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PC:クレイ カイ
NPC:クレア デュラン カシュー
場所:王都イスカーナ
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
ギルベルトへの報告を済ませると、どこからともなく香ばしい匂いがカイの鼻をく
すぐった。
何気なく窓の外を見て納得。日は沈みかけて空を紅く染めている。
――くぅ
小さく腹の虫が鳴いたのは、クレイであったかカイであったか。
二人は顔を見合わせ、僅かに苦い笑みを浮かべた。
「そういや、メシ食ってなかったなぁ」
「腹が減っては戦もできん」
戦――本当にそうなるのは避けたいがね、とカイは思う。
軍を動かさねばならなくなる前に、決着を付ける。
それは二人の共通の願いだった。
香はしい匂いの出所は、意外なことにクレアの部屋からだった。
この広い屋敷のこと、勿論広いテーブルと大きなシャンデリアのある食事用の広間
があるわけで、食事は普段そちらでとることになっているのだが。
「ああ、そうだっけ」
クレイが呟く。クレアが部屋を出ないようにとのカシューの配慮なのだろう。
小さくノックすると、クレアが満面の笑みで出迎えた。
「おかえりなさい!」
昨日のごたごたで疲れているだろうに。
いつもの明るさに「行儀が悪い」と注意するクレイ。しかし、彼女を守り抜こうと
決めた二人の決心は固くなるのだった。
部屋には料理が準備されていた。
クレアたちは先に食事を済ませていたらしく、二人分の食事である。
カイは暖かくも味気のない食事を喉に流し込んだ。
味気ない、というのはおかしいだろうか。でも、絶品なはずの料理も、年代物のワ
インも、どれもが食欲をそそらない。
「お話、終わったの!?」
我慢が出来なくなったのか、クレアがわざと明るい声でクレイに話しかけてきた。
「おじいちゃんとずっと二人で遊ぶのも、飽きちゃったよー」
椅子に座り、足をぶらぶら持て余しながらのクレアにカイは苦笑する。
部屋の隅の別のテーブルでチェス板とにらめっこをしていたデュランが顔を上げて
こっちを見た。
「有意義な時間と言いなされ」
「だぁって『待った』が多いんだもん」
クレアが頬を膨らます。
「大人しくしてたんだな、エライエライ」
「わー、クレイったら棒読みー」
非難する言葉も、どこか楽しげだ。
カイは考えていた。
一年くらい前まではセラフィナ以外の誰かをこんな風に守ることになるとは思って
も見なかったのに、この短い期間でそれが当たり前になっている。それがイヤなので
はなく、むしろ自分を再確認させられた気分なのだ。
そう、やはり自分には守るべき対象が必要なのだと。
クレイとクレアのやりとりや、時々入るデュランのちょっかいを聞き流しながら、
カイは綺麗に料理を片づけていく。
この事件が一段落したらイスカーナを去ろう。ここは自分の本来いるべき場所では
ない。
一度決めてしまうと、もう迷いはなかった。
相棒に言うのはもう少し先でいい。もう少しだけ、この環境に甘えるのも悪くな
い。
カイは、グラスに残ったワインを飲み干した。
その最後の一口の僅かな甘みに、珍しく顔をほころばせて。
翌日。
「例のモノだ」
「助かります」
クレイとカイがいる間はお嬢様も大人しくしているだろうと、カシューは姿を消し
ていたのだが、戻ってきたときにはちゃんとクレイに頼まれたモノを調達していた。
「早かったですね」
「急ぎなんだろう?」
あまり休息もとっていないのだろう、カシューは欠伸をかみ殺しながら言った。
「クレアの方、頼みます」
「言われなくてもわかっているさ。お前さんたちこそ気をつけるんだぞ」
クレイの頭をわしゃわしゃと乱暴にいじると、笑ってみせる。
「カラスの心配は無用だが、お前たちじゃなぁ」
「帰ってきますよ、まだ死ぬには早いでしょう」
クレイも、笑った。
「じゃあ、行くから」
クレイは面倒くさいという顔をしながら、おざなりに告げた。
「え、もう行っちゃうの?」
折角一緒にいられるかと思ったのに、と拗ねた顔で見上げるのはクレア。
「そうじゃそうじゃ」
クレアの後ろで口を尖らせるデュラン老に
「って、あんたは一緒に行くんだよ」
と、クレイが脱力した。
「はて――そうじゃったかいのう?」
「そうなんです」
クレイは肩を落として大仰に溜め息をついてみせる。
「行くか」
カイの言葉に
「行こうか」
クレイが伸びをして答えた。
