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2025/03/10 07:34 |
立金花の咲く場所(トコロ) 57/ヴァネッサ(周防松)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:ラズロ リリア リック 主犯格の男 ワム ミノ
場所:エドランス国 ウサギ型眷属の村

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

五人が男を連行して村に戻る頃には、すでに空の淵が白くなり始めていた。
もうじき、朝日が昇るのだろう。

ヴァネッサは、早朝の冷えた空気を吸いこんだ。

――夜、という時間帯に、良い思い出はない。
長年、発作に苦しんできた時間帯だからだ。

だが、今は。
肺を満たす空気が、とても気持良かった。

――こうしている間にも、自分の人生の終わりが刻一刻と近付いていることを忘れる
ぐらい。


村に戻った五人は、真っ先にワムの家に向かった。
畑の妖精はついてこなかった。

『僕のいるべきところはここだよ』

妖精はそう言い、別れにハンカチを振って見送る女性のように、身体をひらひらさせ
ていた。

「解決したぜ!」

アベルが家のドアを開けると、ワムが出迎えに現れた。
ワムは見慣れない男が一人連行されてきたのを見ると、ことのあらましを察した。

「この男が、畑を荒らしていた犯人なのだな?」
「ああ。詳しい事情は後で話す」

ラズロが簡単に説明すると、ワムの目がうるうると光り出した。

「ありがとう。本当に、何と言ってよいやら……」

ワムはそう言って、頭を下げた。
その言葉には、感謝の気持がいっぱいにあふれている。

「礼なんかいいって」

アベルは笑いながら手をひらひらと振り、それから、あ、と声を上げた。
男の胸倉を掴んで引っ張り、ワムに近付ける。

「それでさ。こいつをしばらく預かって欲しいんだ」

ワムは首を傾げる。

「この男をか。かまわんが……何故だ?」
「アカデミー絡みで何かあるようなんだ。一旦戻って報告して、先生の指示を仰ごう
と思っている。処置が決まるまでの間、逃げられないように見張っていてもらいた
い」

ラズロの説明に、ワムは手をポンと打った。

「それなら、わしの家で預かるとしよう。床下に物入れがあるから、そこに放りこ
む」
「大丈夫なの?」

リリアが不安そうに見ると、ワムは大きく頷いた。

「大丈夫だとも。蓋には重しを載せてカギをかけておくし、物入れは頑丈な石ででき
ておるからな。掘って逃げるなどということもできんよ」
「それじゃ、よろしくお願いします」

リックが頭を下げると、男がギロリとワムをにらみつけた。

「てめえ、けだもの畜生の分際でよくも人間様に偉そうな――」
「うっさい!!」

男が言い終えぬうちに、怒声と共にリリアが男の足元に近い床をドガッと踏んづけ
る。
リリアはそれ以上余計なことは言わず、男を真下から睨み上げた。
その目には、恐ろしいほどの怒りの炎が宿っている。
少女とは思えぬ迫力に、男は真っ青になって「うひっ」といううめき声をあげ、静か
になった。

