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2024/05/17 02:30 |
立金花の咲く場所(トコロ) 52/アベル(ひろ)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:ラズロ リリア リック 畑の妖精(?)
場所:エドランス国 香草の畑

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「はー、これ結構便利ねー」

 リリアは声を潜めながら、感心したようにつぶやいた。

 日が暮れてしばらくたった周囲は、畑で切り開かれているとはいえやはり山の中、
すっかり暗く静まり返っていた。
 しかしそれはあくまで「ヒト」の感覚ではそうというだけで、むしろ小動物や昆
虫といったささやかな生命達の多くは、外敵に見つかりにくい夜にこそ活動的にな
る。
 そういう意味で夜の自然とは、昼間とはまた違った命の息吹が、満ち溢れた世界
であった。
 畑荒らしをどうにかする為にこのまま畑にとどまることにした一行は、たそがれ
時に畑を見に来た村の兎人にその旨を伝えて、畑の外の茂み、つまり森の中に陣を
張って待ち伏せることにした。

 そう決めたのはいいものの、待ち伏せをスキルとして身につけているのはリック
とリリアぐらいで、アベルとラズロもそれなりに気配の消し方は身につけているも
のの、戦闘待機の状態を維持し続けたまま長時間というのは無理だった。
 気配を消すに一生懸命で、すぐに動き出せないようではせいぜい見てるだけだ。
 騎士や傭兵の偵察のスキルとしては十分だが、撃退・捕縛を臨機応変に行う待ち
伏せには足らない。
 ましてやヴァネッサはその足らないレベルすら身につけていないとなると、距離
も必要になり、ますます敵を捕らえるのは無理だろう。
 相手側からないうえに、多少能力はあっても経験も浅く、パーティとしても初ミ
ッションとなれば、メンバーを分けるのは避けたいところ。
 アカデミーの基礎課程で学んだことが身についてきたか、全員がそのことに気が
つき頭を悩ませていたところ、ヴァネッサの提案で魔法をためすことにした。
 魔法で隠れるといっても、姿を隠すような(いわゆる透明化)タイプはまだ難しい
し、ましてや他人にかけるのはかなり上級になるために今のヴァネッサにはできな
いし、幻術タイプにしてもまだまだ初級魔法使いの道を歩き出したばかりでは考え
るまでもなかった。
 他の四人も魔法の実力は体を鍛えるようにいかないことは良くわかっているので、
ヴァネッサの魔法には、言い方は悪いがはじめから期待していなかった。(誤解の無
いように付け加えておくなら、独学で初級レベルとはいえ魔法を取得したヴァネッサ
の才能は十分過ぎるぐらいで、あくまでまだ経験地が足らないという事なのだ)

 そんなヴァネッサの提案とは、隠れ方自体はリックのレンジャー(というかシー
フ?)のやり方で、それを初級魔法の「隠れんぼ」で強化するというものだった。
 「隠れんぼ」は気配を消すのではなく、周囲の自然の気配と同化してまぎれさせ
る魔法で、無機質な人工建造物の中では使えないうえ、あくまで気配をごまかすだ
けで、視覚的に花にも作用しないため、ある程度レベルがあがると使われなくなる
のだが、効果は個人対象でなく範囲指定だし、精霊の力を借りるので魔力消費も少
なくてすむ――つまり疲れにくいため長時間の使用も比較的楽という長所もある。
 今回のようにパーティでおぎない合える場合は利用価値の高い魔法で、実技だけ
でなく座学もまじめに受けているヴァネッサは、自分にできることについてはちゃ
んと応用まで考えられるようになっていたのだった。

 リックがアベルとラズロとともに場所を選び、草木をととのえて5人が潜める場
所を作った。
 その上でヴァネッサが慎重に魔法をかけて全員でいつでも飛び出せる体制で待機
していた。
 それぞれが初めての事に多少の緊張を伴いながら様子を伺っていたわけだったが、
それぞれ納得の効果が出ているようだった。

「中にいるからわかりにくいけど、確かに気配がまぎれているみたいね」

 リリアは声を潜めたりなるべく動きを抑えたりしているものの、特別な集中や緊
張をしていない自分達の周りで、昆虫や小動物が警戒もせずに普通にいる状況に感
心していた。

