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2024/05/17 03:14 |
11.リングの弱点其の一/リング(果南)
◆――――――――――――――――――――――――――――
メンバー リング ギゼー ジュヴィア
場所 <消えゆく灯火>亭
NPC オ・セルヴォール=ヴィレイ
◆――――――――――――――――――――――――――――

 カチッ
 
 それはリングがドアを開いた音ではなく、一度回したドアノブをリングが再び元に戻した音だった。
「おい、今、ドアが開きそうじゃなかったか?」
「さあな、案外さっきのお譲ちゃんたちが戻ってきてたりしてなぁ」
「はははっ、そりゃないだろ」
ドアの向こうではギゼーとセルがこんな会話を交わしている。
「どうしたのですか?」
 不振そうな表情でジュヴィアが聞く。
「早く、ドアを開けて、彼らに話をして下さい」
「でっ・・・、できませんよっ・・・」
リングは手をわたわたさせながら必死に説明した。
「あのっ、だってこれはその・・・、彼らを脅すということになるではありませんかっ!私・・・、そういうの得意じゃありませんし・・、それに、彼らも特に悪い人というわけじゃ・・・」
「・・・じゃあ、私を野宿させてもいいんですね」
挙動不振なリングを冷静に観察しつつも、リングの瞳をひたと見つめてジュヴィアは言う。
「私を、この宿に泊めてくれるというのは嘘だったのですか。この宿に私が泊まれない以上、貴方だけが頼りだというのに。・・・貴方は、私を見捨てるんですね」
そんな風に言われ、その紫色の瞳で見つめられると明らかに自分より年下の少女に、リングはたじろいてしまう。なにより、その紫の瞳は見かけの年齢より大人びていて、なにか、逆らえなくさせるような力を持っているのだ。まるで、魔力でも含んでいるかのような。
「う・・・っ」
「さあ、早く話をして下さい」
しかし、いくら言われても人を脅すなんてことがリングにできるはずがない。・・・敵を倒すときでさえ、ためらってしまうリングが。
 そのとき、
「おおいっ、ネーチャン、なんだなんだぁ、オドオドしちまって、ウサギか?てめぇはよぉ!」
 この宿に泊まっている客の一人だった。しかも、この客、かなり出来上がってしまっている。この客はリングの肩をパンパンっとたたくと、いきなりリングの方に手をまわしてきた。
「なっ・・・、ちょっと・・!」
「ネーチャン、そういう時はよぉ、酒でも飲め飲め、そうすりゃ度胸がつくぜぇ」
そう言って男は手に持っているブランデーのビンを、リングの目の前にぶらぶらさせた。ブランデーの中身はまだ半分ぐらい残っている。
「ほら、今日は景気がいいから特別に分けてやるよぉ!さあ、ぐいっといけい!ぐいっと!」
 リングは困って、ジュヴィアのほうにオドオドとした目を走らせた。しかし、ジュヴィアのほうは何の助け舟を出すでもなく、ただ黙ってリングを見つめている。
(うう・・・、ジュヴィアさん・・・)
 本当は今すぐにでもリングはジュヴィアに助けを求めたかった。しかし自分より年下の人間に助けを求めるというのはさすがにためらいがあった。それに、ジュヴィアは少女だ。変にこの客に話しかけて一緒に絡まれてしまっては大変だ。
(仕方ありません・・・)
 リングは覚悟を決めるといった。
「わかりました、飲みましょう!・・・ええ、飲んで見せますとも!」
半ばやけになってリングは叫んだ。
(ジュヴィアさんを巻き込まないためです!仕方ありません!)
 言うなりリングはブランデーのビンをひったくり、一気にがぶがぶっと飲み込んだ。
「おお、いい飲みっぷりじゃねえか・・・」
 酔った客が半ば放心状態で感心している。客の隣では、ジュヴィアが不思議な生物でも見るような目でリングを見つめている。ブランデーなんて、普通ビンごと一気飲みするものではないのだ。しかし、そんな無茶をしてしまったのも、地上文化を知らないが故である。・・・海底には、酒など存在しないのだから。
「・・・ヒック」
 見る間にリングの顔が赤くなり。目がうつろになる。さすがに、これにはジュヴィアも心配になった。
「あの・・・、大丈夫ですか・・・?」

