◆――――――――――――――――――――――――――――
メンバー リング ギゼー ジュヴィア
場所 <消えゆく灯火>亭
NPC オ・セルヴォール=ヴィレイ
◆――――――――――――――――――――――――――――
カチッ
それはリングがドアを開いた音ではなく、一度回したドアノブをリングが再び元に戻した音だった。
「おい、今、ドアが開きそうじゃなかったか?」
「さあな、案外さっきのお譲ちゃんたちが戻ってきてたりしてなぁ」
「はははっ、そりゃないだろ」
ドアの向こうではギゼーとセルがこんな会話を交わしている。
「どうしたのですか?」
不振そうな表情でジュヴィアが聞く。
「早く、ドアを開けて、彼らに話をして下さい」
「でっ・・・、できませんよっ・・・」
リングは手をわたわたさせながら必死に説明した。
「あのっ、だってこれはその・・・、彼らを脅すということになるではありませんかっ!私・・・、そういうの得意じゃありませんし・・、それに、彼らも特に悪い人というわけじゃ・・・」
「・・・じゃあ、私を野宿させてもいいんですね」
挙動不振なリングを冷静に観察しつつも、リングの瞳をひたと見つめてジュヴィアは言う。
「私を、この宿に泊めてくれるというのは嘘だったのですか。この宿に私が泊まれない以上、貴方だけが頼りだというのに。・・・貴方は、私を見捨てるんですね」
そんな風に言われ、その紫色の瞳で見つめられると明らかに自分より年下の少女に、リングはたじろいてしまう。なにより、その紫の瞳は見かけの年齢より大人びていて、なにか、逆らえなくさせるような力を持っているのだ。まるで、魔力でも含んでいるかのような。
「う・・・っ」
「さあ、早く話をして下さい」
しかし、いくら言われても人を脅すなんてことがリングにできるはずがない。・・・敵を倒すときでさえ、ためらってしまうリングが。
そのとき、
「おおいっ、ネーチャン、なんだなんだぁ、オドオドしちまって、ウサギか?てめぇはよぉ!」
この宿に泊まっている客の一人だった。しかも、この客、かなり出来上がってしまっている。この客はリングの肩をパンパンっとたたくと、いきなりリングの方に手をまわしてきた。
「なっ・・・、ちょっと・・!」
「ネーチャン、そういう時はよぉ、酒でも飲め飲め、そうすりゃ度胸がつくぜぇ」
そう言って男は手に持っているブランデーのビンを、リングの目の前にぶらぶらさせた。ブランデーの中身はまだ半分ぐらい残っている。
「ほら、今日は景気がいいから特別に分けてやるよぉ!さあ、ぐいっといけい!ぐいっと!」
リングは困って、ジュヴィアのほうにオドオドとした目を走らせた。しかし、ジュヴィアのほうは何の助け舟を出すでもなく、ただ黙ってリングを見つめている。
(うう・・・、ジュヴィアさん・・・)
本当は今すぐにでもリングはジュヴィアに助けを求めたかった。しかし自分より年下の人間に助けを求めるというのはさすがにためらいがあった。それに、ジュヴィアは少女だ。変にこの客に話しかけて一緒に絡まれてしまっては大変だ。
(仕方ありません・・・)
リングは覚悟を決めるといった。
「わかりました、飲みましょう!・・・ええ、飲んで見せますとも!」
半ばやけになってリングは叫んだ。
(ジュヴィアさんを巻き込まないためです!仕方ありません!)