「たしかにな、この程度の声なら気づいたとしても、動物やむしの鳴き声と変わら
 ないように知覚されてるみたいだな。」

 ラズロも手を伸ばせば届きそうな距離を、栗鼠かなにかの小動物が横切るのを視
界に捕らえながら確認するようにささやいた。
 同意するように頷いたアベルだったが、畑と森の境界、予測侵入経路のほうを目
を凝らすようにして顔をしかめた。

「効果はあるみてーだけど、火が使えないとさすがにみづらいな」

 ある程度の夜目は利くが、敵の正体は依然として不明だ。
 どんな些細な異変も見過ごさないと言い切るには、明るいとは言いがたい今宵の
月明かりでは心もと無かった。
 畑に入って現場を押さえてから動くことになるとはいえ、できるだけ早いうちか
ら様子がわかれば対応も整えやすい。
 
「ふっふーん、私がいるから大丈夫!」

 そういって振り返ったリリアの瞳は猫のように縦に収束し、金色に光っていた。

「……私は猫だからね」

 いつ模様に陽気な声色。
 なのにどこか不安を感じさせる緊張感を漂わせながら、リリアが言った。
 リックもなぜか固唾を呑むようにして様子を見ている。

「……へー、夜目が利くのか」
「……ではまかせよう」

 アベルもラズロも普通に頷いた。
 アカデミーにきてから、眷属ではない獣人、ライカンスロープとよばれる種族が
いることを知ったし、眷族に比べれば半人と呼ばれるように圧倒的に自分達に近い
姿で、混血すらあるとなれば、リリアが「猫」を告白したところで、見た目からし
て眷属ではないし、アベル、ヴァネッサ、ラズロの三人からしたら「ああ、獣人か
ぁ」ぐらいの事で、リリアがそれを言うだけでなぜ緊張しているのかはさっぱりわ
からなかった。
 当然、リリアとリックが安堵したように笑顔を向け合っているのを見ても「な
に?」
というのが正直なところだった。
 
「リリア?」

 なぜだかその笑顔がヴァネッサには泣き出しそうに見えてきにかかった。
 リリアはなんでもない、と首を振ると暗闇を見据えるように奥に向き直った。

「ねえ、この仕事が終わってゆっくりできるときにさ、みんなに聞いてほしいこと
 があるんだけど、いいかな?」

「うん、いいけど?」

 ヴァネッサはよくわからないまま返事をした。
 アベルたちもふしぎそうな顔をしているが、リックの顔を見る限り、そんなに悪
いことではなさそうだった。

 そのあとはなんとなくみんな黙ったまま(待ち伏せだからあたりまえといえばそ
のとおりではあったが)しばらく時が過ぎた。

「……きたよ、三人?」

 ふいに、小さいながらいつもとは違う硬い声でリリアが囁いた。

「なんだか小柄な……、あれは……コボルド?」

 目を細めて闇にうごめく影を捕らえながらリリアが呟く。

「! もう一人、後ろに人間らしいのがいるよ。コボルド3に人間1。 全員レザー
アーマーにショートソード、弓とか他に目立つ装備はなし」

 手馴れた様子で情報を出すリリアに、近くに浮かんでいた妖精が感心したように
いった。

『へえ、ほんとに冒険者みたいだ』

「……いたのかよ」

 ことばはわからないものの、すっかりその存在をわすれいたアベルの呟きに、実
は全員が心の中で頷いていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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2008/01/06 20:56 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所
立金花の咲く場所(トコロ) 53 /ヴァネッサ(周防松)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:ラズロ リリア リック 畑の妖精(?)
場所:エドランス国 香草の畑

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「行くか」

ラズロが緊張した面持ちでそっと剣を抜き出した。
アベルも同じように剣を抜き出し、
「作戦どうする?」
最後の確認とばかり、尋ねた。
他のメンバーにとっても重要事項なので、必然的に全員が顔を寄せることになった。

