忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/11/01 12:32 |
6.プロローグvor.4/リング(果南)
◆――――――――――――――――――――――――――――
場所 とある街  
メンバー リング  
NPC フリフリスカートの女性と悪そうな男二人
◆――――――――――――――――――――――――――――

リングはきっと男たちを見つめた、戦闘体勢だ。男たちは腰から剣をすらっと抜き、リングにかかってくる。リングはそれをひらりひらりとかわし、手のひらの水の槍を男たちに打ち込んだ。
ザクッという音がして、槍が男たちのわき腹を掠めた。
「ぐっ・・」
男たちが痛そうにわき腹を押さえた。
「どうです、次は心臓を狙います。確か人間は、心臓が止まると動けないんでしたよね。命が惜しければこのまま立ち去ってください」
我ながら似合わないセリフだなぁ、と思いながらもリングは言った。戦うのが嫌いな自分に、脅しのセリフなんて、ハムスターがタラバガニを食べるのと同じぐらい似合わない。
「っ・・テメェっ・・」
しかし、相手の男たちは予想以上にしぶとかった。
「テメェ、よくもやってくれたな・・・、本気でつぶしてやる、覚悟しな!」
そう言って、二人は剣を構えリングに向かってきたのだ。
・・・さっきのお婆さんのお茶以外、戦いに使える水は、もうどこにもない。残る手段はただ一つ。リングは、ため息をついた。
(あれは、あまり使いたくなかったんですが・・・)
覚悟を決めて、リングは両手を前に突き出した。すると、リングの体から目がくらむほどの光が飛び出す。
「な、なんだ!!」
男たちが光の光線に目を抑え、驚いて見つめる中、
「本・・・!?」
リングのお腹がにゅーっと出っ張ったと思うと、体の中から、一冊の「本」が出てきたのだ。背表紙は赤い革表紙。表紙に書いてある文字は古代の文字らしく、読むことができない。
男たちが絶句して見つめる中、リングは本を自分の目の前に浮かべ、指ですわっとなぞった。リングが指で触れるだけで、本のページがパラパラっとめくれる。
「聖プロヴァンス伝、第七章ー主よ、汝の敵を見よー」
リングの瞳はうつろで、声も不思議に透き通っている。
「主は申された。-汝、我の行く手を阻むものの追随を許すまじ。そのものに、天の裁きを下せー、と。我、天に従わん」
リングの言葉が終わったと同時に、空が曇ったかと思うと、
ピシャーーーーン!!!
紫色の閃光が男たちを直撃した。
PR

2007/02/14 22:38 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング
7.DISORDERD FATE/ジュヴィア(微分)
◆――――――――――――――――――――――――――――
人物 ジュヴィア
場所 ソフィニア近くの街道外れ→ソフィニア"消えゆく灯火"亭
NPC  追い剥ぎのようなちんぴら3名・"消えゆく灯火"亭の主人
◆――――――――――――――――――――――――――――

  死の直前に人は何を思うのだろうか?