言うなりリングはブランデーのビンをひったくり、一気にがぶがぶっと飲み込んだ。
「おお、いい飲みっぷりじゃねえか・・・」
酔った客が半ば放心状態で感心している。客の隣では、ジュヴィアが不思議な生物でも見るような目でリングを見つめている。ブランデーなんて、普通ビンごと一気飲みするものではないのだ。しかし、そんな無茶をしてしまったのも、地上文化を知らないが故である。・・・海底には、酒など存在しないのだから。
「・・・ヒック」
見る間にリングの顔が赤くなり。目がうつろになる。さすがに、これにはジュヴィアも心配になった。
「あの・・・、大丈夫ですか・・・?」
「どうしたどうした?」
一通り話も済み、下の酒場に戻ってきたギゼーとセルは、酒場が異様に騒然としているのに気がつき、その場にいた客の一人を呼び止めた。
「それがその・・・」
その客が困ったように目を伏せた。
「女の子が一人・・・、悪酔いしてるんですよ・・・」
「ほぉう、女の子がねぇ」
セルの目が好奇で輝いた。
「その子、どんな子なんだい?」
「黒い髪で・・、眼鏡をかけていて・・・、一見知的っぽい・・・」
ギゼーの目が点になった。
「まさか・・・、ねぇ・・・」
目線で隣にいるセルに相槌を求める。
「あのリングって子・・・、じゃ・・、ねぇよなぁ?」
「あ、あなたは先ほどのっ!」
突然、カウンターのほうから大声が聞こえた。いやな予感を感じながら、ギゼーがカウンターを見ると、そこにいるのは紛れもなくリングだった。しかも、顔が赤い。そしてその隣には怪訝そうな表情のジュヴィアが。
「あの子だよ・・・」
ギゼーは先ほどのリングの知的なイメージがガラガラと崩れていくのを感じながら、ため息をついた。そして、即座に決意した。
「セル・・・、逃げよう。やっかいごとは御免だ」
そうして、くるりときびすを返し逃げようとしたそのとき、
ひゅるり、と何かが腕に巻きついてきた。それを払おうとしたギゼーは唖然とした。
「な・・・っ、酒っ!」
腕に巻きついてきたのは明らかに、酒、だった。液体のみの。その酒はギゼーをぐいぐいとリングのほうに引き寄せていく。
「どこいくんですかぁ?逃がしませんよぉ!」
液体の酒はリングの手のひらにつながっていて、それを操る主がリングだということを明白にしていた。唖然としているギゼーの耳に、かすかに、先ほどの客がセルに話している声が聞こえる。
「・・・ああやって、次から次へと客を引き寄せては自分の愚痴を語るんです。一度つかまったらしばらくは放してもらえませんよ・・・」
「なっ・・・、じょうだんじゃねぇっ!」
それを聞いたギゼーはあわてて酒から腕を振り解こうとした。が、時すでに遅し、ギゼーの抵抗もむなしく、ギゼーはリングたちのいるテーブルにみごと引き寄せられてしまった。
「・・・こんにちは、6人目の犠牲者さん」
ジュヴィアが冷めた目でギゼーに言う。
「けれど、私よりはましですよ。私なんて、ずっとここにつかまりっぱなしです」
「・・・それはまた大変だな」
もはや、ギゼーはジュヴィアに作り笑いを浮かべることしかできなかった。
「ギゼーさんっ!」
突然、リングがギゼーのほうを向き、がばっと立ち上がった。
「おっ・・・、おう、何だ・・?」
「私とジュヴィアさんに部屋を提供してください!」
いきなりの申し出にギゼーはたじろいた。しかし、この危険なヨッパライ相手に何も言い返せない。続けてリングは熱く語る。
「あのですね、ジュヴィアさんの話によりますと、何でも、あなたがジュヴィアさんを見る目つきが少女愛好者、・・・つまり、地上でロリコンと呼ばれているものですね。それに似ていたそうです。ですから、もし私たちの頼みをきいてくれない場合、当局に訴えるそうです。ですから、部屋を共同でもかまいませんので一緒に使わせてください!」
「はぁ・・・」
ギゼーは不審な目をジュヴィアに向けた。ジュヴィアは憤然として、自分はグレープジュースを飲んでいる。心の中はさぞかしリングへの不満でいっぱいだろうとギゼーは推測した。
「あのっ、ですからっ!」
「ああ、分かった分かった!」
思わず、ギゼーは両手をぶんぶんと目の前で振り、こう答えてしまった。