「そうだな……リーダー格らしい人間を集中して狙うことにして……」

そこまで言ってからラズロはちらりとヴァネッサ、リック、リリアを見て、難しそう
な顔をした。
攻撃役の方が少ないという事実を、一体どうしたものかと考えたらしい。

「ああ、それなら、こっちでコボルド相手にしてもいいぞ」

リックのあっさりとした物言いに、リリア以外の全員が目を丸くする。

「だ、大丈夫かよ?」
意外とばかりにアベルが声を上げると、リックは苦笑いを浮かべた。
「言ってなかったけど、こう見えてもアカデミーに入る前に色々やってたからな、コ
ボルドぐらいなら何とかなる」
「……もしかして、お前、強かったりする?」
「お前の『強い』の基準はわかんないけどさ。まあそれなりに、コボルドぐらいなら
勝率が高い、ってとこかな」
「なんだよ、早く言えよっ」
「言う機会があると思うのかよお前~~~っ」

リックがどこか恨めしげな目をしている。

……リックと言えば。
普段はリリアに振り回され、今日は今日でじゃんけんに負けてカゴを背負っていた、
あまり活躍どころのない少年である。
目立つか目立たないかで問われたら、確実に「目立たない」少年である。
そのリックが、不思議と今は頼もしく見えた。
雰囲気まで、いつもと違うような気がする。

「なーによ。威張っちゃって。アカデミーに入る前、ずううううっとあたしに助けて
もらってたのは誰だったっけー?」

そこに茶々を入れるのはリリアである。
途端、リックがガキリ、と凍りついた。

「誰だっけー? 飢え死にしかかってて、ゴハン食べさせてもらったのは。無鉄砲に
突っ込んでって、返り討ちにされて、ちょっと涙ぐんでた頃が懐かしいわねぇ。ぐじ
ぐじ言ってうずくまって、いつまでたっても立とうとしないから、手を引っ張って立
ちあがらせてもらったりして。そんでー」

「ううううるさい、昔のことはいいだろっ!」

リリアの発言を、リックがややムキになりながらさえぎる。
いつもならリリアがムキになり、リックがそれをいなすパターンが多かったので、こ
れはかなり珍しい事態である。

「……あー。はいはい。どうどう」

リリアがリックの頭をぽふぽふと叩き、リックがそれを「俺は馬かっ」と嫌がる。

ヴァネッサは、そのやり取りの中に『何か』を感じた。
一つは、二人はアカデミーに入る前から知り合いだったのだろうな、ということ。
それともう一つは……。

(二人とも、昔のこと、あまり知られたくないんだろうな)

そう言えば、二人は昔どこでどうしていたかをあまり言わなかった。

――ねえ、この仕事が終わってゆっくりできるときにさ、みんなに聞いてほしいこと
があるんだけど、いいかな?――

不意に、先ほどのリリアの言葉が頭をよぎる。

聞いて欲しいこととは、どんなことだろう。
たとえ、どんな話だったとしても、それをちゃんと受け止めよう。
ヴァネッサは、そう決めた。

「心強いな。それじゃあコボルドはそっちに任せる。人間の方をできるだけ早く片付
けて戻るから」
「おう、がんばれよ、アベル、ラズロ」
「こちらの台詞だ……さて」

ラズロの言葉に、全員がみるみる緊張した顔つきになった。
「まあ、僕も手伝うから、心配ないよ」
妖精がふよふよと漂いながら、励ましらしいことを口にする。

(手伝うって、何ができるんだろう……)

ヴァネッサはほんの少しだけ首を傾げた。
そういえばこの妖精、何ができるかまだわからない。
見た目からすると、こうやってふわふわ漂う以外に能がなさそうで、まともに戦える
などとは思えないのだが……。

ヴァネッサは、ちらりとリリアの顔を見た。
視線に気付いたリリアが笑みを作る。

「あたしのことも頼りにしてて良いよ。リックより役に立つからね」
「なんか言ったか?」
「いえいえ、何も。おほほほ」

リックとの短いやり取りを終えると、彼女は真剣な表情になり、懐から短剣を取り出
して握りしめた。

「行くぞ。3・2・1……!」

ラズロの合図で、全員が茂みから飛び出した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2008/01/29 20:47 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所
立金花の咲く場所(トコロ) 54/アベル(ひろ)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:ラズロ リリア リック 畑の妖精(?)
場所:エドランス国 香草の畑