……どうやらこの男、一人になると途端にぐっと弱気になる性質のようだ。
おそらく逃亡を図るほどの度胸もあるまい。

「では、こちらへ連れてきてもらえるかな」
「はい」
「おら、来いっ」

アベルとラズロは男を引きずり、ワムの後について台所の方へ姿を消した。


「さあさあさあ、皆さん、お茶が入りましたよ。居間にいらっしゃいな」

そこへ、ワンピースにエプロンをつけたミノがやってきて、声をかけてくる。

「ありがとうミノさん」
「のどカラッカラよ、あたし」

リックに続いて、リリアがはしゃぎながら居間の方に駆けて行く。
自分も行こうとしたその時、ヴァネッサの脳裏にとある光景が甦った。

気がつくとヴァネッサは、リックの袖を掴んでいた。

「ねえ、リック」
「ん、何」

自分よりほんの少し上にあるリックの目を見て、ヴァネッサは深呼吸をした。

「今気付いたことがあるんだけど……」
「はあ」
「あのね、畑でコボルドと戦っている時、あの妖精さんと話してなかった?」

リックの肩が、ピクッと跳ねる。

「………………え?」

リックは、明らかにうろたえていた。
目が泳ぎ、呼吸も浅くなる。

「え、えーと。どうしてだろ? 自分でもわかんないな。あ、奇跡が起きたのかも」

額にうっすらと汗を浮かべ、上ずった声で話すといううろたえぶりははた目にも情け
なく、ヴァネッサは彼がかわいそうになってきた。

「あの、別に怒ってるわけじゃないの。ただ、通訳ができるんだったら名乗って欲し
かったな、って……」

そう付け足すと、リックが心底ほっとしたような表情を浮かべる。

「あ、ああ、そうか、そうだな。悪い悪い」
「それで……どうして妖精さんの言葉がわかるの? もしかして、最初からわかって
たの?」

ヴァネッサとしては、純粋に疑問をぶつけてみただけである。
他意は全くないし、困らせようというつもりもない。
だが、リックは困った顔をしてガリガリと頭をかいた。
どうやら答えにくい話のようである。

「あー……じゃあ、アベルとラズロが戻ってきたら、その辺りのこともちゃんと話す
わ。リリアも話したいことがあるんだし」

じゃ、と言ってヴァネッサの肩をポンと叩き、リックは居間に入っていく。

(私、そんなに変なこと聞いたかしら……?)

リックの困惑は、ヴァネッサにまで伝染したようである。


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2008/04/18 23:29 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所
立金花の咲く場所(トコロ) 58/アベル(ひろ)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:ラズロ リリア リック 主犯格の男 ワム ミノ
場所:エドランス国 ウサギ型眷属の村

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「それじゃあわしらは広間のところにいるんで、帰りにでも声掛けてくれたらい
いから、ゆっくり休んでてくれていいよ」

 この村では大事な話は広間に集まってするらしく、事の顛末や犯人の男を預
かったことを説明しに行くようだった。
 アベルたちには一休みしてから帰ることを勧めたウサギの夫婦は、そのままみ
んなを部屋に残したまま席を立った。
 恩人でもあるアベル達に対する警戒心はないらしく、皆にとっては、のんき
な、という思いと、信用されてることに対するくすぐったさがないまぜになり、何

となく顔を見合せて笑い合った。

「……信用ってさ、するのもされるのもいいよね」

 ウサギの夫婦が出て行った戸口を見ながら、リリアが言った。
 ヴァネッサはリリアが何かを言おうとしてるのを感じ、まじめな顔になって続
きを待った。
 アベルは姉の様子に感じるところがあったのか、リックに目をやる。
 ラズロは特に何をいでもなく、いつもの通り自然体でいるだけだった。
 リックはそんなラズロの様子に苦笑しながら、二人に目で「聞いてくれ」と伝
えた。

「うーん、そうね、まずはこれをみてくれる?」

 リリアは集中するように少し目を閉じてじっとしていたかと思うと、ゆっくり
目を開けた。
 その眼は動向が縦に細く収縮し猫科の獣によくみられる目を金色に光らせていた。

「どうかな?」

 リリアはそういいながら、見えやすいように机の上に手を出して見せた。
 その手の指の爪は鋭く突き出していたが、みている前で引っ込んだり出たりを
繰り返して見せた。

「ほんとはもっと変化するらしいんだけど、骨格とかさ、体型とか変わると服も
着てられなくなるしでずっとやってないから、ちょっと練習しないとできないみ

たいなんだ」

 そういってリリアはちょっと伺うように三人を見る。

「それって…・・・」

「うん、獣人、ライカンスロープってやつなんだ」

「ライカンスロープ……」

「うん、私は猫、人猫、ワーキャットってやつなんだ」

 呟くように言うヴァネッサにリリアは丁寧に答えた。
 そして不安そうにヴァネッサを見る。
 ヴァネッサも突然――薄々何かを感じてたとしても――のことに何を言っていいか
分からず息をのむ。
 なんとも言えない沈黙にリックが何か言おうとしたとき、伸びをするようにア
ベルが手を伸ばしてそのまま首の後ろに組んだ。