 魔術国家ソフィニア。
そこへ向けて街道を歩いていく人影が一つ。
どこからどう見ても子供としか言えない、整った顔立ちの銀髪の少女。ただ、異様なのは背中に背負った巨大な斧である。明らかに少女の背丈よりも大きくひょっとすれば少女の体重と同じくらいの重さがあるのかもしれなかった。
 一陣の風が、少女の真っ黒なスカートを翻して逃げていく。
「おい、あの子供…何だ?」
 少し離れた木陰で、男は仲間たちにささやいた。全員が、小汚い服を着て顔や腕に傷跡のある、どう贔屓目に見ても育ちが良くて善人そうには見えない所謂ごろつきの類だ。彼らはやはりというべきか、追い剥ぎを生業としていた。獲物を待っていたところに、謎の子供が現れたのである。
「そんなのオレに解るかよ。いいじゃねえか、ほっとけば。どうせ子供だ、大した稼ぎにはならねえよ」
「いや、それは解らねえ。子供だが一人で旅をしている以上は路銀を持ってるだろ」
 そう、確かに少女は一人で旅をしているようだった。まったくの無一文という筈はないだろう。仮にそうであったとしても、あれ位の美少女であれば女郎部屋に売り飛ばせば結構な金になる。ここ何日かろくなものを供給されていない彼らの腹に、少しでも利益をもたらすであろう可能性は十分にあった。だが、背中の巨大な斧がやはり襲撃をためらわせる。
「それはそうだが、あんな物を背負って普通に歩ける子供だぞ?」
「ヘッ!」
 ばかばかしい、といった風に一人の男が笑った。
「どうせあんなもの、こけおどしに決まってるぜ。もし本当に武器として使っててもオレらは3人、向こうは子供一人じゃねえか。あんなでかいもんでこっちの動きについてこれるわけがねえよ」
「…そんならやっちまうか。早くしねえと、ソフィニアの入り口まで行かれたら面倒だ」
男たちは腰に提げた鞘から短剣を抜き出して、一斉に少女めがけて詰め寄った。騒々しい足音に、もくもくと砂煙が上がる。たちまち少女は行く手を阻まれた。
「身ぐるみ置いてきな、嬢ちゃん」
 追い剥ぎの定番せりふである。普通の少女であれば、真っ青になってすぐさま持ち物を差し出す筈だった。
 だが、少女は黙ったまま佇んでいる。
「耳でも悪いのか?嬢ちゃん。身ぐるみ全部置いてきな」
やはり動かない。
「こりゃ頭が足りねえんじゃねえのか?出さなきゃどんな目にあうか解らねえんだろ」
「それじゃしょうがねえな。オレらが剥いでやるしかねえ。安心しな、あんたみてえな別嬪の嬢ちゃんは殺しゃしねえよ」
 その言葉を合図としたかのように、男たちは少女の真っ黒な服に手をかけた。否、かけようとした。
 少女の姿は既に手を伸ばした先にはなかった。代わりに、少し離れた場所に斧を持った彼女が佇んでいる。彼女ははじめて口を開いた。
「…殺してしまいます。逃げてください」
 見た目どおりの幼い声に、そぐわぬ不穏な内容。だが、男たちは彼女の言葉には従わなかった。
「なぁにが逃げてくださいだッ!殺せるもんなら殺してみやがれ!このガキが!」
 一人の男が少女めがけて飛びかかる。と同時に彼女の持った斧が真一文字を描いた。

 血しぶきをあげてごとり、と男の首が落ちる。

残りの二人の追い剥ぎは、みるみるうちに色を失った。がくがくと震えながら落ちた首を見つめている。怒りに任せ彼女に飛びかかったときのままの形相で、首は地面に転がっていた。
「ば…バケモノ…」
こんな小さな少女に、あの斧をまるで羽などの重さしかないかのように軽々と扱う力などない。
ならば考えられることは一つ、この少女が化け物であるという結論。

「そう…わたしは化け物です」

 銀色の髪と真っ黒なワンピースが風に広がる。紫色の瞳が静かに閉じた。

「…あなた方には、わたしを殺せないのですね…」


 少女は、名をジュヴィア・ニグデクトと言った。


 ジュヴィアは一軒の宿の前に立っていた。安そうなその宿は、酒場も兼ねている様だった。扉を開けずとも、中から喧騒が聞こえてくる。
―路銀に余裕がないわけではなかったが、出来る事なら無駄な金は使いたくはない。ここソフィニアなら、きっと母の施した「呪い」を解く方法が見つかる。その調査をスムーズにする為にも、所持金は残しておくに越したことはない。それに、彼女自身も安宿でも全く構いはしないのだ。
 ジュヴィアは"消えゆく灯火"亭のドアを押し開けた。同時にがやがやと話し声の洪水に包まれた。入り口の近くに座っていた客の中には、この場に相応しいとは思えない少女の出現に驚いているものもいるようだが、彼女は気にも留めずカウンターへ向かった。酒場の主人が知り合いらしい吟遊詩人と親しげな会話をしている。吟遊詩人が立ち去るのを待って、彼女は主人に言った。
「…部屋を取りたいのですが」
彼女の申し出は酒場の主人を少なからず驚かせたようだった。
「何だい、嬢ちゃん。家出でもしたのかい?ここはあんたのような嬢ちゃんが来る所じゃあないよ」
「お金ならあります…それに、わたしは家出でもなんでもありません…冒険者です」
 彼女はこれまでにも何度かこういう扱いをされたことがあった。どこから見てもただの少女にしか見えないジュヴィアを、普通の冒険者として扱ってくれる者は今迄に一人としていなかったのだ。
「お嬢ちゃん、冒険者ってのはね…」
 酒場の主人がやれやれといった口調で話し始めた。世間知らずの女の子に説教を始めるという風に、カウンターからやっと出ているジュヴィアの顔に自分の視線を合わせた。
―どうやらジュヴィアに部屋を貸すつもりはないようだ。
 彼女は話しつづける主人を遮って言ってみた。
「お願いします、泊めてください」
だが、主人は首を横に振った。
「あんたみたいな小さなお嬢ちゃんが、一人でこんなとこに泊まるなんて良くないよ」
「でも」

―――ガタン!

