PC:礫 メイ
NPC:カイン・レーベンドルフ
場所:ポポル
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男が礼儀正しく椅子に座っている。
男はカイン・レーベンドルフと名乗った。心底困り果てたような、疲れたような複雑な
表情をしている。髪は明るいライトブラウンで、平凡で素朴な顔立ちだ。暫く会わなけれ
ば忘れてしまいそうな、普通の顔だ。彼の家も彼と同様、普遍的で質素である。扉を入っ
て直ぐのところに居間があり、樫の木の四人がけのテーブルがある。台所は居間の奥まっ
たところにある。他に二部屋あるようだ。
テーブルを挟んだ反対側には礫とメイがいる。礫は椅子に、メイはテーブルの上に座っ
ている。
「さて、詳しい話を聞かせてください」
礫が切り口上に口火を切った。
「はい。実は……小人が夜中に騒いでいまして、夜も寝られないんです」
括目して見れば目の下にくまがある。熟睡したことが無い、というのはどうやら本当の
ようだ。小人というくだりに引っ掛かりがある。
「それが小人の仕業だとわかったのはいつですか?」
「先月です。夜中にこっそり見張っていたんです。そうしたら、破けた服を着た色黒で毛
の生えた小さいものたちが、なにやら騒いでいるんです。家畜を騒がせたり、皿や食器を
割られたり。空き部屋で物音がしたり。……一度なんか、朝起きたらミルク壷が倒されて
いたりしたんです。それで……夜も寝られない有様で、どうしようかと悩んでいたところ、
隣のジグジーさんがギルドに依頼を出してはどうかと言ってくれて」
礫とメイは一瞬顔を見合わせた。礫が続けてさらに質問した。
「何か心当たりは無いんですか?」
「さあ……? こちらが訊きたいほどです。あ。始まった時期ならはっきりしています。
丁度一ヶ月前からでした」
始まった時期を言われても、何が解る訳でもない。誰かがけしかけたというなら話は解
るが、ことはそれ程複雑ではないらしい。ただの自然現象だろう。
「待てよ。…………破けた服を着て色黒で毛の生えた小さな生き物…………ひょっとした
ら、小人じゃないかもしれないぞ」
礫は独りごちた。
一般的な小人の容姿とは少し違うような気がした。背丈が小さいのは共通しているよう
だが、普通の小人が悪さをするとも思えない。それも、家屋の中に限定しているようだ。
――母屋続きの家畜小屋は例外だが。
「とりあえず、様子を見させてもらいます」
■□
深夜。昼に動く者が皆寝静まった頃、夜行性の生き物達が活動を開始する頃合。例の小
人さんが動き出す時刻でもある。灯りは蝋燭を燭台に立てたもの一つだけ。見つかるわけ
にはいかないので、周りを紙で囲ってある。
どこに現れるか解らないので、寝室で息を殺して待つことにした。
暫時の後、動きがあった。
何か、引き摺るような音がする。台所の方からだ。
「来ました。あいつの歩く音です」
小声でカインが説明する。カインは一度様子を見ているから解るのだ。
礫は足音を立てずに扉に近付き、扉を絹糸のように細く開いてみる。布製の靴に履き替
えておいたから、音は立たない。開いた扉の隙間からそっと覗くと、破けた服を着た色黒
で毛の生えた小さいものたちが床を歩いている。暫瞬の後に、砂糖の入った袋をひっくり
返したり、水瓶をひっくり返したりした。この行為が執拗に繰り返されているとなると、
手の負えない妖精の類かもしれない。そう思って、礫は肩の上にちょこんと乗っているか
わいい妖精に訊いてみることにした。妖精のことは妖精に訊け、だ。
「メイちゃん。あいつのこと、何か知らない?」
礫が小声で訊ねる。
「んーっとね、確かボガートっていう性悪妖精だよ。いたずらばっかりするの」
突然隣の台所で大きな音が響いた。皿が割れるような音だ。隙間から見ると、本当にボ
ガートが皿を割っていた。
「ああっ! うちの皿が……」
