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2024/11/01 18:30 |
12.『無理矢理パーティー結成!』/ギゼー(葉月瞬)
◆――――――――――――――――――――――――――――
PC:ギゼー、リング、ジュヴィア
NPC:情報屋セル
場所:ソフィニア“消えゆく灯火”亭2階
◆――――――――――――――――――――――――――――

 人は誰でも、他人に寄り掛かって生きていくもの。それが、社会を形成していく。
 そして人一人は、その大きな流れの中の極一部でしかない。
 それは、人ならざる者達も同じである―。


「はふぅ~」
 此処は宿屋の一室、ギゼーの取った部屋である。
 部屋に一つしかないベッドには、先程リング=オーシャンと名乗った知的美人が横臥していた。額に水で濡
らした布を乗せて。
 飲酒が過ぎて倒れてしまった彼女は今、世話好きのギゼーにより看病を施されていた。
 当然、成り行き上、ジュヴィアとセルも共に部屋に詰めている。
 ――あの後、ギゼーから同室の許可を取ったリングは安堵の為か、はたまた飲み過ぎの為か、その場にくず
折れてしまったのだった。彼女にどやし付けられていたギゼーの耳に聞こえて来たのは、彼女の小さな寝息
だった。
 溜息を吐き、他に同室する者達の顔を交互に見やるギゼーに答えるかのごとく、セルもジュヴィアもそれぞ
れ肩を竦ませる。
 協議の結果、酔い潰れたリングをギゼーの部屋に運び込む事にしたのだった。
「ううっ(泣)。な~んで、俺がこんな目に…」
 水分が蒸発して乾き切った布に再び水分を含ませ、額に置く。その動作をしつつもギゼーが泣き言を言っ
た。
 そのギゼーを諭すように、口を開くセル。
「お前ね…、ぼやかないの。自分で蒔いた種でしょうが…。……ったく、何でもかんでも誰でも彼でも、美女
と見るや手ェ出しやがって…。だいたい、メディーナちゃんの時だって……」
「あのなぁ、セル。人聞きの悪い事言わないでくれる?後にも先にも女に手ェ出したのは、メディーナちゃん
唯一人なんだからさ」
 セルの、事情を知っているだけに尤もな言を遮り、ギゼーが自身の弁護をする。
――メディーナちゃん?
 誰もが抱くであろう疑問を、ジュヴィアは思った。だが、思っただけで口には出さなかった。
「……う~ん?」
 不意にあがった呻き声に、よもやリングの意識が回復したか、と皆一様にそちらを見遣る。
 その三つの視線の先には、とぼけた顔したリングの姿があった。
「………はいっ?」
「さてっと。それじゃ、大所帯になったところで、改めて自己紹介といきますか。…さっきのは、簡潔すぎた
からなっ。俺はセル。今はチンケな情報屋をやっている。昔はそうじゃなかったんだが…、ま、色々と事情が
あってな、話すと長くなるんでそこんとこはなるべく話したくはない。で、こいつが…」
 と言って、相棒であるギゼーの首の後ろに腕を回し、引き寄せると勝手に他己紹介などを始めてしまうセ
ル。
「先程無理矢理あんた等を部屋に連れ込んだ挙句に、あんた等に熱っぽい視線を送っていたこいつが、俺の相
棒でトレジャーハンターの、ギゼーだ」
 首の後ろに回された腕を取り払おうと、何度ももがいた結果拳の一撃で何とか脱出したギゼーが不満気に後
を継ぐ。
「……だぁらっ!そういう誤解を招くような事を言うなよなっっ!セルっ!……ったく!人を何だと思ってん
だ……」
 そう言って、暫くぼやいた後に気を取り直したのか、一つ咳払いをすると自分に向けられた誤解を極力解こ
うと、言葉を選びつつも口を開くギゼー。
 何としても、不名誉な噂話だけは広められない様にしなければ。…もう遅いかもしれないが。
「あー、俺の名前は、ギゼー。さっき、セルの奴が言ったとおり、しがないトレジャーハンターなんぞをして
いる。(なんか、偉そうだな)で、さっきジュヴィアちゃんだっけ?…を見ていたのは、君が俺の知り合いの
女の子に似ていたからなんだ。クロースって言う……。まっ、娘みたいなもんだな。あんまりにも似過ぎてい
たんで、ちょっと驚いちゃったんだな。……だから、ぜんぜん疚しい事なんてない」
 ギゼーが言い終わると同時に、周囲には「そう言うこと自体、疚しい事なんじゃないかな」と言う意味合い
の溜息と、殆ど驚きにも似た溜息とが流れた。
 驚いていたのは、ジュヴィア本人だった。
 
