◆――――――――――――――――――――――――――――
メンバー ギゼー・ジュヴィア・リング(五十音順)
場所 <消えゆく灯火>亭二階
NPC セル
◆――――――――――――――――――――――――――――
「これでよかったんでしょうか・・・」
チラッと床を見てリングが言う。そのリングにジュヴィアはきっぱりと言い
切った。
「いいんですよ。・・・女を床で寝かせるほうがどうかしています。地上では
ね」
そういうものなのでしょうか・・・。口の中でつぶやいてリングは再びチラ
ッと床を見た。通常二人で使うはずの小さい部屋。その部屋のベッドは、半ば
強引に仲間入りしてきた二人の女性に占領されていた。常識しらずのムスメ、
リングと、謎の銀髪美少女、ジュヴィアに、である。したがって、この部屋を
本来、正当に使うことができる二人、ギゼーとセルは床に寝袋をしいて寝ると
いうハメとなってしまった。しかし、
「うーん・・・、クロー・・ス・・・」
「さすが旅慣れていらっしゃいますね」
リングが苦笑のような、微笑ましいといったような表情を浮かべた。
「お二人とも、固い床の上だというのに、すぐに寝入ってしまわれました」
「そうですね、五分もかかりませんでしたね」
二人の半ば冷たい視線をよそに、二人は床の上ですっかり寝入ってしまって
いる。ギゼーに至っては寝言まで言う始末だ。
「クロース・・・、ですか」
「全く、ここまでくるとこの少女愛好趣味もたいしたものですね」
ジュヴィアが冷めた瞳で言い放つ。それに、リングが乾いた笑いを返した。
彼女も、未だギゼーの少女愛好趣味の線を信じている。
コチ コチ コチ
部屋にある時計の秒針が時を刻む音が、静かな部屋に響く。
月光が、部屋の小さな窓から斜めに差し込む。
時は真夜中、この宿にとまる人間がすっかり寝入ってしまったであろう時刻
だ。
「・・・どうしてお休みになられないんですか?」
その言葉に、ジュヴィアがベッドに横たわった状態でリングのほうに顔を傾
けた。
「・・・あなたこそ」
「あはは・・・、お互い様ですね」
悪意のない素直な笑みを向けて、リングは笑った。そしてそのまま、視線を
中空に走らせる。
「・・・私、眠れないんです。今日はいろいろなことが起こりすぎて。興奮し
てしまっているのかもしれませんね。貴方もですか。ジュヴィアさん?」
「・・・ええ、まあ、そんなところです」
ジュヴィアは口では戸惑いがちにそう言ったが、本当は、違う。本当は、今
日、セルとギゼーに自分の正体を見透かされそうになったことが心に引っかか
って眠れなかったのだ。しかし、そんなことを彼女に言って何になろ
う。・・・自分の苦しみを分かち合えるのは、所詮、自分一人なのだ。だか
ら、私は誰も信じたりしない、誰も・・・。
そんなジュヴィアの心の葛藤を知ってか知らないでか、リングはくすっと笑
った。そして、ふと今日の話を思い出し。天井を見上げて、不意に表情を硬く
させた。
「ガロウズ村・・・、ですか。私はまだ行った事がありませんが・・・。なん
と言えば良いのでしょう・・・。可哀想・・・、ですよね」
「まぁ・・・」
口ではあいまいな返事をしたが、内心、ジュヴィアの心の中はリングへの不
信の念が募っていた。
「可哀想」と簡単に言えてしまう彼女は明らかに「偽善者」だ。
ジュヴィアは偽善者が大嫌いだった。たまに本気で殺してしまいたくなるほ
どに。
しかし、少し思い直した。彼女が、とても世間知らずで、天然と思われるほ
どに素直なことを思い出したからである。たぶん、言ってる本人に悪意はない
だろう。言い方が癇に障ったとはいえ、悪意も悪気もないので、ここは少し多
めに見てやろうと、ジュヴィアは思い直した。
そんなジュヴィアの思いにも気づかず、リングは極めて悲しそうな表情で話
し続ける。
「何故、罪もない人間が殺されなければならないのでしょうか・・・。悲しい
ことです。何故、人間はもっと平和に暮らせないのでしょう・・・」
「平和に?」
その言葉にジュヴィアが反応した。
「では聞きますが、あなたが前にいた世界、・・・海の中、ですか。そこは、
<平和>だったのですか?海の中に<争い>は存在しなかったのですか?」
「地上よりは存在しません・・・。間違ったやり方だと、思いますが・・・」
リングの顔がそう言って、悲しげに歪んだ。
「どういうことですか・・・?」
ジュヴィアが聞くと、リングは悲しげに言った。
「海の中は知能の高い生物が地上の数倍、いえ、数万倍少ないのです。その中
でも、魔力を持つものはごく稀で、現在は私を含めて10名ほどしか存在しま
せん。そんな者たちが、魔力と知恵を使って頭の弱い生物を思うがままに仕切
っているので、海の中はたいした争いが起こらないのです。つまり、乱暴な言
い方をしますと、その民のほとんどが、馬鹿で、操りやすいというわけです
ね。しかも、魔力を持っている者のほとんどが私の一族なので、<争い>とい