「どうしたどうした?」
 一通り話も済み、下の酒場に戻ってきたギゼーとセルは、酒場が異様に騒然としているのに気がつき、その場にいた客の一人を呼び止めた。
「それがその・・・」
 その客が困ったように目を伏せた。
「女の子が一人・・・、悪酔いしてるんですよ・・・」
「ほぉう、女の子がねぇ」
 セルの目が好奇で輝いた。
「その子、どんな子なんだい?」
「黒い髪で・・、眼鏡をかけていて・・・、一見知的っぽい・・・」
 ギゼーの目が点になった。
「まさか・・・、ねぇ・・・」
目線で隣にいるセルに相槌を求める。
「あのリングって子・・・、じゃ・・、ねぇよなぁ?」
「あ、あなたは先ほどのっ!」
 突然、カウンターのほうから大声が聞こえた。いやな予感を感じながら、ギゼーがカウンターを見ると、そこにいるのは紛れもなくリングだった。しかも、顔が赤い。そしてその隣には怪訝そうな表情のジュヴィアが。
「あの子だよ・・・」
 ギゼーは先ほどのリングの知的なイメージがガラガラと崩れていくのを感じながら、ため息をついた。そして、即座に決意した。
「セル・・・、逃げよう。やっかいごとは御免だ」
 そうして、くるりときびすを返し逃げようとしたそのとき、
 ひゅるり、と何かが腕に巻きついてきた。それを払おうとしたギゼーは唖然とした。
「な・・・っ、酒っ!」
 腕に巻きついてきたのは明らかに、酒、だった。液体のみの。その酒はギゼーをぐいぐいとリングのほうに引き寄せていく。
「どこいくんですかぁ?逃がしませんよぉ!」
 液体の酒はリングの手のひらにつながっていて、それを操る主がリングだということを明白にしていた。唖然としているギゼーの耳に、かすかに、先ほどの客がセルに話している声が聞こえる。
「・・・ああやって、次から次へと客を引き寄せては自分の愚痴を語るんです。一度つかまったらしばらくは放してもらえませんよ・・・」
「なっ・・・、じょうだんじゃねぇっ!」
 それを聞いたギゼーはあわてて酒から腕を振り解こうとした。が、時すでに遅し、ギゼーの抵抗もむなしく、ギゼーはリングたちのいるテーブルにみごと引き寄せられてしまった。
「・・・こんにちは、6人目の犠牲者さん」
 ジュヴィアが冷めた目でギゼーに言う。
「けれど、私よりはましですよ。私なんて、ずっとここにつかまりっぱなしです」
「・・・それはまた大変だな」
 もはや、ギゼーはジュヴィアに作り笑いを浮かべることしかできなかった。
「ギゼーさんっ!」
 突然、リングがギゼーのほうを向き、がばっと立ち上がった。
「おっ・・・、おう、何だ・・?」
「私とジュヴィアさんに部屋を提供してください!」
 いきなりの申し出にギゼーはたじろいた。しかし、この危険なヨッパライ相手に何も言い返せない。続けてリングは熱く語る。
「あのですね、ジュヴィアさんの話によりますと、何でも、あなたがジュヴィアさんを見る目つきが少女愛好者、・・・つまり、地上でロリコンと呼ばれているものですね。それに似ていたそうです。ですから、もし私たちの頼みをきいてくれない場合、当局に訴えるそうです。ですから、部屋を共同でもかまいませんので一緒に使わせてください!」
「はぁ・・・」
 ギゼーは不審な目をジュヴィアに向けた。ジュヴィアは憤然として、自分はグレープジュースを飲んでいる。心の中はさぞかしリングへの不満でいっぱいだろうとギゼーは推測した。
「あのっ、ですからっ!」
「ああ、分かった分かった!」
 思わず、ギゼーは両手をぶんぶんと目の前で振り、こう答えてしまった。
「訴えられたら大変だからなっ、分かった、一緒に使おうじゃねぇか。な、セルも、それでいいだろ?」
 セルは向こう側で肩をすくめている。それはOKの証でもあった。
「ほら、OKだってよ」
「あ、有難う御座いますぅーーーー」
 突然、リングの目から涙が溢れ出した。リングはギゼーの手をぎゅうっと握り締めると何度もお礼を言う。
「有難う御座います、有難う御座いますっ!やはり、人間は優しい方が多いですねっ!有難う御座いますぅーーーーー!!!」
 ぽかんとしているギゼーにジュヴィアが言った。
「・・・この人、泣き上戸みたいなんです。何でも泣き出す理由になるらしいですよ」
「はあ・・・」
 ギゼーは唖然としてリングを見つめた。この先、この人物がトラブルメーカーになりそうな予感がしてならなかった。そして、自分がその波にのまれる予感も。

