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2024/05/16 15:18 |
琥珀のカラス・46/カイ(マリムラ)

◆――――――――――――――――――――――――――――――――――

人物:カイ クレイ

場所:王都イスカーナ

―――――――――――――――――――――――――――――――――――



 二手に分かれて行動。となったはいいが、結構大変なことになっていた。

「おい!カラスが入った屋敷、主人もカラスも忽然と消えたんだってさ」

「あぁ?オレは爆発がどうとか聞いたぞ?」

「誰か担当者居たろ、担当者」

「そうだよ、護衛の割り当てされてたのに、クレイ達はドコいったんだ」

「昨日の朝から、みてませーん」

 あまりの騒ぎっぷりに、職場へ入ることは断念するしかない有様。

 情報をあたるなら一旦……と思ったが、そういうワケにはいかないようだ。



 見つからないように、これ以上騒ぎにならないようにコッソリと詰め所から離れる

と、クレイはへたりこんだ。

「参ったな~」

「やはりあのまま殺るべきだったか?」

「……だから、ソレは駄目だって」

 クシャクシャっと髪を掻き上げ、重い腰を上げる。

「だーっ、もう」

「気が済んだか?」

「済まないけど、動くしかないだろ」

 伸びをして深呼吸。

「アイツんトコ、人に会わずに行けっかなぁ」

 頭に浮かぶのは一人の友人。しかし、人見知りの激しい友人の所へたどり着くに

は、いつものルートは使えない。顔見知りというか、仕事関係者というか、会わずに

通れる道ではないのだ。

「建物の場所、方角、なんでもいい。その人物がいる場所までの情報を」

 カイがなんだか思案している。

「え、ああ、場所は……」

 説明しようとして、カイが広げる市街地案内図を指す。

「この中」

「ふむ……」

「って、何でこんなもの持ってるんだ?」

「土地勘がない以上、地理把握には必須だろう」

「あ、そっか、そうだよな……」

「ちなみに、街の入り口で観光客相手に売ってるものだ」

 言いながらカイは指を地図に走らせる。

「このルートで向かおう、建物内部に入る方法は何とかする」

「……えぇ?!」

「昔の仕事が役に立つ」

「って、機密施設だぞ?関係者以外入れないんだぞ?」

「やってやれないことはあるまい?」

 平然と言ってのけるカイと思わず声が大きくなるクレイ。

 クレイの声が聞こえたのか、近づいてくる足音。

 カイが頷いて動き出すと、クレイは曖昧に頷いて後を追った。



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「おーなーかーすーいーたー!」

「ワシもじゃワシもじゃー!」

 クレアとデュラン爺さんは地団駄を踏んでいる。

「少しはおとなしくしようとか、考えてくれよ」

 サスガにカシューも頭が痛い。

 小さな合図に体をずらすと、カシューが塞いでいた扉から、大きな紙袋が差し出さ

れた。二人のカラスだった。

「きゃっ、おいしそう!」

 クレアが飛び跳ねる。確かに食欲をそそるいい匂いだ。

 カシューは自分の空腹を自覚させられて苦笑いをしながらも、紙袋をクレア達に差

し出し、扉越しに報告を受ける。

「……そうか、わかった」

 了解の言葉に、二人のカラスは気配を消す。満足そうに笑顔を浮かべると、カシュ

ーは言った。

「ソレを食べたら、お嬢さんの屋敷へお送りしましょう」

「へ、ほうはほ?」

 口一杯にハンバーガーをくわえたまま、クレアが聞き返す。

「但し条件がありますがね。老人の正体を伏せた上で客人として屋敷に匿うこと、勝

手に出歩かないこと、私を見張り兼護衛として同行させること」

 はむはむはむ。

 口の中身を飲み下してから、クレアは笑った。

「ココよりは窮屈じゃないモンね、うん、そうしよ」

 カシューは軽い返事に苦笑する。

「ワシには聞かんのかい!」

 老人がわめいたが、イヤそうではなかったので聞き流された。



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「で、次は?」

「左」

「って、ココは道じゃないと思うぞ」

「通れれば問題ないだろう」

 なんだか凄い経路であっちこっち迂回したクレイ達は、目的地から目と鼻の先まで

来ていた。

「ドコをどう通ったらココに出るんだよ……」

 目の前の予想外の風景に呆れるクレイ。

「大体、クレイは顔が知れすぎている」

「あーはいはい、隠密行動には向きませんで悪かったね」

「いや、悪いなどとは思っていない」

 カイは涼しい顔でそう言った。

「人脈があるというのは大きな強みだ。入るまではフォローするから、後は頼む」

「……了解、相棒」

 クレイは苦笑して、カイの肩を二度叩いた。
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2006/08/15 00:05 | Comments(0) | TrackBack() | ●琥珀のカラス
琥珀のカラス・47/クレイ(ひろ)