「ふーん、そうなんだ」

 ラズロは意に返さない感じで普通に茶をすすると机に置いた。

「ふむ、それで?」

 再び沈黙が下りたが今度は先ほどの重苦しさはなかった。
 なによりアベルとラズロは沈黙の意味が分からずに「ん?」と首をかしげ不思
議そうにしていた。

「……そ、そんな、二人とも!」

 ヴァネッサがそのあまりに軽い態度をたしなめようと、珍しくとがめるように
言った。
 しかしアベルはますます不思議そうに首をかしげる。

「ん? なにか深刻になるところあったか? リリアが獣人?で半猫?たっけ?
 そうだって話だろ?」

「そうだな、俺にもお前らが深刻な顔をしてるのがわからない」

 ラズロも同意するようにうなづいて、特にリックを見ていった。

「要するの昨夜の戦いで事前に報告し忘れてた特殊能力の話だろ? ちがうのか?」

 そんな二人にさらに何か言おうとしていたヴァネッサは、腰を浮かしかけたと
ころで何かに気づき、再び腰を落ち着けると、アベルたちのように首をかしげた



「…・・・あら? ほんとだわ」

 昨夜からのリリアの態度と今の真剣な様子に「大事な話」と雰囲気にのまれて
いたが、たしかに深刻になるような話ではなかった。
 近しい人としては初めてだが、あまり交流はないが同じクラスにもいたはずだ
し、レアスキルではあるが、それだけのことだった。
 キョトンとしてしまったヴァネッサを見て、リックがこらえきれないように肩
を震わせた。

「くっ!あ、はははは、そうだよな、ここではそんなもんだよ」

 リリアも安心したような顔をしていたが、笑い出したリックには不満そうに頬
をふくらませた。

「むー、仕方ないじゃない。 それでも……」

「はははは、は、いやすまない、そうだよな、不安だもんな」

 ひとしきり笑ったリックはますます不思議そうにするん人に簡単に説明をした。

 この国の外でのライカンスロープが差別の対象、いや迫害の対象で、地域に
よっては嫌われるどころか命すら脅かされるということ。
 リリアとリックはエドランスには損な差別はないと聞いて、一縷の望みを持っ
てここまで来たが、それでもなかなか他人に打ち明ける気にはなれずにいたこと


 そして、皆になら、「エドランスの人だから」でなくはじめて「仲間だから」
打ち明けてみたくなったこと。

 リックはどんなめにリリアがあってきたかを詳しくは語らなかったが、その口
ぶりから命を脅かされるほどの迫害がどんなものだったのかはよく伝わったよう

で、ヴァネッサは顔を曇らし、アベルは驚き、ラズロは眉をひそめて話を聞いた。

「そうだったの……でも、仲間として信頼されたのはうれしい」

 ヴァネッサは嘘偽りのない笑顔でリリアの手を握った。
 あわてて詰めを引っ込めたリリアは、ヴッネッサの両手に包まれた自分の手を
見て、ほんとにうれしそうに笑った。
 アベルたちは卷族と共生している。
 卷族が各地に暮らすためエルフに代表される亜人種の方が少ないぐらいのこの
国において、異業など珍しくもなく、例え獣化しようとも、人間の姿をベースに

するライカンスロープは、忌諱する対象にはなり得なかった。
 それゆえリリアの告白の重さは想像の域を出なかったが、それが信頼の証であ
ることはよくわかった。
 ヴァネッサはその心こそがうれしかったのだった。

 そんな女の子たちの様子と、思わぬところで信用を得ていたことを伝えられ
て、少し照れたようにしていたアベルだったが、ふいに思い出したようにリックを

見た。

「あれ? それじゃあリックの話ってのも?」

 だがリックは首をふるとにやりと笑った。

「いや? こっちはそんな大した話じゃないさ、見ればわかるよ」

 そういうと、何やら自分の頭を軽く叩くようにして「いいぞ、少しご挨拶だ」
と言った。
 まるで自らの頭に話しかけるような様子にさすがに少し引いてしまった三人
だったが、中でもアベルが最初にそれに気がついた。

「まめー」

 かすかにそんな声が聞こえた気がしたが、三人は幻想かとは思えなかった。
 ただ、冗談だとは思った。
 なぜなら、リックの髪の間からこちらを窺うように姿をのぞかせたそれは、