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2007/02/14 22:41 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング
12.『無理矢理パーティー結成!』/ギゼー(葉月瞬)
◆――――――――――――――――――――――――――――
PC:ギゼー、リング、ジュヴィア
NPC:情報屋セル
場所:ソフィニア“消えゆく灯火”亭2階
◆――――――――――――――――――――――――――――

 人は誰でも、他人に寄り掛かって生きていくもの。それが、社会を形成していく。
 そして人一人は、その大きな流れの中の極一部でしかない。
 それは、人ならざる者達も同じである―。


「はふぅ~」
 此処は宿屋の一室、ギゼーの取った部屋である。
 部屋に一つしかないベッドには、先程リング=オーシャンと名乗った知的美人が横臥していた。額に水で濡
らした布を乗せて。
 飲酒が過ぎて倒れてしまった彼女は今、世話好きのギゼーにより看病を施されていた。
 当然、成り行き上、ジュヴィアとセルも共に部屋に詰めている。
 ――あの後、ギゼーから同室の許可を取ったリングは安堵の為か、はたまた飲み過ぎの為か、その場にくず
折れてしまったのだった。彼女にどやし付けられていたギゼーの耳に聞こえて来たのは、彼女の小さな寝息
だった。
 溜息を吐き、他に同室する者達の顔を交互に見やるギゼーに答えるかのごとく、セルもジュヴィアもそれぞ
れ肩を竦ませる。
 協議の結果、酔い潰れたリングをギゼーの部屋に運び込む事にしたのだった。
「ううっ(泣)。な~んで、俺がこんな目に…」
 水分が蒸発して乾き切った布に再び水分を含ませ、額に置く。その動作をしつつもギゼーが泣き言を言っ
た。
 そのギゼーを諭すように、口を開くセル。
「お前ね…、ぼやかないの。自分で蒔いた種でしょうが…。……ったく、何でもかんでも誰でも彼でも、美女
と見るや手ェ出しやがって…。だいたい、メディーナちゃんの時だって……」
「あのなぁ、セル。人聞きの悪い事言わないでくれる?後にも先にも女に手ェ出したのは、メディーナちゃん
唯一人なんだからさ」
 セルの、事情を知っているだけに尤もな言を遮り、ギゼーが自身の弁護をする。
――メディーナちゃん?
 誰もが抱くであろう疑問を、ジュヴィアは思った。だが、思っただけで口には出さなかった。
「……う~ん?」
 不意にあがった呻き声に、よもやリングの意識が回復したか、と皆一様にそちらを見遣る。
 その三つの視線の先には、とぼけた顔したリングの姿があった。
「………はいっ?」
「さてっと。それじゃ、大所帯になったところで、改めて自己紹介といきますか。…さっきのは、簡潔すぎた
からなっ。俺はセル。今はチンケな情報屋をやっている。昔はそうじゃなかったんだが…、ま、色々と事情が
あってな、話すと長くなるんでそこんとこはなるべく話したくはない。で、こいつが…」
 と言って、相棒であるギゼーの首の後ろに腕を回し、引き寄せると勝手に他己紹介などを始めてしまうセ
ル。
「先程無理矢理あんた等を部屋に連れ込んだ挙句に、あんた等に熱っぽい視線を送っていたこいつが、俺の相
棒でトレジャーハンターの、ギゼーだ」
 首の後ろに回された腕を取り払おうと、何度ももがいた結果拳の一撃で何とか脱出したギゼーが不満気に後
を継ぐ。
「……だぁらっ!そういう誤解を招くような事を言うなよなっっ!セルっ!……ったく!人を何だと思ってん
だ……」
 そう言って、暫くぼやいた後に気を取り直したのか、一つ咳払いをすると自分に向けられた誤解を極力解こ
うと、言葉を選びつつも口を開くギゼー。
 何としても、不名誉な噂話だけは広められない様にしなければ。…もう遅いかもしれないが。
「あー、俺の名前は、ギゼー。さっき、セルの奴が言ったとおり、しがないトレジャーハンターなんぞをして
いる。(なんか、偉そうだな)で、さっきジュヴィアちゃんだっけ?…を見ていたのは、君が俺の知り合いの
女の子に似ていたからなんだ。クロースって言う……。まっ、娘みたいなもんだな。あんまりにも似過ぎてい
たんで、ちょっと驚いちゃったんだな。……だから、ぜんぜん疚しい事なんてない」
 ギゼーが言い終わると同時に、周囲には「そう言うこと自体、疚しい事なんじゃないかな」と言う意味合い
の溜息と、殆ど驚きにも似た溜息とが流れた。
 驚いていたのは、ジュヴィア本人だった。
 