かわいそうだが、歯噛みするしかない。
「物理攻撃は効くの?」
礫がメイに発問する。
「んー? わっかんないなー? やってみれば?」
足をぶらぶらさせながら言うメイ。実際に攻撃するのは礫の仕事だから、気が重いのは
礫の方だ。
礫はそっと扉を開け広げると、足音を立てないように注意しながらボガートの直ぐ後ろ
まで近付いていく。ボガートは皿を割るのに夢中になっていて、気付かない。居合い斬り
の要領で、抜き打ち様にボガートを斬る。一瞬、実像がぶれたが、また元に戻る。そこで
やっと、礫の存在に気付いたかのように振り向くボガート。二言三言、妖精語で話しかけ
てきた。メイはそれに答えるように妖精語で返す。
「なんて言ったの?」
すかさず礫が訊ねる。
「俺の遊びを邪魔するなって」
メイは素直に通訳してくれた。
「遊びって! 何も僕の家で遊ばなくてもいいじゃないか!」
泣きそうになりながらカインが抗議する。礫はなんだか気の毒に思えた。どちらが、で
はなく、両方とも、だ。ボガートはボガートで家の中でしか行動できないだろうし、かと
いって家の中で暴れられても家主としてはいい迷惑である。どうしたものかと思案する。
ボガートを説得するにしても、骨が折れそうである。
その日はとりあえず場を締めて、翌日に持ち越すことにした。
■□
次の日の朝。早速会議を開いた。
「何か良い案は無いかな?」
礫はメイに訊いてみた。妖精同士だから何かあるかもしれない。すると、
「うーん、強力な魔法だったら追い払えるかもしれない……」
ボガートは強力な魔法じゃないと追い払えないという。
「ポポル近辺に魔法使いは住んでいますか?」
カインに訊ねてみる。
「居ます。一人だけ…………」
紹介されたのはガリュウ・ソーンという人だった。頑固で偏屈な老人で、一人町外れの
森の中に住んでいるのだという。
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NPC:カイン・レーベンドルフ
場所:ポポル
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男が礼儀正しく椅子に座っている。
男はカイン・レーベンドルフと名乗った。心底困り果てたような、疲れたような複雑な
表情をしている。髪は明るいライトブラウンで、平凡で素朴な顔立ちだ。暫く会わなけれ
ば忘れてしまいそうな、普通の顔だ。彼の家も彼と同様、普遍的で質素である。扉を入っ
て直ぐのところに居間があり、樫の木の四人がけのテーブルがある。台所は居間の奥まっ
たところにある。他に二部屋あるようだ。
テーブルを挟んだ反対側には礫とメイがいる。礫は椅子に、メイはテーブルの上に座っ
ている。
「さて、詳しい話を聞かせてください」
礫が切り口上に口火を切った。
「はい。実は……小人が夜中に騒いでいまして、夜も寝られないんです」
括目して見れば目の下にくまがある。熟睡したことが無い、というのはどうやら本当の
ようだ。小人というくだりに引っ掛かりがある。
「それが小人の仕業だとわかったのはいつですか?」
「先月です。夜中にこっそり見張っていたんです。そうしたら、破けた服を着た色黒で毛
の生えた小さいものたちが、なにやら騒いでいるんです。家畜を騒がせたり、皿や食器を
割られたり。空き部屋で物音がしたり。……一度なんか、朝起きたらミルク壷が倒されて
いたりしたんです。それで……夜も寝られない有様で、どうしようかと悩んでいたところ、
隣のジグジーさんがギルドに依頼を出してはどうかと言ってくれて」
礫とメイは一瞬顔を見合わせた。礫が続けてさらに質問した。
「何か心当たりは無いんですか?」
「さあ……? こちらが訊きたいほどです。あ。始まった時期ならはっきりしています。
丁度一ヶ月前からでした」
始まった時期を言われても、何が解る訳でもない。誰かがけしかけたというなら話は解
