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2025/03/10 13:21 |
立金花の咲く場所(トコロ) 58/アベル(ひろ)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:ラズロ リリア リック 主犯格の男 ワム ミノ
場所:エドランス国 ウサギ型眷属の村

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「それじゃあわしらは広間のところにいるんで、帰りにでも声掛けてくれたらい
いから、ゆっくり休んでてくれていいよ」

 この村では大事な話は広間に集まってするらしく、事の顛末や犯人の男を預
かったことを説明しに行くようだった。
 アベルたちには一休みしてから帰ることを勧めたウサギの夫婦は、そのままみ
んなを部屋に残したまま席を立った。
 恩人でもあるアベル達に対する警戒心はないらしく、皆にとっては、のんき
な、という思いと、信用されてることに対するくすぐったさがないまぜになり、何

となく顔を見合せて笑い合った。

「……信用ってさ、するのもされるのもいいよね」

 ウサギの夫婦が出て行った戸口を見ながら、リリアが言った。
 ヴァネッサはリリアが何かを言おうとしてるのを感じ、まじめな顔になって続
きを待った。
 アベルは姉の様子に感じるところがあったのか、リックに目をやる。
 ラズロは特に何をいでもなく、いつもの通り自然体でいるだけだった。
 リックはそんなラズロの様子に苦笑しながら、二人に目で「聞いてくれ」と伝
えた。

「うーん、そうね、まずはこれをみてくれる?」

 リリアは集中するように少し目を閉じてじっとしていたかと思うと、ゆっくり
目を開けた。
 その眼は動向が縦に細く収縮し猫科の獣によくみられる目を金色に光らせていた。

「どうかな?」

 リリアはそういいながら、見えやすいように机の上に手を出して見せた。
 その手の指の爪は鋭く突き出していたが、みている前で引っ込んだり出たりを
繰り返して見せた。

「ほんとはもっと変化するらしいんだけど、骨格とかさ、体型とか変わると服も
着てられなくなるしでずっとやってないから、ちょっと練習しないとできないみ

たいなんだ」

 そういってリリアはちょっと伺うように三人を見る。

「それって…・・・」

「うん、獣人、ライカンスロープってやつなんだ」

「ライカンスロープ……」

「うん、私は猫、人猫、ワーキャットってやつなんだ」

 呟くように言うヴァネッサにリリアは丁寧に答えた。
 そして不安そうにヴァネッサを見る。
 ヴァネッサも突然――薄々何かを感じてたとしても――のことに何を言っていいか
分からず息をのむ。
 なんとも言えない沈黙にリックが何か言おうとしたとき、伸びをするようにア
ベルが手を伸ばしてそのまま首の後ろに組んだ。

「ふーん、そうなんだ」

 ラズロは意に返さない感じで普通に茶をすすると机に置いた。

「ふむ、それで?」

 再び沈黙が下りたが今度は先ほどの重苦しさはなかった。
 なによりアベルとラズロは沈黙の意味が分からずに「ん?」と首をかしげ不思
議そうにしていた。

「……そ、そんな、二人とも!」

 ヴァネッサがそのあまりに軽い態度をたしなめようと、珍しくとがめるように
言った。
 しかしアベルはますます不思議そうに首をかしげる。

「ん? なにか深刻になるところあったか? リリアが獣人?で半猫?たっけ?
 そうだって話だろ?」

「そうだな、俺にもお前らが深刻な顔をしてるのがわからない」

 ラズロも同意するようにうなづいて、特にリックを見ていった。

「要するの昨夜の戦いで事前に報告し忘れてた特殊能力の話だろ? ちがうのか?」

 そんな二人にさらに何か言おうとしていたヴァネッサは、腰を浮かしかけたと
ころで何かに気づき、再び腰を落ち着けると、アベルたちのように首をかしげた



「…・・・あら? ほんとだわ」

 昨夜からのリリアの態度と今の真剣な様子に「大事な話」と雰囲気にのまれて
いたが、たしかに深刻になるような話ではなかった。
 近しい人としては初めてだが、あまり交流はないが同じクラスにもいたはずだ
し、レアスキルではあるが、それだけのことだった。
 キョトンとしてしまったヴァネッサを見て、リックがこらえきれないように肩
を震わせた。

「くっ!あ、はははは、そうだよな、ここではそんなもんだよ」

 リリアも安心したような顔をしていたが、笑い出したリックには不満そうに頬
をふくらませた。

「むー、仕方ないじゃない。 それでも……」

「はははは、は、いやすまない、そうだよな、不安だもんな」

 ひとしきり笑ったリックはますます不思議そうにするん人に簡単に説明をした。

 この国の外でのライカンスロープが差別の対象、いや迫害の対象で、地域に
よっては嫌われるどころか命すら脅かされるということ。
 リリアとリックはエドランスには損な差別はないと聞いて、一縷の望みを持っ
てここまで来たが、それでもなかなか他人に打ち明ける気にはなれずにいたこと


 そして、皆になら、「エドランスの人だから」でなくはじめて「仲間だから」
打ち明けてみたくなったこと。

 リックはどんなめにリリアがあってきたかを詳しくは語らなかったが、その口
ぶりから命を脅かされるほどの迫害がどんなものだったのかはよく伝わったよう

で、ヴァネッサは顔を曇らし、アベルは驚き、ラズロは眉をひそめて話を聞いた。

「そうだったの……でも、仲間として信頼されたのはうれしい」

 ヴァネッサは嘘偽りのない笑顔でリリアの手を握った。
 あわてて詰めを引っ込めたリリアは、ヴッネッサの両手に包まれた自分の手を
見て、ほんとにうれしそうに笑った。
 アベルたちは卷族と共生している。
 卷族が各地に暮らすためエルフに代表される亜人種の方が少ないぐらいのこの
国において、異業など珍しくもなく、例え獣化しようとも、人間の姿をベースに