――やはり、自分と同じような境遇の子が他にもいるのだろうか?自分と同じ血脈同族の…。いや、それはと
もかく、問題なのは………。
「……………矢張り貴方は、幼女嗜好者だったのですね?」
 数秒の後、ジュヴィアの驚きが解かれたころ、彼女の口から出て来たのは意見としては尤もな言葉だった。
「だあぁぁらっ!なんでそーなる!!」
「だって、幼女を誘拐して自分の娘にするなんて、幼女嗜好者以外の何者でもありませんよ」
 ジュヴィアはギゼーの予想通りの反応を見て、不敵に笑いながらそう言った。
「だから、誘拐したわけじゃないって!遺跡で見つけたんだよっ!い・せ・き・でっっ!」
 不意にジュヴィアの顔が曇る。「いせき」の三文字に敏感に反応したのだ。
――……!?遺跡で?じゃあ、自分とは違うんだ。
 自分は、母親と淫魔の間で交わした契りで生まれたもの。遺跡で発見された者ならば、己とは違うだろう
と、ジュヴィアは賢しく勘繰り気落ちしたのだった。
 暗くなってしまった場を持ち直そうと、リングが出来る限り明るい声で後を続ける。
「あっあのぉ~、確か、自己紹介でしたよね?私は、リング=オーシャンと言います。海竜族で、海の中から
来ました。えっと、ソフィニアに来たのは、実はこの“聖書”の出典を調べに来たのですぅ」
 そう言って、リングは自分の攻撃手段である、“聖書”を皆に見せた。
 その神々しいまでに光り輝く書物を見た途端に、ギゼーの顔色が変わった。
 その取り出し方に驚いたのではない。少なくともギゼーはそのようは不思議は、見慣れている筈だ。では、
何に対して驚きを露わにしたのか。その、神々しいまでに光り輝く美しい様に?否。彼は、その書物その物に
目を見張っていた。
 ギゼーのそんな様子に、気が付かない振りをしてセルがリングに訊ねる。
「ふぅん。するってぇと、リングちゃんはその、“聖書”とやらの出典を調べるためにわざわざ地上のソフィ
ニアまで足を運んだ…と?」
「えっ!?ええ、まあ、そんなもんです」
 何かを誤魔化すかのような笑顔で答えるリング。本当の理由は別な所にあるようだ。
「ソフィニアに来れば、何か手掛かりが有る、と聞いたものですから……」
 そして、言葉が足りなかった事に気付いて、慌てて後から付け足す。事実は事実だが、単なる物見遊山で地
上に出て来たことを包み隠すかのような理由の様だ。
 一方、何も解っていないセルは心配がちにだが、やや社交辞令っぽく尋ねる。
「ふうん。で、何か解ったのか?」
「いいえ。今日辿り着いたばかりですから」
 リングの即答ぶりに、何か思うところがあるらしく長考の姿勢に入るセルであった。何か、手助けでもして
やろうと言う気が何処かから湧いて来たようだ。
「俺、知ってる」
 不意に、ギゼーが真面目腐った顔で妙なことを口走る。眼差しは、“聖書”の表紙のある一点―紋章らしき
物があしらわれている部分に向けられている。
「俺、知ってるよ。その“聖典”。それは、写しだ。原本じゃない。……原本はもっとでかいからな
…………」
 最後の呟きは、殆ど独り言に近く、普通に聞いていたら聞き流してしまうものだった。
 その場を沈黙が支配した。

2007/02/14 22:45 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング
13.UNSTABLE FOUNDATIONS/ジュヴィア(微分)
◆――――――――――――――――――――――――――――
PC:ジュヴィア、リング、ギゼー
NPC:情報屋セル
場所:ソフィニア“消え行く灯火”亭
◆――――――――――――――――――――――――――――

 何によって構成されているかはそんなに重要なことなのだろうか?


