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2025/03/10 13:18 |
立金花の咲く場所(トコロ) 57/ヴァネッサ(周防松)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:ラズロ リリア リック 主犯格の男 ワム ミノ
場所:エドランス国 ウサギ型眷属の村

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五人が男を連行して村に戻る頃には、すでに空の淵が白くなり始めていた。
もうじき、朝日が昇るのだろう。

ヴァネッサは、早朝の冷えた空気を吸いこんだ。

――夜、という時間帯に、良い思い出はない。
長年、発作に苦しんできた時間帯だからだ。

だが、今は。
肺を満たす空気が、とても気持良かった。

――こうしている間にも、自分の人生の終わりが刻一刻と近付いていることを忘れる
ぐらい。


村に戻った五人は、真っ先にワムの家に向かった。
畑の妖精はついてこなかった。

『僕のいるべきところはここだよ』

妖精はそう言い、別れにハンカチを振って見送る女性のように、身体をひらひらさせ
ていた。

「解決したぜ!」

アベルが家のドアを開けると、ワムが出迎えに現れた。
ワムは見慣れない男が一人連行されてきたのを見ると、ことのあらましを察した。

「この男が、畑を荒らしていた犯人なのだな?」
「ああ。詳しい事情は後で話す」

ラズロが簡単に説明すると、ワムの目がうるうると光り出した。

「ありがとう。本当に、何と言ってよいやら……」

ワムはそう言って、頭を下げた。
その言葉には、感謝の気持がいっぱいにあふれている。

「礼なんかいいって」

アベルは笑いながら手をひらひらと振り、それから、あ、と声を上げた。
男の胸倉を掴んで引っ張り、ワムに近付ける。

「それでさ。こいつをしばらく預かって欲しいんだ」

ワムは首を傾げる。

「この男をか。かまわんが……何故だ?」
「アカデミー絡みで何かあるようなんだ。一旦戻って報告して、先生の指示を仰ごう
と思っている。処置が決まるまでの間、逃げられないように見張っていてもらいた
い」

ラズロの説明に、ワムは手をポンと打った。

「それなら、わしの家で預かるとしよう。床下に物入れがあるから、そこに放りこ
む」
「大丈夫なの?」

リリアが不安そうに見ると、ワムは大きく頷いた。

「大丈夫だとも。蓋には重しを載せてカギをかけておくし、物入れは頑丈な石ででき
ておるからな。掘って逃げるなどということもできんよ」
「それじゃ、よろしくお願いします」

リックが頭を下げると、男がギロリとワムをにらみつけた。

「てめえ、けだもの畜生の分際でよくも人間様に偉そうな――」
「うっさい!!」

男が言い終えぬうちに、怒声と共にリリアが男の足元に近い床をドガッと踏んづけ
る。
リリアはそれ以上余計なことは言わず、男を真下から睨み上げた。
その目には、恐ろしいほどの怒りの炎が宿っている。
少女とは思えぬ迫力に、男は真っ青になって「うひっ」といううめき声をあげ、静か
になった。

……どうやらこの男、一人になると途端にぐっと弱気になる性質のようだ。
おそらく逃亡を図るほどの度胸もあるまい。

「では、こちらへ連れてきてもらえるかな」
「はい」
「おら、来いっ」

アベルとラズロは男を引きずり、ワムの後について台所の方へ姿を消した。


「さあさあさあ、皆さん、お茶が入りましたよ。居間にいらっしゃいな」

そこへ、ワンピースにエプロンをつけたミノがやってきて、声をかけてくる。

「ありがとうミノさん」
「のどカラッカラよ、あたし」

リックに続いて、リリアがはしゃぎながら居間の方に駆けて行く。
自分も行こうとしたその時、ヴァネッサの脳裏にとある光景が甦った。

気がつくとヴァネッサは、リックの袖を掴んでいた。

「ねえ、リック」
「ん、何」

自分よりほんの少し上にあるリックの目を見て、ヴァネッサは深呼吸をした。

「今気付いたことがあるんだけど……」
「はあ」
「あのね、畑でコボルドと戦っている時、あの妖精さんと話してなかった?」

リックの肩が、ピクッと跳ねる。

「………………え?」

リックは、明らかにうろたえていた。
目が泳ぎ、呼吸も浅くなる。

「え、えーと。どうしてだろ? 自分でもわかんないな。あ、奇跡が起きたのかも」

額にうっすらと汗を浮かべ、上ずった声で話すといううろたえぶりははた目にも情け
なく、ヴァネッサは彼がかわいそうになってきた。

「あの、別に怒ってるわけじゃないの。ただ、通訳ができるんだったら名乗って欲し
かったな、って……」

そう付け足すと、リックが心底ほっとしたような表情を浮かべる。

「あ、ああ、そうか、そうだな。悪い悪い」
「それで……どうして妖精さんの言葉がわかるの? もしかして、最初からわかって
たの?」

ヴァネッサとしては、純粋に疑問をぶつけてみただけである。
他意は全くないし、困らせようというつもりもない。
だが、リックは困った顔をしてガリガリと頭をかいた。
どうやら答えにくい話のようである。

「あー……じゃあ、アベルとラズロが戻ってきたら、その辺りのこともちゃんと話す
わ。リリアも話したいことがあるんだし」

じゃ、と言ってヴァネッサの肩をポンと叩き、リックは居間に入っていく。

(私、そんなに変なこと聞いたかしら……?)

リックの困惑は、ヴァネッサにまで伝染したようである。


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2008/04/18 23:29 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所

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