えばせいぜい身内同士の玉座争いぐらいのものです。まあ、それもけっこう派
手なものではあるんですけどね。しかし、そんな戦いも、私の父が<聖本シリ
ーズ>を手に入れてからはなくなりました」
「<聖本シリーズ>・・・。それは・・・」
ジュヴィアの視線はリングの腹にいった。その視線を見届けて、リングが言
った。
「そうです。私が今もっている本と同じ力を持つ本のシリーズです。その本の
魔力を借りて、父は一族の威圧に成功しました。でも、その本が原書でないこ
とは今日初めて知りましたが・・・」
リングの表情に一瞬影がさしたが、すぐに、何かを決意した表情になった。
「ですから、私が本のことを調べる理由は、父にぼろを出させないためです。
父は、本を購入した際、何の説明も、情報ももらえなかったといいます。今
や、「聖本」は私たちの一族と海の平和を守る要です。その要の品にもしもの
ことがあったら大変なのです。もし万が一そんなことがおこれば、一族は謀反
を起こし、海は荒れるでしょう」
「・・・」
一見能天気そうに見える彼女だが、案外大変なんだな・・・、とジュヴィア
は思った。
(でも、海の中って全然平和じゃない・・・)
心の中でツッコミを入れるジュヴィアだった。
「ですから、次の長になる私には、本のことを詳しく調べる義務があります。
お父様と、海の平和のために。・・・しかし、やはり力で力を押さえつけると
いうお父様のやり方は、間違っているとは思いますが。しかし、たかだが17
歳の私など、海を動かすことができません。だから、今は、少しでも皆が平和
に暮らせるように頑張るしかないんです」
そう言うリングの真剣な様子に、少し、ジュヴィアはリングのことを見直し
たようだった。-そしてタヌキ寝入りをしながら二人の会話を盗み聞きしてい
たギゼーも。
(へえ・・・、ああ見えて彼女、大変なんだな・・・)
17にして、彼女は「海の平和」という大きな課題を背負っているのだ。彼
女はどうやらただの世間知らずな能天気、ではなかったといえる。
「本当はジュヴィアさんのことももっとお聞きしたいのですが、何か話したく
ないような素振りをしていらしたようなので、特にお聞きしません。さて、も
う寝ましょうね。おやすみなさい。ジュヴィアさん」
言うと、ことりとリングは寝入ってしまった。その寝顔をジュヴィアはじっ
と見つめた。リングの寝顔はとても安らかで、気持ち良さそうだった。
メンバー ギゼー・ジュヴィア・リング(五十音順)
場所 <消えゆく灯火>亭二階
NPC セル
◆――――――――――――――――――――――――――――
「これでよかったんでしょうか・・・」
チラッと床を見てリングが言う。そのリングにジュヴィアはきっぱりと言い
切った。
「いいんですよ。・・・女を床で寝かせるほうがどうかしています。地上では
ね」
そういうものなのでしょうか・・・。口の中でつぶやいてリングは再びチラ
ッと床を見た。通常二人で使うはずの小さい部屋。その部屋のベッドは、半ば
強引に仲間入りしてきた二人の女性に占領されていた。常識しらずのムスメ、
リングと、謎の銀髪美少女、ジュヴィアに、である。したがって、この部屋を
本来、正当に使うことができる二人、ギゼーとセルは床に寝袋をしいて寝ると
いうハメとなってしまった。しかし、
「うーん・・・、クロー・・ス・・・」
「さすが旅慣れていらっしゃいますね」
リングが苦笑のような、微笑ましいといったような表情を浮かべた。
「お二人とも、固い床の上だというのに、すぐに寝入ってしまわれました」
「そうですね、五分もかかりませんでしたね」
二人の半ば冷たい視線をよそに、二人は床の上ですっかり寝入ってしまって
いる。ギゼーに至っては寝言まで言う始末だ。
「クロース・・・、ですか」
「全く、ここまでくるとこの少女愛好趣味もたいしたものですね」
ジュヴィアが冷めた瞳で言い放つ。それに、リングが乾いた笑いを返した。
彼女も、未だギゼーの少女愛好趣味の線を信じている。
コチ コチ コチ
部屋にある時計の秒針が時を刻む音が、静かな部屋に響く。
月光が、部屋の小さな窓から斜めに差し込む。
時は真夜中、この宿にとまる人間がすっかり寝入ってしまったであろう時刻
だ。
「・・・どうしてお休みになられないんですか?」
その言葉に、ジュヴィアがベッドに横たわった状態でリングのほうに顔を傾
けた。
「・・・あなたこそ」
「あはは・・・、お互い様ですね」
悪意のない素直な笑みを向けて、リングは笑った。そしてそのまま、視線を
中空に走らせる。
「・・・私、眠れないんです。今日はいろいろなことが起こりすぎて。興奮し
てしまっているのかもしれませんね。貴方もですか。ジュヴィアさん?」
「・・・ええ、まあ、そんなところです」
ジュヴィアは口では戸惑いがちにそう言ったが、本当は、違う。本当は、今
日、セルとギゼーに自分の正体を見透かされそうになったことが心に引っかか