「訴えられたら大変だからなっ、分かった、一緒に使おうじゃねぇか。な、セルも、それでいいだろ?」
セルは向こう側で肩をすくめている。それはOKの証でもあった。
「ほら、OKだってよ」
「あ、有難う御座いますぅーーーー」
突然、リングの目から涙が溢れ出した。リングはギゼーの手をぎゅうっと握り締めると何度もお礼を言う。
「有難う御座います、有難う御座いますっ!やはり、人間は優しい方が多いですねっ!有難う御座いますぅーーーーー!!!」
ぽかんとしているギゼーにジュヴィアが言った。
「・・・この人、泣き上戸みたいなんです。何でも泣き出す理由になるらしいですよ」
「はあ・・・」
ギゼーは唖然としてリングを見つめた。この先、この人物がトラブルメーカーになりそうな予感がしてならなかった。そして、自分がその波にのまれる予感も。
メンバー リング ギゼー ジュヴィア
場所 <消えゆく灯火>亭
NPC オ・セルヴォール=ヴィレイ
◆――――――――――――――――――――――――――――
カチッ
それはリングがドアを開いた音ではなく、一度回したドアノブをリングが再び元に戻した音だった。
「おい、今、ドアが開きそうじゃなかったか?」
「さあな、案外さっきのお譲ちゃんたちが戻ってきてたりしてなぁ」
「はははっ、そりゃないだろ」
ドアの向こうではギゼーとセルがこんな会話を交わしている。
「どうしたのですか?」
不振そうな表情でジュヴィアが聞く。
「早く、ドアを開けて、彼らに話をして下さい」
「でっ・・・、できませんよっ・・・」
リングは手をわたわたさせながら必死に説明した。
「あのっ、だってこれはその・・・、彼らを脅すということになるではありませんかっ!私・・・、そういうの得意じゃありませんし・・、それに、彼らも特に悪い人というわけじゃ・・・」
「・・・じゃあ、私を野宿させてもいいんですね」
挙動不振なリングを冷静に観察しつつも、リングの瞳をひたと見つめてジュヴィアは言う。
「私を、この宿に泊めてくれるというのは嘘だったのですか。この宿に私が泊まれない以上、貴方だけが頼りだというのに。・・・貴方は、私を見捨てるんですね」
そんな風に言われ、その紫色の瞳で見つめられると明らかに自分より年下の少女に、リングはたじろいてしまう。なにより、その紫の瞳は見かけの年齢より大人びていて、なにか、逆らえなくさせるような力を持っているのだ。まるで、魔力でも含んでいるかのような。
「う・・・っ」
「さあ、早く話をして下さい」
しかし、いくら言われても人を脅すなんてことがリングにできるはずがない。・・・敵を倒すときでさえ、ためらってしまうリングが。
そのとき、
「おおいっ、ネーチャン、なんだなんだぁ、オドオドしちまって、ウサギか?てめぇはよぉ!」
この宿に泊まっている客の一人だった。しかも、この客、かなり出来上がってしまっている。この客はリングの肩をパンパンっとたたくと、いきなりリングの方に手をまわしてきた。
「なっ・・・、ちょっと・・!」
「ネーチャン、そういう時はよぉ、酒でも飲め飲め、そうすりゃ度胸がつくぜぇ」
そう言って男は手に持っているブランデーのビンを、リングの目の前にぶらぶらさせた。ブランデーの中身はまだ半分ぐらい残っている。
「ほら、今日は景気がいいから特別に分けてやるよぉ!さあ、ぐいっといけい!ぐいっと!」
リングは困って、ジュヴィアのほうにオドオドとした目を走らせた。しかし、ジュヴィアのほうは何の助け舟を出すでもなく、ただ黙ってリングを見つめている。
(うう・・・、ジュヴィアさん・・・)
本当は今すぐにでもリングはジュヴィアに助けを求めたかった。しかし自分より年下の人間に助けを求めるというのはさすがにためらいがあった。それに、ジュヴィアは少女だ。変にこの客に話しかけて一緒に絡まれてしまっては大変だ。
(仕方ありません・・・)
リングは覚悟を決めるといった。
「わかりました、飲みましょう!・・・ええ、飲んで見せますとも!」
半ばやけになってリングは叫んだ。
(ジュヴィアさんを巻き込まないためです!仕方ありません!)