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 アベル達もこのパーティでの初めての戦いということで浮き足立っていた
のか、風向きを考えずに茂みから飛び出した。
 小柄な人方の体に犬のような頭を持つコボルトは見かけとは裏腹に、特に
嗅覚に優れているわけではなかったが、それでも人よりは鋭いはず。
 経験地がそれなりにあるリックはそのことに思い至り、しまったかと舌打
ちしそうになったが、相手の動きをみて眉をひそめる。

 最初に気がついたのは前にいるコボルドではなく、後ろにいる男だった。
 物音にびっくりしたようにあちらこちらに顔を向けたのち、走り来る三人
に気がついた男はヒステリックな声を上げた。
「な! なにをしてる! はやくかたずけろ!」
「……ギッ」
 いいながら腕を振るとそれを合図に、コボルトは武器を構えながら三人に
対峙するように展開しようとする。

(あのコボルト……)
 考えてみれば人間とコボルドが仲間ということはありえない。
 コボルトが異種族といる大概の場合は主従関係にあることがほとんどで、
もっというと僕として従わされているのだが、もともと知能よりも本能のほ
うが強いコボルトは闇雲に突っ込んでくるもので、指示通りに動くなんて芸
当はまずできない。
 男よりも反応が鈍いのも気になる。
「アベル、ラズロ、ことによると魔法を使うのかもしれないから気をつけろ
よ!」
 コボルトを押さえてる間にリーダーらしき男を抑える作戦のためには、ま
ず二人がコボルトの向こうに抜けねばならない。
 勢いを殺さず飛び出した三人が接敵するまでにリックがいえたのはその一
言だけだったが、二人にはちゃんと伝わったようで、気配だけだが頷いたの
がリックにもわかった。
 リックは冷静に自分の実力とコボルド三体をくらべてまともにやっては勝
てないことはわかっていたし、とにもかくにも先に二人を向こうの男の元へ
やらねばならなかった。
 
 リックは自分達に相対するように隊列を組みなおしつつあるコボルトの真
ん中にいる一体に向かって、転がるように身をかがめて突っ込んでいった。

「あ!」
 茂みから様子を見ていたヴァネッサにはリックが何かに躓いて転んだよう
に見えた。
 おもわず腰を浮かすヴァネッサの肩をつかんだままリリアは何かを投げる
ようにするどく手を振った。 

 アベルもラズロもリックと詳しい打ち合わせをしたわけではなかった。
 ただ、二人はリックが任せろといった以上、コボルトではなくその後ろの
男しか見ておらず、コボルドを弾き飛ばすつもりで突っ込んだ。
 当然ながら一歩前を行くリックがこけるように倒れるのは見えていたが、
そのために足を止めることはなかった。

 リックは前のめりに地面に右手をつくと、体をひねるように前転した。
 片手しかついてない上にひねったため、斜め上から横気味に回転しながら
足を振り下ろした。

 コボルトは命令に従い、急の来敵を迎え撃つため三人それぞれに対峙し、
男を守れるように壁に慣れる位置へと向き直ろうとしていた。
 当然眼前に迫る敵からは目を離さずにいたがその姿が突然消えた。
 かと思うと足を強烈な力でなぎ払われ、踏ん張ることもできずに転がり
そうになった。
「ギ!」
 反射的に手を伸ばして隣にいたコボルドをつかんだため一瞬持ちこたえ
たが、つかまれたコボルトが突然バランスを崩して一緒くたに転がり倒れ
る。

 リックが倒れるようにしてコボルドの一体の足を刈った。
 そのコボルドがつかまったもう一体が踏ん張ろうとした瞬間、突然額に
何かがぶつかり、痛みに木をとられたのか、声をあげるまもなく道ずれに
倒れる。
「まかせろ!」
 足元から聞こえる声に一瞬だけ目を向けた二人は、回転の勢いのままも
う立ち上がる体制にリックがいることを確認し、そのままこけた二体でで
きた穴からコボルトの壁を突っ切って走り抜ける。