◆――――――――――――――――――――――――――――――――――

人物:カイ クレイ

場所:王都イスカーナ

―――――――――――――――――――――――――――――――――――



 この日サキは珍しく遅い出勤だった。

 家に帰るぐらいなら史料室で本に埋もれて寝ていたいぐらいなので、いつも

朝一番で出廷しては夜ぎりぎりまで部屋に篭っているものなのだが、その日は

たまたま朝から警備隊に不審者と思われて尋問されたせいでこんな時間になっ

てしまったのだ。

 「まったく、カラスカラスって。」

 いつもどおりに日が昇るとともにねぐらを抜け出し、市もたたない裏通りを

中途半端な早朝にフラフラ歩いていたところ、駆け回っていた警邏の騎士団に

捕まってしまったのだ。

 サキは知らなかったのだが、前の晩はデュラン邸で騒動があり、夜から走り

回っていた騎士や神官たちが捜査の範囲を広げたところに通りかかってしまっ

たのだ。

 さらに運の悪いことに、俗世のことに興味の薄いサキはカラスの騒ぎにほと

んど無関心だったために、最初の尋問で話がかみ合わず、その様子がとぼけて

いると勘違いされて、余計に怪しまれてしまったのだ。

 「怪盗だかなんだか知らないけど、僕が関係あるわけ無いじゃないか。」

 客観的に見てサキは十分不審者であったが、そういうことには本人はきづか

ないもの。

 スラムのチンピラだった昔はいざ知らず、これでも宮廷づとめの史料課室長

なのに……と、これもまた珍しく愚痴をこぼしながら、安息の地史料課のドア

ノブに手をかけた。

 いつものようにドアを開けると同時に、邪魔な荷物を放り出そうと一歩中に

踏み込んだ瞬間、サキは突然手を引かれてそのまま部屋に引きずり込まれる。

「?!」

 扉が閉まり、薄暗い部屋の中で何者かが口をふさぎ、最初にとられた手を後

ろ手に固められて動きを封じられたサキは、どうすることもできないまま混乱

のさなかにいた。

 そもそも史料課は有益な情報の宝庫とはいえ、このイスカーナでは武を尊ぶ

国柄もあって、重要とは思われていない。

 だからここをまかされたといっても、厄介ごとを押し付けられたようなもの

なので、かわいそうとは言われても、羨まれることすらないのだった。

(なに?なに?なにがおきてるの?!)

