化だ。普段なら、少しよろけてそれで終わり。けれど、今
日は違った。いいだけ加速がついていたせいで、転んだ拍子に転がり始めてしまっ
た。運動会の玉転がしの玉の如く、ごろごろと転がったのだ。

「ワワッ!」

猛スピードで転がり、周りの全てをなぎ倒す。ボーリングのピンの如く人や物がはじ
かれていく。
このぶんなら、あと数分で学院につくことだろう。
…多くの被害を出して。


   +++++++++

「ここっス。」

ウェイスターが案内されたのは、いかにもホラー映画に使われるような洋館だった。
きっと、中には吸血鬼だの、フランケンシュタインがいることだろう。

「ずいぶんと雰囲気でてるじゃないか。」
「魔法は心粋ッスからね。」
「なるほど。」
「じゃ、オレ、失礼します。」

深々と頭を下げ、帰ろうとする番。だが、またしても首根っこを掴まれる。

「地下講堂に案内願いたい。」

(ちょっとはテメーでやれよ。)なんて番は思ったが、逆らえないのは理解してたの
で、「はい。」なんて、愛想の効いた声で返事をしてみた。どうせ、結果分かりきっ
ているんだ。下手に逆らっても仕方ない。

洋館の重たげなドアを押す。案の定、ギギギギギ…なんて音を上げながら、ドアが開
く。やっぱり、案の定、ドアの向こうは妙に暗く、照明は古臭いランプのみ、そのわ
りには豪奢なシャンデリアが飾られていたり、今にも動き出しそうな甲冑が幾体も並
んでいた。

「実践魔法というのは、一体何をしているんだ?」
「さぁ、しらねえっす。ただ、なんか毎日ヲタクくせー連中がセコセコ足繁く通って
んスヨ。めでてーっすよね。」
「勤勉で結構じゃないか。」

勤勉は結構だ。すばらしい。ただ、それが正しい方向に向かっていればだ。
二人は、暗い中を黙々と進んだ。薄暗いものの、平淡な廊下を歩くのは苦ではない。


「勤勉っすかね。オレには、ただ焦ってるように見えます。」
「焦る?」

意外な単語に、思わず歩みを止めてしまった。

「卒業が難しいんスよ。ほら、ここは歴史と伝統あるソフィニア魔法学院じゃねえっ
スか。半端な技量じゃ卒業できないんスよ。だから、才能ないヤツは焦ってるんす
よ。」
「…ほぅ。」
「ま、オレもその口っすよ。やっぱ、魔法って才能なんでしょうね。いくらやっても
技量がつかねえ。」
「…魔法ばかりが世界じゃないさ。」
「…そうっすね。」

すっかり黄昏ムードの二人だった。
もし、許されるなら、今この二人は河川敷で夕日をバックに石投げをしていることだ
ろう。それはなんて青春!

「そ、そこの君ッッ!」

そんな雰囲気は、いかにも生真面目そうな声で打ち砕かれた。

「ここは、か、関係者以外、立ッち入り禁止だ・ぞ!」

なぜか妙に、聞き取りずらい吃音で叫んでいたのは、背の低い眼鏡をかけた神経質そ
うな男だった。
多分、学生なんだろう。が、老けている。ぱっとみ41歳ぐらいだ。

「な、なんとか、い・言いたまえッ!」

そんな学生を見るなり、番はいつもの番長いのポジションを思い出し、高圧的な態度
に移る。

「あぁーん?うるせぇな。オレは、ここの学生。つまり、関係者。四の五の言わねー
で、地下講堂まで案内してくれや。」

すると、学生は、明らかにビビッた様子で、後ずさる。

「いや、でも、だって…ッ。」
「だってじゃねーよ、さっさとしろよ。オッサン。」

オッサン呼ばわりされた彼は、番より二つも年下だった。けれど、彼自身、自分が老
けているのは知っていた。
だから、禁呪を犯してでも容姿を変えたかった。オッサンと呼ばれても、彼にとって
はかけがえの無い青春時代だ。月並みな恋の一つでもしたいのだ。そう、地味にこの
男が、マリリアンをはじめ、魔法陣を使って多くの女性をさらった張本人である。尤
も、実行犯は別の人間だが。

「オ・オッサンじゃ…ない…。ぼ、ぼくは…ウォダック・トレインマンだ!」
「ヲタクだか、ウォダックだかしらねーけど、うるせぇんだよ。オッサン!」

普通に考えれば悪いのはウェイスターらである。番はともかく、ウェイスターは明ら
かに不法侵入である。にもかかわらず、なぜか正論であろうウォダックのほうが論破
されつつある。世の中とは不条理だ。

「ち、ちきしょー…。」

そのまま彼は、力なく駆けていった。

「なんだ、アレは。」
「さぁ。勉強ができるだけのバカですよ。」

残された二人そんなヤリトリをしながら、奥へと進む。突き当りには階段があり、そ
れを下る。

「ココっす。」
「有難う。帰っても構わんぞ。」
「じゃ、お疲れさまっした。」

ずばっと頭を下げて、番は立ち去る。きっと、今日の彼の日記には、ウェイスターへ
の様々な思いが書き綴られることだろう。その証拠に、開放されたとたん、彼の口元
は緩んでいた。

悪趣味なドアを前にウェイスターは深呼吸をひとつ。
そして、ドアを勢い良く押し開ける。
ばん

「カミカゼ機動隊だ。神妙に縄につけぃ!」

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2007/02/12 17:18 | Comments(0) | TrackBack() | ▲光と影

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