――やはり、自分と同じような境遇の子が他にもいるのだろうか?自分と同じ血脈同族の…。いや、それはと
もかく、問題なのは………。
「……………矢張り貴方は、幼女嗜好者だったのですね?」
 数秒の後、ジュヴィアの驚きが解かれたころ、彼女の口から出て来たのは意見としては尤もな言葉だった。
「だあぁぁらっ!なんでそーなる!!」
「だって、幼女を誘拐して自分の娘にするなんて、幼女嗜好者以外の何者でもありませんよ」
 ジュヴィアはギゼーの予想通りの反応を見て、不敵に笑いながらそう言った。
「だから、誘拐したわけじゃないって!遺跡で見つけたんだよっ!い・せ・き・でっっ!」
 不意にジュヴィアの顔が曇る。「いせき」の三文字に敏感に反応したのだ。
――……!?遺跡で?じゃあ、自分とは違うんだ。
 自分は、母親と淫魔の間で交わした契りで生まれたもの。遺跡で発見された者ならば、己とは違うだろう
と、ジュヴィアは賢しく勘繰り気落ちしたのだった。
 暗くなってしまった場を持ち直そうと、リングが出来る限り明るい声で後を続ける。
「あっあのぉ~、確か、自己紹介でしたよね?私は、リング=オーシャンと言います。海竜族で、海の中から
来ました。えっと、ソフィニアに来たのは、実はこの“聖書”の出典を調べに来たのですぅ」
 そう言って、リングは自分の攻撃手段である、“聖書”を皆に見せた。
 その神々しいまでに光り輝く書物を見た途端に、ギゼーの顔色が変わった。
 その取り出し方に驚いたのではない。少なくともギゼーはそのようは不思議は、見慣れている筈だ。では、
何に対して驚きを露わにしたのか。その、神々しいまでに光り輝く美しい様に?否。彼は、その書物その物に
目を見張っていた。
 ギゼーのそんな様子に、気が付かない振りをしてセルがリングに訊ねる。
「ふぅん。するってぇと、リングちゃんはその、“聖書”とやらの出典を調べるためにわざわざ地上のソフィ
ニアまで足を運んだ…と?」
「えっ!?ええ、まあ、そんなもんです」
 何かを誤魔化すかのような笑顔で答えるリング。本当の理由は別な所にあるようだ。
「ソフィニアに来れば、何か手掛かりが有る、と聞いたものですから……」
 そして、言葉が足りなかった事に気付いて、慌てて後から付け足す。事実は事実だが、単なる物見遊山で地
上に出て来たことを包み隠すかのような理由の様だ。
 一方、何も解っていないセルは心配がちにだが、やや社交辞令っぽく尋ねる。
「ふうん。で、何か解ったのか?」
「いいえ。今日辿り着いたばかりですから」
 リングの即答ぶりに、何か思うところがあるらしく長考の姿勢に入るセルであった。何か、手助けでもして
やろうと言う気が何処かから湧いて来たようだ。
「俺、知ってる」
 不意に、ギゼーが真面目腐った顔で妙なことを口走る。眼差しは、“聖書”の表紙のある一点―紋章らしき
物があしらわれている部分に向けられている。
「俺、知ってるよ。その“聖典”。それは、写しだ。原本じゃない。……原本はもっとでかいからな
…………」
 最後の呟きは、殆ど独り言に近く、普通に聞いていたら聞き流してしまうものだった。
 その場を沈黙が支配した。
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2007/02/14 22:45 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング

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