PC:スーシャ ロンシュタット
NPC:バルデラス 自警団長 団員
場所:セーラムの街 宿屋
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ドアを開けて、一番最初に入って来たのは団長だった。
スーシャは自分でもびっくりするほど、そのことに落胆していた。
「やあ、スーシャ。少しばかり話を聞かせてもらいたいんだが、いいかな?」
入るなり、団長はそう言って少しだけ身を屈めてくる。
「いやだ」という答えは認めないような、妙な威圧感があった。
続いてスーシャをかくまってくれた団員が、ひどくばつの悪そうな、すまなそうな顔
をして入ってくる。
彼はスーシャを見ると、気の毒がるような目をした。
最後に入って来たのはロンシュタットだ。
出会った時とほとんど変わらない無表情で入ってくると、壁に寄りかかって立った。
まるで観察するかのような態度である。
「さっそく話を始めよう。スーシャ、君は彼の名を知っていたのかな?」
「彼、って……」
スーシャはやたらビクビクしながら答えた。
団長を前にすると、どうしてか足が震えるのだ。
「ロンシュタット。あの青年のことだよ」
「あの」のところで団長はロンシュタットをあごで指した。
「は、はい。知ってます」
「いつ、彼の名を知った?」
いつ、というと……。
「あ、あの……」
唐突に、「剣がしゃべったのだ」と正直に言って、信じてもらえるだろうかという不
安がこみ上げてきた。
おそらく信じてはもらえないだろう。
そういえば自分はすんなり受け入れているが、剣がしゃべるなんて、本当はあまりに
突飛な話だ。
「バルデラスさんに教えてもらったんです」
「ほう」
団長がわずかに眉を動かす。
「それは誰かね。この街に、そんな名前の人間はいなかったと思うが」
「あの、ロンシュタットさんと一緒にいて……」
――わたしがロンシュタットさんの名前を知っているのが、そんなに問題なのかな。
スーシャは不意に違和感を覚えたが、わざわざ口に出して言えるほど、強気ではな
かった。
「団長、もういいじゃありませんか」
スーシャを匿った団員が、たまりかねたように声を上げる。
ゆっくりと、団長がそちらに視線を向けた。
「少し落ちついて下さいよ。一体どうしたんですか。いつもの団長らしくないです
よ、名前ぐらいでムキになって、小さい女の子相手にネチネチ聞き出すなんて。かわ
いそうに、怖がってるじゃないですか」
「らしくない……か。君はなかなか鋭いね」
団員の顔に緊張が走る。
たった今答えた団長の声に、別の誰かの声が混ざって聞こえたのだ。
異常を感じ、いぶかしげな表情を浮かべながらなおも何かを言おうとすると。
「ああ、怖がらなくていいんだよ。あともう少しだけ話を――」
出し抜けに、団長の大きな手が、スーシャのやせ細った小さな肩をつかんだ。
スーシャは目を見開き、ひくっ、と呼吸を止めた。
その途端のことだった。
「……っぐ、ぐあああああっっ」
肉の焦げる嫌な匂いとともに、団長の巨躯がその場に崩れた。
手を押さえ、苦しげなうめき声を上げ続けている。
――見ると、スーシャの肩をつかんだ団長の手が、黒く焦げていた。
「あ……があ……!」
――どうしてこんなことになったのか、わからない。
苦しむ団長を前に、スーシャはひたすらおろおろするばかりだった。
何もしていないのに、団長が大やけどを負ってしまった。
自分のせいだろうか。
でもわたしは何もしてない。
こう言っては悪いような気がするけれど、勝手にやけどを負ったのだ。
でも、謝らなくちゃいけないのかな。
少し前まで日常的に行動を支配していた思考の癖が、頭をもたげてくる。
団長が、顔を上げる。
わかりやす過ぎるほどの憤怒の表情が浮かび、まるで悪鬼のようだった。
「おのれぇ……っ! おとなしく体を引き裂かれていれば良いものを、無駄な抵抗を
!」
団長の声に混ざっている別の声が、さっきよりも大きく聞こえる。
「小娘と思って油断していたぞ。よくもこんなことを……」
全身の筋肉がぶるぶる震えながら、盛り上がる。
団長の腕は、まるで丸太みたいに太くなって見えた。
わたしをこれで引き裂こうとしていたのか、と思うと、スーシャの体を寒気が襲う。
――唐突に、人影が動いた。
「おい、あんた! スーシャちゃんを連れて逃げろ!」
団員が、素早く後ろに回って団長の体を羽交い締めにし、ロンシュタットに叫んでい
た。