PC:クレイ カイ
NPC:クレア デュラン カシュー
場所:王都イスカーナ
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ギルベルトへの報告を済ませると、どこからともなく香ばしい匂いがカイの鼻をく
すぐった。
何気なく窓の外を見て納得。日は沈みかけて空を紅く染めている。
――くぅ
小さく腹の虫が鳴いたのは、クレイであったかカイであったか。
二人は顔を見合わせ、僅かに苦い笑みを浮かべた。
「そういや、メシ食ってなかったなぁ」
「腹が減っては戦もできん」
戦――本当にそうなるのは避けたいがね、とカイは思う。
軍を動かさねばならなくなる前に、決着を付ける。
それは二人の共通の願いだった。
香はしい匂いの出所は、意外なことにクレアの部屋からだった。
この広い屋敷のこと、勿論広いテーブルと大きなシャンデリアのある食事用の広間
があるわけで、食事は普段そちらでとることになっているのだが。
「ああ、そうだっけ」
クレイが呟く。クレアが部屋を出ないようにとのカシューの配慮なのだろう。
小さくノックすると、クレアが満面の笑みで出迎えた。
「おかえりなさい!」
昨日のごたごたで疲れているだろうに。
いつもの明るさに「行儀が悪い」と注意するクレイ。しかし、彼女を守り抜こうと
決めた二人の決心は固くなるのだった。
部屋には料理が準備されていた。
クレアたちは先に食事を済ませていたらしく、二人分の食事である。
カイは暖かくも味気のない食事を喉に流し込んだ。
味気ない、というのはおかしいだろうか。でも、絶品なはずの料理も、年代物のワ
インも、どれもが食欲をそそらない。
「お話、終わったの!?」
我慢が出来なくなったのか、クレアがわざと明るい声でクレイに話しかけてきた。
「おじいちゃんとずっと二人で遊ぶのも、飽きちゃったよー」
椅子に座り、足をぶらぶら持て余しながらのクレアにカイは苦笑する。
部屋の隅の別のテーブルでチェス板とにらめっこをしていたデュランが顔を上げて
こっちを見た。
「有意義な時間と言いなされ」
「だぁって『待った』が多いんだもん」
クレアが頬を膨らます。
「大人しくしてたんだな、エライエライ」
「わー、クレイったら棒読みー」
非難する言葉も、どこか楽しげだ。
カイは考えていた。
一年くらい前まではセラフィナ以外の誰かをこんな風に守ることになるとは思って
も見なかったのに、この短い期間でそれが当たり前になっている。それがイヤなので
はなく、むしろ自分を再確認させられた気分なのだ。
そう、やはり自分には守るべき対象が必要なのだと。
クレイとクレアのやりとりや、時々入るデュランのちょっかいを聞き流しながら、
カイは綺麗に料理を片づけていく。
この事件が一段落したらイスカーナを去ろう。ここは自分の本来いるべき場所では
ない。
一度決めてしまうと、もう迷いはなかった。
相棒に言うのはもう少し先でいい。もう少しだけ、この環境に甘えるのも悪くな
い。
カイは、グラスに残ったワインを飲み干した。
その最後の一口の僅かな甘みに、珍しく顔をほころばせて。
翌日。
「例のモノだ」
「助かります」
クレイとカイがいる間はお嬢様も大人しくしているだろうと、カシューは姿を消し
ていたのだが、戻ってきたときにはちゃんとクレイに頼まれたモノを調達していた。
「早かったですね」
「急ぎなんだろう?」
あまり休息もとっていないのだろう、カシューは欠伸をかみ殺しながら言った。
「クレアの方、頼みます」
「言われなくてもわかっているさ。お前さんたちこそ気をつけるんだぞ」
クレイの頭をわしゃわしゃと乱暴にいじると、笑ってみせる。
「カラスの心配は無用だが、お前たちじゃなぁ」
「帰ってきますよ、まだ死ぬには早いでしょう」
クレイも、笑った。
「じゃあ、行くから」
クレイは面倒くさいという顔をしながら、おざなりに告げた。
「え、もう行っちゃうの?」
折角一緒にいられるかと思ったのに、と拗ねた顔で見上げるのはクレア。
「そうじゃそうじゃ」
クレアの後ろで口を尖らせるデュラン老に
「って、あんたは一緒に行くんだよ」
と、クレイが脱力した。
「はて――そうじゃったかいのう?」
「そうなんです」
クレイは肩を落として大仰に溜め息をついてみせる。
「行くか」
カイの言葉に
「行こうか」
クレイが伸びをして答えた。
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