 黙りこくってしまった一同の中で、真っ先に口を開いたのは矢張りと言うべきか
セルという男だった。軽くギゼーの背中をポンポン叩くと、笑い飛ばすように言う。
「な~にをそんな勿体つけた事ばっか言ってるんだよ?ほらあんた等もそんな黙っ
 てないで。次行くぞ次!」
 何の次だ、とリング以外は思ったに違いないが、そんな事にはお構いなしにセル
はその金色の瞳をジュヴィアの方に向けた。咄嗟に思わず身を強張らせたジュヴィ
アを見て、ギゼーが言う。
「何だよセル…人にあんな事言っておいて、お前だって変な目で見たんじゃないの
 か?ジュヴィアちゃん今尋常じゃなく驚いたぜ」
――違う、悪いのは私…
 声には出せないまま、ジュヴィアは目をぎゅっとつぶった。
「何を言うかコイツ。お前と一緒にするんじゃない…ったく」
 セルはギゼーにそんな答えを返して、首を左右に倒しぼきぼきと音を立てた。
さて…と小声でつぶやいたのが聞こえる。さて…何だろう。
「リングちゃんが何で旅してるのか、ってことは解ったが…お嬢ちゃん、あんたが
 何故旅をしているのかはまだ聞いてなかったな?」
 …余り聞かれたくないことである。ジュヴィアは沈黙を守った。
「おいおい、黙ってちゃ解らんぞ。別に取って食おうって訳じゃない。あんたみた
 いなチビ助が旅に出るってんだ。そりゃのっぴきならない事情があるんだろ?」
セルがジュヴィアの肩に手を置いた、刹那。

「――嫌ッ!」

弾かれるようにしてジュヴィアは後ずさった。同時に全員の表情が強張る。
「……どうしました~?」
 リングが覗き込むようにしてジュヴィアを伺う。だが、すぐにジュヴィアはいつ
もの表情に戻った。否――戻したようだった。
「何でもありません…ごめんなさい。私のことは…訊かないで頂けますか…」
 疑問形である。だが、こう言われて食い下がる者も居ないので、命令形でもある
と言えた。ギゼーもセルも何かを感じ取ったらしく、口をつぐんだ。場に再び重い
空気が淀む。リングは半ば慌てながらギゼーに話を振った。
「そうです、さっきは何をあんなに驚かれていたんです?」
「んん?あ、ああ…」
 ギゼーの脳裏に再びあの声が蘇る。

――ガロウズ村の連中が、全滅…

 その事を話すと、皆少なからず驚いた。無理もない。村が一晩で…滅びたのだ。
三度場は重苦しい雰囲気に包まれた。どよ~ん、と音がしそうな勢いである。
「もう…寝ようか。あとは明日…」
「そうだな…」
 言い出したギゼーに、まだ跳ね除けられたショックが若干残っているらしいセル
が続いた。心中複雑なまま口々にそうだ、もう寝よう、と言いながら、一同は寝支
度を整えようとした。そしてはたと気づいた。

「ベッドが…2つ」

 そう、それは極めて重要な問題であった。

2007/02/14 22:45 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング
14.真夜中は純潔/リング(果南)
◆――――――――――――――――――――――――――――
メンバー ギゼー・ジュヴィア・リング(五十音順)
場所 <消えゆく灯火>亭二階
NPC セル
◆――――――――――――――――――――――――――――

「これでよかったんでしょうか・・・」
 チラッと床を見てリングが言う。そのリングにジュヴィアはきっぱりと言い
切った。
「いいんですよ。・・・女を床で寝かせるほうがどうかしています。地上では
ね」
 そういうものなのでしょうか・・・。口の中でつぶやいてリングは再びチラ
ッと床を見た。通常二人で使うはずの小さい部屋。その部屋のベッドは、半ば
強引に仲間入りしてきた二人の女性に占領されていた。常識しらずのムスメ、
リングと、謎の銀髪美少女、ジュヴィアに、である。したがって、この部屋を
本来、正当に使うことができる二人、ギゼーとセルは床に寝袋をしいて寝ると
いうハメとなってしまった。しかし、
「うーん・・・、クロー・・ス・・・」
「さすが旅慣れていらっしゃいますね」
 リングが苦笑のような、微笑ましいといったような表情を浮かべた。
「お二人とも、固い床の上だというのに、すぐに寝入ってしまわれました」
「そうですね、五分もかかりませんでしたね」
 二人の半ば冷たい視線をよそに、二人は床の上ですっかり寝入ってしまって
いる。ギゼーに至っては寝言まで言う始末だ。
「クロース・・・、ですか」
「全く、ここまでくるとこの少女愛好趣味もたいしたものですね」
 ジュヴィアが冷めた瞳で言い放つ。それに、リングが乾いた笑いを返した。
彼女も、未だギゼーの少女愛好趣味の線を信じている。

 コチ コチ コチ
 
 部屋にある時計の秒針が時を刻む音が、静かな部屋に響く。
 月光が、部屋の小さな窓から斜めに差し込む。
 時は真夜中、この宿にとまる人間がすっかり寝入ってしまったであろう時刻
だ。

