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2025/03/10 06:38 |
9.『出会い~“竜の爪”の情報』―竜の爪編―/ギゼー(葉月瞬)
◆――――――――――――――――――――――――――――
キャラ:ギゼー、ジュヴィア、リング
NPC:情報屋オ・セルヴォール=ヴィレィ(セル)、吟遊詩人
場所:ソフィニアの安宿兼酒場“消えゆく灯火”亭
◆――――――――――――――――――――――――――――

「どうしたィ?そ~んな顔して」
 驚愕の表情を隠し切れないギゼーの顔を、不意に覗き込む中年の顔があった。無精髭を顎一杯に生やし、髭と同じく黒い色をした髪の毛をオールバックに整えている。やや後退してはいるようだが。見たところ、40歳を少し過ぎているようだ。無骨な顔に、金色の瞳が油断無く光る。笑うと歯の欠け具合が目立ってしょうがないのが玉に傷だが、見た目はいたって良さげなオジサンである。
 ギゼーがこの酒場で待ち合わせていた情報屋、その人である。
「ん…?あ、ああっ、いや、何でもない。ちぃとばかし、昔の事を思い出してな」
 先程の噂話が未だ気になっているのか、気の無い返事を情報屋に送るギゼー。
 どうやら吟遊詩人の歌声に聞き惚れて過去に想いを馳せていたようだ。過去への思惟の本流から戻らぬうちに「故郷が焼失した」という噂話を聞き入れてしまった為に、呆然自失していたらしい。
「……で?例の情報は?」
 突然声を掛けられたのが幸いしたのか、いつもの冷静さを取り戻し、気を取り直して口を開く。
 そんな時だった。
 少女に声を掛けられたのは。
「…どうか…なさいましたか?」
 声を掛けられ咄嗟に振り向いたギゼーの鳶色の瞳に飛び込んできたのは、年恰好が9歳か10歳くらいの美少女だった。
 驚愕のあまり、思わず声を上げそうになるギゼー。無理も無い。彼にとって、保護するべき対象であるクロースに酷似した容姿を、その少女は持っていたからだ。
 ランプの光に照り映えて銀色に輝く長髪を、黒いリボンで括っている。肌は、クロースと同じく透き通るように白い。だが、髪と肌の境界線が見えないほどではない。彼女の場合は、あくまでも健康的な色合いだ。全体的な印象は、黒一色に染められている。黒のワンピースに、エナメルの黒い靴は喪装を連想させる。モノトーンなその容姿の中で、唯一色を持っている瞳は紫色だ。その紫色の瞳を瞬かせて、好奇の視線をギゼーの方に向けている。
「……あっ、いや、…何でも無い。本当さ」
「…………?」
 取り繕うような、やや引き攣った笑顔で答えるギゼーの顔を、少女はその視線に好奇心を一杯に溜めこんで覗き見る。

――何か、変だ。どうも、態度が不自然過ぎる。

 そんな言葉さえ聞こえて来そうな少女の視線を一身に浴びながら、ギゼーはたじろいだ。
(うっ、それにしてもこいつぁ、クロースに似過ぎだぜ。世の中には自分に似た人が3人はいるって言うけど、本当だったのかぁ?………それにしても、やりにくいなぁ~。あくまでも他人だからな。クロースと同じには接する事が出来ないし…。それに…、なんか…、この子…、コワイ…)
 約0.1秒の、見事な思考であった。
 それにしても、ギゼーが少女を恐がるのも無理からぬ事だ。
 少女は、その小さな体躯に対して大きな戦斧を背に括り付けているからだ。
 こんな大きな得物を背負って、平気で歩いていられる者は尋常じゃないと、勘の鋭いギゼーは思った。
「どうかしたのですか?何をそんなに恐がっているのです?何か疚[やま]しい事でも、あるのですか?」
 少女はずけずけと本当の事を口から発する。まるで真実を語る為だけに、口が付いているかのごとく。少女は臆する事も無く、考えた事だけを語る。
(まるで、子供だな)
 ギゼーはそんな少女の様子を見て、自然と笑みが浮かぶ。
 決して疚しいものではなく、愛くるしい我が子を見る親の視線で。
 クロースと少女を重ね合わせて。
「何、微笑んでいるんですか?…やはり、何か疚しい事を考えていたんでしょう!?」
 最初の様子とは打って変わって、ギゼーが少女に問い詰められる形になってしまった。
 「しまった」と思った。ギゼーにしてみれば、当然不本意な結果である。
 彼の横で肝心の助け舟を出すべき人物が、ニヤニヤ笑いながら眺めて、この状況を楽しんですらいる。
 頭を抱える状況とは、正にこの事だ。と、ギゼーは思った。
「……あのな、疚しい事なんて、別に俺はやっていないし、考えてもいない。君にどうこうする、なんてことは…」
「……何かあったんですか?」
 今度は17歳くらいの少女が、横槍を入れてくる。
 ギゼーは、今度は本当に頭を抱え込んでしまった。
「疚しい事とは、いったいどう言う事でしょう?」
 状況も判らないまま、唯々微笑みながら三人の顔を交互に見やるしかない少女。横槍を入れたくせに、全然状況が理解できていない事は明白である。
(~~っ!当たり前だよ~。俺だって、解らなくなって来てんだから…)
 このややこしい状況を如何する事も出来ず、頭を抱えるしかないギゼーであった―。