 二人の会話は何かが倒れる音で遮られた。見ると、栗色の髪をした冒険家風の青年が椅子を蹴倒したようだった。ひどく驚いたような顔をしている。
―何があったのか。
思わず、ジュヴィアは口に出していた。普段なら決して関わらないのだが―

「…どうか…なさいましたか?」

2007/02/14 22:39 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング
8.プロローグvor.5/リング(果南)
◆――――――――――――――――――――――――――――
場所 とある街  
メンバー リング  
NPC フリフリスカートの女性(?)と男二人
◆――――――――――――――――――――――――――――

「ふう・・・」
雷に打たれ黒焦げになって、慌てふためいて逃げていく二人を見ながら、リングは安堵のため息をついた。
(あの二人、いい人間とは言い切れませんでしたが、「聖書」を使ってしまい、悪いことをしましたね・・・)
聖書、とはリングの体から出てきた本のことである。本の魔力で悪い人間に「天罰」を与えることを目的としたアイテムだ。リングが聖書を使い終わると、聖書はソラマメぐらいに縮む。リングはそれを指でつまむと、ぱくっと飲み込んだ。これで聖書がまた体から出せるようになる。
「あの・・・」
物陰で一部始終を覗いていたフリフリスカートの女性がおずおずとリングに声をかけた。
「助けていただいてありがとうございます」
「いえ、そんなことよりもあなたが無事でよかったです」
振り向いて女性の顔を見たリングの表情が驚いた顔になった。続いて、好奇心で表情がぱあっと輝く。
「うわあ、私初めて知りました!」
リングはきわめて無邪気な笑みを浮かべて言う。
「女の方にも、「髭」って生えるんですね」
「おほほ、いやだわ、少し剃らないでいたらもう生えちゃって」
そういって女性は口元を押さえて笑う。そのスカートから覗く足には脛毛の存在も垣間見える。
「ザンネンねー、あなたが男だったら私の店でうんとサービスしてあげるのにぃ」
「そうなんですか、なら私、男の姿のほうがよかったでしょうか?」
「え?」
「あ・・、何でもないです」
リングはあわてて手をぶんぶんと振ると、すくっと立ち上がった。
「さて、私もう行かなければ」
「え、もう行っちゃうのぉ?」
名残惜しそうに言う、オカマの方にリングは笑顔で言った。
「ええ、私行かなければならないんです。ソフィニアに」

「ふぁー、ここがソフィニアですか・・・」
リングにとって地上に出て初めての大都市、である。リングは田舎者がよくするようにきょろきょろと街の中を見渡した。たくさんの人間、本の中でしか見たことがないアイテムが売っている店。見とれているうちに本来の目的、「本の秘密を探る」ということをうっかり忘れてしまいそうになる。
(まずは情報を集めなければいけません、情報を集める場といえば)
リングの頭にチーンという一昔前の効果音が鳴った。
「ズバリ、酒場ですね!」

リングはとりあえず一番近い酒場の中に入ることにした。
「<消えゆく灯火>・・・、趣のある名前ですね」
しかし、酒場からは扉を開けてもいないのに中から喧嘩が聞こえてくる。
(しかし、こんないいお名前の酒場ですし、中にいる人はいい人たちに違いありません)
世間知らずのせいか、安易にそう思い込み、リングは酒場の中に入っていった。
がやがやがやと、あふれ出る話し声の洪水。いろいろな顔つきの人間たち。リングはそのどれもが面白く、ものめずらしく、いちいち人の顔をじろじろ見て回った。
(すごいです、すごいです、人間がたくさんいます!)
ふと、リングはある人間に目を留めた。
「おや」
銀色の髪に、紫の瞳。背中には大きな斧を背負う少女。地上では世間知らずのリングでも、この少女が普通の人間ではないことぐらいはわかった。
「美しい少女ですね、しかし何かお困りのようです」
少女はカウンターで店の主人と何かもめているようだ。リングは、何をもめているのか気になって少女のもとに行こうとした。すると、

ガタン!