「・・・どうしてお休みになられないんですか?」
 その言葉に、ジュヴィアがベッドに横たわった状態でリングのほうに顔を傾
けた。
「・・・あなたこそ」
「あはは・・・、お互い様ですね」
 悪意のない素直な笑みを向けて、リングは笑った。そしてそのまま、視線を
中空に走らせる。
「・・・私、眠れないんです。今日はいろいろなことが起こりすぎて。興奮し
てしまっているのかもしれませんね。貴方もですか。ジュヴィアさん?」
「・・・ええ、まあ、そんなところです」
 ジュヴィアは口では戸惑いがちにそう言ったが、本当は、違う。本当は、今
日、セルとギゼーに自分の正体を見透かされそうになったことが心に引っかか
って眠れなかったのだ。しかし、そんなことを彼女に言って何になろ
う。・・・自分の苦しみを分かち合えるのは、所詮、自分一人なのだ。だか
ら、私は誰も信じたりしない、誰も・・・。
 そんなジュヴィアの心の葛藤を知ってか知らないでか、リングはくすっと笑
った。そして、ふと今日の話を思い出し。天井を見上げて、不意に表情を硬く
させた。
「ガロウズ村・・・、ですか。私はまだ行った事がありませんが・・・。なん
と言えば良いのでしょう・・・。可哀想・・・、ですよね」
「まぁ・・・」
 口ではあいまいな返事をしたが、内心、ジュヴィアの心の中はリングへの不
信の念が募っていた。
 「可哀想」と簡単に言えてしまう彼女は明らかに「偽善者」だ。
 ジュヴィアは偽善者が大嫌いだった。たまに本気で殺してしまいたくなるほ
どに。
 しかし、少し思い直した。彼女が、とても世間知らずで、天然と思われるほ
どに素直なことを思い出したからである。たぶん、言ってる本人に悪意はない
だろう。言い方が癇に障ったとはいえ、悪意も悪気もないので、ここは少し多
めに見てやろうと、ジュヴィアは思い直した。
 そんなジュヴィアの思いにも気づかず、リングは極めて悲しそうな表情で話
し続ける。
「何故、罪もない人間が殺されなければならないのでしょうか・・・。悲しい
ことです。何故、人間はもっと平和に暮らせないのでしょう・・・」
「平和に?」
 その言葉にジュヴィアが反応した。
「では聞きますが、あなたが前にいた世界、・・・海の中、ですか。そこは、
<平和>だったのですか?海の中に<争い>は存在しなかったのですか?」
「地上よりは存在しません・・・。間違ったやり方だと、思いますが・・・」
 リングの顔がそう言って、悲しげに歪んだ。
「どういうことですか・・・?」
 ジュヴィアが聞くと、リングは悲しげに言った。
「海の中は知能の高い生物が地上の数倍、いえ、数万倍少ないのです。その中
でも、魔力を持つものはごく稀で、現在は私を含めて10名ほどしか存在しま
せん。そんな者たちが、魔力と知恵を使って頭の弱い生物を思うがままに仕切
っているので、海の中はたいした争いが起こらないのです。つまり、乱暴な言
い方をしますと、その民のほとんどが、馬鹿で、操りやすいというわけです
ね。しかも、魔力を持っている者のほとんどが私の一族なので、<争い>とい
えばせいぜい身内同士の玉座争いぐらいのものです。まあ、それもけっこう派
手なものではあるんですけどね。しかし、そんな戦いも、私の父が<聖本シリ
ーズ>を手に入れてからはなくなりました」
「<聖本シリーズ>・・・。それは・・・」
 ジュヴィアの視線はリングの腹にいった。その視線を見届けて、リングが言
った。
「そうです。私が今もっている本と同じ力を持つ本のシリーズです。その本の
魔力を借りて、父は一族の威圧に成功しました。でも、その本が原書でないこ
とは今日初めて知りましたが・・・」
 リングの表情に一瞬影がさしたが、すぐに、何かを決意した表情になった。
「ですから、私が本のことを調べる理由は、父にぼろを出させないためです。
父は、本を購入した際、何の説明も、情報ももらえなかったといいます。今
や、「聖本」は私たちの一族と海の平和を守る要です。その要の品にもしもの
ことがあったら大変なのです。もし万が一そんなことがおこれば、一族は謀反
を起こし、海は荒れるでしょう」
「・・・」
 一見能天気そうに見える彼女だが、案外大変なんだな・・・、とジュヴィア
は思った。
(でも、海の中って全然平和じゃない・・・)
 心の中でツッコミを入れるジュヴィアだった。
「ですから、次の長になる私には、本のことを詳しく調べる義務があります。
お父様と、海の平和のために。・・・しかし、やはり力で力を押さえつけると
いうお父様のやり方は、間違っているとは思いますが。しかし、たかだが17
歳の私など、海を動かすことができません。だから、今は、少しでも皆が平和
に暮らせるように頑張るしかないんです」
 そう言うリングの真剣な様子に、少し、ジュヴィアはリングのことを見直し
たようだった。-そしてタヌキ寝入りをしながら二人の会話を盗み聞きしてい
たギゼーも。
(へえ・・・、ああ見えて彼女、大変なんだな・・・)
 17にして、彼女は「海の平和」という大きな課題を背負っているのだ。彼
女はどうやらただの世間知らずな能天気、ではなかったといえる。
「本当はジュヴィアさんのことももっとお聞きしたいのですが、何か話したく
ないような素振りをしていらしたようなので、特にお聞きしません。さて、も
う寝ましょうね。おやすみなさい。ジュヴィアさん」
 言うと、ことりとリングは寝入ってしまった。その寝顔をジュヴィアはじっ
と見つめた。リングの寝顔はとても安らかで、気持ち良さそうだった。