 場所は変わって、ここはギゼーが取った宿屋の一室。
 あのままあの場所で話し込むのは何かとまずかろうと、ギゼーの主張もあって、急遽場所を移動したのだ。それだけではない。ギゼーにとってはあの場所で話せない話なども、この後に控えていたからだ。無関係な二人を巻き込んでしまったのは、不本意ではあったが…。
 そういう理由から、今この部屋にいる人間は四人しか居ない。
 ギゼーと、彼に宝の情報を提供している情報屋のオ・セルヴォール=ヴィレィ、先程の少女が二人、と言う顔触れだ。
 少女のうち一人は、モノトーンに紫の瞳が印象的な黒い少女、もう一人が、何も知らずに横槍を入れてきた世間知らずな少女だ。
 世間知らずとはいえ、知能指数は高そうに見える。目が悪いのか、はたまた単なるアクセサリーとして身に着けているだけなのか、細いフレームの眼鏡を掛けている。その眼鏡の奥で、黒い瞳を知的に光らせている。髪は、黒い髪を肩口で切り揃えている。
 一口に言って、知的美人である。ギゼーの好みの女性。
 何時の間にかギゼーは、その知的美人に見惚れてしまっていた。セルに声を掛けられていることすら気付かぬほどに。
「………ぉぃ!……おいっってばっ!…ギゼー!!」
「……おわっ!なんだよぉ、セル、びっくりさせんなっ!」
 呼び掛けられ、驚いた事により、自分が見惚れてしまっていた事など棚に上げ、情報屋セルを攻め立てるギゼー。セルは暫く、呆れて物も言えないというような目でギゼーを見つめ、口を開く。
「……………………どーでも良いが、俺はともかく、なんで彼女達まで連れて来たんだ?」
「……………………どーでも良いなら、言うなよ。……取り敢えず、あの場であのまま誤解されたままでいるのが嫌だったんでな…」
 “誤解されたまま”でいるのは、彼にとって非常に都合が悪い。
 何しろ、彼の今まで培って来たイメージというものが崩れてしまうからだ。どうせ生きていくならば、周囲に与えるイメージは良い方が良いに決まっている。その方が、都合が何かと良いからだ。人生とは、自己と周囲の人間との双方向の遣り取りから始まるものだからだ。そしてギゼーは、それを大切にしている。
 “誤解されたまま”とは、何を誤解されたのか、という思惟を滲ませ、セルは視線を逸らせる。

 その場に流れた重苦しい沈黙を破るように、ギゼーが口を開いた。
「……………あの、さぁ。せっかく知り合ったんだし。自己紹介でもしよっか」
 苦肉の策だった。

「あ、俺、ギゼーって言うんだ。よろしく」
 最初に口火を切ったのは、ギゼー本人だった。
 人に名前を尋ねるには、まず自分から、というやつだ。
 彼の言葉を受けて、情報屋のセルが名乗りを上げた。
「俺は、ギゼーの友達で、オ・セルヴォール=ヴィレィという者だ。セルで良い」
 親指を立てて、自分を主張する。
 次に世間知らずの少女が、時流に乗り遅れんとして慌てて口を開く。
「あ、私は、リングと言います。リング=オーシャン。よろしくおねがいします」
 そう言って、頭を下げる。ちゃんと腰を45度に屈折し、妙に丁寧で礼儀正しいお辞儀をする。
 まるで、貴族のような違うようなそんな印象を受ける。
「…………………私は、ジュヴィア…。…ニグデクト………」
 最後に、黒い少女がその重い口を更に重々しく自身の名を告げる。まるで、それを告げると不幸が舞い込んで来てしまうかのように…。
 彼女の周りに、黒い何かが見えるようなそんな気配を醸し出している。
(こっ、こえー…)
 ギゼーは、密かにビビっていた―。

 自己紹介が一通り終わり、話が一段楽したところで、セルが再び話をぶり返した。

「で?誤解を解くってどうやんだ?ギゼー」
「………!?う~ん。そうだなぁ。とりあえず、俺は怪しい者じゃないとだけ、伝えておこう。君達には何もしないし、しようとも思わない。解るよね?言ってること?」
 両手を広げて、今までに起こった誤解の鎖を必死で解こうとしているようにその仕草に表す。
 二人が了解の意思を表さないうちから、手を打ち、そこでその問題を終わりにするギゼー。
「解ったね?はい、じゃあ二人とも、下に降りて行って良いよ。俺達はこれから、大事な話があるんだ」

――お前が無理やり、二人を此処に連れて来たんだろが。

 セルはそう、突っ込みたいのを堪えるので必死だった。

 二人を部屋から出した後、ギゼーとセルは要の話をしだした。
「で?例のお宝の話はどうなんだ?」
「……そう急かすなって、ギゼー。お宝って、あれだろ?“竜の爪”だろ?だぁ~いじょぶだって。全て俺に任せてりゃな。しっかり仕入れて来たぜ。……ガセじゃねぇ、本物をな」

 夜は更けていく。
 そして、二人の話もまた長く掛かりそうだ。

     ☆☆★☆☆

そのもの七つの光を抱き
七つの日を数え
七つの王国にて眠らん
七つ目の王国の主
七つの言葉を残し
七つ目の竜の背びれに
神殿を築かん
七人目の王
そこに七つの魔法を掛け
七つの扉の向うに
竜の爪を隠さん

 宿屋の一室で、吟遊詩人が歌を歌っている。
 その歌は、“竜の爪”に関する詩歌だった――。

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2007/02/14 22:40 | Comments(0) | TrackBack() | ●ギゼー&リング

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