 襲撃を受ける理由がまったくわからないサキはにも、この相手がかなりの腕

を持っていることはわかった。

 腕を引くと同時にそのまま口をふさぐのと動きを封じるにいたる流れが恐ろ

しく手際よくよどみが無い。

 混乱が恐怖に変わろうかというその瞬間……

「あ~ちがうちがう。……てか、それマジで怖いから……。」

……うす闇の中、別の方向から緊張感の無いききなれたこえがした。

 それは、サキが友人と呼べる数少ない貴重な人間、クレイの声だった。



 ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽



「……カイだ。」

 サキを開放したカイはまったく動じた様子も見せずに、簡潔に名のった。

「……えーと? クレイさん?」

 名のったまま沈黙するカイに困惑した視線を送りながら、向かいに立つクレ

イに疑念の声を上げる。

「あー、今の相棒だから心配するな。」

 いいながら首で奥を指し、二人をうながす。



 前に来たときよりもさらに高くなった本の山を適当な高さに整えて居場所を

作り、おもいおもいの腰を下ろしたところでクレイはサキにいきさつをはなし

た。

 もちろんサキが裏切らないことを知ってるからこそだが、カイも何も言わず

にクレイに任せていた。

「……クレイさん、てっきり大公さま相手にゆすりでもするのかと思ってた

ら、意表をつきますね。」

「おいおい、どういう風に俺を見てんだよ!」

 冗談を言い合いながらもおたがいことの大きさは理解していた。

「ロイヤーですか……うーん……えーと。」

 しばらく考えるように額にてをあててうなっていたサキは、クレイとカイが

見守る中、たちあがるとふらふらと入り口に近い山の中にわけ入っていく。

「たしかここらが………………あっ、これだこれ。」

 いったいどういう技術がなされているのか、山を崩さずに引っこ抜くように

取り出したのは、かなりの量の書類を束ねたファイルだった。

 それを手に戻ってきたサキは再び腰を落ち着けると、どこかのページを探し

てファイルをめくりだした。

「……! これ! ここ!」

 サキがさしだしたページには細かい字でなにかの記録らしきものが暦ととも

に書き連ねられているものだった。

「これは?」

「ああ、貴族たちの身辺調査書ですよ。」

「お、おい、そんなもんがなんでここに?」

「え、これですか? 資料ですよ。こういうが歴史になるんですよ。」

「おまえ、けっこうやばいものあつかってるんだなぁ。」

「あはははは、違いますよ。こういうものがあまり重要視されてないんです

よ。実際クレイさんたち以外にはロイヤーの事情なんてどうでもいいことです

からね。まあ、一応他の国を見習ってこの手の情報管理をしてはいるんです

が、活用する人がいないんでここまでながれてきてたまってるんですよ。」

 なんでもないことのように言うサキをえもいわれぬ顔で見るクレイ。

 曲がりなりにも貴族に連なるものとして笑い飛ばしていいものなのかどう

か。

 そんなクレイの横から書類をのぞき見ていたカイがおもむろに手を伸ばし、

有る一転を指で指し示した。

「ん? こいつは……。」

 そこには三年前の日付でこうしるされていた。

【長男死亡に伴い直系断絶】

2006/08/20 19:37 | Comments(0) | TrackBack() | ●琥珀のカラス
琥珀のカラス・48/カイ(マリムラ)

◆――――――――――――――――――――――――――――――――――

人物:カイ クレイ

場所:王都イスカーナ

―――――――――――――――――――――――――――――――――――



【長男死亡に伴い直系断絶】



 衝撃的な一文に、クレイの反応が止まる。

 カイは一拍置いてから、確認するようにサキに訊ねた。

「直系断絶の場合、ロイヤー家はどうなる?」

 ふむ、と一度首を傾げ、サキは事も無げに答える。

「普通なら爵位取り上げでしょうね」

 クレイとカイはお互いの顔を見た。

「動機としては十分か」

「だな」

 クレイが頷いて、サキに向き直る。

 サキはあははははといつものように笑い、クレイもつられて笑った。

「助かったよ、その……複雑だけど」

 言いながら、表情が曇る。

 貴族としての立場というものは、なかなか棚に上げることは出来ないのだ。

「わかってますよ、クレイさんだからお見せしたんですからね」

 サキは資料を元のように仕舞いながら、当然のように言った。



「……しかし」

 なにやら考えていたカイが口を開く。

「生命の石は人為的に特異能力者を作る実験に使われていたはずだ」

「ああ、それがどうした?」

「石の力が上手く制御できずに試作体を廃棄した……その段階で甦りというのは可能

だろうか」

 カイが眉間に皺を寄せる。

「まあ、その段階では無理でしょうね」

 意外なことに、答えたのはクレイではなくサキだった。

「でも生命の石というくらいです、正しく使えば可能かもしれませんよ?」

 別の一画にある本の山の中から一冊を引き出しながら、事も無げに言ってのける。

「そんな、いくらなんでも……」

「はい、クレイさん」

 クレイの言葉に重ねるように、サキが手渡したのは表紙に何も書かれていないファ

イル。開くと生命の石、という小さな記述があった。

「なっ!?」

「一族の名前どころか、存在まで歴史から消されてしまったというのに面白いですよ

ね。石の評判は残っているんです」

 コレだから止められない、といった風に、とても楽しげなサキが言う。

「この前聞いたときには出さなかったじゃないか!」

 思わず声が大きくなったクレイに、二人は人差し指を口の前に立てるような仕草で

抗議した。

「この生命の石の記述には石がどういう材質かもどういう由来なのかも書いてないん

ですよ」

 なるほど、その為に証拠隠滅の為の資料廃棄もすり抜けたということか。

 クレイは頭を抱えて座り込んだ。

 最近こんなのばっかりだ。考えることが多すぎる。



 機嫌がいいのか楽しそうに資料を広げるサキと、その資料を覗き込むカイ。

 人見知りが激しいサキが妙にカイと馴染んで見えて、なんか珍しい光景を見てるよ

なぁ、と、ついぼんやり現実逃避してしまうクレイだった。

2006/08/20 22:02 | Comments(0) | TrackBack() | ●琥珀のカラス
琥珀のカラス・49/クレイ(ひろ)