 走り抜ける二人にあわてることもなく残った一体は目前のリックに攻撃
を仕掛けようと剣を振り上げたが、またしても飛来する何かに額を打たれ
てよろめく様一歩下がった。
 その隙を突いて立ち上がったリックは、自分も剣を構え、すかさずけん
制の攻撃を開始した。

「あ、ま、また?」
 リックの危機にまたしても焦ったヴァネッサだったが、その後の展開に
目を丸くする。
 一度目は良くわからなかったが、二度目はリリアが何かを投げつけてい
るのを目の当たりにした。
「へへへ、ただの石なんだけどね。」
 照れるように笑ったリリアは、手を開いて手のひらで握り隠せるほどの
小石を見せた。
「直接剣を持って戦わなくても、やれることはあるんだよ」
 ヴァネッサははじめてリリアを「冒険者の先輩」として実感した。

「あ、何をしている! 俺を守れ!」
 焦ったように叫ぶ男が手を振ったとき、左手にははめた指輪が淡く輝い
たのに二人は気がついた。
「ラズロ! 左手!」
 アベルは怒鳴りながら剣で切りかかった。
「わかってる!」
 リックは自身ありそうだったし、さっきも見事だったが、本職の戦士と
してはすぐにも援護に駆けつけてやりたい。
 二人は相手に何もさせる暇もなくかたをつけるつもりで連携してあたる
ことにしたのだった。


――――――――――――――――

2008/02/22 23:46 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所
立金花の咲く場所(トコロ) 55 /ヴァネッサ(周防松)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:ラズロ リリア リック 畑の妖精(?) コボルド三体 主犯格の男
場所:エドランス国 香草の畑

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


右目のまぶたの辺りが、時折ビクビクと震える。
ヴァネッサは、指先でまぶたを押さえた。
しばらく経ったところで、指を離してみる。
……治らない。

「どうしたの、ヴァネッサ」
リックとの絶妙なコンビネーションを見せるリリアが、コボルドへの攻撃の手をゆる
めないまま話しかけてくる。
「なんだか……ちょっと、まぶたが……」
「切れたの?」
「ううん。なんだか、震えるの。それが気になって……」
「うーん。魔法の使い過ぎ、とか?」
「わからないけど……」

ヴァネッサは、考え込む。
ギサガ村を出て、だいぶ経つ。
村にいた頃は頻発していた発作も、今ではほとんど起こらなくなっていた。
村の環境が悪いということではなく、アカデミーでの学習成果によって体質が改善さ
れてきているということである。
独学で使っていた魔法も、より効率的な使い方がわかってきて、体への負担が軽く
なっているのだ。
あとは、訓練。
魔法を重視した授業の取り方をしているヴァネッサだが、必須単位として最低限、護
身術程度の訓練を学んでいるのだ。
もっとも教官には「あなたは、武術にはあまり適正がないようですねぇ」と言われる
ような成績だが。

とにかく、以前のように魔法を使っただけで発作に苦しむこともなくなった。
だから、このまぶたの震えが「魔法を使ったため」とは断定できない。

(一体何なんだろう……?)


それが、男の指輪が淡い光を放った後から起きているのだということを、ヴァネッサ
は知らない。


リックはけん制のための攻撃をしながら、残りの体力を計算していた。
リリアとのコンビネーションがあるとはいえ、コボルドニ体を一気に相手にするのは
つらい。
持久戦に持ちこめない以上、そろそろ片をつけないと、危ない。
(あいつら、うまくやれるかな)
ちらり、とアベルとラズロのことが頭をよぎる。
援護に来て欲しいのはやまやまだが、二人は主犯格である男の相手をしているのだ。
アテにしないほうが、賢明だろうか。

ぐぎゃおっ、と威嚇のようなこえをあげて、コボルドニ体が襲いかかってくる。
その方向に向き直った瞬間――視界の片隅に、もう一体を捕らえた。

(同時に来たっ!?)