ロンシュタットはすでに、壁から身を離していた。
だが、臨戦体勢というわけではなく、腕組みをしていた。
「団長はもう、おれ達の知ってる団長じゃない! 早く逃げろ、ここはおれが抑える
!」
「……よせ」
叫ぶ団員に、ロンシュタットがぽつりと呟いた。
「な……馬鹿野郎、早くしろよ! おれじゃそんなにもたないぞ!」
「そうだな。よくわかっている」
ひた、と見据えられて、団員は、どういう意味だ、という表情を浮かべた。
「お前ではそいつを抑えられない」
冷静にロンシュタットが告げた、そのほんの一瞬の後。
団長が、背中に貼りついていた団員の体を引っつかみ、床に叩きつけた。
その勢いはすさまじく、団員の頭は完全に床にめりこんでいた。
床から生えた団員の体が、ビクビクと痙攣している。
どうやら彼の頭は床を突き抜けているらしい。
――階下から、悲鳴と絶叫と怒号が沸いてきた。
「っかー。馬鹿だねぇ。ここまで隠して来れたんだから、最後まで隠しておきゃいい
のに。詰め甘いんじゃねえ?」
バルデラスのからかうような声に、『団長』は血走って真っ赤になった目をむいた。
「何だと……?」
その声は、すでに団長自身のものではなくなりつつあった。
妙にしゃがれて低い、嫌な響きの声が、彼の口から漏れている。
「おーおー。ナマイキ」
バルデラスがケタケタと楽しそうに――どこが楽しいのかさっぱり不明だが、実に楽
しそうに笑い声を上げた。
「いるんだよな、時たま。実体化できねえ低級の奴が、人間の体乗っ取って悪さすん
だよ。なあ、お前、その程度だもんな。ザコだよザコ。どんだけすごいのがいるかと
思ったら、まさかこんなザコだったとはなぁ!」
「愚弄する気か!」
咆哮にも似た叫びが、団長の口から発せられる。
その凄まじいこと。
宿屋全体が、ビリビリと揺れた。
スーシャは、青白い顔で浅い呼吸を繰り返しながら、ただ、団員のことだけを考えて
いた。
助けに行きたい。
もしかしたら、まだ間に合うかもしれない。
だが――彼は、団長の足元にいるから、近寄れない。
彼の痙攣は、しだいに間隔を長く置いて引き起こされるようになっていた。
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NPC:バルデラス 自警団長 団員
場所:セーラムの街 宿屋
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ドアを開けて、一番最初に入って来たのは団長だった。
スーシャは自分でもびっくりするほど、そのことに落胆していた。
「やあ、スーシャ。少しばかり話を聞かせてもらいたいんだが、いいかな?」
入るなり、団長はそう言って少しだけ身を屈めてくる。
「いやだ」という答えは認めないような、妙な威圧感があった。
続いてスーシャをかくまってくれた団員が、ひどくばつの悪そうな、すまなそうな顔
をして入ってくる。
彼はスーシャを見ると、気の毒がるような目をした。
最後に入って来たのはロンシュタットだ。
出会った時とほとんど変わらない無表情で入ってくると、壁に寄りかかって立った。
まるで観察するかのような態度である。
「さっそく話を始めよう。スーシャ、君は彼の名を知っていたのかな?」
「彼、って……」
スーシャはやたらビクビクしながら答えた。
団長を前にすると、どうしてか足が震えるのだ。
「ロンシュタット。あの青年のことだよ」
「あの」のところで団長はロンシュタットをあごで指した。
「は、はい。知ってます」
「いつ、彼の名を知った?」
いつ、というと……。
「あ、あの……」
唐突に、「剣がしゃべったのだ」と正直に言って、信じてもらえるだろうかという不
安がこみ上げてきた。
おそらく信じてはもらえないだろう。
そういえば自分はすんなり受け入れているが、剣がしゃべるなんて、本当はあまりに
突飛な話だ。
「バルデラスさんに教えてもらったんです」
「ほう」
団長がわずかに眉を動かす。
「それは誰かね。この街に、そんな名前の人間はいなかったと思うが」
「あの、ロンシュタットさんと一緒にいて……」
――わたしがロンシュタットさんの名前を知っているのが、そんなに問題なのかな。
スーシャは不意に違和感を覚えたが、わざわざ口に出して言えるほど、強気ではな
かった。
「団長、もういいじゃありませんか」
スーシャを匿った団員が、たまりかねたように声を上げる。
ゆっくりと、団長がそちらに視線を向けた。