「マメ???」

「まあ」

「……非常識な」

 リックは予想どおり驚いてくれた三人に満足したようににやりと笑うと、自分
の頭を指していった。

「こいつはマメ太郎、なんだかよくわからない奴で、正直何で一緒にいるのか俺
にもわからない不思議生物な相棒だ」

 名前はリックがそう呼んでるだけで、「まめ」としかいわないこの相棒のこと
は実は何も分かってないという。

「別に調べたいとも思ってないんだ。 ただ、こいつはほんの少しだけ魔力を
持ってて小さい魔法を使って俺を助けてくれるんだ。 だからかがいのない相棒
なのさ。」
 
「それじゃあ、昨夜のは」

「ん、ああ、こいつが何かしてくれたんだろうな」

 ヴァネッサにそう返すと、こともなげに行ってのけた。
 ラズロがうなる。

「そうか、リトルラック……不思議と小さな幸運に恵まれ、実力以上のせいかを残
している期待のルーキーってことだったが」

 リックは自慢げに「こいつのおかげさ」といった。

「ただ、いつもあとから考えなと助けられたことに気付かない程度のことなん
で、あてにはできないんだ。 それで基礎から鍛えようと思ってな」

 アカデミーに来たということらしい。

「もう! そいつ出てきたせいでだいないしたよ!」

 せっかく感動してた空気を一気に持っていかれてリリアがふてくされたように
リックノアを蹴りつける。
 とはいえ、その顔はどこかてれてるようでもあった。
 リリアとしても、素直に感動してたのが照れくさいのだろう。
 いつものように掛け合いを始めた二人を見て、ヴァネッサは昨夜のことを思い
出していた。



 去り際、ヴァネッサとアベルの二人だけを読んだ妖精は、何やら呪文らしきも
のをとなえると、二人の額に手を触れた。
 するとふたりの脳裏に、お互いが食い合うようにしてからまる蛇を描いた紋章
のような図形が浮かんだ。

『やくそくだからね、ランバートはそれについて調べてるっていってた』

 詳しいことは妖精にはわからないらしい。
 旅の途中によったという父は、この紋章を掲げる組織は卷族の排斥、というよ
りも卷族と人間(亜人も含んだエドランスの国民のことらしい)の間に争乱を生も
うと暗躍しているらしく、念のために気をつけろと言いに来てくれたらしい。
 なんでもウサギの人たちは警戒心というものが薄いらしく、それにそういう組
織の話は卷族には伝えにくいので、気を配ってほしいと言いに来たらしいのだった。
 
『なんでも、ひょっとするとそもそも誤解だったかも知れなくて、それを証明す
れば呪いもといてもらえるかもっていってたよ』

 興味のないことに関心の薄い妖精はそこらへんの話は聞き流してたらしく、実
にあいまいだったが、アベルもヴァネッサも、父がまだヴァネッサを救うことを
あきらめてないどころか、なにか手掛かりをつかんでるらしいことに驚き、顔を
見合わせて喜んだ。
 ヴァネッサは父の無事に、アベルは姉を救う希望に。
 しかしその組織については、なんのな目にそんなことをしてるかは妖精は聞い
てないらしく、紋章以上の手がかりはなかった。

『でもさ、人間っては他者を拒絶することで結束することもあるから、手段と目
的に整合性があるととは限らないんじゃない?』

 そんな妖精に「まともなこと言った!」とおどろくアベルに

『これでも君たちより長く生きてる大先輩なんだぞ!』

 と怒り出す妖精をあとにしてきたのだった。



 リリアの話は遠い世界の話ではないのかもしれない。
 自分の身にではないとしても、たとえば、そう、この村や女将さんが迫害され
たらどんなに悲しいことだろう。
 そんなことをしようとしている人たちが身近にいるかもしれないのだ。
 ヴァネッサはアベルを見た。

「うん、もどったら先生にも相談してみよう。あの男のこともあるし」

 気持ちを察したアベルがヴァネッサにだけ聞こえるように言った。

「この国をリリアが住めないような世界にしないためにも」


――――――――――――――――

2008/05/29 11:55 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所
立金花の咲く場所(トコロ) 59/ヴァネッサ(周防松)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:ラズロ リリア リック セリア ギア
場所:エドランス国 アカデミー

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ウサギ型眷属の村での騒動を解決した一行は、首都に帰ってきてから二手に別れた。
ラズロ、リリア、リックはせせらぎ亭へ、女将に調味料の原料となる香草を渡しに向
かった。
一方のアベルとヴァネッサはアカデミーへ直行した。
香草の畑を荒らしていた犯人の処遇についての意見を求めるためと、妖精が教えてく
れた、あの紋章のことを伝えるために。

「絡み合う蛇……ねえ」

一連の話を聞き終えたセリアが、ほっそりした指をあごに当て、ふむ、と考え込む。
教務室に他の教師の姿はない。
授業やら何やらで、全員出払っているらしい。
他の人間にわずらわされず話ができるのは利点だった。