今度は、栗色の髪をした冒険家風の青年が椅子を蹴倒した。驚いてリングが見ると、青年は、ひどく驚いたような顔をしている。
「いったい何事でしょう・・・?」
リングは唖然として二人を見つめた。

2007/02/14 22:39 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング
9.『出会い~“竜の爪”の情報』―竜の爪編―/ギゼー(葉月瞬)
◆――――――――――――――――――――――――――――
キャラ:ギゼー、ジュヴィア、リング
NPC:情報屋オ・セルヴォール=ヴィレィ(セル)、吟遊詩人
場所:ソフィニアの安宿兼酒場“消えゆく灯火”亭
◆――――――――――――――――――――――――――――

「どうしたィ?そ~んな顔して」
 驚愕の表情を隠し切れないギゼーの顔を、不意に覗き込む中年の顔があった。無精髭を顎一杯に生やし、髭と同じく黒い色をした髪の毛をオールバックに整えている。やや後退してはいるようだが。見たところ、40歳を少し過ぎているようだ。無骨な顔に、金色の瞳が油断無く光る。笑うと歯の欠け具合が目立ってしょうがないのが玉に傷だが、見た目はいたって良さげなオジサンである。
 ギゼーがこの酒場で待ち合わせていた情報屋、その人である。
「ん…?あ、ああっ、いや、何でもない。ちぃとばかし、昔の事を思い出してな」
 先程の噂話が未だ気になっているのか、気の無い返事を情報屋に送るギゼー。
 どうやら吟遊詩人の歌声に聞き惚れて過去に想いを馳せていたようだ。過去への思惟の本流から戻らぬうちに「故郷が焼失した」という噂話を聞き入れてしまった為に、呆然自失していたらしい。
「……で?例の情報は?」
 突然声を掛けられたのが幸いしたのか、いつもの冷静さを取り戻し、気を取り直して口を開く。
 そんな時だった。
 少女に声を掛けられたのは。
「…どうか…なさいましたか?」
 声を掛けられ咄嗟に振り向いたギゼーの鳶色の瞳に飛び込んできたのは、年恰好が9歳か10歳くらいの美少女だった。
 驚愕のあまり、思わず声を上げそうになるギゼー。無理も無い。彼にとって、保護するべき対象であるクロースに酷似した容姿を、その少女は持っていたからだ。
 ランプの光に照り映えて銀色に輝く長髪を、黒いリボンで括っている。肌は、クロースと同じく透き通るように白い。だが、髪と肌の境界線が見えないほどではない。彼女の場合は、あくまでも健康的な色合いだ。全体的な印象は、黒一色に染められている。黒のワンピースに、エナメルの黒い靴は喪装を連想させる。モノトーンなその容姿の中で、唯一色を持っている瞳は紫色だ。その紫色の瞳を瞬かせて、好奇の視線をギゼーの方に向けている。
「……あっ、いや、…何でも無い。本当さ」
「…………?」
 取り繕うような、やや引き攣った笑顔で答えるギゼーの顔を、少女はその視線に好奇心を一杯に溜めこんで覗き見る。