◆――――――――――――――――――――――――――――――――――

人物:カイ クレイ

場所:王都イスカーナ

―――――――――――――――――――――――――――――――――――



「――てなわけで、多分その長男をいきかえらそうってことじゃないかと思い

ます。」

 日も傾きかけた斜陽の頃、ずいぶん久しぶりの気がする部屋で、一通りの説

明を終えたクレイは目の前の男の反応を待った。

 隣のカイも黙したまま静かにたたずんでいた。



 サキのところをでたクレイとカイは、そのままハーネス邸にもどってきた。

 一応情報屋をまわろうかとも考えたのだが、

『今から調査を頼むのでもなければ、これ以上の話は聞けないだろう。第一、

言ってすぐに情報が出てくるのなら、カラス騒ぎの裏にある石のことがバレて

いることになる。

 そんな話があるなら、前にクレイがまわったときに出ていたはずだ。』

 と、カイの冷静な判断があったため、すみやかに撤収することにしたのだっ

た。

 屋敷にはカシューがクレアとデュランが先に戻ってきており、一休みしてい

るところだった。

 考えてみれば、クレアなんかはただの少女―――むしろ甘やかされた部類の

身、デュランもみためどおりの老骨となれば、緊張の連続にそろそろ限界だっ

たのかもしれない。

 クレイはそんな二人にはかまわずに大公への報告をしにいこうとしたが、ふ

となにかを思い出したように屋敷の中で浮きまくっている謎の男爵ことカ

シューになにかを頼んだ。

 「まあ、よーく知ってる一品だからな、模造品ぐらい簡単に手配できるが、

力が伴わなければ簡単にばれるぞ。さすがにそれまではまねできんからな。」

 「かまわねぇよ。べつにそれ渡してごまかすつもりじゃないしな。」

 それをきいていたカイもいぶかしげに首をかしげた。

 「どうするつもりだ?」

 「ん? ああ、サキのところから考えてたんだが……。」

 それをきいたカシューは納得した様子で屋敷のものを呼びにいった。

 「じゃ、俺たちは閣下に報告だ。」

 クレイとカイは執務室を目指して歩き出した。



「そうか。」

 話を聞き終えたギルベルトは少し考えた後決断を下した。

「ロイヤーは現在はどこの派閥ともいえない、治安系統を抑えて、ロイヤーの

軍への指揮権を剥奪する。」

 イスカーナで貴族位をもつものはそのくらいに合わせて軍への指揮権も持

つ。

 クレイもいまでこそ騎士団ではなく傭兵まがいの部隊で一兵士をやっている

が、小隊長と同等の指揮権を盛っていたりする。

 最下級では貴族位の無いものにしか権限が無いので、特別に貴族と同等の権

利を有する騎士たちにこそ命令権は無いが、一般人であれば10名までを個人で

動員できるのだ。

 ただし国と関係ないところで個人で動員した場合、当然ながら報酬は自腹で

払う必要があるため、クレイのように一兵士と変わらないままというのもそん

なに珍しい話ではないのだった。

 それを考えてもロイヤーは落ちぶれたとはいえ元大貴族。

 個人でも100やそこらは動員できるし、すでに私設でもそれなりの軍隊は抱

えているはずなのだ。

 しかし、貴族の頂点ともいえる大公ともなればその指揮権を停止させるぐら

い造作も無いこと。

 そして、そんなことをする以上は、ギルベルトはロイヤーを家ごと消すと決

めたということだった。

「今夜中に各騎士団および軍各部に命令を下す。神殿も圧力をかけて黙らす。

あすにはロイヤーはこの国からきえるだろう。」

 しずかにかたるギルベルトを見ていたクレイは肩をすくめて口を挟んだ。

「丸裸にするのは賛成ですが、大公家でぐんをうごかすならやめたほうがいい

ですよ。」

「……ロイヤーに同情でもしたか?」

「まさか。」

 眉をひそめたギルベルトにクレイは内心呆れていた。

(ほんとに親バカなんだから……)

