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2025/03/10 06:25 |
ファブリーズ 29/アーサー(千鳥)
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PC:ジュリア アーサー
NPC:自称騎士(ヴァン・ジョルジュ・エテツィオ)
  エンプティ バルメ レノア チャーミー
場所:モルフ地方東部 ― ダウニーの森

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 痛々しい焼け跡を残しながらも、ダウニーの森は穏やかな森の気配を取り戻しつつ
あった。
 木々の隙間からは朝日が差し込み始め、陰鬱で不気味な夜――魔の支配する時刻
――は終わり を告げようとしている。

 俺達は、疲れ果てた身体をひきずるように、無言で魔女の待つ元へと足を向けた。

 手ぶらでの帰還だ。
 気がついた時には竜の身体は跡形もなく消え去り、ジュリアがその場を示さなけれ
ば、俺達は 竜の唯一残した焼け跡にすら気がつかなかった。
 エンプティの言葉が真実ならば、あの竜の正体は魔女の子供であるという。
 彼女の使い魔たちのように、魔法で異形に変えられたのか、宮廷魔道師というバル
メの立場が そうさせたのか。
 理由に興味はなかったが、子を失った狂った魔女が、約束どおりチャーミーを返し
てくれるの かが心配だった。

「ぶ、ふわっくしゅん!」

 前方を歩く騎士が、身体を震わせて盛大にくしゃみをした。
 ちちち、と小枝の上で朝のさえずりを始めた小鳥達が空に散る。
 朝方の空気は、夜よりもずっと冷え込んで身体にこたえる。
 失礼。と詫びを入れた騎士はポケットからハンカチを出すと鼻をかんだ。

「そのように血まみれでは仕方ありませんね。あなたに神のご加護があらんことを」
「きっと、従者が僕を探して悪口でも言っているのでしょう」

 夜会に来たはずが、もうすっかり朝だ。
 先に帰したエリス女史もおそらく心配している事だろう。
 もちろん彼女が心配しているのは、俺の安否ではなく、今日俺が仕事で使い物にな
るか、だっ たが。

「まだ終わったわけじゃないぞ」

 ジュリアが気の緩んだ俺達をたしなめるように会話に加わった。
 そんな彼女の黒いドレスも所々破れ、内側のレースが露出している。
 二度とこのドレスが夜会で披露されることはないだろう。
 もっとも、彼女の職業を考えれば、夜会にでる機会などそうそうないだろうが。

「そうですね。ジュリアさん、森から帰った是非ご一緒にお茶でも・・・」
「アイツはどこに行った?」

 目の前をハエを追いやるような仕草をしてジュリアは俺の言葉を無視した。
 折角の紅一点なのだから、もう少し愛想を振りまいてくれてもいいものだが・・・い
や、その考え は女性蔑視に繋がる、とフェミニストの俺は考えることで己を慰め
た。

 アイツ、とはエンプティのことだ。
 つい先ほどまで最後尾にいたはずの魔法使いはいつの間にか姿を消していた。
 恐らく一足先にバルメの様子を伺いに向かったのだろう。
 
「もし、バルメが我々の要求を拒んだら、その時は騎士殿」

 自分に向けられた言葉に、ヴァンはごくりと息を飲んだ。
 
「貴方が魔女をしとめてください。伝承を本物にするチャンスですよ」

 
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 子供達を攫った悪い魔女は、騎士の手によって倒され、古木に姿を変えたのでし
た。


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「お帰りなさい。みんな無事で何よりだわ」

 俺達を迎えた魔女は、行きと同様穏やかな微笑を浮かべて立っていた。
 しかし、その姿はある点で先ほどと一つ、大きく異なっていた。

「ええ、再び貴女にお会いするために死力を尽くしました」

 俺の声が、どんなビジネスの交渉時よりも甘く優しいものになる。
 ジュリアの呆れたような軽蔑するような眼差しが視界の端に映ったが、気にしない
ことにした 。
 何故なら、そこに立っていたのは妙齢のとても美しい女性だったのだから。

 まるで、竜を倒したことですべての悪い魔法が解けたようだった。

 老木の化身のような魔女は、美しい女性に。
 猫の使い魔は愛らしい金髪の少年に。
 梟の兄弟は、お互いの手を握ってすやすやと眠っていた。
 チャーミーに生えていた不自然な角や羽も姿を消していた。

「ん?・・・この女性は・・・?」

 ヴァンは直ぐに状況が飲み込めなかったようだ。
 目の前に立つ女を不思議そうに眺めていた。

「よく、竜を倒してくださいました。騎士さん」
「はっはっは!僕の手にかかれば竜など赤子の手をひねるようなものだ!」

 それでも、褒められるとまんざらでもない様子で、竜との決闘の様子を語り始め
た。
 彼らは竜の正体を知らない。

「悪の化身など、正義の剣の前では・・・」
「それでですね」

 バルメの機嫌が悪くなる前に、この男の口を塞がなければ。
  

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2008/05/23 02:54 | Comments(0) | TrackBack() | ●ファブリーズ

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