「少し落ちついて下さいよ。一体どうしたんですか。いつもの団長らしくないです
よ、名前ぐらいでムキになって、小さい女の子相手にネチネチ聞き出すなんて。かわ
いそうに、怖がってるじゃないですか」
「らしくない……か。君はなかなか鋭いね」
団員の顔に緊張が走る。
たった今答えた団長の声に、別の誰かの声が混ざって聞こえたのだ。
異常を感じ、いぶかしげな表情を浮かべながらなおも何かを言おうとすると。
「ああ、怖がらなくていいんだよ。あともう少しだけ話を――」
出し抜けに、団長の大きな手が、スーシャのやせ細った小さな肩をつかんだ。
スーシャは目を見開き、ひくっ、と呼吸を止めた。
その途端のことだった。
「……っぐ、ぐあああああっっ」
肉の焦げる嫌な匂いとともに、団長の巨躯がその場に崩れた。
手を押さえ、苦しげなうめき声を上げ続けている。
――見ると、スーシャの肩をつかんだ団長の手が、黒く焦げていた。
「あ……があ……!」
――どうしてこんなことになったのか、わからない。
苦しむ団長を前に、スーシャはひたすらおろおろするばかりだった。
何もしていないのに、団長が大やけどを負ってしまった。
自分のせいだろうか。
でもわたしは何もしてない。
こう言っては悪いような気がするけれど、勝手にやけどを負ったのだ。
でも、謝らなくちゃいけないのかな。
少し前まで日常的に行動を支配していた思考の癖が、頭をもたげてくる。
団長が、顔を上げる。
わかりやす過ぎるほどの憤怒の表情が浮かび、まるで悪鬼のようだった。
「おのれぇ……っ! おとなしく体を引き裂かれていれば良いものを、無駄な抵抗を
!」
団長の声に混ざっている別の声が、さっきよりも大きく聞こえる。
「小娘と思って油断していたぞ。よくもこんなことを……」
全身の筋肉がぶるぶる震えながら、盛り上がる。
団長の腕は、まるで丸太みたいに太くなって見えた。
わたしをこれで引き裂こうとしていたのか、と思うと、スーシャの体を寒気が襲う。
――唐突に、人影が動いた。
「おい、あんた! スーシャちゃんを連れて逃げろ!」
団員が、素早く後ろに回って団長の体を羽交い締めにし、ロンシュタットに叫んでい
た。
ロンシュタットはすでに、壁から身を離していた。
だが、臨戦体勢というわけではなく、腕組みをしていた。
「団長はもう、おれ達の知ってる団長じゃない! 早く逃げろ、ここはおれが抑える
!」
「……よせ」
叫ぶ団員に、ロンシュタットがぽつりと呟いた。
「な……馬鹿野郎、早くしろよ! おれじゃそんなにもたないぞ!」
「そうだな。よくわかっている」
ひた、と見据えられて、団員は、どういう意味だ、という表情を浮かべた。
「お前ではそいつを抑えられない」
冷静にロンシュタットが告げた、そのほんの一瞬の後。
団長が、背中に貼りついていた団員の体を引っつかみ、床に叩きつけた。
その勢いはすさまじく、団員の頭は完全に床にめりこんでいた。
床から生えた団員の体が、ビクビクと痙攣している。
どうやら彼の頭は床を突き抜けているらしい。
――階下から、悲鳴と絶叫と怒号が沸いてきた。
「っかー。馬鹿だねぇ。ここまで隠して来れたんだから、最後まで隠しておきゃいい
のに。詰め甘いんじゃねえ?」
バルデラスのからかうような声に、『団長』は血走って真っ赤になった目をむいた。
「何だと……?」
その声は、すでに団長自身のものではなくなりつつあった。
妙にしゃがれて低い、嫌な響きの声が、彼の口から漏れている。
「おーおー。ナマイキ」
バルデラスがケタケタと楽しそうに――どこが楽しいのかさっぱり不明だが、実に楽
しそうに笑い声を上げた。
「いるんだよな、時たま。実体化できねえ低級の奴が、人間の体乗っ取って悪さすん
だよ。なあ、お前、その程度だもんな。ザコだよザコ。どんだけすごいのがいるかと
思ったら、まさかこんなザコだったとはなぁ!」
「愚弄する気か!」
咆哮にも似た叫びが、団長の口から発せられる。
その凄まじいこと。
宿屋全体が、ビリビリと揺れた。
スーシャは、青白い顔で浅い呼吸を繰り返しながら、ただ、団員のことだけを考えて
いた。
助けに行きたい。
もしかしたら、まだ間に合うかもしれない。
だが――彼は、団長の足元にいるから、近寄れない。
彼の痙攣は、しだいに間隔を長く置いて引き起こされるようになっていた。
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