「閣下、ロイヤーを消すだけで方がつくなら、俺が出ればすむことだ。」

 ふいにカイが淡々と口を開く。

 それは功をあせっているわけでもなんでもなく、冷静に事実を語っているだ

けのいつもの口調だった。

「神殿からの流れ者さえひきつけてもらえれば、ロイヤー自信がよほどの武人

でもない限り、いかに警備を固めたところで普通の屋敷にいる以上、そんなに

難しいことではない。」

 カラスや宵闇男爵の実力を考えればその策はかなり成功率が高いのは明らか

だった。

「だが、この騒ぎの本質は違うのではないか?」

 クレイとカイにはわからないことだったが、デュランとの関係から、その神

殿に捨てられたものが、かつてギルベルトの愛したクレアの母を奪ったあの事

件の関係者であることは間違いなかった。

 ロイヤーがその頃から関わっているとは思えないが、ギルベルトの中にその

ときの怒りがよみがえってきたのは確かだった。

 その怒りからも完全消滅を決断したのだが、カイはその決断は間違いだと

いっているのだ。

「といっても、俺にもそこの違いは良くわからないのだが……。」

 そういって続きを促すカイにクレイは苦笑する。

「そう、この問題は、カラスを狙ったからどうとかではないはずですよ。」

 ギルベルトたちがあかせず、クレイたちも確認を取ることのできないほんと

の問題。

 そう、そもそもは石そのものもかつて滅ぼされた一族の怨みも、クレアを護

るというほんとの目的からすれば二の次三の次なのだ。

(そもそもクレアの権利を脅かす存在をおびき出すためにカラスは再び活動を

開始したのだ。きっかけはデュランの仕掛けだったが、それはあちらの事情。

大公が俺なんかを巻き込んだのも、クレアのことが最優先だからだ。そのため

なら、秘石にはたいした執着はないだろう。)

 不思議とギルベルトが秘跡の力を求めているとは考えられなかった。

 その分、親バカから判断が過剰にはしっているようだったが……。

「細かいことはお互い言わぬがよろしいですが、ようはカラスではなく、あの

石が存在してることが問題なのでしょう?」

 カイの話から黙したまま聞いていたギルベルトはクレイの言葉の意味を理解

した。

 それは、ここでロイヤーをつぶしても、神殿本体に石とのかかわりを疑られ

ては、せっかくあきらめていたのに、大公家の名前が再びその欲望に火をつけ

かねないこと。

 そうなれば神殿との対決に勝利したとしても、クレアの秘密が漏れてしまえ

ばすべては終わってしまうということ。

 復讐のためにすべてが捨てられるのならともかく、今一番護りたいものを考

えれば、ロイヤーや神殿の流れ者をどうしようが、それ自体は目的にならない

のだ。

「……クレイ、私は彼らにどんな事情があろうとも、ロイヤーが唆されただけ

でも、神殿くずれがある種の被害者だとしても、慈悲をかけるきにはなれな

い。だが、最善の策があるというなら……。」

 冷静になればギルベルトとて大公家とカラスのつながりを悟られるようなま

ねは愚策であることは良くわかる。

 ギルベルトが言いたいことを理解したと踏んだクレイは、少し言いにくそう

に自分の考えを話した。

「まあ、策なんて上等なものでもなく、単なるペテンみたいなものです

が……。」

 石そのものはデュランの思いもさながら、クレアにとっては母の形見でもあ

ろうモノだけに、渡すつもりも失うつもりも無かったが、少なくとも相手には

忘れてもらわねばならない。

 必要なのはまず実力で圧倒し、こちらが有利な状況を用意し、あとは役者を

揃えること。

「まあそのためにも、デュラン元司祭は連れて行きますが、後はカラスたちと

我々で片をつけます。」

 やる気に満ち溢れていれば、聞くものも少しは安心するのだろうが、クレイ

はむしろめんどくさそうにせいぜい礼を失わないように気をつける程度のまま

提案……というより、宣言した。

「まあ、閣下は騎士団と軍を抑えといてくだされば十分です。あとは俺たちの

やり方でけりをつけますよ。」

 そして、心の中でこっそりと付け加えた。

(過去の因縁にとらわれて命を奪うなんざ、生臭くてかなわん。それに、そん

な血の上に立つのはクレアには似合わんからなぁ。)

2006/08/21 23:56 | Comments(0) | TrackBack() | ●琥珀のカラス
琥珀のカラス・50/カイ(マリムラ)
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PC:クレイ カイ 

NPC:クレア デュラン カシュー

場所:王都イスカーナ

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 ギルベルトへの報告を済ませると、どこからともなく香ばしい匂いがカイの鼻をく