先に倒れていた一体が、起き上がってきたようだ。
彼らの間に作戦なんて高度なものはないだろう。
たまたま、襲いかかるタイミングが同時になってしまっただけだろう。

――不幸なことに。

「くっ!」

多少のダメージを覚悟して、目の前の一体を仕留めることに専念する。
渾身の力で突き出した剣はコボルドの足を貫き、動きを封じることに成功した。
――あとは……。

「リック!」

リリアが茂みから駆け出しかけた時。

「はいはーいっ」

突然、真っ白い布がコボルドに覆い被さる。
残ったコボルドニ体の体を縄のごとくぐるぐる巻き上げていくそれは……畑の妖精
だった。

「これぐらいしかできることないけど、まあ許してね」
「これぐらいって……充分だよ。助かった」

リックは荒い息をしつつ、額の汗を乱暴にぬぐった。
妖精は足に負傷したもう一体も、まとめて締め上げていく。
コボルド達はぐうむうとうなり声を上げ続けているが、妖精の締め上げる力は案外強
いらしく、どうにもならないようだ。

「大丈夫?」
「ちょっと……頑張りすぎたかな。くたびれた」
「やだなあ。まだまだ若いじゃないか」

まったくもって緊張感のない妖精の軽口に、リックは苦笑した。

「リック!」
「ケガはしてない?」

辺りへの警戒を怠らないリリアと、それに伴ってやってくるヴァネッサの姿があっ
た。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2008/03/05 19:03 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所
立金花の咲く場所(トコロ) 56/アベル(ひろ)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:ラズロ リリア リック 畑の妖精(?) コボルド三体 主犯格の男
場所:エドランス国 香草の畑

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「は、話が違う!」

 大ぶりに勢いよく振り下ろしたアベルの剣を、下がってかわしながら男が叫ぶ。
 一応ショートソードを持つ手を見れば素人ではなさそうだったが、

(こんな雑な攻撃を大げさにかわすとは……こいつ、剣のほうは大したことないな)

 初撃の攻防で相手の実力を測る、それはアカデミーの座学で学んだ戦士の初歩の
一つだった。
 いちいち確認はしないがラズロも同じ様に考えたはずだった。
 相手は何らかの魔法を使うものの、体術のほうはそれほどのものではない、とな
ると……。

「ぅらあっ!」

 アベルは怒声とともに、渾身の力をこめて切り上げる。
 その斬撃は迫力はあるものの、何の技もなく力任せに振るっただけだったので、
男にかすりもせずにかわされてしまう。
 
(よし!)

 しかしかわされることはアベルの狙い通りの結果であった。
 初撃から連続で力のこもった攻撃をされて、男の注意は完全にアベルに向いてい
た。
 さらに間合いも詰め切らず直線的な大ぶりは、下がってかわすという単純な動作
を男に選択させた。

「う、ぎゃ! いててててて!」

 初撃で見きった男の実力からアベルの意図を予測したラズロは、左から回り込む
ように走りこみ、左手をつかむとひじに手を当てて後ろにねじり上げ、そのまま肩
とひじの関節を決めて抑え込んだのだ。
 悲鳴をあげる男の手からショートソードをたたき落としたアベルは、ラズロが完
璧に抑え込んだことを確認すると、すぐに向きを変えた。

「リック! いまいく……ぞ?」

 すぐに援護に駆け戻らねば、と一息つく間もなく駆け戻ろうとしたアベルは、あ
げた声を呑みこんでたちどまった。
 ちょうどそのとき、リックたちはどこから取り出したのか白い布をコボルドにか
ぶせて捕縛している最中だった。
 その布は妖精が出したものらしく、アベルの位置からは膨れ上がった妖精がコボ
ルドを丸呑みにしているように見えた。


▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ 


「さて、と」

 アベルとラズロは縛り上げた男を引きずるようにして合流した。
 縛られたまま置きものかなにかのように硬直したコボルドたちの隣に男を転が
すと、
アベルがしゃがみこんで胸倉を掴んで上半身だけ苦しい形で引き起こし、いつでも切
り殺せるようにそのわきでラズロが抜き身の剣を突き付けた。

「コボルド程度とはいえ三体も使役してるわりに、やってることはせこいこそ泥、だ
な?」

 尋問なんて初めてだったが、いかにも格上を装って、ゆっくり言い聞かせるように
問いかけるアベルに、男はふてくされたように答えた。

「へっ! こそどろで悪かったな!」

 こそ泥なりのプライドなのか、単に諦めたのか。

(いや、おれたち見てなめたのかな?)