――何か、変だ。どうも、態度が不自然過ぎる。

 そんな言葉さえ聞こえて来そうな少女の視線を一身に浴びながら、ギゼーはたじろいだ。
(うっ、それにしてもこいつぁ、クロースに似過ぎだぜ。世の中には自分に似た人が3人はいるって言うけど、本当だったのかぁ?………それにしても、やりにくいなぁ~。あくまでも他人だからな。クロースと同じには接する事が出来ないし…。それに…、なんか…、この子…、コワイ…)
 約0.1秒の、見事な思考であった。
 それにしても、ギゼーが少女を恐がるのも無理からぬ事だ。
 少女は、その小さな体躯に対して大きな戦斧を背に括り付けているからだ。
 こんな大きな得物を背負って、平気で歩いていられる者は尋常じゃないと、勘の鋭いギゼーは思った。
「どうかしたのですか?何をそんなに恐がっているのです?何か疚[やま]しい事でも、あるのですか?」
 少女はずけずけと本当の事を口から発する。まるで真実を語る為だけに、口が付いているかのごとく。少女は臆する事も無く、考えた事だけを語る。
(まるで、子供だな)
 ギゼーはそんな少女の様子を見て、自然と笑みが浮かぶ。
 決して疚しいものではなく、愛くるしい我が子を見る親の視線で。
 クロースと少女を重ね合わせて。
「何、微笑んでいるんですか?…やはり、何か疚しい事を考えていたんでしょう!?」
 最初の様子とは打って変わって、ギゼーが少女に問い詰められる形になってしまった。
 「しまった」と思った。ギゼーにしてみれば、当然不本意な結果である。
 彼の横で肝心の助け舟を出すべき人物が、ニヤニヤ笑いながら眺めて、この状況を楽しんですらいる。
 頭を抱える状況とは、正にこの事だ。と、ギゼーは思った。
「……あのな、疚しい事なんて、別に俺はやっていないし、考えてもいない。君にどうこうする、なんてことは…」
「……何かあったんですか?」
 今度は17歳くらいの少女が、横槍を入れてくる。
 ギゼーは、今度は本当に頭を抱え込んでしまった。
「疚しい事とは、いったいどう言う事でしょう?」
 状況も判らないまま、唯々微笑みながら三人の顔を交互に見やるしかない少女。横槍を入れたくせに、全然状況が理解できていない事は明白である。
(~~っ!当たり前だよ~。俺だって、解らなくなって来てんだから…)
 このややこしい状況を如何する事も出来ず、頭を抱えるしかないギゼーであった―。


 場所は変わって、ここはギゼーが取った宿屋の一室。
 あのままあの場所で話し込むのは何かとまずかろうと、ギゼーの主張もあって、急遽場所を移動したのだ。それだけではない。ギゼーにとってはあの場所で話せない話なども、この後に控えていたからだ。無関係な二人を巻き込んでしまったのは、不本意ではあったが…。
 そういう理由から、今この部屋にいる人間は四人しか居ない。
 ギゼーと、彼に宝の情報を提供している情報屋のオ・セルヴォール=ヴィレィ、先程の少女が二人、と言う顔触れだ。
 少女のうち一人は、モノトーンに紫の瞳が印象的な黒い少女、もう一人が、何も知らずに横槍を入れてきた世間知らずな少女だ。
 世間知らずとはいえ、知能指数は高そうに見える。目が悪いのか、はたまた単なるアクセサリーとして身に着けているだけなのか、細いフレームの眼鏡を掛けている。その眼鏡の奥で、黒い瞳を知的に光らせている。髪は、黒い髪を肩口で切り揃えている。
 一口に言って、知的美人である。ギゼーの好みの女性。
 何時の間にかギゼーは、その知的美人に見惚れてしまっていた。セルに声を掛けられていることすら気付かぬほどに。
「………ぉぃ!……おいっってばっ!…ギゼー!!」
「……おわっ!なんだよぉ、セル、びっくりさせんなっ!」
 呼び掛けられ、驚いた事により、自分が見惚れてしまっていた事など棚に上げ、情報屋セルを攻め立てるギゼー。セルは暫く、呆れて物も言えないというような目でギゼーを見つめ、口を開く。
「……………………どーでも良いが、俺はともかく、なんで彼女達まで連れて来たんだ?」
「……………………どーでも良いなら、言うなよ。……取り敢えず、あの場であのまま誤解されたままでいるのが嫌だったんでな…」
 “誤解されたまま”でいるのは、彼にとって非常に都合が悪い。
 何しろ、彼の今まで培って来たイメージというものが崩れてしまうからだ。どうせ生きていくならば、周囲に与えるイメージは良い方が良いに決まっている。その方が、都合が何かと良いからだ。人生とは、自己と周囲の人間との双方向の遣り取りから始まるものだからだ。そしてギゼーは、それを大切にしている。
 “誤解されたまま”とは、何を誤解されたのか、という思惟を滲ませ、セルは視線を逸らせる。