すぐった。

 何気なく窓の外を見て納得。日は沈みかけて空を紅く染めている。



   ――くぅ



 小さく腹の虫が鳴いたのは、クレイであったかカイであったか。

 二人は顔を見合わせ、僅かに苦い笑みを浮かべた。

「そういや、メシ食ってなかったなぁ」

「腹が減っては戦もできん」

 戦――本当にそうなるのは避けたいがね、とカイは思う。

 軍を動かさねばならなくなる前に、決着を付ける。

 それは二人の共通の願いだった。







 香はしい匂いの出所は、意外なことにクレアの部屋からだった。

 この広い屋敷のこと、勿論広いテーブルと大きなシャンデリアのある食事用の広間

があるわけで、食事は普段そちらでとることになっているのだが。

「ああ、そうだっけ」

 クレイが呟く。クレアが部屋を出ないようにとのカシューの配慮なのだろう。

 小さくノックすると、クレアが満面の笑みで出迎えた。

「おかえりなさい!」

 昨日のごたごたで疲れているだろうに。

 いつもの明るさに「行儀が悪い」と注意するクレイ。しかし、彼女を守り抜こうと

決めた二人の決心は固くなるのだった。



 部屋には料理が準備されていた。

 クレアたちは先に食事を済ませていたらしく、二人分の食事である。

 カイは暖かくも味気のない食事を喉に流し込んだ。

 味気ない、というのはおかしいだろうか。でも、絶品なはずの料理も、年代物のワ

インも、どれもが食欲をそそらない。

「お話、終わったの!?」

 我慢が出来なくなったのか、クレアがわざと明るい声でクレイに話しかけてきた。

「おじいちゃんとずっと二人で遊ぶのも、飽きちゃったよー」

 椅子に座り、足をぶらぶら持て余しながらのクレアにカイは苦笑する。

 部屋の隅の別のテーブルでチェス板とにらめっこをしていたデュランが顔を上げて

こっちを見た。

「有意義な時間と言いなされ」

「だぁって『待った』が多いんだもん」

 クレアが頬を膨らます。

「大人しくしてたんだな、エライエライ」

「わー、クレイったら棒読みー」

 非難する言葉も、どこか楽しげだ。



 カイは考えていた。

 一年くらい前まではセラフィナ以外の誰かをこんな風に守ることになるとは思って

も見なかったのに、この短い期間でそれが当たり前になっている。それがイヤなので

はなく、むしろ自分を再確認させられた気分なのだ。

 そう、やはり自分には守るべき対象が必要なのだと。



 クレイとクレアのやりとりや、時々入るデュランのちょっかいを聞き流しながら、

カイは綺麗に料理を片づけていく。



 この事件が一段落したらイスカーナを去ろう。ここは自分の本来いるべき場所では

ない。

 一度決めてしまうと、もう迷いはなかった。

 相棒に言うのはもう少し先でいい。もう少しだけ、この環境に甘えるのも悪くな

い。



 カイは、グラスに残ったワインを飲み干した。

 その最後の一口の僅かな甘みに、珍しく顔をほころばせて。







 翌日。

「例のモノだ」

「助かります」

 クレイとカイがいる間はお嬢様も大人しくしているだろうと、カシューは姿を消し

ていたのだが、戻ってきたときにはちゃんとクレイに頼まれたモノを調達していた。

「早かったですね」

「急ぎなんだろう?」

 あまり休息もとっていないのだろう、カシューは欠伸をかみ殺しながら言った。

「クレアの方、頼みます」

「言われなくてもわかっているさ。お前さんたちこそ気をつけるんだぞ」

 クレイの頭をわしゃわしゃと乱暴にいじると、笑ってみせる。

「カラスの心配は無用だが、お前たちじゃなぁ」

「帰ってきますよ、まだ死ぬには早いでしょう」

 クレイも、笑った。



「じゃあ、行くから」

 クレイは面倒くさいという顔をしながら、おざなりに告げた。

「え、もう行っちゃうの?」

 折角一緒にいられるかと思ったのに、と拗ねた顔で見上げるのはクレア。

「そうじゃそうじゃ」

 クレアの後ろで口を尖らせるデュラン老に

「って、あんたは一緒に行くんだよ」

 と、クレイが脱力した。

「はて――そうじゃったかいのう?」

「そうなんです」

 クレイは肩を落として大仰に溜め息をついてみせる。

「行くか」

 カイの言葉に

「行こうか」

 クレイが伸びをして答えた。

2006/08/23 23:50 | Comments(0) | TrackBack() | ●琥珀のカラス

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