言うなりリングはブランデーのビンをひったくり、一気にがぶがぶっと飲み込んだ。
「おお、いい飲みっぷりじゃねえか・・・」
酔った客が半ば放心状態で感心している。客の隣では、ジュヴィアが不思議な生物でも見るような目でリングを見つめている。ブランデーなんて、普通ビンごと一気飲みするものではないのだ。しかし、そんな無茶をしてしまったのも、地上文化を知らないが故である。・・・海底には、酒など存在しないのだから。
「・・・ヒック」
見る間にリングの顔が赤くなり。目がうつろになる。さすがに、これにはジュヴィアも心配になった。
「あの・・・、大丈夫ですか・・・?」
「どうしたどうした?」
一通り話も済み、下の酒場に戻ってきたギゼーとセルは、酒場が異様に騒然としているのに気がつき、その場にいた客の一人を呼び止めた。
「それがその・・・」
その客が困ったように目を伏せた。
「女の子が一人・・・、悪酔いしてるんですよ・・・」
「ほぉう、女の子がねぇ」
セルの目が好奇で輝いた。
「その子、どんな子なんだい?」
「黒い髪で・・、眼鏡をかけていて・・・、一見知的っぽい・・・」
ギゼーの目が点になった。
「まさか・・・、ねぇ・・・」
目線で隣にいるセルに相槌を求める。
「あのリングって子・・・、じゃ・・、ねぇよなぁ?」
「あ、あなたは先ほどのっ!」
突然、カウンターのほうから大声が聞こえた。いやな予感を感じながら、ギゼーがカウンターを見ると、そこにいるのは紛れもなくリングだった。しかも、顔が赤い。そしてその隣には怪訝そうな表情のジュヴィアが。
「あの子だよ・・・」
ギゼーは先ほどのリングの知的なイメージがガラガラと崩れていくのを感じながら、ため息をついた。そして、即座に決意した。
「セル・・・、逃げよう。やっかいごとは御免だ」
そうして、くるりときびすを返し逃げようとしたそのとき、
ひゅるり、と何かが腕に巻きついてきた。それを払おうとしたギゼーは唖然とした。
「な・・・っ、酒っ!」
腕に巻きついてきたのは明らかに、酒、だった。液体のみの。その酒はギゼーをぐいぐいとリングのほうに引き寄せていく。
「どこいくんですかぁ?逃がしませんよぉ!」
液体の酒はリングの手のひらにつながっていて、それを操る主がリングだということを明白にしていた。唖然としているギゼーの耳に、かすかに、先ほどの客がセルに話している声が聞こえる。
「・・・ああやって、次から次へと客を引き寄せては自分の愚痴を語るんです。一度つかまったらしばらくは放してもらえませんよ・・・」
「なっ・・・、じょうだんじゃねぇっ!」
それを聞いたギゼーはあわてて酒から腕を振り解こうとした。が、時すでに遅し、ギゼーの抵抗もむなしく、ギゼーはリングたちのいるテーブルにみごと引き寄せられてしまった。
「・・・こんにちは、6人目の犠牲者さん」
ジュヴィアが冷めた目でギゼーに言う。
「けれど、私よりはましですよ。私なんて、ずっとここにつかまりっぱなしです」
「・・・それはまた大変だな」
もはや、ギゼーはジュヴィアに作り笑いを浮かべることしかできなかった。
「ギゼーさんっ!」
突然、リングがギゼーのほうを向き、がばっと立ち上がった。
「おっ・・・、おう、何だ・・?」
「私とジュヴィアさんに部屋を提供してください!」
いきなりの申し出にギゼーはたじろいた。しかし、この危険なヨッパライ相手に何も言い返せない。続けてリングは熱く語る。
「あのですね、ジュヴィアさんの話によりますと、何でも、あなたがジュヴィアさんを見る目つきが少女愛好者、・・・つまり、地上でロリコンと呼ばれているものですね。それに似ていたそうです。ですから、もし私たちの頼みをきいてくれない場合、当局に訴えるそうです。ですから、部屋を共同でもかまいませんので一緒に使わせてください!」
「はぁ・・・」
ギゼーは不審な目をジュヴィアに向けた。ジュヴィアは憤然として、自分はグレープジュースを飲んでいる。心の中はさぞかしリングへの不満でいっぱいだろうとギゼーは推測した。
「あのっ、ですからっ!」
「ああ、分かった分かった!」
思わず、ギゼーは両手をぶんぶんと目の前で振り、こう答えてしまった。
「訴えられたら大変だからなっ、分かった、一緒に使おうじゃねぇか。な、セルも、それでいいだろ?」
セルは向こう側で肩をすくめている。それはOKの証でもあった。
「ほら、OKだってよ」
「あ、有難う御座いますぅーーーー」
突然、リングの目から涙が溢れ出した。リングはギゼーの手をぎゅうっと握り締めると何度もお礼を言う。
「有難う御座います、有難う御座いますっ!やはり、人間は優しい方が多いですねっ!有難う御座いますぅーーーーー!!!」
ぽかんとしているギゼーにジュヴィアが言った。
「・・・この人、泣き上戸みたいなんです。何でも泣き出す理由になるらしいですよ」
「はあ・・・」
ギゼーは唖然としてリングを見つめた。この先、この人物がトラブルメーカーになりそうな予感がしてならなかった。そして、自分がその波にのまれる予感も。
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