2007/02/14 22:46 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング
15.『朝焼けの中、あいつの追撃は止まった』 /ギゼー(葉月瞬)
◆――――――――――――――――――――――――――――
PC:ギゼー、ジュヴィア、リング
NPC:セル
場所:ソフィニア“消えゆく灯火”亭
◆――――――――――――――――――――――――――――

 宝を手に入れてどうするの?
 宝を手に入れて何を願うの?
 宝が、好き?
 そんなに、好き?
 貴方にとって、宝って何?
 宝が貴方に与えるものって………いったい………。


 朝―。
 昨夜の喧々囂々たる有様とは打って変わって、静謐で清々しい朝である。
 小鳥のさえずり、冷気を伴って張り詰めた空気、柔らかく降りそそぐ朝日。何もか
もが、パステルカラーに彩られている。その彩りの中を、誰よりも早く目覚めたギ
ゼーは、未だ夢の虜である同室の三人を起こさない様にゆっくりと、だが確実に旅支
度を整えていく。
(ったく!セルの奴、昨日ドサクサに紛れて俺の部屋で寝泊りしやがって!てめー
は、てめーの宿があんだろって!お陰で床に寝かされちまうしよう。………ま、どの
道、床か)
 そう、心の中で呟きつつもチラリと半眼でジュヴィアとリングの方を見やるギ
ゼー。その面差しは、呆れ果てている風であった。
 昨夜の一件で、ここは俺の部屋だと主張することも出来た。だが、それをやらな
かったのは後ろめたい部分があったのと、何処かに二人の少女を放っておけないとい
う感情が有ったからだ。
(やれやれ。二人の言う、少女嗜好ってのもあながち間違っていないのかもな。だけ
ど、困ってる奴を放って置くのが許せないってのも事実なんだよなぁ。何処かで、プ
ロに徹し切れていないのかもなぁ)
 そんな事を考えながらも、手を休めなかったお陰であらかた旅支度は整った。後
は、宿の清算を済ませるだけだ。
「わりぃな。あんた等の分まで宿代、払っとくからよ。お先に失礼するぜ」
 それ程大きな声を出したつもりは無かった。
 だが、小さく纏めた荷物を背に扉を開けようとしたギゼーを呼び止める声に、一瞬
心臓が止まる感覚を味わう。
 その声の主は、ジュヴィアだった。どうやら彼女は一晩中起きていたらしく、ギ
ゼーの一挙手一動足を窺っていたようだ。不信感を最大にして、その眼差しをギゼー
に向けている。やや、上目遣いで。
            ・・・・・
「何処へ行くつもりです?答えなさい」
 心臓を鷲掴みにされる思いで、咄嗟に振り向く。いや、実際に鷲掴みにされたのか
もしれない。それ程、彼女の“言葉”は強力だった。顔に噴き出した脂汗を床に滴ら
せながら、考える。その間も、視線はジュヴィアから離さない。
(……一体全体、どうなってやがる!?……っく。……これは、……魔法!?…実際
に見たことは無いが……なんだってんだ…いったい…………)
 苦しげに見えるギゼーをほくそえむ様に口の端を歪ませながら、ジュヴィアは再び
口を開く。
「何処へ行くつもりです?」
「いやぁ、ちょっとね。宿を出ようかと思って…」
 脂汗はそのままに、笑顔の形に顔を歪ませながら答えるギゼー。何も、なす術無し
だ。
「そう。じゃあ、私達も一緒、と言うことですね?」
 ジュヴィアにしてみれば、その言葉が口から発したこと自体不思議なことだった。
何故、この人と一緒にいたいのか?何故、何の為に、これ程までに人と関わってし
まったのか?自分は、人をこんなにも恋しがっていたのか?否。自分は、今まで一度
だって人を恋しいと思ったことは無かった。いや、寧ろその逆。人を、避けてすらい
た。それが、何故今頃になって、自ら進んで関わろうとしているのか?
 ギゼーを見、次に未だ夢見心地なリングに視線を移すと、ジュヴィアの顔に笑みが
浮かび答えを導き出す。