「どこかの家の家紋だったら、図書館に行けば資料があると思うが……」
「家紋とか、そういう立派なものじゃないと思います。悪い組織が使っているらしい
ですから」

悪い組織、と聞いてセリアの眉が動く。

「どんな紋章だった?」

その真剣な表情に、二人は気圧されかかった。

「ええと、お互いを食い合うように、2匹の蛇が絡み合ってる感じの紋章」

アベルは懸命に、身振り手振りなども交えて説明するが、セリアは今一つピンとこな
い様子で首を傾げた。

「なんだかわからないな、ちょっと描いてみてくれ」

セリアはそう言うと、机の上にあった羊皮紙と羽根ペン、それにインクつぼを二人の
前に置く。

「だからー、2匹の蛇がいて~」

アベルは羽根ペンを取ると、ガリガリと書きなぐり始めた。

「そんで、こう、絡み合ってて……」

ガリガリガリガリ。

「それが、お互いを食い合うみたいにー」

やがて形を成して来たそれは……蛇というよりも不恰好なミミズという表現がぴった
りだった。

「ぶわっはっはっは! 何だこりゃおい!」

唐突に声が上がり、三人はビクッと体を振るわせた。

「いやー、傑作だ傑作。お前、面白い才能あるなあ!」

――いつの間にか忍び寄っていたらしいギアが、出来あがった物を見て、腹を抱えて
爆笑している。

「笑うなよ! 俺、今まで絵なんか書いた事ねーんだから、しょうがねえだろ!」

真っ赤になってアベルが立ち上がると、「まあまあ」とギアは片手をひらひらさせ
た。

「じゃあ、ヴァネッサはどうだ? 描いてみな」

「あ、はい」

返事をしたものの……内心、ヴァネッサはゆううつだった。
ヴァネッサだって絵を描いたことなどほとんどない。
小さい時に、地面に小枝で落書きをしたことがある程度だ。
絵を描くことに関心のある方ではない、という自覚はある。
ヴァネッサは、絵を描くよりも花輪を作るほうがうんと楽しかった。

……だから、その腕前となると……。

数刻後、ヴァネッサは、黙って羽根ペンをインクつぼに入れた。

羊皮紙には、アベルが描いた物のさらに上を行くシロモノが描かれていた。
蛇どころか、こんがらがったミミズにすら見えないというのはどういうわけだろう
か。

その場にいた全員が、あんまりにもあんまりな出来映えに黙りこむ。
ギアの方も、女の子を相手に笑い飛ばすのは、さすがに良心が咎めるらしい。

「……すみません」

しゅんとするヴァネッサの頭に、セリアがいたわるように手を乗せる。

「頭の中には、ちゃんとあるんですけど……みんなにわかるように描くのは、ちょっ
と……」
「ま、まあ。しっかり覚えてる人間が二人もいるんだ、問題はないさ。見ればわかる
んだろう?」

かばうようなセリアの言葉が、余計みじめな気持ちを増幅させる。
(もう絵なんか描きたくない)とヴァネッサは思った。

「あ、そうだ、おっちゃん」

アベルが目をキラキラさせながらギアを見上げる。

「父ちゃん、生きてるって! 妖精が会ったんだって! あと、ヴァネッサの呪い、
もしかしたら解けるかもしれないって!」

それはアベルだけではなく、ヴァネッサにとってもうれしい情報だった。
だが二人だけで分かち合うべきではない。

ギアはほんの少し目を丸くしていたが、すぐにニカッと笑みを浮かべた。

「良かったな! そうか、あいつ生きてるのか!」

太い腕で、ぎゅうううっと二人を抱きしめる。
よほど嬉しかったのだろう、その腕には力がこもっていた。

「あ、それで……畑を荒らしてた奴はどうしたらいいんだろ? アカデミーの名前を
出したらビビってたから、たぶんアカデミーに関係してる気がするんだけど」

「そうだなー……ま、こっちに連れてきて、あらいざらい吐かせるか。その後、ギル
ドで手配されてるならギルドに引き渡してもいいし」

ギアは寝癖のついた頭をぼりぼりかいた。

「というかな、そいつ、もしかしたら俺の知ってる奴かもしれん。迎えに……っつう
か連行しに戻る時は俺も一緒に行くから、声かけてくれや」

「私も行こう」

三人が抱き合う様子を微笑ましそうに見ていたセリアが、片手を上げる。

「大人が二人ついて行くのが望ましいだろう。それに色々と自分で探ってみたい部分
があるからな」



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2008/06/04 00:16 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所
立金花の咲く場所(トコロ) 60/アベル(ひろ)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:ラズロ リリア リック セリア ギア
場所:エドランス国 アカデミー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「まあまあまあ、それじゃあ、今からいってくるの?」