 その場に流れた重苦しい沈黙を破るように、ギゼーが口を開いた。
「……………あの、さぁ。せっかく知り合ったんだし。自己紹介でもしよっか」
 苦肉の策だった。

「あ、俺、ギゼーって言うんだ。よろしく」
 最初に口火を切ったのは、ギゼー本人だった。
 人に名前を尋ねるには、まず自分から、というやつだ。
 彼の言葉を受けて、情報屋のセルが名乗りを上げた。
「俺は、ギゼーの友達で、オ・セルヴォール=ヴィレィという者だ。セルで良い」
 親指を立てて、自分を主張する。
 次に世間知らずの少女が、時流に乗り遅れんとして慌てて口を開く。
「あ、私は、リングと言います。リング=オーシャン。よろしくおねがいします」
 そう言って、頭を下げる。ちゃんと腰を45度に屈折し、妙に丁寧で礼儀正しいお辞儀をする。
 まるで、貴族のような違うようなそんな印象を受ける。
「…………………私は、ジュヴィア…。…ニグデクト………」
 最後に、黒い少女がその重い口を更に重々しく自身の名を告げる。まるで、それを告げると不幸が舞い込んで来てしまうかのように…。
 彼女の周りに、黒い何かが見えるようなそんな気配を醸し出している。
(こっ、こえー…)
 ギゼーは、密かにビビっていた―。

 自己紹介が一通り終わり、話が一段楽したところで、セルが再び話をぶり返した。

「で?誤解を解くってどうやんだ?ギゼー」
「………!?う~ん。そうだなぁ。とりあえず、俺は怪しい者じゃないとだけ、伝えておこう。君達には何もしないし、しようとも思わない。解るよね?言ってること?」
 両手を広げて、今までに起こった誤解の鎖を必死で解こうとしているようにその仕草に表す。
 二人が了解の意思を表さないうちから、手を打ち、そこでその問題を終わりにするギゼー。
「解ったね?はい、じゃあ二人とも、下に降りて行って良いよ。俺達はこれから、大事な話があるんだ」

――お前が無理やり、二人を此処に連れて来たんだろが。

 セルはそう、突っ込みたいのを堪えるので必死だった。

 二人を部屋から出した後、ギゼーとセルは要の話をしだした。
「で?例のお宝の話はどうなんだ?」
「……そう急かすなって、ギゼー。お宝って、あれだろ?“竜の爪”だろ?だぁ~いじょぶだって。全て俺に任せてりゃな。しっかり仕入れて来たぜ。……ガセじゃねぇ、本物をな」

 夜は更けていく。
 そして、二人の話もまた長く掛かりそうだ。

     ☆☆★☆☆

そのもの七つの光を抱き
七つの日を数え
七つの王国にて眠らん
七つ目の王国の主
七つの言葉を残し
七つ目の竜の背びれに
神殿を築かん
七人目の王
そこに七つの魔法を掛け
七つの扉の向うに
竜の爪を隠さん

 宿屋の一室で、吟遊詩人が歌を歌っている。
 その歌は、“竜の爪”に関する詩歌だった――。


2007/02/14 22:40 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング
10.DUBIOUS GIRL /ジュヴィア(微分)
◆――――――――――――――――――――――――――――
人物 ジュヴィア、リング、ギゼー
場所 ソフィニア"消えゆく灯火"亭
NPC  
◆――――――――――――――――――――――――――――

  何もかも捨てるためなら何でもする、というのは矛盾していようか?

 パン、と男は手を打った。
「解ったね?はい、じゃあ二人とも下に降りて行って良いよ」
今までの会話の流れで一体何が解るというのか。結局この男―――ギゼーと名乗っていたが―――は、自分が何故ジュヴィアを含蓄のある目で見ていたのかについて弁解をするでもなく、強引に部屋まで連れて来て、また強引に話を収束させようとしているようだ。
…怪しい。怪しすぎる。
 だが、ジュヴィアには解っていた。何時ものことなのだから。
―――私は、化け物だから。
 背中に背負った斧を――ずっと一緒に旅をして、片時も離したことのない戦友を少し疎ましく思うのはこんな時だった。
 そんな彼女の感傷には全く気づいていないギゼーという男は、何でも良いからといった風に言った。
「俺たちはこれから、大事な話があるんだ」
彼は無理やりにでも部屋から追い出すべく、ジュヴィアともう一人の女性―リングといった筈だ―の背を押す。いや、背を押されたのはリングだけで、ジュヴィアは無意識のうちにその手から逃げていた。彼女の生来の男嫌いの産物である。
 どの人も同じ。私は化け物で―そして、淫魔の血が流れているのだから―。
 男に近寄ってはいけない。否、人に近寄ってはいけない。
ジュヴィアはいつもの結論を反芻した。