―気紛れだ、こんなの。

 自分は、寿命を全うするまで決して死ぬことは無いから。
 唯の気紛れ。
 そう考えると、何故か肩の力が抜けた。
「私達も一緒に、連れて行ってくれますね?」
 不思議とその言葉が、ごく自然にジュヴィアの口をついて出た。
 そのジュヴィアの変化を敏感に感じ取ったギゼーは、二つ返事で応じる。
「あ?ああ、分かった、分かった。連れて行くよ」
 ごく自然な応答。ジュヴィアが肩の力を抜いたお陰で、初めて成立した会話。
 こういうものもまた良いかな、とジュヴィアは思った。それは、初めて抱いた感情
で、だが不思議とごく自然に受け入れてしまった自分に、未だ気付いていないジュ
ヴィアであった。

「で?何処へ行くんです?ギゼーさん」
 目覚めるなり、いきなり引き摺って来られたリングは、その事に不満も漏らさずに
ギゼーに質問する。当然、眼は期待と好奇心で光り輝いている。
 ここは、ソフィニアの目抜き通り。数多の商店が軒を連ね、互いに競い合って商品
を売っている。同じ種類の商店もあれば相反する商店もあり、互いに客を取り合って
いる。
 ギゼーはそんな言葉も聞こえないかのごとく、通りの両端に視線を走らせ、店先を
覗き込んでいく。まるで、何かを探して歩いているようだ。
「もう~、ギゼーさんってばぁ。無視しないでくださいよぅ」
 リングは、そんな些細な事に対してはしっかりと不満を漏らすらしい。
 不満を漏らしているリングの隣では、ジュヴィアが静かに歩いている。しかしその
眼は、ギゼーに対する疑念を隠すことなく彼の背中を凝視している。疑いは未だに晴
れていない様だ。
 そんな視線を背中に感じつつ、それを振り払うように魔法のアイテム屋の店内に
入っていく。
「あっ!ギゼーさんっ!!」
 完全に、置いてかれるかたちになってしまった二人であった。
 
「………あっ!出てきた!」
 ジュヴィアの提案で、店の外で待っていようと言う事になった二人は、ギゼーの姿
を認めると小走りに近づく。
「何を、買ったんです?」
「んっ?ああ、今度の宝探しに必要なものをな、ちょっと……」
 ギゼーはジュヴィアの方をチラリと見遣ると、語尾を濁す。先程宿で起こった出来
事―彼女の魔法(魔力?)―を気にしている風だ。
「へぇ~、魔法の宝石ですか。綺麗ですね」
「だろっ♪とっても高価なんだぜぇ~これ。それぞれ一つ一つに魔法が詰まってい
て、色によって効果が違うんだ。これを投げると、その場に魔法が発生するんだ。何
時もお世話になっているアイテムの一つさ♪」
 まるで、説明を愉しんでいるかのようにスラスラとギゼーの口から言葉が出てく
る。
 リングはいちいちその言葉一つ一つに、相槌を打つ。まるで好奇心を満たしている
かのようだ。
「ふんふん。人間って、大変ですねー。態々[わざわざ]そんな物を使わなきゃ、魔法
が使えないなんて」
 流石に世間知らずの少女だ。どうやら、魔法使いの存在を知らないらしい。ジュ
ヴィアの使う魔法(?)にも気付いていないようだ。
「まだ他にも買わなきゃいけない物があるんだ。付き合ってくれよ?」
 半分強制的なその言葉をギゼーが口走った途端、背後の人込みで女の悲鳴が上がっ
た。それも、飛びっきりの美女の。ギゼーには、なぜかそういうことが判るのだ。
「……!?なんだっ!?」
 思いっきり興味を惹かれたらしい。
 悲鳴の上がった方へ、走っていくギゼー。
 ジュヴィアとリングがその後に続く―。

2007/02/14 22:47 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング

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