 アカデミーでギアとセリアの外出手続きをして、せせらぎ亭まで一緒に来た四
人は、すぐにでも犯人を移送するためにウサギ村(命名リック)にいまから出かけ

ることを、届いた香草でさっそく仕込みを始めた女将に説明した。
 
「はい、曲がりなりにも村に害意を持つ人間ですから、一刻も早く引き取らない
といけませんし」

 セリアが言うとギアもうなづく。

「あの村の人達は気にしないでしょうけど、それに甘えるわけにもいきませんから」

 人達というかウサギ達というかはさておき、確かに村の方はそうう些細なこと
は気にしないだろう。
 アベル達は、犯人を連れて村に戻った時も、誰一人、犯人に対して敵意や怒り
を向けた者はいなかったことを思いだしていた。

「あらあらあら、それは確かにそうだけど……」
 
 女将は心配そうにアベルとヴァネッサをみた。

「二人も行くんでしょ? 昨日からまだ休んでないって言うし、大丈夫?」

 考えてみれば、ウサギ村で休憩を入れたとはいえ、仕込みに間に合うようにそ
の朝のうちに出発し、報告から今に至るわけでひと眠りもしていないのだった。

「女将さん、私たちは冒険者ですよ」

 セリアはおもわず苦笑してしまう。
 女将は「まあまあまあ」と驚いたように目を丸く(いや、いつも丸いのだが)し
たあと、ぽむと手を合わせてうなづいた。

「それもそうね」

 ふだんほわほわと優しげな女将だが、アカデミーでは優秀な成績で修士をおさ
め、ついには王都に店を持つほど冒険者として実績を積んできた、ギアですら頭
の上がらない大先輩でもある。
 アベル達が単なる下働きに預かってる普通の子供たちではなく、ある意味最も
厳しい冒険者の道を選んだ卵たちである以上、先輩からすれば二、三日寝れない
ぐらいで下手るようではむしろ叱り飛ばさねばならない立場なのだ。
 甘さは優しさではない、ほかならぬ女将自身がよく知っているのだった。

「そういうことなら仕方ないわね、で、ほかの三人は?」

「今度は移送の案内だけですし、ぞろぞろ言っても仕方ないので、二人だけ連れ
てきます」

 女将とセリアのやりとりを、席について聞いていたラズロ、リック、リリア
は、不満なようなほっとしたような顔で聞いていた。
 なんだかんだで先に休めると期待したのもつかの間、

「三人にはレポート仕上げてもらわなきゃなりませんしね」

 ギアがにやりと笑った。
 後ろで聞いていたリリアは机に突っ伏する。

「えー、休んでからじゃダメー?」

「お前ら一応たんに申請してるんだから、これも授業中の訓練の一環ってことで」

 ギアのいうことに納得した、というより、アベル、ヴァネッサより先に自分た
ちだけ休むのは気が引けるところだったせいもあって、三人とも「しかたない
かー」と頷き合った。

「今から出れば夜までには帰れるでしょう」

 セリアはそう言うと、促すようにアベル達を見た。

「そういうことなんで、昼からは休ませてください」

 頭を下げたアベルの頭を女将はぽんぽんとなでるように軽く叩いた。

「まあまあまあ、何を言ってるの。 これは私の以来の続きなんだから休みじゃ
ないわよ」

 女将はそういって奥の厨房を指さして笑った。

「でもお昼くらいは食べていきなさい。 必要のないところでする無理は違うわよ」

「そういや、お昼まだだった」

 思い出したように腹を押さえたアベルを皮切りに、皆空腹だったことを思い出す。

「よっし、それじゃあおれたちもまだだし、ここでお昼にして、それからそれぞ
れの仕事にかかるとしようや」

 ギアの提案にセリアも応じたので、アベルたちはまだ空いてない食道を借りて
お昼にした。
 女将の料理は手間をかけて仕込んだスープの煮込み料理で、おそらく昨夜のう
ちから帰ってきたら出そうと用意しておいてくれたのだろう、不思議と食べれば
食べるほど疲れが抜けて行くような特製の薬膳でもあった。