するライカンスロープは、忌諱する対象にはなり得なかった。
 それゆえリリアの告白の重さは想像の域を出なかったが、それが信頼の証であ
ることはよくわかった。
 ヴァネッサはその心こそがうれしかったのだった。

 そんな女の子たちの様子と、思わぬところで信用を得ていたことを伝えられ
て、少し照れたようにしていたアベルだったが、ふいに思い出したようにリックを

見た。

「あれ? それじゃあリックの話ってのも?」

 だがリックは首をふるとにやりと笑った。

「いや? こっちはそんな大した話じゃないさ、見ればわかるよ」

 そういうと、何やら自分の頭を軽く叩くようにして「いいぞ、少しご挨拶だ」
と言った。
 まるで自らの頭に話しかけるような様子にさすがに少し引いてしまった三人
だったが、中でもアベルが最初にそれに気がついた。

「まめー」

 かすかにそんな声が聞こえた気がしたが、三人は幻想かとは思えなかった。
 ただ、冗談だとは思った。
 なぜなら、リックの髪の間からこちらを窺うように姿をのぞかせたそれは、

「マメ???」

「まあ」

「……非常識な」

 リックは予想どおり驚いてくれた三人に満足したようににやりと笑うと、自分
の頭を指していった。

「こいつはマメ太郎、なんだかよくわからない奴で、正直何で一緒にいるのか俺
にもわからない不思議生物な相棒だ」

 名前はリックがそう呼んでるだけで、「まめ」としかいわないこの相棒のこと
は実は何も分かってないという。

「別に調べたいとも思ってないんだ。 ただ、こいつはほんの少しだけ魔力を
持ってて小さい魔法を使って俺を助けてくれるんだ。 だからかがいのない相棒
なのさ。」
 
「それじゃあ、昨夜のは」

「ん、ああ、こいつが何かしてくれたんだろうな」

 ヴァネッサにそう返すと、こともなげに行ってのけた。
 ラズロがうなる。

「そうか、リトルラック……不思議と小さな幸運に恵まれ、実力以上のせいかを残
している期待のルーキーってことだったが」

 リックは自慢げに「こいつのおかげさ」といった。

「ただ、いつもあとから考えなと助けられたことに気付かない程度のことなん
で、あてにはできないんだ。 それで基礎から鍛えようと思ってな」

 アカデミーに来たということらしい。

「もう! そいつ出てきたせいでだいないしたよ!」

 せっかく感動してた空気を一気に持っていかれてリリアがふてくされたように
リックノアを蹴りつける。
 とはいえ、その顔はどこかてれてるようでもあった。
 リリアとしても、素直に感動してたのが照れくさいのだろう。
 いつものように掛け合いを始めた二人を見て、ヴァネッサは昨夜のことを思い
出していた。



 去り際、ヴァネッサとアベルの二人だけを読んだ妖精は、何やら呪文らしきも
のをとなえると、二人の額に手を触れた。
 するとふたりの脳裏に、お互いが食い合うようにしてからまる蛇を描いた紋章
のような図形が浮かんだ。

『やくそくだからね、ランバートはそれについて調べてるっていってた』

 詳しいことは妖精にはわからないらしい。
 旅の途中によったという父は、この紋章を掲げる組織は卷族の排斥、というよ
りも卷族と人間(亜人も含んだエドランスの国民のことらしい)の間に争乱を生も
うと暗躍しているらしく、念のために気をつけろと言いに来てくれたらしい。
 なんでもウサギの人たちは警戒心というものが薄いらしく、それにそういう組
織の話は卷族には伝えにくいので、気を配ってほしいと言いに来たらしいのだった。
 
『なんでも、ひょっとするとそもそも誤解だったかも知れなくて、それを証明す
れば呪いもといてもらえるかもっていってたよ』

 興味のないことに関心の薄い妖精はそこらへんの話は聞き流してたらしく、実
にあいまいだったが、アベルもヴァネッサも、父がまだヴァネッサを救うことを
あきらめてないどころか、なにか手掛かりをつかんでるらしいことに驚き、顔を
見合わせて喜んだ。
 ヴァネッサは父の無事に、アベルは姉を救う希望に。
 しかしその組織については、なんのな目にそんなことをしてるかは妖精は聞い
てないらしく、紋章以上の手がかりはなかった。

『でもさ、人間っては他者を拒絶することで結束することもあるから、手段と目
的に整合性があるととは限らないんじゃない?』

 そんな妖精に「まともなこと言った!」とおどろくアベルに

『これでも君たちより長く生きてる大先輩なんだぞ!』

 と怒り出す妖精をあとにしてきたのだった。



 リリアの話は遠い世界の話ではないのかもしれない。
 自分の身にではないとしても、たとえば、そう、この村や女将さんが迫害され
たらどんなに悲しいことだろう。
 そんなことをしようとしている人たちが身近にいるかもしれないのだ。
 ヴァネッサはアベルを見た。

「うん、もどったら先生にも相談してみよう。あの男のこともあるし」

 気持ちを察したアベルがヴァネッサにだけ聞こえるように言った。

「この国をリリアが住めないような世界にしないためにも」


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2008/05/29 11:55 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所

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