って眠れなかったのだ。しかし、そんなことを彼女に言って何になろ
う。・・・自分の苦しみを分かち合えるのは、所詮、自分一人なのだ。だか
ら、私は誰も信じたりしない、誰も・・・。
そんなジュヴィアの心の葛藤を知ってか知らないでか、リングはくすっと笑
った。そして、ふと今日の話を思い出し。天井を見上げて、不意に表情を硬く
させた。
「ガロウズ村・・・、ですか。私はまだ行った事がありませんが・・・。なん
と言えば良いのでしょう・・・。可哀想・・・、ですよね」
「まぁ・・・」
口ではあいまいな返事をしたが、内心、ジュヴィアの心の中はリングへの不
信の念が募っていた。
「可哀想」と簡単に言えてしまう彼女は明らかに「偽善者」だ。
ジュヴィアは偽善者が大嫌いだった。たまに本気で殺してしまいたくなるほ
どに。
しかし、少し思い直した。彼女が、とても世間知らずで、天然と思われるほ
どに素直なことを思い出したからである。たぶん、言ってる本人に悪意はない
だろう。言い方が癇に障ったとはいえ、悪意も悪気もないので、ここは少し多
めに見てやろうと、ジュヴィアは思い直した。
そんなジュヴィアの思いにも気づかず、リングは極めて悲しそうな表情で話
し続ける。
「何故、罪もない人間が殺されなければならないのでしょうか・・・。悲しい
ことです。何故、人間はもっと平和に暮らせないのでしょう・・・」
「平和に?」
その言葉にジュヴィアが反応した。
「では聞きますが、あなたが前にいた世界、・・・海の中、ですか。そこは、
<平和>だったのですか?海の中に<争い>は存在しなかったのですか?」
「地上よりは存在しません・・・。間違ったやり方だと、思いますが・・・」
リングの顔がそう言って、悲しげに歪んだ。
「どういうことですか・・・?」
ジュヴィアが聞くと、リングは悲しげに言った。
「海の中は知能の高い生物が地上の数倍、いえ、数万倍少ないのです。その中
でも、魔力を持つものはごく稀で、現在は私を含めて10名ほどしか存在しま
せん。そんな者たちが、魔力と知恵を使って頭の弱い生物を思うがままに仕切
っているので、海の中はたいした争いが起こらないのです。つまり、乱暴な言
い方をしますと、その民のほとんどが、馬鹿で、操りやすいというわけです
ね。しかも、魔力を持っている者のほとんどが私の一族なので、<争い>とい
えばせいぜい身内同士の玉座争いぐらいのものです。まあ、それもけっこう派
手なものではあるんですけどね。しかし、そんな戦いも、私の父が<聖本シリ
ーズ>を手に入れてからはなくなりました」
「<聖本シリーズ>・・・。それは・・・」
ジュヴィアの視線はリングの腹にいった。その視線を見届けて、リングが言
った。
「そうです。私が今もっている本と同じ力を持つ本のシリーズです。その本の
魔力を借りて、父は一族の威圧に成功しました。でも、その本が原書でないこ
とは今日初めて知りましたが・・・」
リングの表情に一瞬影がさしたが、すぐに、何かを決意した表情になった。
「ですから、私が本のことを調べる理由は、父にぼろを出させないためです。
父は、本を購入した際、何の説明も、情報ももらえなかったといいます。今
や、「聖本」は私たちの一族と海の平和を守る要です。その要の品にもしもの
ことがあったら大変なのです。もし万が一そんなことがおこれば、一族は謀反
を起こし、海は荒れるでしょう」
「・・・」
一見能天気そうに見える彼女だが、案外大変なんだな・・・、とジュヴィア
は思った。
(でも、海の中って全然平和じゃない・・・)
心の中でツッコミを入れるジュヴィアだった。
「ですから、次の長になる私には、本のことを詳しく調べる義務があります。
お父様と、海の平和のために。・・・しかし、やはり力で力を押さえつけると
いうお父様のやり方は、間違っているとは思いますが。しかし、たかだが17
歳の私など、海を動かすことができません。だから、今は、少しでも皆が平和
に暮らせるように頑張るしかないんです」
そう言うリングの真剣な様子に、少し、ジュヴィアはリングのことを見直し
たようだった。-そしてタヌキ寝入りをしながら二人の会話を盗み聞きしてい
たギゼーも。
(へえ・・・、ああ見えて彼女、大変なんだな・・・)
17にして、彼女は「海の平和」という大きな課題を背負っているのだ。彼
女はどうやらただの世間知らずな能天気、ではなかったといえる。
「本当はジュヴィアさんのことももっとお聞きしたいのですが、何か話したく
ないような素振りをしていらしたようなので、特にお聞きしません。さて、も
う寝ましょうね。おやすみなさい。ジュヴィアさん」
言うと、ことりとリングは寝入ってしまった。その寝顔をジュヴィアはじっ
と見つめた。リングの寝顔はとても安らかで、気持ち良さそうだった。
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