「よっしゃ! それじゃ行ってきます!」

「いってきます」

 食べ終わると休む間も惜しげに、アベルとヴァネッサが立ち上がり、つられて
皆も動き出した。


――――――――――――――――

2008/07/01 23:36 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所
立金花の咲く場所(トコロ) 61/ヴァネッサ(周防松)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:セリア ギア
場所:エドランス国 ウサギ型眷属の村付近

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

――二度目となるウサギ村への道中は、子供達だけだった時と違い、静かだった。
ギアとセリアが前を歩き、アベルとヴァネッサに時折どちらへ進むのかと質問するぐ
らいで、あとは余計な会話をしない。
しゃべればその分体力を消耗するから……ということらしい。

「その犯人、名前何ていうんだ?」

道中、前を歩くギアが唐突に呟いた。
……何かを手の中でいじくっている。

「あ……そういえば、聞き出してなかった」

アベルが頭をかく。
そういえば、犯人の名前を聞いていない。
縛り上げた時に張り飛ばすなり何なりして徹底的に締め上げれば、色々と情報を得ら
れたかもしれないが……アベルやラズロは平然とそれができる人間ではない。

「まあ、今回は別にいい。そいつ、もしかしたら手配されてる奴かもと思っただけだ
から」

ギアは、手の中でいじくっていた物を、ぐっと握りしめる。

「実物を見てねえから、もしかしたら違うかもしれねえけどな。そいつ、前にアカデ
ミーから指輪盗もうとした犯人だと思う」

「ええっ、そんな奴、いたのか!?」

アベルが驚いていると、ギアはしれっと「いたよ」と答えた。

「お前らが入学するだいぶ前だけどな。間抜けな奴で、指輪を保管してる部屋までは
来れたが、そこから先に進めなくて、罠に引っかかったんだ。ロープに引っかかって
ぷらぷら揺れてた」

ギアの説明に、セリアがうなずいている。

「まあ、逃げ足だけは早い奴だったな。取り押さえてちょっと目を離しているすき
に、全速力で逃げられた。まったく呆れたものだ」

今回は逃がしてたまるものか、とセリアが拳を手の平に打ちつける。
――気合充分、といったところか。

(そんなに凄い奴だったかなー……)

アベルは疑問に思う。
あの犯人に、アカデミーの教師に取り押さえられて逃げるという芸当ができるとは思
えないのだろう。
コボルド3匹がいなくなった途端弱気になり、リリアに凄まれては怯えていた姿が目
立っていたのだから、仕方ない反応である。

「で、だ。ちょっと見ろ……」

ギアは足を止め、手を開いて中身を二人に見せた。
ゴツゴツした大きな手に握られていたのは、犯人が持っていた指輪だ。
アカデミーに戻った時にセリアに渡したものを、ギアが受け取って色々と見ていたら
しい。

「ここに文字が入ってるんだよ。わかるか?」

ギアが指輪を傾け、内側が見えるようにすると……確かに、文字らしいものが刻み込
まれている。

「何て書いてあるんですか?」

ヴァネッサが尋ねると、ギアはしかめ面をして指輪を見つめた。

「んー……このテの場合、普通は名前とかだったりするけどな。セリア頼む」

やがて、セリアに向けて指輪を放る。
要するに、読めない、ということだろう。

「馬鹿者っ! 貴重な物を放ってよこす奴があるかっ!」

セリアはギアを一睨みしてから、指輪の裏側に目を光らせた。

「ええと……『 永久  我が子らよ  地平  願いて  うた  』 」

指輪を回しながら文字を追っていたセリアが、黙りこむ。

「……これだけだな」

「そんだけっ!?」

アベルが驚いた顔をする。
無理もない。
指輪の中に刻まれているのは、単語を並べただけと言うべきもので、文章として成り
立っていない。
これでは、一体何を伝えたいのかさっぱりわからない。

「ああ、そうだ。私の個人的な意見だが、一つのメッセージをいくつかに分けている
んだろう。探せばこの前後につながる文字の入った指輪もあると思う……」

セリアは難しい顔をして、手の中の指輪を見つめていた。

「アカデミーにある物も、いずれきちんと解読する必要がありそうだな。学園長に頼
んでみよ
う」


――指輪の淵が、太陽の光を反射して鋭い光を放っていた。


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2008/07/01 23:54 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所

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