るが、ことはそれ程複雑ではないらしい。ただの自然現象だろう。
「待てよ。…………破けた服を着て色黒で毛の生えた小さな生き物…………ひょっとした
ら、小人じゃないかもしれないぞ」
礫は独りごちた。
一般的な小人の容姿とは少し違うような気がした。背丈が小さいのは共通しているよう
だが、普通の小人が悪さをするとも思えない。それも、家屋の中に限定しているようだ。
――母屋続きの家畜小屋は例外だが。
「とりあえず、様子を見させてもらいます」
■□
深夜。昼に動く者が皆寝静まった頃、夜行性の生き物達が活動を開始する頃合。例の小
人さんが動き出す時刻でもある。灯りは蝋燭を燭台に立てたもの一つだけ。見つかるわけ
にはいかないので、周りを紙で囲ってある。
どこに現れるか解らないので、寝室で息を殺して待つことにした。
暫時の後、動きがあった。
何か、引き摺るような音がする。台所の方からだ。
「来ました。あいつの歩く音です」
小声でカインが説明する。カインは一度様子を見ているから解るのだ。
礫は足音を立てずに扉に近付き、扉を絹糸のように細く開いてみる。布製の靴に履き替
えておいたから、音は立たない。開いた扉の隙間からそっと覗くと、破けた服を着た色黒
で毛の生えた小さいものたちが床を歩いている。暫瞬の後に、砂糖の入った袋をひっくり
返したり、水瓶をひっくり返したりした。この行為が執拗に繰り返されているとなると、
手の負えない妖精の類かもしれない。そう思って、礫は肩の上にちょこんと乗っているか
わいい妖精に訊いてみることにした。妖精のことは妖精に訊け、だ。
「メイちゃん。あいつのこと、何か知らない?」
礫が小声で訊ねる。
「んーっとね、確かボガートっていう性悪妖精だよ。いたずらばっかりするの」
突然隣の台所で大きな音が響いた。皿が割れるような音だ。隙間から見ると、本当にボ
ガートが皿を割っていた。
「ああっ! うちの皿が……」
かわいそうだが、歯噛みするしかない。
「物理攻撃は効くの?」
礫がメイに発問する。
「んー? わっかんないなー? やってみれば?」
足をぶらぶらさせながら言うメイ。実際に攻撃するのは礫の仕事だから、気が重いのは
礫の方だ。
礫はそっと扉を開け広げると、足音を立てないように注意しながらボガートの直ぐ後ろ
まで近付いていく。ボガートは皿を割るのに夢中になっていて、気付かない。居合い斬り
の要領で、抜き打ち様にボガートを斬る。一瞬、実像がぶれたが、また元に戻る。そこで
やっと、礫の存在に気付いたかのように振り向くボガート。二言三言、妖精語で話しかけ
てきた。メイはそれに答えるように妖精語で返す。
「なんて言ったの?」
すかさず礫が訊ねる。
「俺の遊びを邪魔するなって」
メイは素直に通訳してくれた。
「遊びって! 何も僕の家で遊ばなくてもいいじゃないか!」
泣きそうになりながらカインが抗議する。礫はなんだか気の毒に思えた。どちらが、で
はなく、両方とも、だ。ボガートはボガートで家の中でしか行動できないだろうし、かと
いって家の中で暴れられても家主としてはいい迷惑である。どうしたものかと思案する。
ボガートを説得するにしても、骨が折れそうである。
その日はとりあえず場を締めて、翌日に持ち越すことにした。
■□
次の日の朝。早速会議を開いた。
「何か良い案は無いかな?」
礫はメイに訊いてみた。妖精同士だから何かあるかもしれない。すると、
「うーん、強力な魔法だったら追い払えるかもしれない……」
ボガートは強力な魔法じゃないと追い払えないという。
「ポポル近辺に魔法使いは住んでいますか?」
カインに訊ねてみる。
「居ます。一人だけ…………」
紹介されたのはガリュウ・ソーンという人だった。頑固で偏屈な老人で、一人町外れの
森の中に住んでいるのだという。
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