 廊下にぽつねんと追い出されてしまったジュヴィアは、仕方なく階段を降りる事にした。この宿には泊まれそうもない。だが、ソフィニア中探せば、金さえあれば何も言わずに泊めるような宿もあることだろう。それを見つけるまでは野宿も致し方ない。
 ふと、スカートが何かに引っかかっているのに気が付いた。見ると、謎の手が裾を引っ張っている。手の主は先ほどの女性、リングだった。知的な薫りのする黒い瞳が微笑んでいるように見えた。
「…何でしょうか」
 彼女の言葉に、リングは驚いたようにため息をつくと、こう言った。
「何でしょうかって、あなたはお困りだったのではないんですか?この宿のご主人と揉めてらしたようですけど」
 どうやらリングは先ほどの泊める泊めないの言い合いを見ていたようだ。
「…その通りですけれど、それが何か」
 リングが、今度は心外だという風にため息をつく。
「こう言った場合、私のような者は手助けをするものだと本で読みました」
 まるでジュヴィアが手助けを求めないのが不思議だといった風の口調である。本で読んだというのがちょっと引っかかったが、ジュヴィアは目を伏せて言った。
「私のような者には、関わらないのが道理です。手助けは要りませんから…」
 だから、手を離してください、という彼女の言葉を待たずにリングが言った。
「そんなことはありません。ほら、言うでしょ?ええと…何でしたっけ。袖が何とか…するがどうとか…」
「袖擦り合うも他生の縁、ですか…?」
「そうそうそれです。だから、きっとこう知り合ったのも他生の縁というのです」
 リングがにっこりと微笑む。だが、ジュヴィアには手助けを受ける気はない。
「でも」
「あ、そうだ!」
 ぽん、とリングが手を打った。なぜかジュヴィアには彼女の頭上に裸電球の幻影が見えた気がした。
「あなたが手助けを受けたくないなら、私が手助けを受けましょう!」
 …一体何のことか?
 ジュヴィアが尋ねる必要はないようだった。リングが言葉を継ぐ。
「ですから、あなたが私に手助けされる代わりに、私があなたに手助けされるんです。私、ソフィニアでいろいろ調べものがあるんですけど、こんな大きな街に来るのは初めてで、どうしたら良いのか解らなくて。それで、あなたに手助けして欲しいんです」
 ね?といった風にリングが会心の表情を浮かべる。
「あの…」
「これなら、あなたも私に手助けされることなく宿に泊まれるでしょう?」
 ジュヴィアが言葉を選んでいるうちに、リングは彼女の手を取った。
「よろしくお願いします!」
――ようやく浮かんだ言葉を、ジュヴィアは口に出さなかった。ここまで言っているのだし、それにこちらが損をするわけでもないし、あえて異を唱える事もないだろう。
「…こちらこそ…よろしくお願いします」
 ぺこりと頭を下げる。何年ぶりにした行動か、すぐには思い出せない。リングはニコニコしながら見ていたが、やがて階段のほうへと足を向けた。
「さて、そうと決まれば部屋を取らなければなりません」
「あ、待って下さい」
 ジュヴィアの呼びとめに、リングは不思議そうな顔をして振り向いた。
「どうしました?」
「部屋を取ることはありません…この人を使いましょう」
ジュヴィアは今出てきたドアを手で示した。中ではきっと「大事な話」とやらが繰り広げられているのだろう。だが、構うことはない。
「ギゼーさんを使うって?どういうことですか?」
「…つまり…先ほどの視線は少女嗜好者のモノだった、おまけに部屋に連れ込まれたと当局に訴えるぞ、と脅せばよいのです…そうしたら多分相手は焦りますから…部屋を共同で使わせろ、と言えば部屋代を三折半…もう一人いましたから、四折半にすることができます」
 すらすらと脅迫の計画を並べるジュヴィアに、リングが言う。
「でも…それって、悪いことじゃないのですか?」
「そんなことありません…私もあの人の目で傷つけられました…それに、邪念は無くとも部屋に連れ込まれたのは事実です。それを考えれば、私たちの申し出は、むしろ軽すぎるくらいです…」
「そうなんですか?」
 リングにはまだ思うところがあったようだが、ジュヴィアは彼女をドアの前に連れて来た。
「さ、どうぞ…私は被害者本人だからいえませんので…」
ジュヴィアの促しに、リングは意を決したようにノブを回した。

2007/02/14 22:40 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング

<<前のページ | HOME | 次のページ>>
忍者ブログ[PR]