 結果から見るほど楽な戦いではなかった。
 事前の待ち伏せ。
 作戦通りの奇襲の成功。
 こちらの思惑がぴったり型にはまったからの結果だ。
 男がこちらに気が付いていたなら、無傷でとはいかなかったかもしれない。
 だがアベルはおそらくそういうことでなく、自分たちがまだ若い見るからに駆け出
しの寄せ集めのような構成であることから、大したことはされない、と男が判断した
のだろうと思った。
 貫禄が足らないのは今更どうにもならない、それでもアベルとラズロは男に聞くべ
きことがあった。

「おまえ、おもしろいこといってたな?」

 ラズロが底冷えするような冷たい声で言った。

「話が違うってなんだ?」

 男の顔は多少ひきつったように見えた見えた。
 しかし男は態度を変えようとはせず、

「はっ、しらねーよ。 それにもうつかまってんだからいいだろーが」

と、なげやりにいいはなった。
 本当なら痛めつけてはかす場面なんだろうというのはアベルもラズロも分かって
いたが、さすがにそれは躊躇する。
 戦いの中でなら躊躇はしない。
 戦乱にこそ縁はないこの国に育ったが、そんな甘い気持ちで戦死を名乗れるほ
ど平和
な世界でもないし、アカデミーでも心構えから鍛えなおされてもいる。
 しかし一度けりがついた状況下で暴力をひけらかすほどにはすれてもいなかった。
 珍しくお互いの気持ちを理解し合った二人は思わずリックをみる。

「ふーん、ひょっとしておっさんの余裕の元はこれかな?」

 リックはにやりと笑みを浮かべながら男のそばにしゃがみこみ、しばられた腕
の先、
その指先から指輪を抜き取った。
 すると、そばに転がっていたコボルドが、スーっと蜃気楼かなにかのように薄
くなって
のように消え去った。
 突然のことだったが、アカデミーできちんと座学も受けていたおかげでうろた
える必要
はなかった。
 
「やっぱり、あんたの魔法じゃなくて、魔法具か」

 アベルは腑に落ちた、というようにうなづいた。
 召喚かせんのうかなにかはわからなかったが、いずれにしろ低級とはいえ妖魔
を三匹も
使役する魔法使いにしてはほかの魔法の用意が何もなく、奇襲が成功したことを
差し引い
ても何か変に思っていたのだった。
 男はどのみち手を縛られていては力を行使するための必要なしぐさができない
ため、当
てにしてわけでなくたんにひらきなおっていただけだったが、今度ははっきり顔
色を変え
た。

「……ん? それ……」

 リックの肩越しにリリアと並んでのぞきこんでいたヴァネッサが首をかしげる。

「ん? どうかした?」
「んー、なんだかそれの魔力、あのときのに似てる気が……」

 アベルの問いに言いよどむヴァネッサ。
 今は発動してるわけじゃないため、かすかにしか感じられずはっきりしたこと
がわから
なかった。
 
「……こいつはアカデミーで調べてもらったほうがいいかもな」

 アベルはヴァネッサのいうあの時が何を指してるかすぐにわかり、思わぬ手が
かりかも
という期待がでてきていたが、冷静にそういうとリックに保管しとくように頼んだ。

「お、おまえらガキばっかりのくせに妙にこなれてやがると思ったが、アカデ
ミーのもんか!」

 男は今度こそ悲鳴のように叫んだ。

「お?」
「ほう?」
「へー?」

 アベル、ラズロ、リックはその様子にかおをみあわせてにやりと笑った。

「どうやら、アカデミーに連絡する必要ありそうだな」

 アベルはそういうと立ち上がってみんなを見渡した。

「よし、とりあえず村であずかってもらって、アカデミーに報告しよう」

 やってたことはこそ泥でも、どうにももいろいろ怪しい。
 ましてやヴァネッサの俺に関係があるかもしれない。
 これは一度アカデミーで先生とかの知恵を借りたほうがよさそうだ。


――――――――――――――――

2008/04/08 20:49 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所

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